面接で「転職を考えた理由」を聞かれたら、どう答えればいいのか。転職エージェントの森本千賀子さんは「『今の職場に不満がある』といったネガティブな理由でも隠す必要はない。しかし、採用担当者がそれをどう受け止めるかを予測し、懸念を払拭する答え方や追加情報を話すようにした方がいい」という――。
カジュアルなスタイルで面接に臨む女性
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採用面接で必ず聞かれる「転職の理由」

採用面接で、必ず聞かれる質問の一つが「なぜ転職しようと思ったのか」です。採用担当者が転職理由を確認する目的は、次の点を見極めるためです。

「うちの会社に入社しても、また同じ理由で辞めることにならないか」
「この人の希望は、うちの会社で実現できるのか」

つまり応募者は、採用担当者のこうした懸念を払拭するような答え方を心がける必要があります。今回は答え方のポイントをお伝えしますが、まずは、よくある転職理由をそのまま伝えた場合、相手にどう捉えられる可能性があるかを知っておきましょう。

「上司や同僚と合わない」「職場の人間関係が良くない」
採用担当者はこう受け止める

「人間関係の悩みはどんな会社にいても抱えるもの。この人はうちの会社に入っても、人間関係がうまくいかなければ辞めてしまうのでは?」
「人間関係がうまくいかないのは、この人の側に問題があるのでは?」

人間関係はコミュニケーションの工夫によって改善を図れるものだけに、その努力をせずに辞めようとしていると捉えられる可能性があります。「人間関係」に不具合を感じている場合は、「価値観が異なる」「カルチャーになじめない」「(仕事の進め方など)方針が合わない」といった表現をしたほうが納得されやすいでしょう。

「残業が多くてつらい」「上司からのパワハラがひどい」

採用担当者はこう受け止める
「その程度でつらいと感じるなら、うちの会社では務まらないかもしれない」

これらの理由は、「程度」がポイントになります。「残業量はどのくらい?」「パワハラとはどんな内容?」と、くわしく聞かれたとき、その回答に対して相手が「それはつらかっただろう」と共感できるかどうかで印象が左右されます。例えば「残業時間が毎月100時間以上」であれば「それはつらいだろう」と思われるでしょうし、「1~2時間程度の残業が週2~3日」であれば「それくらいは許容範囲では」と思われる可能性が高いでしょう。

ですから、正直に事実を伝えて納得を得られるかどうは、人や応募先企業によります。

「やりたい仕事ができない」「異動希望がかなわない」
採用担当者はこう受け止める

「やりたい仕事を希望する以前に、今の自分の役割は果たせているのか?」
「あなたには、その仕事を担える能力が足りないと思われているのでは?」

これらを転職理由として挙げる場合は、今の仕事への取り組み姿勢や成果をしっかりと伝えたうえで、「その仕事がしたい理由」「異動できない事情(人事制度や組織編成の都合など)」も語れるようにするといいでしょう。

「会社の業績が悪く、先行きが不安」
採用担当者はこう受け止める

「業績立て直しのため、あなたは何をしたのか?」

リーダーやマネジャーのポジションに就いている方であれば、業績アップを図るため、どのような戦略や施策を立てて行動したかが問われる可能性があります。

「コロナ禍が落ち着き、テレワークから出社に戻った。これからもテレワークを続けたい」
採用担当者はこう受け止める

「なぜテレワークがしたいの? 通勤がなくて楽だから?」
「うちの会社も、状況によってはいずれ出社に切り替える可能性があるが……」

これは最近多く見られる退職理由です。「育児や介護と仕事を両立させたいから」など、納得を得やすい理由があればいいのですが、そうではない場合、テレワークを希望する理由に疑念を持たれがちです。自分にとってテレワークが「生産性が上がる働き方」であることを説明できるようにしておくことが大切です。

「現職への不満」だけに終わらせない

上記を踏まえ、転職理由を語る際のポイントをお伝えします。

相手の納得を得られそうな状況であれば、正直に伝える

現在の会社で苦痛を感じている場合、応募先の面接で伝えたときに「確かにつらそうだ」「そんな状況であれば辞めたいと思うのも無理はない」と思ってもらえるような状況であれば、正直に話しても構いません。

「ネガティブな印象を与えたくない」と思って変にごまかしたりすると、相手は違和感を抱くものです。「都合の悪いことを隠しているのではないか」と不信感を抱かれてしまうこともあります。

「他責」にせず、自分はどんな努力をしたかを語れるようにしておく

辞めたい理由を語ったとき、「会社が悪い」「上司が悪い」というトーンで語らないよう注意が必要です。企業は「他責」傾向の人を評価しません。たとえ会社や上司に非があるのが事実だとしても、自身が状況改善のためにどんな工夫や行動をしていたのかも語れるようにしておくといいでしょう。

面接をしながら、履歴書を確認するマネジャー
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「今後のビジョン」もセットで伝える

転職理由を聞かれたとき、正直に現在抱えている「不満」を語っても問題はありません。転職活動をする人は、少なからず不満を抱いているものだと、採用担当者も承知しています。

しかし、「目先の不満を解消したい」「とにかく現状から逃げたい」という理由だけで転職活動をし、面接に臨んでもうまくはいきません。転職を考えたきっかけは不満であっても、それを機に、今後の自身のキャリアを真剣に考えることが重要です。

不満を語るだけで終わらず、「これから○○がしたい」「こんな経験を積みたい」「こんな自分になりたい」という目標やビジョンもセットで語れるようにしておきましょう。

「○○への不満から転職を決意し、これを機に改めて自分がやりたいこと、目指したいことをじっくり考えました。結果、○○のスキルを磨きたいと考え、それを実現できそうな御社を志望しました」

――このようなストーリー構成で、「志望動機」の話題へつなげていくといいでしょう。

受け身の人には活躍や成長の期待を抱けない

近年、匿名で経歴を登録しておくと企業や転職エージェントからスカウトが来るという転職支援サービスが増えています。そのため、「転職を決意しているわけではないけれど、スカウトを受けたから面接を受けてみる」という人が多く見られます。

この場合でも、「転職理由」は聞かれます。「スカウトに応じたからには転職も視野に入れているはず。その理由・目的は何か」という意図で尋ねるわけです。

このとき、「今の会社に大きな不満はない」「スカウトを受けたので興味を持って面接を受けてみた」だけで終わらせないようにしましょう。面接を通じてその企業に魅力を感じ、入社への意欲が湧いたとしても、相手企業から「お断り」になることはよくあります。なぜなら、企業側からこのように思われるからです。

「受け身の姿勢で、主体的に自分のキャリアについて考えていないのではないか」
「うちの会社に入社しても、また別の企業からスカウトを受けたら転職を考えるのではないか」

企業は受け身の姿勢の人に対し、活躍や成長の期待を抱きません。

スカウトに応じて面接を受けることにしたとしても、それを機に今後のキャリアをしっかりと考えてみてください。そして、その企業で実現できるかをすり合わせるつもりで面接に臨むことをお勧めします。

採用担当者は、「転職を考えた理由」を聞くことで、その応募者が「何も考えずに流されるタイプの人」か「キャリアを主体的に、戦略的に考えられるタイプの人」かを判断し、自社での活躍の可能性を探っているのです。