先進国の中でも日本は理系に進む女性が少ないことが課題になっている。数少ないリケジョたちはどんな大学生活を送っているのか。若者研究の第一人者であり芝浦工業大学教授・原田曜平さんが、理系の学部・大学院に在籍する現役リケジョ9人の座談会を開催。女子大学生たちの本音を聞き出した――。
座談会参加者
藤井さん=芝浦工業大学理工学研究科(修士)
鈴木さん=芝浦工業大学デザイン工学部デザイン学科
有坂さん=芝浦工業大学工学部機械工学科
岡田さん=青山学院大学理工学部経営システム工学科
中川さん=芝浦工業大学建築学部建築学科
熊坂さん=駒沢女子大学人間総合学群住空間デザイン学類
井関さん=横浜市立大学医学研究科(修士)
井島さん=芝浦工業大学理工学研究科(修士)
山下さん=東京海洋大学海洋工学部海事システム工学科

「大きいものを動かしたい」願望

【原田】4月に芝浦工業大学教授に就任した原田です。僕自身は商学部を出て広告代理店に入った“ど文系”なので、理系の学部で学んでいる女性の皆さんに話を聞きたいと思っていました。まず、今の専攻となぜ理系を目指したのかを教えてもらえますか。

理系の大学に通うリケジョのみなさんが集まってくれた。
撮影=プレジデントオンライン編集部
理系の大学に通うリケジョのみなさんが集まってくれた。

【藤井】私は理工学の大学院で建築学を専攻しています。建築士の資格を取れる大学ということでここを選びました。とにかく小さい頃から工作などのものづくりが好きで、将来は飛行機とか大きいものを作りたかったのですが、機械工学に進むほど理系科目が得意ではなく、それなら家を造ろうと思って建築の道を進むことにしました。

【有坂】私も大きいものを動かしたいという願望がありました。子どもの頃はピアノを習っていて、暇さえあれば本を読んでいるような感じで文系寄りだったんですが、手を動かして工作することも好きでした。でも、高校の文理選択では社会の成績が先生に怒られるぐらい悪かったこともあって理系へ。大学のオープンキャンパスに行くと、機械工学科は女子が少ないので声をかけてもらえるし、金属の破断実験を見て「面白い!」と魅力を感じて選びました。

【原田】そうか。理系の人は「大きなものを動かしたい」という願望があって将来を決めるんですね。僕はそんな発想、一度もしたことない……(笑)。

お金を稼ぐために経営も勉強したい

【鈴木】私はデザイン工学部でプロダクトデザインを勉強しています。子どもの頃は「ハートキャッチプリキュア!」の影響でファッションデザイナーの仕事をしたいと思っていて、その一方でガチャガチャのマシンを自作したこともあります。父が工学系の仕事というのも影響あるのかもしれません。勉強は、とにかく文系科目ができなかったので、理系でデザインを学べるところを探したところ、高校1年のとき芝浦工業大学にデザイン工学部があるのを知って、ずっと第一志望にしていました。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【岡田】文系科目が苦手というのは、私もそうでした。小学生の時から国語が苦手で、慣用句などが覚えられなかったし、国語の設問の答えにも納得できなかったですね。でも、数学は正解にたどり着くまでの式を見れば何をしているかが分かるじゃないですか。だから、数学はずっと好きでした。また将来、ちゃんと仕事をしてお金を稼ごうと思ったとき、理系の中でも経営を学んだほうがよいのではと思い、経営システム工学科に進みました。

大の苦手だった数学を「ビリギャル」ばりに克服

【中川】私は逆に数学が苦手で……。建築学部を目指したきっかけはTVの「大改造‼劇的ビフォーアフター」でした。あの番組が本当に好きで、父も建築関係の仕事というのもあって、もう建築学しかないと思っていたんですが、高校のとき、数学があまりにできなかったので、学校の先生には止められました(笑)。でも、そこから「ビリギャル」みたいに成績を上げていって数学を克服して、先生にも納得してもらいましたね。

【原田】数学って気合いを入れれば、できるようになるものですか?

【中川】さっき岡田さんも言っていたように、数学の場合、正解はひとつしかないので、国語の記述問題とかよりは何とかなるんじゃないかと思います。そこを乗り越えられたのは、今の学科で社会問題から建築を考えるということを学びたかったから。私が子どもの頃に中越地震や東日本大震災が起き、ボランティアをしたことなどから、ずっと災害と建築というテーマに興味がありました。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【熊坂】私は子どもの頃から体育会系というか新体操をしていて、高校までずっとそれしかしてこなかったんですが、いざ、部活を引退して進路選択となったとき、担任の先生に「将来の夢はある?」と聞かれて「ないです」と答えたら「じゃあ、文系だね」と……。

【原田】ちょっと待って。文系は夢を持っちゃいけないと……。

【熊坂】そう言われました(笑)。父が建築関連の仕事をしているので、建築を勉強したらという話になり、でも、もう文系に進んでしまっていたので、建築系の学科で文系科目でも受験できるところを探し、今の住空間デザイン学類というところを選びました。

「下町ロケット」の影響で…

【井関】私は横浜市立大学の大学院で医科学を研究しています。学部生のときは今と違う大学の創薬学科に通っていました。身近に精神疾患のある人がいたことがきっかけで、その治療に貢献できたらと思っていたのですが、そう言うと、周囲の人に「それなら医師になればいい」と言われることにちょっと反骨精神があったんです。もともとバイオロジーには興味があり、薬を開発することでもっと根本的に病気を解決できるのではと思って、今の道を選びました。

