2021年に亡くなった抗がん剤の権威で熊本大学医学部名誉教授の前田浩氏は、野菜の力が万病の元になる活性酸素を消去すると提唱した。さらに前田氏によれば、野菜の中でもアブラナ科や豆類がとくにがんを予防する力が強いのだという――。

※本稿は、奥野修司『野菜は「生」で食べてはいけない』(講談社)の一部を再編集したものです。

小麦畑に農薬を散布するドローン
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農薬やストレスで発生する危険な活性酸素

現在、人間はもちろんのこと、サルもモルモットも体内でビタミンC(抗酸化物質の一種)の合成はできない。はるか昔は合成できたが、数千万年前から合成しなくなったそうである。植物や果実を食べるようになって、その必要がなくなったのだろう。やがて火を使うようになると、消化しやすくなり、より多くのエネルギーが得られるようになった。これが、大量のブドウ糖を必要とする脳を発達させたといわれる。

私たちは活性酸素から逃れられない。呼吸するだけで、その2~3%は活性酸素になる。前田浩教授によれば、主ながんの原因は、①化学物質、②放射線、③慢性感染(による炎症)の三つだが、いずれも活性酸素が発生して、DNAを傷つけることで発がんが始まるそうだ。

この三つのなかで、私たちの体が常にさらされているのが化学物質だろう。現在、約10万種類の化学物質が日常生活で使われているといわれ、EU(欧州連合)では、人の健康被害にもっとも影響を与える化学物質は農薬だとしている。

さらに活性酸素は、ストレスを受けても大量に発生するから、私たちは活性酸素から逃れられなくなっている。つまり、活性酸素を消去する抗酸化物質を外から補充することでしか、健康を維持できなくなっているのだろう。その役目を担うのが野菜や果物なのだ。

豆類、アブラナ科の野菜ががんを予防する

前田教授は抗がん剤の研究者でもあるが、そのいっぽうで力を入れていたのは、活性酸素を抑えることでがんを未然に防ぐことはできないかというテーマだった。そしていくつかの臨床試験を経て、「がん予防とは、がんの炎症をとることであり、それには活性酸素を消去してくれる野菜スープがベスト」という考えに至った。図表1のタテ軸は発がんの進行を抑える度合いで、ヨコ軸は活性酸素を50%に抑制する強さだから、グラフ右上の野菜ほど細胞のがん化を抑えてくれる。

がん化は、正常細胞がいきなりがん細胞になるのではない。いくつかの段階を経てがん細胞になっていくのだが、前田教授によれば、抗酸化物質はがん細胞になる前の過程で細胞のがん化を抑制してくれるのだという。グラフの右上部には豆類が多いが、種子でもある豆は、中に子孫たちの遺伝情報にあたるDNAを詰めた“ノアの方舟”のようなものだから、活性酸素や脂質ラジカル(脂質が酸化してできる)で壊されないように抗酸化物質で守られている。いわば、抗酸化物質の塊だから右上にくるのは当然として、意外にも、大根(葉)、カリフラワー、京菜、キャベツの外葉、ブロッコリーといったアブラナ科の野菜が上部に多いのには驚く。

野菜は抗がん剤の副作用も軽減する

野菜の抗酸化物質が発がんに予防効果を持つのは、肺がん、胃がん、大腸がんなどだが、では、がんになってしまったら、野菜スープを飲んでも無駄なのだろうか。がん患者に「野菜スープ」をすすめている人がいる。兵庫県のIさん(2021年取材。当時68歳)である。

Iさんは大腸がんで闘病していたが、当時、3年3カ月前(2018年5月)に肝臓への転移がわかった。それも転移したのが7個。外科手術でとることができず、5年後の生存率が15%で3年生きるのはむずかしいと宣告されたという。あるとき、前田教授の野菜スープを試したところ、体調がよかったので周囲にもすすめてみた。すると、肝臓の数値がよくなったという人から、抗がん剤の副作用がびっくりするほど軽減したといった証言が相次いだそうだ。

ボウルには豆がごろごろ入ったスープ
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Iさん自身も、「野菜スープを始めて4カ月後、エコー検査をすると、7個の転移がんのうち3個は壊死が進んでいた」そうで、「これはえらいことだ。抗がん剤の副作用に苦しんでる人に野菜スープのことを知ってほしいと思って、『野菜スープ専用LINE』(有料)を立ち上げたんです」と言う。

三食スープで肌がスベスベになった

Iさんの手元には野菜スープの体験談が600通以上寄せられていて、そのなかからいくつか紹介したい。野菜スープを飲んでいる期間と年齢も示してある。

「舌がん、リンパ節がん、喉頭がんの再発をくい止めたいと思って野菜スープを始めました。三食野菜スープを飲んでいます。まず肌がスベスベになって肌荒れが少なくなり、お通じが定期的に出るようになりました。以前は白血球の値が低くて抗がん剤が打てないときもありましたが、少しずつ値が高くなっていて主治医も驚いています」(6カ月以上/53歳女性)

