ずっと努力してきた
結婚する決断ができないまま、ズルズルと婚活を続けてしまう「婚活沼」にハマるアラフォー・アラフィフのキャリア女性は少なくない。今回は、「人の幸せは自分の不幸」という被害者意識にとらわれていた女性の事例を紹介する。
K絵さんは、食品メーカーに勤務する37歳。アメリカへの留学を経験し、現在は、得意の英語を活用して、海外の企業とのやりとりも多い仕事をしている。35歳のときにマネージャー職に就き、忙しい毎日を送っていた。
仕事にやりがいは感じているが、プレッシャーも大きく、結婚をして、家庭というもう一つの軸足がほしいと思っていた。
そんなK絵さんは、ここ2、3年、マイペースで婚活を続けてきた。1年前に、マッチングアプリで3歳上の男性と出会い、何度か会ううちに、彼から「つきあってください」と言われて交際がスタート。
ところが、精神的に不安定な彼に、K絵さんは振り回さることになった。
突然デートをキャンセルされて、「今(精神的に)落ちているから、連絡しないでほしい」と言われたかと思えば、深夜に電話がかかってきて「今すぐ会いたい」と呼び出される。
「医師と結婚すれば、先に結婚した友達と逆転できる」
不安定な彼を支えようと、K絵さんはいろいろな努力をしてきた。「彼の助けになれば」とマインドフルネスを学んで勧めたり、好きな料理を作って差し入れたり。しかし、交際して半年ほどたつ頃には、厚意が報われない彼との関係に、K絵さんは疲れきってしまう。
「正直、彼のことを好きなのかどうかわからないんです」と話すK絵さん。それでも「別れるという選択肢はない」という。では、なぜ別れたくないのかといえば、彼のスペックに魅力を感じているからだ。
「彼は、医師なんです」とK絵さんはいう。「医師と結婚すれば、先に結婚した友人たちと“逆転”することができますから」
そうしているうちに、K絵さんの努力もむなしく、医師の彼と連絡がつかなくなってしまった。「もう友達とも会いたくありません」とK絵さんは肩を落としていた。
他人の結婚報告を「結婚爆弾」と呼ぶ心理
学生時代からの友人は、みんなとっくに結婚していた。子どもがいる友人がほとんどで、LINEグループでは子どもの話題ばかり。それがつらいのだという。
会ってもストレスになるだけなので、K絵さんは、「既婚者や子どもがいる友人とは会いたくない」という。実際に、誘われても仕事を口実に断っている。
あるとき、レストランでランチをしていたら、隣の席にいた同世代の女性グループの1人が、「結婚が決まったの」と幸せそうに報告していた。
「すぐ近くで『結婚爆弾』を落とされたんです。ひどいですよね!」とK絵さんは憤っていた。この被害者意識こそが、K絵さんが陥っていた思考だ。「医師と結婚すれば、先に結婚した友人たちと“逆転”することができる」というのも、被害者意識からの発想といえる。
K絵さんはこれまで、勉強でも仕事でも、努力をして成果をつかみ取ってきた。だからといって、恋愛や婚活は努力をしても報われるとは限らない。
「周りの人たちは、たいした努力もしないでほしいものを手に入れているのに、どうしてこんなにがんばっている自分は、結婚できていないんだろう」
そう考えてしまい、まわりの結婚にも納得がいかないのだそうだ。
K絵さんに必要なのは、「他人の結婚は、自分の結婚とは関係ない」という視点だ。レストランでたまたま隣の席にいる知らない人が結婚して幸せになったからといって、自分の結婚相手が消えるわけではないし、幸せが目減りするわけでもない。
また、たいした努力をせずに、簡単に結婚したように見える友人が、実際にどんな努力をしているかはわからないはずだ。
K絵さんのように、「周りの人の幸せが、自分を不幸にする」という認識を持っている人は、意外と多い。その根底にあるのは、「私の周りにいる人たちは、私を幸せにしなければいけない」という「お姫さま思考」といえる。
その思考の原点は、家族関係にあることが多い。K絵さんに家族のことを聞くと、「子どもの頃、いつもお父さんと弟が2人で楽しそうにゲームをしていました。私はその間、放っておかれてさみしかったです」という。
「家族は、私を幸せにするべき存在」という認識を持っている人は、結婚相手にも当然その役割を求めようとする。
「お姫さま思考」からの脱却で生きやすく
「じゃあ、誰が私を幸せにしてくれるんですか?」というK絵さんのような人に、ぜひ取り組んでほしいのが「お姫さま思考脱却ワーク」だ。
1.「私の周りにいる人には、私を幸せにする役割がある?」と自分で自分に問う。
2.「幸せにする役割がある」「幸せにする役割はない」いずれの答えに対しても「それは本当?」と問う。
3.「周りの人には、私を幸せにする役割はない」と自分に伝える。
4.「私を幸せにすることができるのは、私だけ」と自分に伝える。
このワークのポイントは、「それは本当?」と自分に問いかけることだ。思い込みを外すには、時間がかかる。何度も自分に問いかけることで、思考のくせを外すことができるのだ。
「誰かのせいで自分は不幸せになっている」という思考から脱却し、「自分を幸せにできるのは、自分しかいない」という認識を持てるようになると、大げさでなく、世界の見え方が変わるはずだ。
たとえば、レストランで偶然隣り合わせになった人が結婚報告をしていたら、「こんな身近に結婚する人が表れたということは、私が結婚報告をする日も近いのかもしれない」と思えるようになる。
人の幸せを「結婚爆弾」などと捉えて被害者意識を持っていると、さらに「被害」に遭うことになるだろう。人の幸せを「幸せの予兆」と捉えることができれば、同じ状況にあってもひとりでに幸せになれるはず。
思考を変えれば「幸せ」はそこにある
K絵さんは、周りの人の言動に心が乱されそうになるたびに、ワークを繰り返した。そうするうちに、「他人が自分を幸せにしてくれるのを待つより、自分で自分を幸せにしたほうがてっとり早い」ということに気づいたという。
それからのK絵さんは、自分が行きたいところへ出かけ、好きなものを食べるようにした。ダイエットやメイクの研究もした。努力してきれいになることで、自分で自分を喜ばせる楽しさを実感したという。
そうしてK絵さんは、39歳のときに結婚相談所で出会った男性と結婚をした。
5歳年上で、笑顔が優しい人だ。子どもにも恵まれて、現在は時短勤務をしながら仕事と子育てを謳歌している。
もちろん、「お姫さま思考」が完全に消えたわけではない。「どうして私のために~してくれないんだろう」という思考がわき上がってくることは、今でもときどきあるという。そのときは「お姫さま思考脱却ワーク」をして、「自分を幸せにできるのは、自分だけ」という基本姿勢をとり戻している。
そうすることで、目の前にすでにあった幸せや与えられた優しさにも気づけるようになるのだ。
他人の言動に不満を覚えたときは、心の中に「誰かに幸せにしてもらいたい」「周りの人に機嫌をとってもらうのがあたりまえ」とふんぞり返っている「お姫さま」がいないかどうか自問してみるといいだろう。
そんな「お姫さま思考」を自覚したときは、「その人には、私を幸せにする(機嫌をとる)役割が本当にあるのか?」と、自分自身に問いかけてみてほしい。