【原田】これまでの話を聞いていると、何か強烈な好きなものがあると、理系に進むきっかけになるのかなと。身近に病気の人がいたりお父さんの仕事だったり、周囲の人からの影響は大きいという感じがしますね。起業家になった人の親や親戚に経営者が多いのと同じようなことかもしれませんね。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【井島】私の場合はTVの影響も(笑)。小さい頃に母が半年間ほど入院していたことがきっかけで、ずっと医師になりたかったんですが、高校で文理選択をするときに、ドラマの「下町ロケット」を見たんです。あのドラマでは町工場が宇宙へ行くロケットの部品を作るだけでなく、その技術を応用して心臓の人工弁を作る。それで難病の子どもたちを救うという話で、そういう医療との関わり方もあるんだと……。

【原田】ドラマの影響というのは、文系でもよくありますね。でも、それが、女性が主役の「ナースのお仕事」ではなく、阿部寛さん主演でおじさんばかり出てくる「下町ロケット」というのはなぜなんだろう?

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【井島】逆にちょっと反発心がありますね(笑)。ナース=女性の仕事と思われているようなことに。型にはめられたくないというか……。

【原田】なるほど。とくに若い人の中にステレオタイプを嫌がる傾向はありますからね。

船乗りを目指す女子

【山下】私は2年まで芝浦工業大学にいたのですが、3年生で編入して東京海洋大学へ。簡単に言うと“船乗り”を目指しています。高校のときは情報系に進んだほうがこれからの社会は有利だと思ってシステム理工学部に入ったのですが、ずっとパソコンの前でカタカタ、キーボードを叩いているのがつらくなったというのもあり、将来どんな会社に行きたいかを真剣に考えて、畑違いですが、船舶会社で海上職になれたらと思いました。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【原田】システムエンジニアから船乗りへ。ちょっと飛びすぎじゃない?

【山下】技術だけでなく、体を使って働きたいというのがあったんですが……。もしかしたら、秋田県の出身で、小さい頃から港にいる船を見ていたというのはあるかもしれません。

【原田】なるほどね。皆さん、しっかりした動機や考えがあって今の学科に入ったというのがわかりました。実際、リケジョであることにはメリットを感じますか? 女子が少ないからモテそうなイメージもあるけれど……。

理系男子は大学に彼女を探しに来ているわけではない

【有坂】それはよく言われますね。工業大学だと言うと、「彼氏なんて選び放題でしょ」と(笑)。でも、私の学科は120人のうち女子が10人なので、逆に男子はその10人の誰かと付き合える確率は低いと思っているようです。「俺なんて無理でしょ」と始めからあきらめているみたい。

【藤井】そうそう。男子たちのマインドとしては、大学に彼女を探しに来ているわけではない。

【鈴木】ちゃんと勉強しに来ている(笑)。同じ学科で付き合うというのは少ない気がします。学科が違うとか学年が違うとか、同じサークルではわりとある感じですね。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【藤井】私は1年生のとき、ある女子大と合同のサークルに入ったんです。すると、男の先輩から学部を聞かれ「システム理工学部です」と答えたら「あっ、(同じ)芝浦工業大学なんだ」と一気に引かれてしまいしました。男子はそこで女子大の子との出会いを求めていたみたいで、もう私には全然興味ないという感じ(笑)。

【全員】えーっ……。

【原田】その男子たちはどういう思考回路なんだろうね? リケジョが相手だと理詰めで来られそうとか恐れているのかな。

【鈴木】やっぱり女子大の子はかわいいというキラキラしたイメージがあるのでは……。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【原田】それは出会う前のイメージだよね。実際に会ったら相手が女子大だろうがリケジョだろうが関係ない気がするけれど。

【有坂】私たちからすると、相手が理系か文系かは関係ないんですけどね。ただ、実際問題、文系の男子に平日遊びに行こうと誘われたら、「いや、実験があるから」と断ってしまうことになる……。

【鈴木】たしかに、そこは理解してもらえなさそう(笑)。

男子は友達、仲間という意識

【有坂】それから私は女子校出身なので、今の学科、120人中女子が10人しかいないところに、本当に男子校に入るつもりで飛び込んだのですが、大学では女も男もなく友達、仲間という意識があります。これが男女半々ぐらいの学科だったら、女子だけで固まって、男子とはここまでフラットに付き合えなかったかもしれない。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【山下】たしかに、女子が10人とか20人しかいないと、女子が100人いる学科なら絶対に接近しないタイプの子とも仲良くなれますね。自然に団結意識も生まれます。

【井関】理系同士だとそうやって「研究室での実験って楽しいね」という話などで共感でき、盛り上がるんですけど、分野が近すぎると微妙な価値観の違いも出てきてしまうので、全然違う分野の人がいいかもしれません。

【原田】なるほどね。例えば、同じ野球好きだと巨人ファンと阪神ファンはぶつかってしまうけれど、野球ファンとラグビーファンならぶつからないというようなことかな(笑)。後編では、「現状少ないリケジョを増やすにはどうすればいいのか」ということを一緒に考えてみましょう。