野菜はどのように調理するのが理想的なのか。生前、野菜は生で食べるよりも加熱することで万病に効くと提唱した前田浩熊本大学名誉教授は、加熱時の油にも大いに気を遣うべきだと説いている――。

※本稿は、奥野修司『野菜は「生」で食べてはいけない』(講談社)の一部を再編集したものです。

野菜にかけるオリーブオイル
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腸内細菌のバランスが崩れると病気になる

有機栽培では、土壌の微生物を無視できない。

なぜなら、植物は土壌微生物と共生関係にあって、地上の植物がよく育つか、病気にならないかは、地下の微生物にかかっているからだ。

農薬を使うとこの微生物を殺してしまうので、結果として常に農薬を使い続けなければならなくなる。

人間もこれとよく似ていて、腸には1000兆個ともいわれる微生物(腸内細菌)がんでいて、人間と共生している。この腸内細菌は“薬用成分”を産生したり、腸内環境を整えることで免疫を強化したり、腸の情報を脳に伝えたりしているが、腸内細菌のバランスが崩れるとさまざまな病に見舞われる。バランスを崩す原因は乱れた食生活であり、合成化合物であり、抗生物質などだ。逆にバランスを整えるのが善玉菌の好物である多糖類、つまり野菜スープに含まれる食物繊維などである。

古い油や精製された油はNG

本書(『野菜は「生」で食べてはいけない』)では「野菜スープ」を摂り続けたがん患者らの体験談を紹介した。実はがんのなかでも、とりわけ大腸がんや直腸がんなどは、油が酸化(過酸化)することでできる「脂質ラジカル」がかかわっているといわれる。

活性酸素も危険だが、この脂質ラジカルはもっと危険だといわれていて、その理由は一般的な活性酸素と比べて、何十倍も寿命が長いことだ。寿命が長いと危険なのは放射線と同じで、被曝する時間が長くなるからである。

それに加えて、脂質ラジカルは脂に親和性があるから、肝臓、胆のう、脾臓ひぞう、すい臓、乳腺などに溜まりやすい。すい臓がんや乳がんが増えているのは、食用油と関係があるのではといわれるほどだ。さらに体の細胞膜は脂質だから、この膜を簡単に通過してしまう。危険な脂質ラジカルが細胞の中に入れば、DNAを傷つける恐れがあるし、もしも、がん抑制遺伝子まで一緒に傷つけられたら、この細胞は一気にがん化しかねない。

食用油はもちろん、肉類、魚介類、卵、豆類、海藻類など、ほとんどの食品には脂肪酸が含まれ、これに触媒のようなものが作用すると簡単に猛毒の脂質ラジカルに変化してしまう。

たとえば、血の滴るような赤身のステーキ肉を焼いたとする。このとき脂肪酸が赤身に含まれる鉄分を触媒にして脂質ラジカルに変化するし、焼く際に、精製された古い食用油を使えば、さらに脂質ラジカルが発生することになる。高脂肪食を摂っている人が、便秘になって大腸に糞便が長く留まると、脂質ラジカルが増えて大腸がんになりやすくなるといわれる。

ステーキ肉
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できるだけ精製していない新鮮な油を使いたいが、外食の場合、高級店でない限り、一般の外食店はたいてい油を使い回すのでまず無理だろう。家庭で使う食用油も同じで、一度使った油は酸素、温度、光などによって酸化が進むので、冷めたらできるだけ早く密閉した容器に入れて冷暗所で保存することだ。そして、なるべく古い油を使わないことである。

コーヒーやお茶、赤ワインも脂質ラジカルを抑制

高脂肪食ばかり食べていると大腸がんになりやすいというのは、大腸のS字結腸に溜まった脂肪酸が鉄分と反応して脂質ラジカルに変わり、大腸の内壁を傷つけてしまうからだが、さらに、過剰な脂質は腸内細菌叢(いわゆる腸内フローラ)をも変えてしまう。

