ロッテ「雪見だいふく」は発売から40年のロングセラーとなっている。2019年度には年間売り上げが初めて100億円を超え、勢いが増している。なぜ人気が続いているのか。マーケティングライターの牛窪恵さんが40年におよぶ“開発とリニューアルの歴史”を担当者に聞いた――。
ロッテ ブランド戦略部 大塚雄記さん
写真提供=ロッテ
ロッテ ブランド戦略部 大塚雄記さん

アイスクリームの販売、過去最高の5200億円超

夏といえば、冷たいものが食べたくなる季節。2021年度、アイスクリーム業界の販売額は年間5200億円超と、過去最高を更新しました。10年前に比べ、約1.3倍もの伸びです(日本アイスクリーム協会調べ)。

【図表1】アイスクリームの販売実績推移
出典=日本アイスクリーム協会「2021年度『アイスクリーム類及び氷菓』販売実績

好調な要因として、まず2020年以降の「巣ごもり需要」が挙げられるでしょう。アイスを「暑さを和らげるため」だけでなく「気持ちをリフレッシュしたいから(食べる)」と、テレワークの合間などに口にする人も増えました。

また、もう一つ大きいのは、冬場に食べるアイス、いわゆる「冬にもアイス」の需要拡大です。いち早くこの市場を開拓したのは、ロッテ。

その代表といわれる大ロングセラー「雪見だいふく」は19年度、ブランドとして初の年間売り上げ100億円を突破しました。

アイスを包んでいたのは、餅ではなくマシュマロだった

雪見だいふくといえば、22年1月末、山梨銘菓「桔梗信玄餅」とコラボした商品(「桔梗屋監修 雪見だいふく×桔梗信玄餅」)がコンビニエンスストアで先行発売され、SNSを中心に大いに話題を呼んだのが記憶に新しいところ。

ただ雪見だいふくには、前身となる商品「わたぼうし」が存在したのをご存じでしょうか。

雪見だいふく(2022年春、上)と1980年に発売されたアイスをマシュマロで包んだ「わたぼうし」(下)。
雪見だいふく(2022年春、上)と1980年に発売されたアイスをマシュマロで包んだ「わたぼうし」(下/現在は販売終了)(写真提供=ロッテ)

発売は、1980年9月、いまから40年以上も前です。一見すると、パッケージも商品も、雪見だいふくと似ていますが……、アイスを包んでいたのは“餅”ではなく“マシュマロ”。ヒントは、福岡・博多で100年以上愛される銘菓「鶴乃子」(石村萬盛堂)だったそうです。

「『鶴乃子』は、ほど良い甘さの黄味あんを、マシュマロのようなふくよかな生地で包んだ銘菓。80年には、すでに暖房器具が一般家庭に浸透していたと考えられ、『アイスをマシュマロで包んだおいしいお菓子が作れれば、冬の温かい部屋でアイスを食べてくれるのでは?』との発想から生まれたと聞いています」と、同ブランド戦略部の大塚雄記さん。

溶けにくいアイスの開発は苦難の連続だった

狙いどおり、わたぼうしは10、20代の若い層を中心にヒット。その直後、「もっと幅広い層に売れる商品にしたい」との想いから、マシュマロに代わって日本の伝統食材である“餅”で包んでみよう、と着想したそうです。

ただ、当初は苦難の連続でした。餅は、高温で柔らかくのびるようにしなければ、アイスをうまく包めない。でもアイスは、言うまでもなく温めると溶けてしまう。この相反する素材を、どう融合させるか。

ロッテ ブランド戦略部 大塚雄記さん
写真提供=ロッテ
ロッテ ブランド戦略部 大塚雄記さん

何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく「溶けにくいアイス」の配合や製法にたどり着いたものの、今度はアイスを包んだあとの課題に直面します。

それが冷えると硬くなりやすいという、餅の特性です。

たった1年で「冷凍しても柔らかい餅」を開発、販売

当初から、雪見だいふくには「食べた人々に“笑顔”になってほしい」との想いが込められていました。もし餅を、冷凍した状態でも柔らかく保つことができれば、冷凍庫から出して食べる際に、ふわっとした幸せや癒やしを感じてもらいやすいはず。

