転職面接の「自己PR」では、自分の実績をどのようにアピールすればいいのか。転職エージェントの森本千賀子さんは「前職の成果を盛り過ぎてもよくないが、謙虚になりすぎるとマイナス評価になることがある。職場で好印象につながる謙虚さや謙遜は、面接の場では、『あなたは何をしたのか』と疑問を抱かれ、むしろネガティブな印象につながる」という――。
履歴書を確認しながら面接をするマネジャー
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「謙虚さ」は、採用面接ではマイナスになることも

皆さんが現在の勤務先で成果を上げ、「社長賞」「MVP」などを受賞したとしましょう。他部署の人から「おめでとうございます。すごいですね」と声をかけられたら、どう返しますか?

「私だけの力ではなく、チームメンバーみんなで上げた成果なんです」
「上司と同僚に恵まれたんです。いろいろと助けていただきました」
「たまたま運が良かっただけです」

このように答える人は多いのではないでしょうか。特に女性はその傾向が強いと感じます。

日本の組織において、「謙遜」「謙虚」は美徳とされています。自分の実力を誇示するのではなく「~のおかげ」と周囲に感謝を示せば、好印象を与えるでしょう。

しかし問題は、これと同じことを「面接」の場でやってしまう人が少なくないことです。

面接官が聞きたいことは何か

職務経歴書で「○○賞を受賞」という記載を見た面接担当者が「すばらしい成果を上げられたのですね」と振ってきたら、自己アピールのチャンス。ところがそこで、先のように「第三者のおかげ」「運のおかげ」と謙遜し、それだけで終わってしまう人が多いのです。

残念ながら、面接担当者は「謙虚な人物だ」とプラス評価はしてくれません。

「で、あなたは何をしたの?」

面接担当者はそれを聞きたいのです。

「あなた独自のどのような戦略や工夫によってその成果を上げることができたのか」

さらに、「その行動やノウハウを、自社でも再現できそうか」

面接担当者が注目しているこの部分までしっかりと伝えなければ、評価にはつながりません。

つまり、大切なのは「自己分析」です。成果に至ったプロセスについて、自身が「何を課題として」「どんな戦略を立て」「どんな工夫をして」「こんな障害をこのように乗り越えて」……といったストーリーを語れるように言語化しておきましょう。

「チームメンバーの協力のおかげ」が事実であったとしても、「協力してもらえるような関係の構築」「メンバーが仕事をしやすい環境作り・配慮」など、あなたの努力が功を奏したポイントが必ずあるはずです。それを分析することで、自分の「強み」を自己認識し、アピールしましょう。

「何でもやります」は逆効果になることも

「謙虚であること」が、時には「受け身である」と捉えられることもあります。

総合職ポジションの求人、あるいは職種は決まっていても配属先部署や担当業務が多岐にわたる場合、面接で「どの部署(業務)を希望しますか?」と聞かれることがあります。

このとき「どこでも結構です」「何でもやります」と答える方が結構いらっしゃいます。

本当にこだわりを持っていない方も多いのですが、柔軟に対応する姿勢を見せたほうが評価を得られると考え、このように答える人が見受けられます。その裏側には、「自分の強みをアピールしたり希望を主張したりすると、成果を期待されそう」と、プレッシャーがかかるのを避けたい気持ちもあるようです。

あるいは「どんなことも頑張ってやる」という意欲をアピールするつもりで、「何でもやります」と言う方もいます。

しかし、面接担当者はこのように捉えます。

「自分の強みややりたいことを認識できていないのだろうか?」

やはり「自己分析ができていない人」とネガティブな印象を持たれてしまうのです。「受け身で、主体性がない人」とも思われかねません。

第二新卒などの若手採用であればともかく、ある程度社会人経験を積んだ人材を中途採用する場合、企業は「私の強みはこれです。このスキルを発揮して御社にこのように貢献します」と明確に言える人を求めているのです。

腰が引けたトーンか、「何でも挑戦したい」というトーンか

なお、「何でもやります」も、表情や言い方によって受け止められ方が変わってきます。

「御社の判断にゆだねます」という、腰が引けたトーンでの「何でもやります」だと、上記のような消極的な印象を与えがちです。

一方、積極性をアピールしようとして「何でも挑戦したいです!」というトーンで話すと、企業によって受け止め方が変わる可能性があります。

「チャレンジ精神があって良い」と好印象を抱く企業がある一方で、「いろんなことをやりたい人なのかな。うちの会社では任せられる業務の広がりがあまりないんだが……」と、志向のミスマッチを感じる企業もあるのです。

積極性をアピールする場合も、応募企業の風土などを考慮する必要があるといえるでしょう。

一人の該当者を選択する手元
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「何でもやります」の上手な伝え方

安易に「何でもやります」とアピールすることの危険性をお伝えしてきましたが、この姿勢はどんな場合もNGというわけではありません。

例えば、創業間もないスタートアップや成長途上のベンチャー企業などの場合、当面は限られた人数で運営していく必要があるため、1人のスタッフが臨機応変に複数の業務を兼務していかなければなりません。

そうした企業では、「どんな業務にも対応する」という柔軟な姿勢を持った人は歓迎されます。

そこで、「何でもやる」という姿勢をアピールするなら、次のような伝え方をすることをお勧めします。

「私が強みとするのは○○です。○○の経験・スキルを生かし、このように貢献したいと考えています。しかし、○○業務だけに固執するつもりはありません。新しい業務や役割にもチャレンジしていきたいと考えております。必要に応じ、さまざまな業務に臨機応変に対応します」

このような伝え方であれば、採用担当者は頼りがいや安心感を抱くでしょう。

思ったまま素直に答えればいいわけではない

総じて言えるのは、面接で「思ったまま、感じたまま答えるだけではダメ」ということです。

面接担当者が「正直でいい」と思ってくれれば良いのですが、企業が一貫して注目しているのは「自社に貢献してもらえそうかどうか」です。それを念頭に置いて答えることが大切です。

そのためには、これまでもお伝えしてきた以下のポイントを心がけてください。

・自己分析をして、自分の強みを認識する
・受け身にならず、主体性を持つ
・自信を持つ

転職相談をお受けしていると「自分に自信がない」という方はとても多いと感じます。

しかし、そういった方の経歴や実績を聞いてみると、求人市場に精通した転職エージェントから見ると、「この経験はすばらしい」「このスキルは価値が高い」と思えることが多々あります。

自分1人で分析していても、なかなか自分の強みに気付けないと思います。他者と比較する機会がないのですから、無理もないでしょう。

昨今は転職エージェントをはじめ、「キャリアカウンセラー」「キャリアコーチ」「キャリアメンター」など、「転職」とは切り離したサービスも増えていますので、ご自身に合いそうなプロを探し、相談してみてはいかがでしょうか。

自分では「できて当たり前」「たいしたことない」と思っていた経験やスキルが、実は市場で評価される強みであると気付けることもあります。

プロに相談するのはハードルが高い……と感じるなら、これまで一緒に働いてきた上司や同僚に「私の強みはどこだと思いますか?」と聞いてみる手もあります。

自分では想定していなかった答えが返ってきて、意識していなかった自分の強みを発見できるかもしれません。