【TOPIC1】昇進意欲と昇進後の幸福度
女性の幸福度は上に行くほど急上昇
男女そして、一般社員と管理職の昇進意欲から比較してみた。一般社員の男女共に積極的に管理職になりたい人は1割強(Q1)。しかし、すでに管理職の男女は3〜4割程度が積極的に管理職を目指していたうえに管理職になってからの幸福度も高かった(Q2・Q3)。
「気になるのは、男女の意識の差です。現在管理職の人たちでは、管理職を目指していた割合も、昇進時の幸福感が高いのも男性(Q2・Q3)でした」と、東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部部長の宮原淳二さん。
「これは、男性のほうが会社で昇進していくロールモデルをたくさん見てきたことが理由にあるでしょう。世間体、同僚との比較、家族からの期待なども含め、男性には仕事での昇進や成果が大きな評価指標になってしまうところがあります」
一方で、女性には仕事以外の多様なライフスタイルの選択肢があるとともに、こうなりたいという管理職のロールモデルはまだまだ身近に少ない。自分が管理職になることを描きづらい状況にあるのだと宮原さん。
しかし実際、役職者として働き始めると状況は変わってくる。現在の幸福度を見ると、男女共に役職が上がるほど高いが、女性のほうが相対的に高いという結果が出た(Q4)。
「女性たちは管理職になることに不安を抱えているものの、やってみたら良かったと感じられる人が多かった(Q5)。処遇が上がることで、意思決定できる範囲も広がり、給与も自尊心も上がるものです。時間もお金も自由になる幅が広がることで、気持ちが変わる人も多いでしょう」
今は男女関係なくワーク・ライフ・バランスを重視し、幸福度高く働き続けることを求める人が増えている。今こそ新たな管理職像をつくるときだと宮原さんは主張する。
「『大変だ』と謙遜する女性管理職も多いですが、真に受けて恐怖心を持つ後輩も。管理職になって良かった点を伝えていってほしいですね」
【TOPIC2】管理職に必要な能力
女は不公平、男は非論理を嫌う
管理職になってついた力を聞いたところ、男女共に調整力、仕事内容の分析力、指導力、説得力のある発言力、影響力などが挙がった(Q7)。
「働き方が多様になったことで、男女の意識差は縮みつつあります。人としてどうあるべきかというリーダー像をしっかりと見ているのが表れていますね」と宮原さん。
男女差が出たのは、他者を見たときの反面教師としての視点だった(Q9)。管理職の嫌な振る舞いナンバーワンは、女性は「相手によって態度を変える」、男性は「話が論理的でない」。
「女性のほうが共感力が高いと一般的にいわれますが、周囲の状況や振る舞いから感じ取る力が強い傾向にあります。相手によって態度を変えず、公平性がきちんと保たれていることを重視します」
女性はワーク・ライフ・バランスを無視する管理職に嫌悪感を抱く人も多い。
「男性は、自分を引っ張ってくれる人ならば深夜までの飲みや週末ゴルフも悪くないと思う人が少なくなかった。しかし、働き方も変わりました。リーダーとして公平に対応できない人は格好悪い。部下のワーク・ライフ・バランスを守り、情報の共有、公平性を大事にする。そんな上司こそが尊敬されるでしょう」
【TOPIC3】昇進前後の学び、スキル
男女とも財務や人材育成は必須
今は昇進後もずっと学びが必要な時代。昇進前から読書やスキルアップも含め自己研鑽に励んだ人が多いようだが、「これをやっておけばよかった」と思う人は男女共にたくさんいる。全体的に男性は、「自分が見てきた管理職と同等の知識」、女性は「自分の担当外の職種の知識」や「経営学や企業のファイナンス」が目標値として設定されているようだ。
「男性社会ではたばこ部屋や飲み会の席というように、上司から経営全般や事業について聞く機会が多かったせいもあるでしょう。財務や株式相場、経営指標など、ビジネス数字に苦手意識のある女性も多いようですが、それらを学びの姿勢に変えることは素晴らしいですね」
【TOPIC4】プライベートの幸せ時間
仕事に幸せを感じる女性管理職
プライベートの充実は、前向きに働くエネルギーになりうるが、幸せを感じる時間は男女で少し差が生じた。家族と過ごす時間や、趣味の時間を挙げた人は男女共に多いものの、1人時間を楽しんでいるのは女性のほうが多かった(Q13)。
