女性は「自分より下」の男性を選べるか?
「女性は男性に、自分以上の学歴・地位・収入を望む」という昭和の結婚観は、現在でも根強く残ります。しかし、学歴も職歴もどんどん平等化していけば、当然女性は、「自分より上」の男性を見つけにくくなっていきます。
少子化→未婚・晩婚化問題を考える上で、一番厄介になりそうなのが、この問題ではないでしょうか。
なぜ、女性は男性に「自分以上」を求めるのか。
その理由は、長らく労働が男性に牛耳られていたため、女性が生きていくうえでは、男性に頼らざるを得なかったから、と連載序盤で書きました。
それが、女性も経済力を持ち、頼る必要がなくなった時、取るべき道筋は3つあります。
② 従来通りの価値観で、自分より上の男性を求めること。
②の道筋を取った場合、収入・地位は男性優位となり続けるため、家事・育児負担は平等化が進んだとはいえ、やはり女性主導とならざるを得ません。結果、昭和に比べれば自由ではあるけれど、窮屈さは残ることになります。
3つの選択肢のうち、現状では、①と②が多数であり、③を選ぶ人が少ないということでしょう。なぜ③は選ばれないのか――理由は簡単ですね。こちらに歩を進めても、女性が得るものが少ないからに他なりません。
「可愛くてかいがいしい」非正規男性はいるか?
高年収の男性と低年収の女性。会社の中では、そんなカップルが生まれる機会が山ほどあります。庶務や事務は今でも大多数が女性であり、彼女らの多くは非正規や一般職で待遇は良くありません。そうした女性が周囲に多々いるのです。
男性が彼女らを選んだ場合、「家に帰ったら食事や風呂を用意してもらう」ことが期待できます。収入や地位で分が悪い彼女らは、それを受け入れるしかありません。こんな感じで、「かいがいしくて可愛い」嫁をもらうことができます。
女性の場合、かわいい事務の男性が周りにいたりすることは、まずありえません。男性の非正規社員は、えてして、工場での製造スタッフや、コンビニなどの販売職、運送・配達、清掃など、異性とかかわりの少ない職場にいます。だから、同じ社内で女性上位のカップルが生まれる機会が乏しいでしょう。そして、彼らは別段、家事育児に長けているわけではなく、普通の男性以上に奉仕的ということもありません。とすると、バリバリ働いて帰宅したエリート女性が、「風呂」「飯」など期待もできないでしょう。
今後、イクメンの浸透で、状況は多少変わるでしょうが、それでも「かいがいしくて可愛いい」男性は増えるでしょうか。そして、そんな男性を社会の大勢は受け入れるでしょうか……。
なかなか一筋縄ではいきそうにありませんね。
昭和の結婚観は、小さな改善を積み重ねながら、少しずつ変えていくしかないでしょう。
昭和的価値観も年齢面ではずいぶん進歩した
たとえば、「年齢は男が上で、女が下」という結婚観については、だいぶ緩和しました。第10回に書いた通り、現在、結婚する4組に1組が姉さん女房となっています。「35歳以上の女性は出産が難しい」という誤った常識が取り除かれれば、さらに、年齢面での結婚観は変わっていくでしょう。
学歴や年収、役職については、男性がやや下あたりまで、ウイングを広げることはできそうです。前回述べたように年功的な人事制度を変えることで、30代で仕事面での将来性が見えるようになると、パートナー間で稼ぎと家事育児の分業について話し合いやすくなります。仕事面で活躍できそうな女性の場合、学歴や役職が自分よりやや下であっても、仕事をほどほどにして家庭重視の決断をしてくれる男性なら結婚相手として選ぶという判断ができるようになるからです。
これから5年、非正規の給与・待遇が大きく改善する
非正規雇用の給与・待遇を上げ、「できる女性」との格差を減らすことも処方箋の一つとなるでしょう。こちらは大いに可能性がある話です。これからしばらくの間、日本では非正規雇用の待遇が大きく改善せざるを得ないからです。
