※本稿は、ソネジュンコ『71歳、団地住まい 毎朝、起きるのが楽しい「ひとり暮らし」』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
健康のカギを握るのは「筋肉」
私たちの体は、おもに骨と筋肉で成り立っています。
どちらも体を構成する大切な要素ですが、あえて重要なのはどちらかと問われたら、私は迷いなく「筋肉」と答えます。
お年寄りが病気をして寝ついたのを機に、そのまま寝たきりになってしまうのは、立ったり座ったりする機会がなくなり、筋肉が衰えてしまうことが大きな要因です。
若い人ですら1カ月も病気で寝たきりになると、立ち上がって最初の一歩を踏み出すのがとても大変になると聞きます。
体を形づくるのは骨(骨格)ですが、骨格をスムーズに動かすのは筋肉なのです。
車に置き換えてみるとわかりやすいかもしれません。車のフレーム(骨)だけあっても、エンジン(心臓:心臓も筋肉でできています)が搭載されていないと動かすことができませんよね。
そんな大切な筋肉を鍛えるには、動かすことが基本です。
普段の生活で立ったり座ったりして足腰の曲げ伸ばしをしたり、物を持ち上げたり、指を使ったりすること自体が、筋肉を鍛えて筋力を維持することにつながります。
闘病で寝ついてしまい、日常生活を営むことができないと、たちまち筋肉が衰えるのはそのためです。
多くの人は全身の筋肉を使えていない
私はボディーワークの専門家で、日夜、筋力維持について考えている“筋肉フェチ”ともいえますが、現代を生きる私たちは、筋肉の使い方がわからなくなっているのだなあと、つくづく感じます。
私は大阪市教育委員会からの依頼で、年に何回か小学校でエクササイズを教えています。
まず子どもたちはどれくらい筋力があるのか、体の使い方を知っているのかを試すためにやってもらうことがあります。
それは「跪坐」というものです。
正座から立ち上がるときに、つま先だけ床につけてかかとを上げた状態になりますよね。それが跪坐です。
これができない子、やったことがないという子が圧倒的多数なのです。
最初はその事実に驚いたのですが、そもそも今の子どもたちの生活で跪坐が必要になる機会がほとんどないのです。
正座をする機会もないですし、和式トイレもほとんどなくなりました。
この生活様式の変化が日本人の体の使い方、ひいては筋肉のつきかたに与えた影響は大きいと思います。足首からふくらはぎにかけてしなやかに動かすことができなくなってしまったのです。
筋肉がカチカチになっている
思えば昭和の時代のお年寄りで、寝たきりになる人は、今ほど多くなかったように思います。
今より平均寿命が短かったこともあると思いますが、正座や和式トイレで腰を下ろしたり立ち上がったりすること自体が、けっこうな筋トレになっていたのかもしれません。
なお、体中の筋肉はつながっているので、足首やふくらはぎの筋肉が硬いということは、その上の太ももや腰のまわりの筋肉もカチカチになっている可能性が高いです。
スマホやパソコンが猫背に追い打ちをかける
もう一つ私が気になっているのが、猫背の人が多いということです。
もともと日本人は、欧米の人に比べて姿勢の悪い人が多いようです。体質的に欧米人よりも筋力が弱いのと、正しい姿勢を意識する文化が定着していないことが影響しているといわれます。
そこへパソコンやスマホの登場です。電車に乗れば10人中8人くらいがスマホを手にして画面を見つめていることが多いです。
たいていの人はスマホを見るとき、無意識に背中が丸まって首が前に突き出していますが、なかなか本人は気づきにくいのです。
筋肉にとっては「動かさない」のがいちばんよくありません。
筋肉が動かす関節の可動域は思いのほか広く、筋肉は最大で20%くらい伸び縮みするそうです。でも動かさなければ、固まってしまいます。