「女性は1人時間を上手に使い、気分転換や自分磨きに活用できる。一方、男性は、家族のために仕事をするのがかい性だとかつてはいわれたように、仕事がオン、家庭がオフのように切り替えているのかもしれません」(宮原さん)
家事・育児を主体的に行う男性が増えたとはいえ、女性の負担はまだまだ重い。仕事から帰り、家庭でまた料理や掃除、子育てに動き回り、1人になってホッとするという姿が見え隠れする。仕事が幸せ時間と答えたのも、女性管理職が最多。
それでも多忙な管理職は、切り替え上手。自分が気分転換し、エネルギーチャージできる方法をよく知っている。短時間でも自分の幸福度を上げるすべは、身につけておきたい。
【TOPIC5】ストレスと悩み
人生100年時代のキャリアやお金
人生100年時代といわれる中、女性の悩みの種は今後のキャリアや生き方と健康(Q15・Q16)。管理職になったとしても、そこは人生の通過点でしかないうえに、まだ折り返し地点程度なのだ。親の介護問題は、キャリア継続にも暗い影を落としている現状もある。
「親の心配に加えて、女性特有の病気や更年期の問題など心身の健康が仕事のペースに影響しますね。私も女性部下を多く抱えていた頃には、心身の悩みで相談してくる人もいました。それぞれの抱える事情に応じて、時短勤務や有給休暇の活用や、一時的な休職や転職も視野に入れてみてください」(宮原さん)
男性も同様にキャリアや生き方への悩みは多かったものの、仕事やお金、子どもの悩みが女性よりも多かった。「退職後も家族をどう支えていくのかという責任感を男性は自然と背負っているのかも」(宮原さん)
【TOPIC6】お金
女性管理職が使えるお金は増加
なかなか聞きづらいが気になる他人の財布事情。管理職の年収や資産、ポケットマネーを聞いた。
管理職の収入(Q17)や総資産(Q18)は相対的に男性のほうが高め。男性のほうが上の役職に就いている割合が多い背景もあるだろう。
しかしながら、コロナ禍で経済の停滞が問題視される中でも女性たちは男性よりも自由に使えるお金が増えたと答える人は多く、特に女性管理職に多かった(Q19)。月のポケットマネーが15万円以上という女性管理職が3割近くいた(Q20)。
「男性管理職は家計の中心を担い、一方で女性管理職は共働きなどが多く結婚していても同じ収入の男性よりは自由に使えるお金が多いのかもしれません。日常生活が多忙な分、食事や高機能な家電などにお金をかけて、過ごす時間に価値を見いだしているのかもしれません。学びやスキルアップなど自己研鑽にもしっかり投資し(Q21)、将来への蓄えも考えている様子が伝わりますね」
多少の男女差がありつつも、今回の調査全体を通して見えてきたのは、管理職になったことへの肯定的な姿勢だ。特に女性管理職はその傾向が強く、仕事での大きな自信にもつながり、さらなる飛躍へと前向きだ。
「女性の管理職が少しずつでも増えてきた効果は、旧態依然としていた日本の会社をも変えつつあります。2020年代のなるべく早期に管理職の3割を女性にするという政府目標は、やはり組織に女性管理職が一定数いることで良い変化が起きるという近い未来への期待でもあるのです。意思決定の場に女性が増えることで、発言や行動がしやすくなる。社員全体の働きやすさ改善にもつながっていくので、女性もどんどん手を挙げてほしいですね」
※単位はすべて%。小数点第三位以下の数字は四捨五入しているため、合計が100%にならないグラフがあります。
調査概要:2021年12月3〜13日に「プレジデント ウーマン」および「プレジデント」のメールマガジン読者へのWebアンケートを「Questant」を用いて実施。有効回答数は1765件。調査対象者の内訳は、男性1271人/女性521人、管理職1260人/一般社員407人。
東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部部長
早稲田大学卒業後、資生堂に入社。資生堂で男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス環境の整備をリードし、女性活躍、男性育休などを先進的に取り入れる。2011年に東レ経営研究所に転職し、行政、民間企業、労働組合などのダイバーシティ推進、業務効率化などの支援を行う。