日本は、1995年から生産年齢人口(15~65歳)が減少に転じました。本来ならそこから労働力不足となるのですが、それまで職に就いていなかった高齢者や主婦が、パートやバイトで雇用されるようになり、不足分を補いました。それで、人口減少下でも、労働者は増え続けたのです。ところが、ここ数年、この雇用シフトが変調を来たし始めました。
まず、65~74歳の高齢者(前期高齢者)が減少し出したのです。2022年から2027年までの5年間で約250万人も激減します。
続いて、主婦の非正規雇用が減少し始めました。今まで、女性は結婚や出産で家に入り、その後、子どもが修学期になるころ、パートとして働き出すのがお決まりのコースでした。ところが、大卒→総合職として働いてきた女性たちは、企業も辞められたら困るため、育休→時短復帰という形で正社員のまま継続就労する人が増えたのです。結果、女性正社員の数は毎年30万人ペースで増え続け、一方、非正規は2019年をピークに年間30万人も減少しています。女性の正社員数と非正規の数が逆転する日も近いでしょう。
このところ、飲食やコンビニのバイトで、最低時給とはかけ離れた高給な募集チラシを見かけます。東名阪の好立地店であれば、昼間時給でも1500円を超え、夜間はいわずもがな、でしょう。それは、高齢者が毎年50万人、主婦非正規が毎年30万人も減少しているからなのです。
こうして生じた人手不足を、業務の自動化や外国人材で対応しようにも、年間80万人の欠損はそうそう埋まりません。ベビーブーマー世代が後期高齢者に移行し終える2027年あたりまで、非正規人材の絶望的な不足は続くでしょう。そうして、非正規雇用の時給は2000円に迫るのではないでしょうか(最低賃金は遅々としたアップでしょうが)。
非正規の待遇改善は欧州型社会への入り口
時給2000円ともなると、フルタイム勤務なら年収350万円になります。同時に、労働環境もブラックな評判が立てば採用が滞るので、向上するでしょう。雇用調整弁として契約解除されることも減るはずです。
昨今では「年収の壁」※を超える労働を促すために、昇給・時間延長の助成金が盛んに策定されています。そのことが、非正規の賃金アップをさらに促進するでしょう。
※主婦労働者が、社会保険料や所得税などで優遇される「扶養内」に年収を抑えるために生まれる労働時間抑制
こうなってくると、非正規雇用に対するイメージも徐々に改善されるでしょう。
そしてもう一つ。非正規の人件費が高まると、企業はそれを販売価格に転嫁せざるを得なくなります。その結果、販売・飲食・サービス業で、軒並み価格上昇が起きるでしょう。
こうして価格が高くなると、利用者・購入者は減る。その結果、労働需要も収まり、人材不足もようやく終息するという「市場による調整」が起きるのです。
その頃の風景は、現在の欧州を彷彿とさせるでしょう。
「ハンバーガーとコーラを買ったら1000円だった!」
こんな話をよく旅行者がしますね。だから、欧州では日本ほど、外食やサービス業は利用せず、家で済ませるのが普通です。自炊しクリーニングも家でするようになると、社会はどう変わるでしょう?
こうした家事は一人分も二人分も大差はないので、共同生活で分業したほうが一人当たりの負担は減ります――結果、独身より結婚を選ぶ人が増える!
そう、日本は飲食・サービス単価が安く便利すぎるから、結婚が進まない、などとも言われているのです。ここにもメスが入りますね。
男女平等化は、50:50を目指すわけではない
ここまでやっても、まだまだ、昭和的な結婚観はなくならないでしょう。
私は、この際、徹底的に社会に存在するジェンダーバイアスにメスを入れるべきと考えています。
前述した通り、庶務や秘書という仕事は女性ばかりで男性がいないことをどう思われますか? 看護師は91%が女性、保育士は96%が女性です。
いまだに「そういう仕事は女性が向いている」という一言で片づけていませんか?
