20代、30代の若者の大腸がんが増えている。医師の山田悠史さんは「懸念すべきは、そういった若者の大腸がんが、高齢者の大腸がんと比較して発見が遅れる傾向にあり、がん自体の悪性度も高い傾向にあると報告されている点です」という――。

※本稿は、山田 悠史『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです

大腸の模型と並んで、大腸がん疾患啓発活動「ブルーリボンキャンペーン」のブルーリボンを差し出す医師の手元
写真=iStock.com/PonyWang
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若者の大腸がんは増加の一途

若者に起こる大腸がん。私自身もこれまでの医師人生で、そのようなつらい局面に何度か立ち合ってきました。

大腸がん自体の総数は近年、多くの国で不変または減少傾向にあります(注1)。これは、大腸がん検診が世界中で広がり、ポリープの切除などが積極的に行われるようになったこと、喫煙が全体に減少傾向にあることなどがその理由ではないかと指摘されています。

しかし、実際に数が大きく減っているのは、50歳以上の大腸がんであり、50歳未満で見てみると、大腸がんの患者は増加の一途を辿っていることが指摘されています(注2)

一体何が起こっているのか。それについて取り上げた論文(注3)の中から、要点をご紹介します。

20のヨーロッパの国々のデータからは、大腸がんの新規発症率が20代で、1990年には10万人あたり0.8人であったのが2016年には2.3人に、30代では2.8人から6.4人に増加したことが報告されています。

このような増加は北米やアジアなどでも報告されていて、日本も例外ではありません。

また、より懸念すべきは、そういった若者の大腸がんが、高齢者の大腸がんと比較して発見が遅れる傾向にあり、がん自体の悪性度も高い傾向にあると報告されている点です。

20代、30代の大腸がんのリスク因子

では、なぜ今このようなことが起こっているのか。その理由は未だ明らかにはなっていませんが、様々な仮説が検証されています。

20代から30代の大腸がんのリスク因子として、これまで報告されているものには、1日14時間以上の非活動時間、高中性脂肪、肥満、加工した肉を多く含む欧米スタイルの食事、砂糖含有飲料、1日2杯以上のアルコール、喫煙などが挙げられます。

また、その中でも食生活の変化については特に注目されています。腸に直接的に影響を及ぼしうるものだからです。あるいは、近年の食生活の変化が、腸内細菌の変化をもたらす形で、間接的に、若者の大腸がんを増やす原因になっているのではないかとする仮説もあります。この食生活や腸内環境の変化には、食生活の欧米化や加工食品の増加だけでなく、母乳からミルクへの移行、子供時代からの抗菌薬への暴露の増加、フードチェーンにおける抗菌薬の使用なども、原因の一端を担っている可能性が指摘されています。

また、パンデミックで加速されてしまったインドアでの非活動的な生活や肥満の増加との関連も指摘されてきています。

あるいは、まだ指摘されていないような未知の原因が潜んでいる可能性もあります。近年使用する頻度が急速に増加したもの、摂取が増加したものなどに着目すると、そのヒントが隠されているのかもしれません。

早期発見の方法が確立されていない

まだ分からないことだらけの領域であり、若者の命を奪う病気として強く懸念されているものの、その予防法や早期発見の方法は残念ながら確立されていません。

大腸がんは、症状が生じてから検査をしたのでは「時すでに遅し」であることも多いのですが、より早期に発見し、治療をすれば根治が望める病気であります。症状に依存しない早期発見法を確立する必要のある病気と言い換えることもできます。

一般に50歳以上の方には、大腸がん検診がそういった意味でとても大切と考えられていますが、若者にただ検診を拡充するのでは、デメリットの方がメリットを上回る可能性もあり、施策には工夫が求められます。

がん診断用腫瘍マーカー検査用血液検査サンプル
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これからさらなる研究が必要とされる領域であり、なんでもかんでも「若いうちからがん検診」ではないので要注意ですが、今後がん検診のあり方は変わっていくかもしれません。

(注1)Islami F, Ward EM, Sung H, et al. Annual Report to the Nation on the Status of Cancer, Part 1: National Cancer Statistics. J Natl Cancer Inst 2021; 113: 1648–69.
(注2)Bailey CE, Hu CY, You YN, et al. Increasing disparities in the age-related incidences of colon and rectal cancers in the United States, 1975- 2010. JAMA Surg 2015; 150: 17–22.
(注3)Patel SG, Karlitz JJ, Yen T, Lieu CH, Boland CR. The rising tide of early-onset colorectal cancer: a comprehensive review of epidemiology, clinical features, biology, risk factors, prevention, and early detection. Lancet Gastroenterol Hepatol 2022; 7: 262–74.

体にいい肉、悪い肉

どんな食品についてもいえることですが、「特定の食品が体に良いか?」を示すのは簡単なことではなく、「肉が体に良いか?」を証明することも、実は比較的難しいことです。

また、一概に「体に良い」といっても、「体のどこに良いのか?」という点も考えなくてはいけません。筋肉には良いけど、肝臓には悪い。脳には良いけど、腎臓には悪い。そんなこともありえてしまうからです。

一般に、健康なタンパク源とは、魚介類、鶏肉(白い肉)、豆類、ナッツ、種などといわれます。一方で、牛肉や豚肉などの「赤い肉」やソーセージやハムといった「加工肉」は、どちらかといえば健康にはあまり良くないタンパク源と分類されることが多いと思います。

その所以はどこからくるのでしょうか。

実は、赤い肉の研究や加工肉の研究というのは、すでに数多く行われています。

例えば、2011年に報告されたメタ分析を用いた研究があります(注4)。メタ分析は、これまでに報告された複数の研究のデータを統合して解析するという研究手法になりますが、これを用いることにより、より多くのデータから厚みのある評価を行うことができるようになります。

