採用面接では、必ず「志望動機」を聞かれる。転職エージェントの森本千賀子さんは「これを文字通りに受け取って、その会社に興味を持ったきっかけを話すだけでは失敗する。応募先企業に共感を覚えた『原体験』と、『その会社の独自性』をセットで伝えるといい」という――。
人型の絵が描かれたパズル
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「興味を持ったきっかけ」=「志望動機」ではない

転職活動の面接で、必ず聞かれる質問の一つが「志望動機」です。

応募企業が求める経験・スキルの要件を十分に満たしていなかったとしても、志望動機が面接担当者に刺さり、経験者をさしおいて採用されるケースは少なくありません。

ですから、志望動機はしっかりと準備して面接に臨んでいただきたいと思います。

まず意識しておくべきは、「その企業に応募しようと思ったきっかけ」と、「志望動機」として語る内容は切り分けるということです。

最初にその企業に目を留めた理由を正直に伝えると、例えば次のようなものになるケースが多いと思います。

「知名度が高く、ブランドイメージが良いので」
「安定していそうなので」
「給与がいいので」
「残業がなく、休日が多いので」
「リモートワークができるので」

これらはいずれも志望動機として語る内容としては「NG」ですので、くれぐれも注意してください。

これを聞いた面接担当者は「同様の条件の会社ならどこでもいいの?」と思います。志望動機を語る場合は、「なぜその会社でなければならないのか」を押さえておく必要があります。

特に「給与がいい」を挙げると、「うちより給与がいい会社があれば、そちらに移ってしまうの?」と懸念を抱かれるでしょう。例えば、成果報酬型の営業職などの募集広告で、「成果に応じて収入アップ」をうたっている企業であれば、「稼ぎたい」=「成果を挙げる意欲」とポジティブに捉えられるでしょうが、それ以外で給与にフォーカスするのは避けたほうが無難です。

「理念に共感しました」はもろはの剣

上記に挙げたものは、「そりゃNGだよね。わかってるよ」と思う方も多いかと思います。

しかし、一見「OK」のように見えても、ネガティブに受け取られる可能性がある「志望動機」もあります。

「御社のホームページを拝見し、理念(ミッション・ビジョン・バリュー・パーパスなど)に共感しました」

企業は確かに、理念に共感してくれる人を求めています。ベンチャー企業であればなおさらその傾向が強く見られます。それだけに、「本当に理解しているのだろうか」と、掘り下げて質問してくるでしょう。

理念は多くの場合、抽象的なフレーズで掲げられています。そこから具体的な話に落とし込んでいくのは、なかなかにハードルが高いものです。

表面的な回答しかできなかったり、解釈にズレがあったりすると、かえってマイナス印象を抱かれてしまいます。

「自身の原体験」と「企業の独自性」をセットで語る

もちろん、自身が心から理念に魅力を感じて志望したのであれば、正直に伝えてOKです。ただし、「理念がすばらしいと思いました」で終わらせず、その理念とリンクする自身の原体験エピソードを交えて話しましょう。

「御社の『困り事を解決する』という理念に共感しました」
「では、あなたは誰かの困り事を解決したことがあるのですか?」
「いえ、特にはありませんが……」

これでは納得はされません。

「○○が○○で困っている時、○○という工夫をして問題を解決し、○○という成果につながり、喜んでもらえたことがとてもうれしかったのです。以来、困り事を解決することで信頼を獲得していく働き方にこだわっています。御社のサービスは○○の課題解決に非常に効果があると考えており、同業他社のサービスと比較しても○○という点で優れているので、ぜひ手がけてみたいと思いました」

このように、応募先企業に共感を覚えた「原体験」+「その会社の独自性」をセットで伝えられれば、納得を得やすくなります。企業側は「生き生きと働いてくれそう」と、活躍イメージを描くことができるでしょう。

最近は「SDGs」の概念が広がったこともあり、「社会貢献」をキーワードに転職先を選ぶ人が多く見られます。

しかし、安易に「御社は社会貢献性が高い事業を手がけているので」と語ると、落とし穴にはまることがあります。

「社会貢献への意欲があるなら、これまであなたはどのような社会貢献の活動をしてきましたか?」と突っ込まれたとき、答えに詰まってしまう人は多いのではないでしょうか。

抽象的なテーマを語るには、やはり根拠となる体験エピソードが必要なのです。

バリュー、ミッション、ビジョンと書かれた標識
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未経験業界への転職を可能にした志望動機

「志望動機」で採用担当者の心をわしづかみにし、未経験業界の企業に採用された方の事例をご紹介しましょう。

Aさん(30代後半)はヘルスケア企業で事業部長を務めていた方。社内評価が高かったにもかかわらず、これまで縁がなかった教育企業に応募しました。

企業側は、「なぜこんな経歴の方が、この年齢でわざわざ未経験業界へ?」と不思議に思いながらも面接を実施。そこでAさんが語った志望動機に納得したのです。

「子どもが3人います。この子たちが明るい未来を生きられるように、親として何ができるかを考え続けてきました。その結果、先行きが不透明なこれからの時代、親が何かを与えるのではなく、子どもたち自身がどんな環境でも強く生き抜いていける力を身に付けることが大事だと気付いたのです。これは社会全体で重要なことだという思いが強くなり、教育業界に興味を抱きました。中でも御社の○○という教育方針を知り、これを広めたいと考えました」

Aさんの思いを受け止めた企業は、業界未経験ながら新規事業開発のポジションで迎えたのです。

「自分が貢献できること」を志望動機にする

ここまでお伝えしてきたように、「志望動機」と「原体験エピソード」を一連のストーリーで語れることが大切です。

しかし、それが難しい場合、よりシンプルで効果的な方法があります。

興味を持ったきっかけや魅力を感じるポイントはさらっと流すか、あえて触れなくてもOK。

「自分が応募先企業に対して貢献できること」を志望動機として重点的に語るのです。

「新規事業を次々と展開していらっしゃるところに魅力を感じました。私はこれまで人事・総務分野で経験を積む中で、組織拡大に伴う制度整備や評価の仕組み作りも手がけ、やりがいを感じていました。そこで身に付けたノウハウとスキルを生かし、御社の組織拡大フェーズに貢献したいと考えています」

このストーリーであれば「志望動機」として成立し、「活躍してくれそう」と期待を持ってもらえるでしょう。

「貢献ポイント」を志望動機として語るメリットは、「面接担当者を自分の土俵に連れ込める」という点にあります。

「具体的にどんなプロジェクトを手がけてきたのですか」と、経験・スキルにフォーカスされ、自己アピールをするチャンスにつながるのです。

志望動機として「貢献できること」を語るには、「企業研究」が欠かせません。求人情報はもちろんホームページも読み込むほか、ニュースリリース、経営者などのインタビュー記事、SNSでの発信など、さまざまな角度から情報を収集してください。

情報を多く集めるほど、その企業が求めている人材像をつかめるはずです。企業が求める要件に自分がマッチするポイントを見つけ出し、それを「志望動機」としてアピールにつなげるといいでしょう。