※本稿は、上原千華子『「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。
3つのエピソードに共通する“手放す”効果
資産形成が必要だと分かっていながら、なかなか行動に移せない――。そんな悩みを抱えている人は、自分自身の思い込みに気づくことが大切であることを前回の記事で紹介しました。それができたら、次に「思い込みを手放す」ことが必要になります。
「物を手放すと人生が好転する」と聞いたことはありませんか?
なんとなく分かる人もいれば、スピリチュアルみたいでよく分からない人もいるでしょう。
ここでは、なぜ手放すことが必要なのか、エピソードを交えながら解説していきます。
■エピソード1 断捨離
みなさん、「断捨離」という言葉をご存じですか?
「断捨離」とは、物への執着心を手放すことで、身軽で快適な生活や人生を手に入れようとする考え方のこと。
たとえば、古くなった服や、あまり似合わない服でいっぱいのクローゼット。
その状態で新しい服を買ったら、さらにクローゼットはパンパンになりますね。入りきらなくなったら、部屋に服をかけっぱなしにするかもしれません。
一方、もう使わない物を減らし(手放し)たら、スペースが空きますよね。新しいものを収納できるようになります。
こまめに断捨離(手放し)したら、新しい服をすぐに収納できるし、着たい服もすぐ見つけられるし、いつも整理整頓された状態が保てます。
つまり、手放すことで快適な生活が手に入るのです。
■エピソード2 スマホのデータ整理
新品でまっさらな状態のスマホは、動きもスムーズです。
アプリもたくさんダウンロードできるし、写真もメールもたくさん保存できます。
もしデータを全く整理することなく、スマホを使い続けたらどうでしょうか?
アプリがたくさんあり過ぎて、いざ使おうとすると、どこにあるか分かりません。
あの時の写真をSNSに投稿したいと思っても、すぐに見つからないでしょう。
さらに整理することなく、スマホを使い続けたら、どうなるでしょうか?
スマホ本体に負荷がかかり、操作時の動きが遅くなります。まさにカオス状態です。
負荷を減らそうとデータを整理しようとしたら、無駄なデータが膨大に出てきて、とんでもない時間と労力がかかります。
こまめに不要なデータを削除していたら、スムーズに使い続けることができたのにと後悔することでしょう。
データの削除(手放し)が遅れたことで、問題が大きくなったのです。
■エピソード3 自分に合わない考え方・習慣
Aさんは、小さい頃から独創的なアイデアを持っている人です。
しかし、大人になる過程で「出る杭は打たれる」経験をしました。
Aさんは周りから笑われたり、攻撃されたりしたくなかったため、なるべく目立たないよう、周囲の人に合わせる習慣を続けました。
しかし、本来の自分を隠し続けたことでストレスがたまり、頻繁に体調を崩すようになってしまいます。
その後、Aさんはコーチングを通して、自分が本当に大事にしていることは「独創性」だと気づきました。
それからは、周りに合わせて本来の自分を隠す習慣をやめて(手放し)、独創性を活かす趣味を持つようにしたところ、Aさんの体調は徐々によくなり、生きづらさが解消されたといいます。
この3つのエピソードは、一見何のつながりもないように見えますが、ある共通の法則が見えてきます。
不要なものや自分に合わないものを手放すと、スムーズにことが進み、状況が好転したという点です。
逆に、もしこれらの状態を放置して自分に合わないものにしがみついていたら、Aさんのように体調を崩すなど、問題が起こってしまいます。
「物を手放すと人生が好転する」といわれるのは、このような理由からなのです。
手放す基準は「心を豊かにしてくれるかどうか」
それでは何を基準に手放しを行えばよいのでしょうか?
たとえば、片付け術として世界的に有名なこんまり®メソッドは、日本だけではなく、アメリカでも圧倒的な支持を得ています。
その理由の一つが、「ときめくかどうか」という手放す基準です。
この「ときめき」が、何かと論理的に考えがちなアメリカ人にとって、直感的で斬新なアイデアだったといわれています。
また、物理的に物が減って家の中がスッキリするだけではなく、「ときめき」を通して、自然と心の整理ができるところも人気の秘密だそうです。
それでは、私たちの心に蓄積している不要な「考え方」や「習慣」はどうすればよいでしょうか?
私が提供しているウェルス・ファイナンシャル・セラピー®では、「心を豊かにしてくれるかどうか」を手放す基準にしています。
自分の直感に素直に従う
あなたにとって、本当に心を豊かにするものは何でしょうか?
たとえば、家族との時間、友達とのおしゃべり、趣味・娯楽の時間、自分磨きの時間かもしれません。
一方、エネルギーを奪うものは何でしょうか?