「そこで餅のほうも、餅粉の品種や産地、糖の配合比率や粒子のサイズなど、膨大なパターンを一つひとつ、検証していきました。アイスを包む機械も、新規に開発。ようやく、イメージする商品にたどり着いたのです」(大塚さん)

驚くのは、こうした素材の黄金比の割り出し(現在も企業秘密)から製造までを、わずか1年で終えたこと。わたぼうしの発売から約1年後、81年10月には、すでに雪見だいふくが店頭に並んでいました。

いかにロッテが、総力を結集して開発した商品であったかが分かります。

発売15年のリニューアルで売り上げが下がる“大事件”

そのあとも、数々の難問が待ち構えていました。まずは競合の登場です。

当初、「冬にもアイス」の発想は新しく、まだ競争相手がほとんど存在しないブルーオーシャンだった。ところが発売から数年後には、他社がこぞって類似商品を発売するようになりました。

これに対しては「早々に特許を取得するなどして対応した」と大塚さん。

また90年代半ばには、ロッテの社内で「ある事件」が起こります。発売15周年(95年)に向けて商品をリニューアルすると、徐々に売り上げが下がり始めたのです。

「落ち込みの原因がパッケージにありそうだと気付いたのは、少したってからだったと聞いています」(大塚さん)

歴代担当者から受け継がれる「絶対やってはいけないこと」

具体的には、現在に近い丸く柔らかいフォルムから、四角っぽいフォルムへの変更。「店頭で目立たせたい」との思いがあったようですが、ロゴや配色はほぼ同じで、雪見だいふくのファンでなければ違いに気づかないかもしれない。

でも実際にヒアリングすると、「らしくない」などの声が続出したそうです。

15年目のリニューアルで登場した“四角い雪見だいふく”
15年目のリニューアルで登場した“四角い雪見だいふく”(写真提供=ロッテ)

「歴代の担当者からは、代々『この先、リニューアルする際も、絶対にパッケージは四角くするなよ』と言い継がれています」(大塚さん)

並行して、92年以降は定番に加え、さまざまな「季節限定」の商品を発売するようになりました。その数は、22年7月までに50種類以上。それだけアイスを取り巻く環境が大きく変化し、競合との争いも厳しくなってきたといいます。

考えられる理由の1つは、バブル経済の崩壊と“少子化”です。

アイスクリームの販売量がピークを迎えたのは、94年でした(日本アイスクリーム協会調べ)。この年が猛暑だったせいもあるとされますが、このとき、日本で団塊世代(現70代前半)に次いで人口が多い「団塊ジュニア」はすでに20歳前後。

いわゆる“子どものおやつ”としてのアイス需要が、少しずつ減り始めたのです。

また90年代半ば以降は、「健康志向」が強く叫ばれるようになりました。85年段階でアイスの2分の1以下だった“ヨーグルト”の支出金額は、「健康によさそう」を追い風に、2000年直前にアイスを逆転(総務省統計局ほか調べ)。以後、アイスには原料へのこだわりや味、食感などが、より求められるようになっていきました。

なぜ、ロングセラーになれたのか

近年、雪見だいふくをはじめ、各社が期間限定のアイスを次々と発売する理由を、「話題性のため」と見る向きもあります。

もちろんSNSが浸透した2012、13年以降、ツイッターやフェイスブック(FB)、インスタグラムなどを通じたアイスの口コミが急増したのは、確かでしょう。

「ロッテ 雪見だいふく」のツイッターが約28万人のフォロワーを獲得しただけでなく、「ハーゲンダッツジャパン」がインスタ(22年7月現在、フォロワー約27万人)などを通じて、また「ガリガリ君」(赤城乳業)がFB上のファンコミュニティーとも言える「ガリガリ部」(同メンバー約1.1万人)などを通じて、それぞれ新規性の創出や消費者とのコミュニケーションに努めてきました。

