月曜日ではないのに月曜日並みに気分が重いときはどうしたらいいのか。両足院・副住職の伊藤東凌さんは「ぼんやり過ごしていると、人はネガティブなことに注意が向かい、記憶にも残りがちです。積極的にポジティブなことをすくいとる練習をする必要があります」という――。

なぜ、月曜日じゃないのに月曜日のような気分なのか

月曜日じゃないのに、月曜日のように疲れてしまう、モヤモヤしてしまう、やる気が出ないというのは、先のことを「ぼんやりととらえる」ことが原因なのではないかと考えられます。

両足院 副住職 伊藤東凌さん
撮影=水野真澄
両足院 副住職 伊藤東凌さん

たとえば、今週プレゼンをしなきゃいけない、そのために資料を作って、先方に送って、先方から返ってきたら、こう直して、また送って……、そう考えていくと、やることが多すぎて、今するべきことがわからない、もうしんどい、と気持ちが落ちていってしまう。

でも具体的に、まず手帳を見て、何時から何時まで資料を作り、ここに休憩を入れて、何時に完成させたら、先方に送って、その間にプレゼンの練習を挟んで、と順々にやっていけば、けっこうスッキリするはずです。

ぼーっと過ごしているとネガティブに傾く

そもそも、物事をぼんやりとらえると、不安や焦りにかられて、ネガティブな気持ちに入っていきやすいもの。まず細分化し、きちんと整理する時間を持つことが大切なのです。

脳のしくみからいっても、人間はとかくネガティブなことに意識が向きがちで、また記憶にもとどまりがちです。

以前、コミュニケーションの識者から聞いた話ですが、世界中のほとんどの言語に共通しているのが、感情にまつわる単語は7割がネガティブなものだそうです。つまり勝手に流れてくる言葉に触れていると、7割ぐらいはネガティブな言葉である可能性が高い。だるいな、面倒くさいな、つまらないな……、全部ネガティブですよね。ですから、あえてポジティブなことを拾いにいく工夫が必要なのです。

1日の最後に自分に投げかける3つの問い

ポジティブなことを「拾いにいく」というのは、ひとつの技術です。私自身、ポジティブなことを拾うために、寝る前に今日あったことを振り返り、3つの問いを自分に投げかける習慣を持っています。この3つの問いとは……。

「今日、美しかったものは何だろうか」
「今日、やさしかったものは何だろうか」
「今日、ていねいだったものは何だろうか」

両足院の飛石
撮影=水野真澄

単に「今日はどんなことがあったかな」と漠然と振り返ると、あんなことがあって大変だったな、明日はこうしなきゃ、これもやらないとまずい、と反省や焦りが湧いてきて、ネガティブな気持ちになってしまいます。でも、この3つの問いに絞ると、かなり効果的にポジティブな面を見つけることができるようになります。私はこれを「振り返る技術」と呼び、この3つについて考える時間を持つことを大切にしています。

たとえば「美しかったものは何だろうか」という場合。空を眺めたときに流れていた雲が、なんとも美しかったなあといった自然の美しさがあります。

また人と人の関わりの中で感じることもあります。電車の中で、若者がお年寄りに席を譲っているのを見て、その譲り方が譲られる側に気をつかわせない、いわゆるかっこいい美しい譲り方だな。このような感じで、今日あった美しかったものを思い出します。

「やさしかったものは何だろうか」と振り返った場合。そういえば今朝、駅前でポケットから物を落としたときに拾ってくれた人がいたな、落ちていますよ、と声をかけてくれて、自分だったら、あんなにやさしく声をかけられるかな、ああいうのはいいなと思い起こします。

「ていねいなものは何だろうか」というのは、今日の昼に魚を食べたときに、すごくきれいに身をほぐせたなとか、あの人が本棚に本を戻すときに、本が折れ曲がらないように、すごくていねいに戻していたなとか、本当にささいなことです。