もしかすると、行きたくもない飲み会、夫婦げんか、多額の借金、健康の不安などがあるかもしれません。
また、一時的には楽しくても、長期的には有害なことは何でしょうか?
やけ食いや深酒、スマホゲームや衝動買いなど、「やめたいけどやめられない」ものがないか考えてみましょう。
「そうは言ってもこうすべき」といった固定観念に縛られていては、手放すことは難しくなってしまいます。
子どものようなまっさらな気持ちで、自分の直感に素直に従いましょう。
「心を豊かにする」ことを基準にお金の価値観を取捨選択すると、自分が本当に必要としているもの、心地のよいものだけが手元に残ります。
他者基準の価値観、自分のエネルギーを消耗する考え方を手放すことで本来の自分が望んでいることが明確になるからです。
このように、思い込みを手放し、本来の価値観に合った未来を想像しながら具体的なライフプランを立てると、自分が心から望む人生設計ができるようになります。
ほしい未来から逆算して、お金を増やす
自分自身の思い込みを手放し、本来の価値観がわかったところで、それに合った未来を想像していきます。
具体的には、次のような手順でワークをやっていきます。
①「人生の輪」ワークで人生の満足度を知る
②人生におけるお金の位置付けを知る
③お金の価値観を大事にしながら、人生の満足度をあげる方法を10年単位で考える
④価値観に合った未来を楽しく想像する
⑤ざっくりとしたライフプランを立てる
このような流れで考えていくと、自分が本当に実現したい未来を現実にするための「お金の目標」を、具体的に立てられるようになります。
これを読んで、
「未来を楽しく想像するってどういうこと?」
「ライフプランってしっかり立てたほうがいいんじゃないの?」
と思った方もいらっしゃるかもしれません。
ほかではあまり見られない考え方でもあるので、そう思われるのも無理はありません。
しかし、ファイナンシャル・セラピーではどちらも大切な項目です。
ライフプランでお金の不安を可視化する
みなさんは、ライフプランを立てたことがありますか?
ライフプランとは、何歳までにどんなライフイベントがあるのか、それぞれいくらかかるのかなども含めて具体的に考える人生設計のことです。
主なライフイベントには、就職、結婚、出産・育児、マイホーム購入、老後などがあります。
ライフプラン表は、収入、毎月の生活費、貯蓄、子どもの人数と教育費、マイホーム費用、老後資金など、数字のオンパレード。
数字が苦手な人は、強い抵抗感を覚えやすいでしょう。
また、マネー回避傾向がある人は、将来のことを考えると不安になるため、ライフプランを立てること自体を避けようとします。
若い世代の人は、10年、20年、30年先を想像しづらいケースもあり、必要性を感じながらも、なかなか作るのが大変なものです。
そのため、ライフプランを自分で作る人はそう多くありません。
このライフプランは、ぼんやりとしたお金の不安が可視化されるメリットがあります。
一方、人生は何が起こるか分からないし、何歳まで生きられるかも分かりません。
ライフプランは必要ですが、不確実な将来に対して緻密な計画を立てると、「その通りに実行しなければならない」と自分を縛りつけてしまいかねません。
せっかくの楽しい未来のための計画が、ストレスを引き起こしてしまっては、本末転倒ですよね。
ライフプランは3点だけ押さえればざっくりでいい
そこで私がおすすめしているのが、最低限のざっくりライフプランの作成です。
数字は次の3点だけ押さえるようにしています。
■人生3大支出「住宅資金」「教育資金」「老後資金」を知る
■毎月の支出を知る
■現在の資産状況を知る
あとは、自分が実現したい未来を2~3パターン考えて、楽しい妄想をしてもらいます。
70歳になったら、生まれ故郷に戻ってのんびり過ごすとか、東南アジアに移住するとか、一生現役で働くとか、やってみたいことを妄想してもらうのです。
そのうえで、毎月いくらまでなら投資にお金を使えるか、何歳くらいまで働くか、少しずつ現実的なことを考えていきます。
ここまでできたら、お金に関して、「1年後にどういう状態になりたいか」を明確にします。
そしてそれを実現するためには、6カ月後、3カ月後はどういう状態になっていればよいか考えていくのです。
ざっくりライフプランのメリットは、自分で簡単にできることと、近い将来のことを具体的に考えるため、実現可能性が高いということです。
自分の価値観に合った明るい未来をイメージしながら、折にふれてざっくりライフプランを見直していく。
そうすることで、無理なく自分の求める未来が現実に近づいていくのです。