こうした話をすると、
「男女で向き不向きはある。鳶職や長距離ドライバーは男が多数だ」
「どの職業も男女が同数じゃなきゃならないのか」
といった反論が出てきそうですね。
もちろん、私も性差は存在し、仕事でも趣味でも、男女の偏りはあると考えています。ただそれを認めた上で、3つの原則を頭に置いてほしいのです。
2.性差を認めても、100:0というわけではない。
3.平等化とは、50:50を言うのではない。
女性向きの仕事にも2、3割の男性が就いている状態が自然
たとえば、男女では身体能力に厳然たる差があります。
高校3年の50m走の平均値は、男子7.13秒、女子8.91秒と、大差で男性に軍配が上がります。平均値で見れば「男は走るのが得意、女は苦手」となるでしょう。
でも、個人を見たとき、並みの男性よりも速い女性は多々います。
たとえば、町内会でも会社でも学校でもかまいませんが、走るのが速い・遅いに集団を二分したとします。そのうち「速いほう」は男性ばかりで、「遅いほう」は女性ばかりになりますか? そんなことありえないでしょう。
速い方でも、たぶん、2~3割は女性が占めるはずです。
ジェンダーバイアスの話を考える時は、この事例を頭に置いてほしいのです。
性差偏重の人は、「平均値」で男女を分け、「100:0」という主張をしがちです。
そして、それを批判されると、「じゃあ、男も女も50:50なのか」と強弁が続く……。
確かに平均値では差があるけれど、個人で見た場合、「男性向き」という項目にも女性が2~3割入る。同様に「女性向き」という項目にもやはり男性が2~3割入る。それが、自然な状態なのでしょう。
それ以上に偏りが激しい仕事を見た時は、「何らかの社会的バイアスが働いている」と考えること。そして、その偏りを是正するような施策を望むべきです。
性差以上に男女比を開かせる「悪慣習」
かつて営業の職場も、「女性には無理」と言われてきました。ただ、そこにあったのは性差ではなく、商慣習の問題です。たとえば、取引先が無理難題を言い、営業スタッフが深夜に、棚卸しや商品入れ替えをやらねばならないとか。外注の職人さんたちの気性が粗く、時にはセクハラまであったりするとか。こうした悪慣習が「当たり前」になっていて、だから女性が働けなかったのです。それが、ブラックな商慣習を正すことで、女性も活躍できるようになってきました。
こうした進歩が各所で起こるべきでしょう。
もちろん、看護師や保育士、庶務や事務でも20%程度は男性が混じってしかるべきと考えます。
「女性は理数系が苦手」というわけではない
理工系、とりわけ機械・電気通信(俗に機電系)で、女性が少ないという問題が、産業界でも悩みの種になっています。令和4年の学校基本調査から女学生割合を出すと、機械は6.1%、電気通信でも9.5%に留まります。
世界的に見ても、大学での機電系専攻は女性が少ないのですが、日本は際立っています。機電系を含む工学部の女性比率を見ると、多くの国は2~3割に対して、日本は12から13%程度であり、半分程度です。
「日本の女性は、数学や科学が苦手だから」
こんな声が聞こえてきそうなので、世界各国の学習習熟度を比較するPSAの点数で男女を比べてみました。
日本の数学の点数(2015年)は7カ国中2位と上々で、男性の平均が539点、女性の平均が530点。確かに男性優位ですが、それは100点満点換算で0.9点という微差に留まります。科学も同様で総合2位、男性平均が545点、女性平均が532点で、こちらは100点満点換算で1.3点です。
理系に進むような上位10%の平均点で見ても、数学は男性652点:女性632点、科学は男性665点:女性644点。どちらも差は開きますが、それでも100点満点換算で2点程度。この数字を見てどう思いますか?
「研究室での狭苦しい上下関係、ともするとアカハラが苦手なのだろう」
確かにそうかもしれません。ただ、それこそ、先ほどの営業の話と同じで、正すべき「悪慣習」でしょう。
理工系学部に「女性枠」を
何度も言いますが、50:50にすべきとは思っていません。他国並みの2~3割くらいにはなるということです。そうすることで、気づかない悪慣習が淘汰され、よりより研究環境にもなるでしょう。
そのためには、上位大学の入試で、女性比率が著しく低い専攻分野に、優遇枠を設けていくのも一案だと考えています。
こんな感じで、男女比に偏りがありすぎる領域に、片っ端からアファーマティブアクション(優遇策)を取ることを提案します。「あれは女がやる仕事」「男なのによくあんな仕事を」なんて言われなくなるころ、ようやく昭和の結婚観も消滅するのではないでしょうか。