2023年4月に行われる統一地方選挙。現代日本政治の研究者である三浦まり教授は「都道府県議会における女性割合の平均値は11.8%。国会の衆議院に比べれば高いが、都市部と地方での地域格差が大きい。地域政治が男性優位の政治の基盤を成しており、国全体の政治を変えるには地域政治を変えなければならない」という――。

※本稿は、三浦まり『さらば、男性政治』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

日本は女性議員の地域格差が極めて大きい

地方政治に目を転じると、地域格差が極めて大きいことが日本の特色である。都市部の市区議会では女性割合が3割を超えていることはもはや珍しくない。他方で、町村議会の3割弱に女性は1人もいない。つまりは、女性割合は0%から50%まで、地域事情を反映し実に様々である。

都道府県議会における女性割合の平均値(2021年12月)は11.8%であるが、最も高い東京都の31.7%から最も低い山梨県の2.9%まで幅が大きい(2022年に熊本県議会で2人いた女性議員のうち1人が参院選に立候補するため辞任し、割合として2.0%に下がった)。全国平均値では緩やかな上昇傾向が続くものの、県議会によっては値が大きく下がる場合もあり、一様に女性が増えてきたわけではない。

東京都議会議事堂
撮影=プレジデントオンライン編集部
東京都議会議事堂

女性進出の鍵は「都市、多党化、非自民党派」

馬渡剛は1955年から2008年までの各都道府県議会の女性割合の推移に関して、①1987年統一地方選挙を画期として女性議員が増えた、②約50年間で女性議員の割合が多かったのは東京(平均7.5%)、神奈川(4.4%)、千葉(3.7%)、兵庫3.5%)、埼玉(3.4%)と都市化の程度の高い議会であった、③女性割合の下位5議会は島根(0.4%)、新潟(0.6%)、群馬(0.7%)、福井(0.8%)、鳥取(0.8%)であったと指摘し、女性議員の進出の鍵は「都市、多党化、非自民の党派力」の三つであると結論づけている。

2021年12月現在での上位5議会は、東京(31.7%)、京都(22%)、神奈川(18.3%)、滋賀(16.7%)、兵庫(15.3%)である。千葉は13.3%にとどまり12位に後退したが、総じて女性の多かった議会はその傾向を維持していることがわかる。他方、下位は山梨(2.9%)、熊本(4.3%)、大分(4.7%)、香川(5.1%)、愛知(5.1%)であり、全て入れ替わった。女性の多い議会に関しては、都市、多党化、非自民の党派力の三要因が依然として大きな影響力を持っているが、こうした条件を欠く議会においては、女性議員の増加には異なる要因が作用していることが窺える。

20年間で女性議員が特に減ったのは長野と山梨

1999~2019年の20年間における女性割合の上昇ポイントを比べると、上位10位に東京(18.1%ポイント、1位)、京都(12.4%ポイント、2位)、神奈川(9.7%ポイント、8位)が入り、好条件に恵まれた議会がさらに女性議員を増やしていることがわかる。他方、鳥取、長崎、三重、秋田、山形、静岡は2%台の比率を10%ポイント前後で増加させている。こうした好事例とは対照的に、山梨はマイナス6.8%ポイント、奈良はマイナス1.1%ポイントである。

これは計測の起点を1997年とした場合の変化であるが、過去20年間の最高値を現在は下回っているのは北海道、長野、秋田、福島、茨城、福井、愛知、滋賀、広島、山口、香川、福岡、熊本、大分、沖縄と広範に見られる現象である。なかでも長野と山梨は5%ポイント以上の落ち込みである。

先の三要因に加えて、選挙区における1人区の比重も女性議員割合に大きな影響を与える。市川房枝記念会女性と政治センターによると、都道府県議会の1人区において女性が選出されているのは17選挙区であり、わずか4.1%にすぎない。2人区では13.1%であり、3人区でようやく31.9%となる。11人区以上では1選挙区の例外を除き、全ての選挙区に女性が選出されている。

1人区の比重は沖縄県の0%から岐阜県の65%までと大きな差があり、中央値は36.8%である。女性議員割合の高い都道府県議会は1人区の比重が低い傾向にあるものの、埼玉や兵庫は50%以上の選挙区が1人区となっているが、女性割合は高い。他方、香川や佐賀は1人区比率が23%程度だが、女性割合は低い。

青森ベイブリッジ、2013年1月
写真=iStock.com/winhorse
青森市内

都市部の市議会は女性が50%に迫る

自民党の女性議員が不在の都道府県議会は2020年4月時点で、18府県におよび、3人以上いるのは北海道、神奈川、京都、石川だけである。他方、女性を最も積極的に擁立しているのが共産党であり、1~2人の女性共産党議員がいるのが典型的な県議会の姿となっている。不在なのは群馬、石川、福井、愛知、島根、広島、山口、香川、愛媛、熊本、鹿児島と保守的な地域が多い。

市議会における女性割合は全体で16.2%だが、特別区議会では30.2%、政令指定都市の市議会では20.4%となっている(2020年現在。令和3年版『男女共同参画白書』)。都市部では女性が多いことがわかる。

【図表】政治分野のジェンダーギャップ指数【ベスト5】
※数値は2022年1月1日時点で最新 出所=『さらば、男性政治』 出典=三浦まり、竹内明香上智大学経済学部准教授「地域からジェンダー平等研究会」(事務局:共同通信社)