野菜に残留する農薬も腸内細菌叢を変えるといわれるが、腸内細菌叢の善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れたら、免疫の不活性化だけでなく、肥満、アレルギー、二型糖尿病、自閉症、うつ、動脈硬化といったさまざまな疾患の引き金になりかねないのである。

実は、この脂質ラジカルも野菜スープで抑えられることがわかっている。図表1を見ていただきたい。棒グラフの高い野菜ほど、脂質ラジカルを抑える力があるということだが、豆類が非常に高く、根菜類は可食部よりも日光がよくあたる葉に多いことがわかる。

ステーキや焼き肉など、高脂肪食を食べるときは、こうした野菜のスープを一緒に飲むようにしたい。また、コーヒー、赤ワイン、煎茶、紅茶なども脂質ラジカルを抑えてくれるから、高脂肪食のときにこれらを飲むのは理にかなっているのだ。

野菜の繊維質が腸の内壁を守る

野菜スープは活性酸素や脂質ラジカルの活性を抑えるだけではない。スープと一緒に食べた野菜の繊維質(セルロース=多糖類)は、胃では消化されず、大腸に届けられるが、人間が消化できない繊維質はここで善玉菌のご飯になって、善玉菌が悪玉菌を抑えてくれる。

それだけではない。善玉菌は代謝産物として短鎖脂肪酸をつくってくれる。これが大腸内壁を守ったり、二型糖尿病を抑制してくれたりと、人間の健康にとってなくてはならない物質なのだ。野菜スープは、まさに一石二鳥の食べ物なのである。よく考えれば、煮野菜を中心に、油を抑えた伝統的な日本食は、長い時間をかけて確立されただけに、非常に優れたメニューであることがわかる。ここでは「野菜ポタージュ」を紹介するが、作り方は基本的に野菜スープとそれほど変わらない。

ブロッコリー、ほうれん草のクリームスープ
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好きな野菜を適当に(合計約400グラム)選んでざっくりと刻む。たまねぎ、にんじん、キャベツ、かぼちゃなどをベースにすると案外簡単に作れるようだ。鍋料理や煮込み料理を作ったあとに残った野菜のクズがある。にんじんのヘタや大根の先っぽ、しいたけの軸など、普段捨てているようなものも一緒に煮ている人もいるが、抗酸化物質が摂れるうえに無駄をなくせるのだから環境にもいい。

これらはポタージュにするのだから、野菜をこまかく刻む必要はない。

キャベツなどは緑色になった外側の葉も使いたいが、硬そうなら、油で炒めてから煮てもいい。水1リットルで30分から1時間、軟らかくなるまで煮たら、そのまま冷ましてミキサーやブレンダーでポタージュにするだけだ。そのまま温めて飲んでもいいしスパイスを加えても、牛乳を加えてクリーミーに変えるのもいい。スープカレーもいいだろう。風邪気味のときは、しょうがを入れる方もいるが、要は食べておいしければそれでいいのである。

余れば保存容器に入れて冷蔵しておけばいい。私の知人は、カップ1杯分の量を小さな保存容器に小分けにして冷凍していた。食べるときに取り出して解凍するそうである。暑い夏はスムージーにして食べるのも悪くないだろう。

アトピー、便秘、慢性疲労症候群が改善

治療とは別に、必要とあれば野菜スープを一般の患者にすすめている医師がいる。鹿児島市にある「堂園メディカルハウス」の堂園晴彦院長(医学博士)で、本書冒頭にメッセージを寄せていただいた医師である。

堂園博士がすすめる野菜スープは、キャベツ、にんじん、たまねぎ、かぼちゃがベースである。これは、主にアトピー性皮膚炎の人、便秘で困っている人、慢性疲労症候群の人にすすめているという。

「アトピーの人は肌がよくなったと言いますね。野菜スープで腸内環境がよくなればビオチン(ビタミンH)がつくられます。ビオチンは皮膚をつくるビタミンですから肌がよくなるのは当然ですね。