この研究では、20を超える研究の結果が統合され、データを見てみると、赤い肉でも、加工肉でも、その摂取が大腸がんの発症と関連していたということが分かりました。

図表1のグラフを見てみると、肉の摂取量と大腸がんのリスクが見事に相関していることが見てとれます。また、1日あたり140gというところまでは、食べる量の増加と、がんのリスク増加が正の相関をしていることが分かります。

【図表】大腸がんの発症リスク
出典=『健康の大疑問

タバコやアルコールと並んでリスクが高い

また、そのリスクの増加幅というのは、100gの増加で約1.2倍といったところでした。これは、赤い肉、加工肉単独でもそれぞれ評価されていますが、同様の相関が見られたことが分かっています。

このようなデータを根拠に、赤い肉、加工肉は、ともにタバコやアルコールと並んで、米国がん学会により「グループ1の発がん物質(確実なもの)」としてリストアップされています(注5)

「○○という製品から発がん物質が検出された」などというニュースを時々見かけますが、実は飲み会でアルコールを飲み、牛肉や豚肉の料理を食べていれば、もうダブルで発がん物質を摂取していることになるのです。

おいしそうな加工肉、生ハム、ブレザオラ、パンチェッタ、サラミ、パルメザンチーズの盛り合わせ
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脳卒中や心筋梗塞との関連も指摘されている

ただ、もう一度おさらいですが、あくまでこれらは「相関」なので、間に何か挟まっている可能性なども頭に入れておかなくてはいけません。例を挙げてみれば、赤い肉を多く食べる人は、魚をとらない傾向にあり、実は魚をとらない傾向こそが発がんリスクに影響していたというような関係が成り立つ可能性があるということです。

しかしいずれにせよ、自分の食生活を振り返って赤い肉や加工肉を多く摂る生活を送っているのであれば、大腸がんのリスクが高い生活を送っているといえるかもしれません。

また、赤い肉や加工肉の摂取には、脳卒中や心筋梗塞、死亡リスクの増加との関連性も指摘されています(注6)。がんとの関連にとどまらず、実は数多くの疾患との関連が指摘されているのです。これは、特に摂取が急速に増加している日本でこそ見逃せないリスクともいえます。

さらに、赤い肉については、昨今の温暖化との関連も見逃すことができません。

牛は、農業界で気候変動に寄与する温室効果ガスの1番の産生源であることが知られています(注7)。牛のげっぷに含まれるメタンの量は、1頭あたり年間100kgにも上るといわれており、さらにメタンは二酸化炭素の28倍もの力で温暖化に寄与するとも考えられています(注8)

牛の直接的な影響だけではなく、牛を育てるための牧場や餌の確保などで、人間の食物を育てる機会が失われ、先進国の肉の消費のために、発展途上国の食品確保の機会を奪い続けていると考える専門家もいます(注9)

週に1度でも白い肉や代替肉を

このような背景から、欧米諸国では必ずしも個人の健康のためというわけではなくても、ベジタリアンやビーガンなどの嗜好を持つ人が特に若者を中心に増える傾向にあります。

山田 悠史『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)
山田 悠史『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)

また、産業界でも、Beyond Meatのように、代替肉(フェイク・ミート)を開発する企業も増えてきました。私が住むニューヨークでも、チェーン店のドーナッツ屋やハンバーガーショップなどでは、必ずといっていいほどフェイク・ミートのオプションがあります。

牛乳にも、Oatlyのようなオートミルクやアーモンドミルクへの置き換えが進んでおり、これらもコーヒーショップなどで見かけることが多くなりました。もはやOatlyを置いていないスーパーを見つける方が難しいというぐらい、ニューヨーク市内ではOatlyも急速に浸透しています。

私自身何度か試してみたことがありますが、フェイク・ミートもオートミルクも味が良く、料理の一部として食べている分には牛肉や牛乳などとほとんど区別がつきません。

これらの食品はこれからさらに浸透し、食品の主流になっていくかもしれません。少なくとも私の住むニューヨークでは、すでにそれぐらい日常生活に溶け込んできています。

赤い肉や加工肉を食べる習慣がある人は、週に1食でも白い肉や代替肉に変えてみる。その一歩が、病気のリスクをわずかかもしれませんが減らし、ひいては地球の健康を守ることにもつながる。そんな風に考えることができそうです。

肉の中でも、いわゆる「赤い肉」や加工肉には、発がん性や心臓・血管の病気のリスクとの関連が知られています。肉は多くの人にとってタンパク質の重要な摂取源の一つですが、「白い肉」や代替肉がより健康な置き換えになるのかもしれません。

(注4)Chan DSM, Lau R, Aune D, et al. Red and processed meat and colorectal cancer incidence: meta-analysis of prospective studies. PLoS One 2011; 6: e20456.
(注5)Bouvard V, Loomis D, Guyton KZ, et al. Carcinogenicity of consumption of red and processed meat. Lancet Oncol 2015; 16: 1599–600.
(注6)Wolk A. Potential health hazards of eating red meat. J Intern Med 2017; 281: 106–22.
(注7)Xu X, Sharma P, Shu S, et al. Global greenhouse gas emissions from animal-based foods are twice those of plant-based foods. Nat Food 2021 29 2021; 2: 724–32.
(注8)Cows and climate change | UC Davis.(accessed Nov 5, 2021).
(注9)COWSPIRACY: The Sustainability Secret. (accessed Nov 5, 2021).