市川房枝記念会女性と政治センターの調べでは、2019年の統一地方選後、市区議会の女性割合が一番多いのが北海道江別市と東京都東村山市の48%、続いて大阪府交野市(46.7%)、東京都武蔵野市(46.2%)、東京都狛江市(46.2%)、東京都清瀬市(45%)、兵庫県小野市(43.8%)、北海道留萌市(42.9%)、愛知県大府市(42.1%)、東京都豊島区(41.7%)、東京都小金井市(41.7%)、東京都文京区(41.1%)、埼玉県吉川市(40%)、東京都中央区(40%)の13議会となる。3割を超す市区議会は67ある。

町村議会では奈良県王寺町が50%で、4割を超えるのは神奈川県大磯町、神奈川県二宮町、大阪府島本町、兵庫県播磨町、長野県飯島町、大阪府豊能町、埼玉県三芳町、山口県和木町の8つである。3割を超えるのは29議会ある。

ジェンダーギャップ指数偏差値1位は東京都

都道府県ごとに政治分野のジェンダーギャップ(2022年1月基準)を比較したものが【図表2】である。これは「地域からジェンダー平等研究会」(筆者と竹内明香・上智大学経済学部准教授、事務局は共同通信社)が指数化し、各都道府県におけるジェンダーギャップを政治、経済、行政、教育の四分野において算出したものである。

【図表】政治分野のジェンダーギャップ指数(都道府県比較、2022年)
※数値は2022年1月1日時点で最新 出所=『さらば、男性政治

政治分野として計測したのは歴代の女性知事の着任年数、女性首長がいる市町村の割合、都道府県議会の男女比率、市町村議会の男女比率、女性ゼロ議会の割合、都道府県内の小選挙区から選出された衆議院議員(比例復活は含まない)および参議院選挙区の男女比率である。

鹿児島市役所
写真=iStock.com/f11photo
鹿児島市役所

上位5位は東京、神奈川、新潟、千葉、京都で、下位5位は島根、鹿児島、青森、大分、石川である。女性国会議員がいないのは16県にも上る一方(九州5県、四国3県と西日本に多い)、新潟と山梨では国会議員が男女同数である。

【図表】政治分野のジェンダーギャップ指数【ワースト5】
※数値は2022年1月1日時点で最新 出所=『さらば、男性政治』 出典=三浦まり、竹内明香上智大学経済学部准教授「地域からジェンダー平等研究会」(事務局:共同通信社)

女性は地方議員から国会議員になるキャリアパスがない

都道府県内の市区町村議員における女性割合と都道府県議会の女性割合には相関関係が認められるが(有意水準5%)、都道府県議会と国会の女性割合にはそのような傾向が見られない。つまり、女性の市区町村議員を増やすことは女性の都道府県議会議員の増加に繫がるが、都道府県議会に女性が増えても必ずしも女性の国会議員が増えるわけではない。

逆も真なりで、山梨は国会議員は男女同数だが、県議会には女性が1人しかいない。男性議員とは異なり、女性の場合は都道府県議会議員から国会議員になるキャリアパスが標準となっていないのである。

様々なデータから日本における女性政治家の少なさは世界の動向から大きく引き離されていることが判明している。ただし、国内での格差も大きい。衆議院で女性が一割にも満たないことが世界ランキングを引き下げており、また人口の少ない地域を中心に女性ゼロ議会も多く残存する。他方で、参議院や都市部の地方議会では女性が2~4割を占めるまでになっている。

つまり日本全体で停滞しているわけではなく、衆参両院の差が大きく、さらに地域間格差も大きいというのが実情である。このことは、女性の政治参画を阻む条件が衆議院の選挙制度のあり方や地方政治において存在することを示唆する。それらを取り除くことが、男性政治から脱却するための課題であることが見えてくる。

地域単位ではない選挙制度が必要だ

女性地方議員に市民型が多いことは示唆的である。女性を排除する政治構造のなかで、地方政治において女性たちは異なる政治スタイルを編み出し、異議申し立てを行ってきた。地方政治において展開された女性の政治参加は国政では政党の壁に阻まれている。

ここで重要になるのは、地域単位とは異なる利益を汲み取るような選挙制度を構想することである。地域単位の利益というのは、私たちの社会で政治的に表出され、行政の対応が求められる利益の一部でしかない。生活のなかで直面する様々な問題について、私たちが政治的な対応を求めたいと思う案件は様々である。安心・安全な社会を実現することは政治の最も根源的な役割であろう。

島根県松江市中心部
写真=iStock.com/Koshiro Kiyota
島根県松江市中心部 ※写真はイメージです

地方政治が男性優位のままではいけない

三浦まり『さらば、男性政治』(岩波新書)
三浦まり『さらば、男性政治』(岩波新書)

しかしながら現在において、私たちが不安に思うことは、地域単位では語れないことが増えてきた。長時間労働の是正、安定した雇用、学費の値下げや奨学金の充実、医療保健体制の充実といった生活の安定に関わることや、ジェンダーに由来する生きづらさはどれも地域単位に落とし込めるものではない。地方政治の権力構造が「男性優位の無法地帯」で維持されている限り、こうした案件は埋もれ、政治的解決が遠のくことになる。

つまりは、地域政治が男性政治の基盤を成しており、男性政治を変えるということは、地域政治を変えることと不可分である。地域における女性の良質な雇用を増やしたり、地域社会における女性の発言権を高めたりする取り組みも不可欠だ。男女同権の町内会運営も必要である。

小選挙区などの地域単位の選挙区は、すでに出来上がっている地域の権力構造(=男性政治)を温存させる。比例代表の役割をもっと強めるといった改革を実施しなければ、男性政治を打破することは難しいだろう。