ですが「話題性」だけでは、雪見だいふくが40年以上にも及ぶロングセラーで居続けることはできなかったはずです。

触感や味わいを厳しくチェックする専門家集団の存在

ロッテが長年こだわってきたのは、餅の柔らかさや、商品全体の味わい、そして食感です。餅だけでも、繰り返し「見えないバージョンアップ」を図ってきたとのこと。季節限定商品も、奇をてらわず“幸せ”を感じられる味や食感を追求してきたといいます。

近年、とくに開発に苦労した商品「雪見だいふく もちもちパンケーキ」
近年、とくに開発に苦労した商品「雪見だいふく もちもちパンケーキ」※現在は販売終了(写真提供=ロッテ)

「近年、とくに開発に苦慮したのが『雪見だいふく もちもちパンケーキ』(20年)。本来は温かくてふわふわのパンケーキの食感を、餅でどう表現するか。社内のパネリストも、大いに迷ったようです」(大塚さん)

パネリストとは、ロッテの社内で商品開発にあたり、食感や味わいなどをチェック、助言する専門家集団。たび重なる訓練を経て菓子全般を担当するため、社内でも引っ張りだこだといいます。

山梨銘菓「桔梗信玄餅」とのコラボ商品
山梨銘菓「桔梗信玄餅」とのコラボ商品※現在は販売終了(写真提供=ロッテ)

先の「桔梗信玄餅」(山梨銘菓)とのコラボバージョンでは、コロナ禍で外出しにくい状況が続くなか、せめて雪見だいふくを食べて、旅気分やふるさとの味を楽しんでもらいたいとの思いを込めたそう。

「買った方々が、口々に『また山梨に行きたい』や『久々に、懐かしい(桔梗信玄餅の)味を思い出した』などと言ってくださった。きなこの風味と濃厚な黒蜜の再現には苦慮しましたが、今後もさまざまなコラボを通じて、全国の銘菓を多くの方々に知っていただきたいと考えます」(大塚さん)

「冬」「朝」とシーンを限定すると売り上げに響かないのか

雪見だいふくは「冬にもアイス」という新たな市場を開拓したため、「冬」のイメージが強い商品です。

88年発売のサッポロビール「冬物語」や、97年発売のグリコ「朝食りんごヨーグルト」も、飲食シーンを具体化した点は共通でしょう。これらは当初、「なぜ冬や朝(朝食)と銘打つんだ?」「夏やお昼に、売れないじゃないか」などと揶揄されました。

ところが両者とも、いまや代表的なロングセラーブランドに成長しています。

近年、マーケティングで「エボークトセット(想起集合)」という言葉をよく耳にします。

「アイスを食べよう」や「ビールを飲もう」と考えた際に想起するブランドの集合体で、早稲田大学の恩藏直人理事らの研究では、消費者が「アイス」や「ビール」という1つのカテゴリーでイメージするブランドは、2個以下しかないことが分かっています。

ところが、カテゴリーに別の視点が加われば、必ずしも全体の上位2位までに入らなくてもいい。まさに、その視点の1つが「冬」や「朝」といったシーンの提示でしょう。

今では春夏の売り上げが全体の4割を占める

シーンは、後から広げることも可能です。たとえば、朝食りんごヨーグルトは、17年の4月に「夜食りんごヨーグルトを発売する」というウソ(エープリルフールネタ)を発表。翌18年4月に、パッケージの「朝」の文字が、(特殊インク効果で)暗闇で「夜」に変わる商品を限定発売しました。これが「夜食でもイケるらしい」などと口コミを呼び、「夜にも」との新たなイメージを付加したのです。

雪見だいふくも18年以降は、秋冬だけでなく“通年”で味わえる商品になりました。22年7月現在、春夏の売り上げが全体の4割を占めるとのこと。ただそれは、他に先駆けて「冬にもアイス」の市場を開拓したからこそでしょう。

シーンを具体化するのは勇気が要ります。ですが、いち早くそこに踏み出したブランドこそが、長年多くの人に想起され、愛されるブランドになり得るのではないでしょうか。