パソコンを使ってのデスクワークやスマホの見すぎで体を動かさずにいると、肩から背中、さらには腰までの筋肉がカチカチに、固まりがちなのです。
肩こりや背中のこり、腰痛があるという人は、こりのある部位を触ってみてください。
こりのある部分は血液やリンパ液の流れが悪くなっているので、冷たく感じるはずです。
スタイルが悪くなり内臓が弱っていく
「下半身デブでイヤになっちゃう」とか「年をとってお腹のまわりに肉がついてきた」などと嘆く声を聞きますが、ズバリ言います。
それは「全身の筋肉をバランスよく使えていないから」です。
若いころはまだ筋力にしなやかさがあるので、アンバランスなのは、それほど目立ちません。
ところが筋力が弱ってくる中高年以降は、筋肉をしっかり使えていないことが端的に体形に出てくるのです。
体形だけではありません。筋肉が衰えれば、内臓機能も低下します。なぜなら、内臓も筋肉でできているからです。
年をとると、食べ物を飲み込みづらくなったり(嚥下障害)、食べすぎると胃がもたれたりするようになりがちですが、これらは食道や胃の筋力が衰えていることが一因なのです。
背中と太ももまわりの筋肉を鍛えよう
私たちが体を動かすことができるのは、関節のまわりを覆っている筋肉が伸び縮みするからです。
筋肉は全身の筋肉を包み込む「筋膜」で覆われています。つまり、筋肉は筋膜と一緒に伸び縮みしているわけですが、あるポイントがコリコリに固まってしまったとしたら、ほかの部分にも片寄りが生じてしまいます。
1カ所でも使われない筋肉があると、そこに滞りが生じてしまい、血液やリンパ液の流れが悪くなってしまいます。
血液は体中に酸素や栄養を送り届ける働きを、リンパ液は体内の老廃物を回収する働きがあります。
これらの働きが悪くなると、体調不良の原因になります。だから筋肉は、バランスよく使って鍛えることが大切なのです。
そうすれば血流もリンパ液の流れもよくなり、新陳代謝が活発になって健康な体の基礎がつくられていきます。
特に効果的なのは、体の中で大きな体積を占めている筋肉を鍛えることです。上半身でいえば背中の筋肉(背筋)、下半身でいえばお尻と太ももまわりの筋肉です。
最低限、この二つの部位の筋肉が、いつもしなやかに動かせる状態になっていれば大丈夫! 体の中も外も若々しさを保つことができます。
筋肉のセルフチェックを
それでは、まずあなた自身の筋肉が今どんな状態なのかをチェックしていきましょう。
〈セルフチェック1〉については、指が楽々差し込めればOKです。足の指の間が開かなかったり、開くときに痛みを感じたりした場合は、下半身(腰から下)の筋肉にこわばりがあったり、弱ったりしていることが考えられます。
〈セルフチェック2〉は、ヒジを曲げずにまっすぐ伸ばしたまま、腕が耳の近くまでいけばOKです。あまり上がらない場合は、上半身の筋肉、特に背中と肩まわりの筋肉が十分に使われずにこわばりが生じています。
エクササイズを習慣化しよう
ここからは具体的なエクササイズのやり方を紹介していきましょう。
下半身と上半身のエクササイズを2種類ずつ紹介しますが、それ以前の準備として、次の二つを行い、習慣化するようにしてください。
〈エクササイズ準備1〉 足指を開く
四つの足指の間に反対側の手の指を差し入れて足指を開き、手で握るようにします。最初は足が温まっている入浴時にやるようにするといいでしょう。
体が温まると筋肉がゆるむので、平時よりも手の指が入りやすくなるはずです。これをするだけで全身の筋肉がやわらかくほぐれます。
続けることで、エクササイズの効果が出やすい体がつくられます。
〈エクササイズ準備2〉 座骨を立てて座りましょう
座骨ってどこにあるかわかりますか?