また、慢性疲労症候群のいちばんの原因は、脳に活性酸素が溜まったことによるものですから、そういう方には、ビタミンCなど抗酸化成分をたくさん含む野菜スープは重要な役割を果たすと考えられますので、積極的にすすめています」

血圧が下がり5キロの減量にも成功

アトピー性皮膚炎の治療でやってきた女性(当時48歳)に尋ねてみた。2021年7月段階で、6カ月前からステロイドを使わない治療と一緒に野菜スープを飲み始めたという。

「2021年1月からです。たまねぎとにんじんは必ず入れ、あとは手に入りやすいもので作っています。自分では変わったという意識はないのですが、気がついたら周りから“ほっそりしてきたね”と言われるようになりました。ここ2、3週間で皮膚もきれいになってきました。毎日1杯か2杯は必ず飲むようにしています」

別のアトピー性皮膚炎の女性(当時44歳)の証言。

「アトピーでステロイドを使っていたら皮膚炎になってしまい、堂園先生から脱ステロイド(療法)と一緒に野菜スープをすすめられました。飲み始めてからまだ2カ月なのに、皮膚がきれいになったので私自身も驚いています。実は血圧も高くて、お薬を飲んでも130台だったのが、今は120台に下がりました。お通じもよくなりました。割とぽっちゃり体型ですが、体重は、野菜スープを飲み始めてから5キロも減りました。砂糖や油を摂らないようにしましたので、野菜スープだけの効果ではないと思いますが……」

腸内環境が変わり始めたのだろう。二人は無理なくダイエットができると喜んでいた。余談だが、善玉菌を増やすには、漬け物や納豆、チーズ、キムチといった発酵食品や、善玉菌のご飯になる食物繊維(多糖類)を食べるのが効果的だといわれる。病気にならないためには、サプリよりもやはり食事なのだ。

野菜スープでシミが薄くなった

診察のために離島からやって来た夫婦がいた。語るのは夫人(当時65歳)だ。

「2020年の6月です。主人が掌蹠膿疱症しょうせきのうほうしょうという病気(手のひらや足の裏に水疱や膿疱ができる)で診てもらったとき、堂園先生から野菜スープをすすめられました。でも作るのは私です。だったらと、それ以来二人で毎日飲んでいます。半年ほど経った頃でしょうか、以前はよく口内炎ができて、いったんできると治るまで2週間以上もかかったのに、野菜スープを飲み始めたからか、1週間もせずに治ってしまいました。そのうち口内炎もできなくなったんですよ!

体調もずいぶんよくなりました。なによりも驚いたのは、手の甲に大きなシミが三つあったのに、今は一つが消えて、残りの二つも薄くなっていることです。使う野菜はかぼちゃ、にんじん、たまねぎ、キャベツが中心で、私の場合は汁と具を分けています。夜1回、スープだけ200ミリリットルを飲みます。主人は朝昼晩の3回です。具の野菜は味噌汁に入れたりサラダにしたりして食べています。飲んでいると体の中がお掃除されていく感じがしますね」

農薬のリスクが少ない有機野菜を使う

うつ、不安障害、慢性腸炎と診断された25歳(当時)の女性の証言。

奥野修司『野菜は「生」で食べてはいけない』(講談社)
奥野修司『野菜は「生」で食べてはいけない』(講談社)

「野菜スープを飲み始めてまだ2週間です。以前からお腹の調子がよくなかったのですが、飲み始めて1週間ほどで便の調子がよくなってきました。体調もいい感じに改善されています。スープは夜1回だけですが、ぜひこのまま続けたいと思っています」

うつ病の人は、同時に便秘や下痢などのトラブルを抱えていることが多く、腸内細菌叢を調べると、善玉菌が減って悪玉菌が増える傾向にあるという。

また脳と腸は迷走神経を介して双方向で情報を交換していること(脳腸相関)がわかってきているから、腸内環境がよくなれば、あるいはうつ病などの改善も期待できるかもしれない。逆に、農薬のなかにはうつ様症状を示すものもあることが動物実験でわかっているから、そういうリスクを考えればやはり有機野菜を使いたい。