※本稿は、辻秀一『自己肯定感ハラスメント』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
「DX」とともに必要な、もう一つの変革
今の世界に広がる社会課題は、自己肯定感を高めようとする認知脳の暴走によってもたらされたものばかりだと私は考えています。肯定感を高めるために、優劣の優を追い求め、発展と途上では発展を追求し、不便より便利、下より上を得ようとしてきたことが、さまざまな問題を引き起こしてきたのです。
それが格差問題であり、環境問題であり、疾病問題です。「大きくなる」「高くなる」「上になる」などの認知的思考に、地球とともに私たち人類が悲鳴を上げている状況と言っていいでしょう。
比べることや評価の軸だけでなく、存在感を軸に一人ひとりが自分を大事にして、機嫌良く、家族や組織や社会や国を愛して、内側にある思いや目的で生きる社会がやってくれば、次世代の未来はきっともっと明るいに違いありません。
それは、私たち一人ひとりのちょっとした脳の使い方の変革でやってくる世界です。デジタル・トランスフォーメ―ション(DX)が叫ばれています。デジタルを利用した新しい世界への変革です。しかし同時に、「BX」も今これからの時代に必須だと声を大にしてお伝えしたいところです。
非認知脳を磨く「BX」のススメ
「BX」とは、ブレイン・トランスフォーメーション、脳の変革です。これまで認知脳の暴走で現代文明を築いてきた今、その限界に人々がぶち当たっています。その知らせが今起こっているさまざまな社会問題だと言えるでしょう。
世界は社会がつくっています。社会は組織やシステムでできています。組織やシステムは人でできています。そして、人は脳で動いています。
ということは、今の世界は脳の表現であり、脳の作品です。認知脳しか働かせずに行きついた世界が今の社会なのです。
「自己肯定感を高めて満足する」という認知的思考のみでは、限界や課題が多々あります。それを否定しているのではなく、自分と向き合い自身の“ある”を大切にし、まず心を整えて生きるための非認知的脳をもっと磨いていこうという「BX」を推奨します。
SDGsを阻む「認知脳の暴走」
近年、「SDGs」という言葉を耳にする機会がとても増えてきました。「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。SDGs(エス・ディー・ジーズ)と呼びます。SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193カ国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。どんな目標なのか見てみましょう。
②飢餓をゼロに
③すべての人に健康と福祉を
④質の高い教育をみんなに
⑤ジェンダー平等を実現しよう
⑥安全な水とトイレを世界中に
⑦エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
⑧働きがいも経済成長も
⑨産業と技術革新の基盤をつくろう
⑩人や国の不平等をなくそう
⑪住み続けられるまちづくりを
⑫つくる責任、つかう責任
⑬気候変動に具体的な対策を
⑭海の豊かさを守ろう
⑮陸の豊かさも守ろう
⑯平和と公正をすべての人に
⑰パートナーシップで目標を達成しよう
以上の17項目になります。
これは認知脳だけでは実現しにくい課題です。自己肯定感的な思考と仕組みの先に、これらの目標は持続不可能ではないかと容易に想像できます。それはそうです。その背景には、これらの目標となる社会課題を、認知脳の暴走によりつくられてきたということがあるのですから。非認知脳による思考を磨いて、世界中の人が自己存在感を持って、自分と心を大事にしていければ、これらのSDGsの17項目の改善につながると、私は確信します。
見せかけのSDGsで、社会は変わらない
逆に、今の認知的な脳の発展では決してSDGsは実現することはないのです。
だからこそ、SDGsの実現には、人類のBXが大事になってきます。
肯定感を維持するために認知脳を暴走させている人たちも、一方で否定感で苦しんでいる人たちも、みんなが視点を変えて「自己存在感」の生き方を持てれば、自分も幸せで、そんな人たちの集まる組織「社会や地球」は、持続可能な成長を遂げていくに違いありません。
真のSDGsの実現には、必ずと言っていいほど私たちが非認知的な脳を育み、BXの先にしかありません。見せかけのSDGsを認知的に目指し実行していても、社会が変わっていくことは不可能なのです。SDGsは、マズローの欲求の最上位に人類が到達して見えてくる景色と言えるでしょう。