豊富な経験や高度なスキルを持つ人は、採用面接に自信を持って臨むだろう。ところが、転職エージェントの森本千賀子さんは「自分のキャリアを全面的にアピールすることが、逆効果になることがある。人事担当者が『内定確実』と思った応募者でも、最終面接などで落とされることがある」という――。
不採用と書かれた木製ブロックを手に持つ人
写真=iStock.com/masamasa3
※写真はイメージです

「経験・スキルは申し分なし」でも不採用に

書類選考では「経験・スキルは申し分なし」と高く評価され、スムーズに通過。ところが最終面接まで進んで採用を見送られてしまうケースがあります。

しかも、不採用の理由は「面接の場でうまくアピールできなかったから」ではありません。事前にしっかりと面接対策をして、経験や実績をしっかりと伝えたものの、そのアピールが裏目に出て不採用になることがあるのです。

3つのパターンをご紹介します。

①「完成されていて、伸びしろが期待できない」

管理部門スペシャリストのAさん(30代)は、あるベンチャー企業に応募し、面接で自分の経験を自信満々にアピールしました。

「私はこれまで○○、○○、○○の経験を積んできました。特に○○、○○のスキルには自信があります。○○の取り組みでは○○という成果を上げ、社長賞も受賞しました。これらの経験・スキルを御社で生かしたいと思います」

採用担当者は「すばらしい。まさに当社が必要としているご経験です」と称賛しつつ、次の質問を投げかけました。

「では、当社でどんなことをしたいですか。何か目標としていることはありますか」

その問いに、Aさんは黙り込んでしまいました。沈黙の後、ようやく絞り出した答えは、

「そうですね……私の経験を生かしてお役に立てれば、と思っています……」

結果的に、Aさんは採用を見送られてしまいました。採用担当者はAさんの経験・スキルは高く評価しつつ、「完成されてしまっている感じで、今後の伸びしろを感じられない」と判断したのです。

Aさんのようなケースは、実は少なくありません。ご自身のキャリアに自信をお持ちの方ほど、「これまでの経験」「今持っているスキル」を全面に出してアピールしがちです。もちろん、企業側も経験を生かして貢献してもらえることに期待を寄せますが、同時に「さらに高い目標を目指して、ともに成長し続けられる人材を迎えたい」と考えているのです。

採用担当者と経営陣の観点は違う

書類審査および1次~2次面接を担当する人事担当者や現場の採用担当者などは、「即戦力として活躍できそうか」「職場の雰囲気になじめそうか」といった観点で選考するため、それをクリアしていれば「歓迎モード」で面接を終えます。しかし、だからといって「内定確実」と安心してはいけません。

最終面接の相手となる経営陣は、「会社の成長とともに自身も成長していける人か。それによって組織全体にプラスの影響を与えられる人か」という観点で応募者を見ています。特に成長途上のベンチャーやスタートアップではその傾向が強く見られます。昨今マーケット環境が劇的に変化するなかでは、知見をアップデートし続けることが重要。「アップデートできる力=伸びしろ」を重視した結果、経験豊富な即戦力人材よりも、「経験は浅いけれど成長意欲が高い人」が選ばれるケースは多いものです。

これから転職活動に臨むなら、「過去(経験・実績)」をアピールするだけでなく「未来」に目を向けて自身のWILL(やりたいこと・なりたい姿など)を描いておくことをお勧めします。

②「うちの会社では物足りなくなるのではないか」

Bさん(40代)はマーケティングや事業企画の経験を持ち、これまでにいくつかの新規事業の立ち上げを手がけてきた方。ある企業の事業企画ポジションに応募し、これまで担当したプロジェクトを余すところなくアピールしました。しかし、やはり経験と実績は高く評価されつつも、“オーバースペック”を理由に採用見送りとなってしまったのです。

採用担当者が不採用とした理由は、このような懸念からでした。

「すばらしい経験と実績をお持ちだけど、うちの会社ではここまでのレベルは求めていない。これまでBさんが経験してきたような新しい取り組みの機会を、当社では提供できない。オーバースペックとなってしまい、せっかくの能力を持て余してしまうのではないか。入社しても物足りなく感じて、すぐに辞めてしまうのではないだろうか」

このようなパターンの場合、Bさんが実際に入社後に物足りなさを感じることになるのであれば、不採用になったのはむしろ良かったといえるでしょう。しかし、本当に応募企業に魅力を感じていて、入社したいという気持ちが強かったのであれば、自己アピールを工夫する必要がありました。

まず、これまでの実績をあれもこれもとアピールすることは控えます。応募企業の求人情報を読み込み、募集ポジションの仕事内容や期待されている役割をイメージしたうえで、それが自分のキャリアのどの部分と共通しているのかを考えるのです。

つまり、「相手のニーズ」と「自分の経験・能力」の接点を見つけ、そのポイントにフォーカスしてアピールすることが大切です。

数ある候補者のなかの一人が拡大鏡でクローズアップされている
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです

③「組織のバランスが崩れるのでは」

Cさん(30代)は営業企画として実績を上げてきた方。販路拡大を目指す企業の営業企画ポジションに応募しました。Cさんもやはり、面接の場でご自身の経験と実績をしっかりとアピール。しかし、AさんともBさんともまったく異なる理由により採用を見送られたのです。

その理由とは、「組織のバランスが崩れるのではないか。既存メンバーにマイナスの影響を与えるのではないか」というものでした。

その企業は、販路拡大にあたり新たな「X」のマーケットの開拓ができる人材を求めていました。そこで、Xマーケット向けの営業企画経験を持つCさんを面接に招いたのですが、面接の場でCさんは「Z」マーケットでの実績についても強くアピールしたのです。

実はその企業には、すでにZマーケットの開拓を任されているメンバー・Dさんがいました。新卒入社し、営業として実績を上げて営業企画職に抜擢された、その社内ではエースとして期待されているメンバーです。採用担当者は、Cさんを採用することによる、Dさんへの影響に懸念を抱いたのです。

「CさんはZマーケットでの実績に自信を持っているから、そちらにも関わろうとしそうだ。実際、DよりもCさんの方がノウハウを持っている。しかし、Zマーケットを入社したばかりのCさんに任せたら、Dのモチベーションが下がってしまいそうだ。幹部候補として育ててきたDの立場と気持ちを尊重したい」

このケースのように、既存社員とのバランス、組織全体のバランスを考慮し、「優秀だけど受け入れられない」と判断するケースもあるのです。

ちなみに、入社後に直属の上司となる人が面接を担当し、「自分より優秀な人物だ。この人が入社したら、自分のポジションが脅かされるかもしれない」という危機感を抱き、不採用にするようなケースもあります。

これらの不採用理由は、応募者が事前に気付いて対策することはまず不可能です。このようなケースもあり得ることを理解し、「自分は評価されなかった」とムダに落ち込まないようにしましょう。

盛ったり控えたりする必要はない

以上、経験と実績をしっかりアピールした結果、逆効果につながるケースをご紹介しました。これらの落とし穴にはまらないようにするために、以下の2点を意識して面接対策を行ってください。

● 企業側がどんな役割や活躍を期待しているのか、事前の企業研究によってつかみ、自身の経験の中からそれに該当するポイントをピックアップしてアピールする

● 過去の実績を伝えるだけでなく、「これからどうしたいか」「何を目指すのか」という将来ビジョンを語れるようにしておく

いずれにしても、「盛る」ことも「控える」こともせず、等身大の自分を伝えることで、本当に自分にフィットする企業とのご縁が結べるでしょう。