椅子に座った状態で、手のひらを上に向けて臀部(お尻)の下に手を入れてみてください。
そのとき左右のお尻に二つ出っ張っている骨が座骨です。
座骨は骨盤の一部で、いちばん下に位置しています。その名のとおり、「座る」ことに関してとても重要な役割を果たしています。
座骨を床や椅子の座面に垂直に立てるようにして座ると、自然と姿勢がよくなり背中がまっすぐになります。
本来、椅子には背もたれは必要ないと思ってください。座骨をきちんと立てさえすれば、上半身はおのずとシャンとするからです。
ところがほとんどの人は、背もたれに背中をもたせかける姿勢が楽な姿勢と勘違いしています。このとき骨盤は後ろに倒れ(後傾)、座骨は本来の役割を果たせていません。
座骨がきちんと立った正しい姿勢だと、体は少し前傾になります。
まずはエクササイズをするとき、座骨を立てて座るようにしてください。日常生活でも座骨を立てて座ることを心がけるといいでしょう。
下半身のエクササイズにトライ
下半身のエクササイズでは、股関節まわりの筋肉をほぐし、太ももの大きな筋肉(大腿筋)に働きかけます。これによって血行やリンパ液の流れがよくなり、代謝がアップします。
下半身ゆるゆるエクササイズ1
もしバランスボールがあれば、手で押しつぶしたときに床に手が触れるか触れないかくらいまで空気を抜いたものを使ってください。
なければ、クッションや枕を使いましょう。
効果を実感したい場合は、このエクササイズの前とあとに、開脚をして(床に座って足を広げて)みるといいでしょう。エクササイズ後は、足が開きやすくなっているのが感じられると思います。
テレビを見ながらでもできる簡単なエクササイズですが、股関節まわりの筋肉をゆるめるのには効果抜群です。
下半身ゆるゆるエクササイズ2
股関節をゆるめるのと同時に、日ごろあまり使われない太ももの内側の筋肉(内転筋群)をほぐす効果が期待できるエクササイズです。
仰向けの状態で行うエクササイズなので腰を痛めないよう、マットやカーペットの上でやるようにしましょう。
私のオススメは布団やベッドの上で、掛け布団をかけた状態で行うことです。
私はこれを寝起きにベッドの上でやっています。あえて掛け布団をかけた状態で行うことで、ヒザをずっと同じ高さでまわせているかどうかが確認しやすくなります。
上下にバタバタさせるよりも、同じ高さをキープするほうが太ももの内側の筋肉が使われ、高い効果を期待できます。
たとえば、隣に誰かが寝ていたとして、その人に気づかれないくらい静かにまわすことを目指すといいでしょう。
上半身のエクササイズにトライ
上半身のエクササイズでは、固まりがちな背筋に働きかけていきます。
昔、「バックシャン」という言葉がありました。「後ろ姿が素敵な人」という意味の言葉ですが、このエクササイズはまさにそれを目指そうというものです。
上半身ゆるゆるエクササイズ1
日常生活で腕を思い切り伸ばすことは、意外とないのではないでしょうか。だからこそ意識的に伸ばしてみましょう。腕を伸ばすと否応なしに背筋が使われ、こり固まった背中や肩がスッキリします。
① 椅子を使ったエクササイズです。座骨が椅子の座面に対して垂直になるよう背筋をピンと伸ばして座り、手のひらを天井に向けたまま、ヒジを伸ばして両腕を上げていきます
② 上げきったらそこで5秒カウントし、腕を下ろします
③ 2回同じことを繰り返しましょう
これで背中から肩がスッキリ
上半身ゆるゆるエクササイズ2
エクササイズ1の応用バージョンです。気になる二の腕の引き締めにも効果抜群です。
エクササイズ1にひねりとヒジ曲げを加えたものですが、その分、より筋肉に負荷がかかり背中や二の腕に「効いている」のが実感できるのではないでしょうか。
「肩や背中がこったな」と感じたらぜひやってみてください。