大きなイベントがなくても毎日ワクワクして過ごせる

でも、そういうささいなことに目を向けて、1日を過ごすと1日の輝きが変わります。それが習慣づくと、今度は美しさ、やさしさ、ていねいさに対して、センサーが敏感になり、感度がどんどん増していきます。今日は、どんな美しさ、やさしさ、ていねいさが転がっているのかな、と毎日ワクワクして過ごせるようになるのです。

これは大きなイベントや行事など刺激的なことがあるからワクワクするというのとは、真逆の考え方です。刺激的なことのワクワクは、にわかに起きてすぐに過ぎ去ってしまいます。日常にあるささいなことに対してワクワクできる技術を持つことが大切なのです。

曜日ごとにテーマを設定する

そもそも曜日というのは、古代中国人が万物を観察した結果、木・火・土・金・水の5要素を簡潔にまとめた「陰陽五行説」に基づいているといわれます。

Twitterの共同創業者、ジャック・ドーシー氏は、曜日でテーマを分けているという記事を読んだことがあります。

「1日を意図的に特徴づけていくことが大切」と話す伊藤さん。
「1日を意図的に特徴づけていくことが大切」と話す伊藤さん。(撮影=水野真澄)

月曜日はマネジメントの日、火曜日は製品開発とデザインの日、水曜日はマーケティングや成長、コミュニケーションの日、木曜日は人脈を築く日、金曜日は会社の文化を考える日、そして土曜日は休み、日曜日は戦略だそう。金曜日の「文化」など、週末に向かってだんだん視野が広がっているのが興味深いですね。

ビジネスパーソンの方々も、ぜひそういった曜日ごとのテーマを自分なりにつくることをおすすめします。たとえば月曜日は会議の日、火曜日はインプットの日、水曜日はアウトプットの日……、週の終わりに向けて大きなもののとらえ方ができると、翌週の目標の立て方もスケールの大きなものに変わっていくでしょう。

月曜日は会社から帰ってきたら手料理をする、火曜日は徹底的に掃除をする、水曜日は誰かに手紙を書く、というのもいいですね。

土曜日は自分を大切にする、日曜日は家族と過ごす、と週末は、より大事な部分に目を向けていくのもおすすめです。

つまり漠然と1週間をかたまりとしてとらえるのではなく、1日の中にある、よりよいものをすくいとる習慣を持つこと、また1日ずつを意図的に特徴づけていくことが大切なのです。

月の美しさは自分の手の中にある

ここでひとつの禅語をご紹介しましょう。

「掬水月在手(みずをきくすればつきはてにあり)」

唐の時代の詩人、于良史うりょうしの『春山夜月』という詩に基づいた禅語です。これは水面に映っている月、その水を両手ですくうと、お月さんは手の中にあるという意味です。月は、なかなかたどり着けない遠い存在だけど、実はまんべんなく照らしてくれていて、本当はあらゆる人に平等に届いている。ぱっと水をすくった手のひらには、お月さんが浮かんでいるじゃないか、そういう美しい漢詩です。

両足院の手水鉢
撮影=水野真澄

毎日の幸せや美しさをすくいとることの大切さは、この漢詩のイメージに似ているのではないでしょうか。

実は、この漢詩は

「弄花香満衣(はなをろうすればかおりころもにみつ)」

と対になっています。花を手折ると、花の香りが衣にしみるほど満ちてくるという意味。これも自らの働きかけによって、誰もがその幸せや美しさを感じることができるととらえられますね。

ネガティブなものをポジティブにとらえなおす

ポジティブなところに意識を向ける習慣がつくと、たとえネガティブなものに出合っても、ちょっと俯瞰して、自分なりの角度でポジティブにとらえなおすことができるようになります。いったん受けとめて、これを絶対に変えてやるぞという自信が出てくる。たとえば面倒な仕事や部下の失敗も、自分が成長するチャンス、ととらえなおせるようになるということです。

ぜひ寝る前に自分に3つの問いを投げかける習慣を身に付けてください。毎日の幸せや美しさを感じる度合いが変わってきますよ。