「乳がんのステージ4です。月並みですが、便の出がいいです。野菜スープを飲む前と比べたら歴然です。体調も元気な日が多くなって食欲もあります。腫瘍マーカーは横ばいですが、こちらも下がってほしい」(6カ月以上/44歳女性)

「白内障の予防のために始めました。風邪をひくと、必ず1カ月ほど咳が止まらなくなり、扁桃腺が腫れて高熱が出ましたが、飲み始めてから悪化することなく、数日で回復するようになりました。また、毎朝決まった時間になると便意で目覚めるようになりました」(1カ月以上/55歳女性)

「肺がんの治療中。血圧が下がった。便通が安定した。熟睡できている感じ。内臓脂肪が減った」(3カ月以上/50代男性)

「動脈硬化症です。野菜スープに鶏ガラの骨スープも混ぜて飲んでいます。スープを飲む前の血管年齢は年相応でしたが、先月の測定では30代になっていました。血管がそんなに若くなるなんて思っていなかったのでビックリです」(6カ月以上/50代女性)

野菜スープで薬要らずに

「乳がんの治療が終わったので体調を整えたいと思って始めました。これまで胃の調子が悪くて胃薬を飲んでいましたが、スープを飲むようになって薬を飲むことがなくなりました。これには自分でも驚いています。お通じもバッチリです」(3カ月以上/56歳女性)

「更年期障害で悩んでいましたが、野菜スープを飲んでから格段によくなりました。一緒に飲んでいる娘は17歳の高校生ですが、生理痛が軽くなり、ニキビも一気に減りました」(3カ月以上/51歳女性)

「がんの闘病中です。今までは便の色が黒く硬いものが多かったのに、明るい黄褐色で軟らかい便で安定してます」(3カ月以上/61歳男性)

「治療方針が抗がん剤と決まってから野菜スープを始めました。がんが発覚する1年以上前から原因不明の下痢が続いていたのに、それがなくなり、バナナ便が1日2回も出るようになりました。がんになる前より元気です。血液検査でも白血球の数値は下がっていません」(3カ月以上/41歳女性)

「乳がんの再発予防に野菜スープを始めました。肌のコンディションがよくなったと思います。毎月通うエステで、肌がモチモチしているといわれます。便通がとてもよくなり、あれほど悩んでいた下半身太りがなくなったのは浮腫が解消されたからではないかと思います。野菜スープをやめると、明らかに便の状態が不良になります」(1カ月以上/40代女性)

老化によるシワ、シミも活性酸素が原因

このLINEに寄せられた投稿を分析すると、野菜スープを飲み始めて1カ月未満で、「体調がいい」と答えた人はそれほど多くないが、3カ月を超えると約7割が、6カ月を超えたら約9割が「体調がいい」と答えている。また「あまり感じない」と答えた人でも、全員が「今後も続けたい」と回答している。ちなみにこの証言で多いのが、「便の状態がよくなった」に次いで、「肌がきれいになった」と回答していることだ。後者に関しては、老化によるシワやシミは活性酸素が原因だから、当然かもしれない。

前田教授から、野菜の抗酸化物質は予防にはいいが、完全ながん細胞に変わってしまうと効果はないと言われたことがある。先ほどの体験談でも、がんが消えたといった証言がほとんどないのはそのためだろう。しかし、多くの患者は抗がん剤治療をしながら「体調がいい」と答えているのは非常に興味深い。

野菜スープにはぜひ豆類を使いたい

がんになる頻度は年齢のN乗に比例するといわれる。Nの値はがんによって違うが、いずれにしろ、免疫が落ち始める40代以降なら、いつがんになってもおかしくないと考えるべきで、できれば、図表1の右上にある、チシャ、黒豆、小豆、緑豆、大根(葉)、ごぼうなども野菜スープに加えたい。

奥野修司『野菜は「生」で食べてはいけない』(講談社)
奥野修司『野菜は「生」で食べてはいけない』(講談社)

特に豆類は、同時にタンパク質も摂れてバランスがいいから、嫌いでなければぜひ使いたい。ちなみに独特な香りがするよもぎだが、本土より沖縄産のよもぎ(フーチバー)のほうが、強い紫外線にさらされるだけあって、抗酸化活性は高いそうだ。よもぎをよく食べる沖縄のオバアたちが長生きするのは当然かもしれない。そういえば、オバアたちがよく食べる「ボロボロジューシー(おじや)」は、野菜スープのようなものだ。

ところで、2022年になっても新型コロナによるパンデミックは収まりそうもないが、前田教授が生前語っていたところによると、野菜スープに含まれる成分は感染予防にも有効で、感染してもウイルスの侵入で発生した活性酸素を抑えてくれるので炎症が起こりにくくなるという。