働き盛りの女性が知っておくべきがん検診の注意点は何か。千葉徳洲会病院婦人科部長の佐々木寛さんは「職域におけるがん検診は、属する健康保険組合ごとに、検査項目や対象年齢、実施項目が異なり、統一されていないのが実態。精密検査体制も整っていません」という——。
遺伝子研究のイメージ
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職域のがん検診受診率は低い

職場で行われる健診を毎年受けているから大丈夫、と安心していないだろうか。がん検診には職域で行われるものと、市区町村が実施するものがある。がん検診の30〜60%(2016年国民生活基礎調査)が職域で行われているが、職域健診にはさまざまな課題があると婦人科医の佐々木医師は指摘する。

「職域におけるがん検診は労働安全衛生法という法律に基づいて、保険者や企業が福利厚生の一環として実施します。そのため、属する健康保険組合ごとに、検査項目や対象年齢、実施方法が異なり、統一されていないのが実態。精密検査体制も整っておらず、疑わしい場合には、医療機関を受診するようにと、紙でさらりと通知されるだけで、医師による説明はありません。そのため、精密検査を受けない人も多いのが実態です。職域検診ではがん検診自体の受診率の低さも問題視されています。企業側も『がん検診は個人の問題』と、踏み込めないのが現状なのです。

【図表1】事業所における子宮頸がん検診の検査方法(正社員の場合)
正社員の配偶者(非社員)に対するがん検診実施状況においても、検診率は正社員とほぼ同様の結果となっている。(出典=「平成28年度職域におけるがん検診実施状況調査:事業所調査」神奈川県HPより転載)

一方、市区町村が実施するがん検診は厚生労働省所管の『健康増進法』という法律に基づいて行われます。ガイドラインに則った検査項目・対象者・受診間隔で実施され、異常が見つかった場合の精密検査実施率も高い。子宮頸がんの場合、市区町村のがん検診での精密検査実施率は7割超なのに対し、職域でのがん検診では2割程度にとどまっています」

こうした事態を問題視して、厚生労働省は「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を示し、現在は実態把握と精度管理指標の提案に取り組んでいる段階だ。

「特に、働く世代の女性に多い子宮頸がんは、対象年齢の全員がガイドラインに基づいた適切な検診方法で受けるべきです。また、細胞診で異常が認められたら、放置せずに必ず精密検査を受けることが大切になります」

子宮頸がん細胞診は検体採取にブレの少ない「LBC法」を

「海外の多くの国で子宮頸がんの罹患りかん率・死亡率が減少している中で、日本では20〜40代の罹患率・死亡率が増加しています」と佐々木医師。その背景にはワクチン接種率と検診受診率の低さがあると警鐘を鳴らす。

【図表2】50歳以下の若年層における子宮頸がんの死亡率(日本国内)
資料提供=佐々木寛医師

「子宮頸がんの原因は性交渉によって多くの人が一生に一度は感染するヒトパピローマウイルス(HPV)。感染しても9割の人は免疫で排出できるが、残りの1割の人は排除できずに感染が持続します。その中の一部が『異形成』と呼ばれる前がん状態になり、これが数年〜数十年続くと、がんに進行することがあるのです。

女性の健康のコンセプト
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子宮頸がん検診では、こうした異常な細胞の有無を調べますが、従来の細胞診のやり方は問題点が多いことがわかっています。専用ブラシで採取した細胞をスライドガラスに塗りつける従来法だと、ブラシに大部分の細胞が残ってしまうなどのリスクがあります。近年普及してきた液状化検体細胞診(LBC法)では、ブラシを液体保存液に入れてすすぎ、保存液ごと検査に回すので採取した細胞を無駄なく調べられる。同じ検体を使ってHPV検査(ウイルスに感染しているかどうかの検査)の追加検査もできるうえ、患者の負担も少ないため、本来ならば、LBC法で検査すべきなのです」

【図表3】検体採取の実際(LBC法)
資料提供=ホロジックジャパン

アメリカでは9割以上の検査がLBC法で行われているが、日本では一部の施設で導入されているのみだという。

「職域の細胞診は従来、医師ではなく自分で採取する自己採取法で行われている場合が多く、検査法もガイドラインに沿った方法でないことも少なくありません。市区町村の子宮頸がん検診でもLBC法を導入しているのは一部の自治体のみ。検診を受ける施設がLBC法を導入しているかどうかは、今後どこで検診を受けるべきかの一つの判断基準になるでしょう」

大人のHPVワクチン接種に意味があるのか

子宮頸がんに関してはHPVワクチン接種がカギとなる。日本の子宮頸がんワクチンの接種率は欧米に比べて低い。2013年4月より12〜16歳の女子を対象に定期接種化されているが、副反応の問題から「積極的な勧奨」が9年間差し控えられ、接種率は2016年度で0.3%まで低下。今年4月に積極的な勧奨が再開されたばかりだ。

「HPVの型は100種類以上が確認されており、子宮頸がんに関連する『ハイリスク型』と呼ばれるものは14種類です。中でも16型・18型の2つのタイプだけで、子宮頸がんの原因の50〜70%を占めるほど。

海外のHPVワクチンのスタンダードは子宮頸がんの9割を予防できる『9価ワクチン』ですが、日本で定期接種となっているのは16型・18型の感染を防げる『2価』と『4価』のワクチン。海外に比べれば手薄ですが、悪性度の高い16型・18型を予防する意味は大きい。まずは接種率の向上が急務といえます」

子供の予防接種
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性交渉を行う前にワクチンを打つのがもっとも効果的だが、性交渉を経験した後での接種でも一定の効果は見込めるという。

「ウイルスの多くは免疫で排除できますが、その後も再感染する可能性はあるため45歳までは一定の予防効果が確認されています。ただし、すでに感染している場合の治療にはならないので、定期的な子宮頸がん検診が必要です。ハイリスク型のHPVに感染しているかどうかを調べるHPV検査を自己負担で受けることもできます。アメリカでは細胞診・HPV検査ともに陰性なら、検診は5年間隔を推奨しています。

【図表4】たばこの影響
資料提供=佐々木寛医師

また、子宮頸がんは喫煙が高リスク。子宮頸部の粘液からたばこ由来の発ガン性物質が高濃度で検出されます。通常、HPVに感染してがん化する場合10〜20年かかりますが、喫煙者は半分の期間でがん化することがわかっていますから、禁煙を強く勧めます」

50代は子宮体がんの好発年齢。オプション検査で見逃し減に

女性が気をつけたいがんには、子宮体がんや卵巣がんもある。どちらも有効とされる検診法はないというが、子宮頸がん検診を受けるときに経腟超音波検査を併せることがおすすめだそう。

「一般的な子宮頸がん検診に経腟超音波検査は含まれません。実際、人間ドックで毎年子宮頸がん検診を受けていた女性がステージ4の子宮体がんだった例もありました。経腟超音波検査を行うと、小さな子宮筋腫やポリープ、卵巣の腫れの有無や、子宮内膜の厚みがわかり、子宮体がんや卵巣がんの兆候を見つけやすくなります。

子宮体がんは閉経前後から増え始め、早期に不正出血が見られるので異常を感じたらすぐに子宮体がん検査を受けることが大切。卵巣がんについては、子宮内膜症からがんに進展するケースが多いため、子宮内膜症を罹患している人は定期的にフォローしていくことも必要です。子宮体がんも卵巣がんも検診費用はオプションのため自費にはなりますが、子宮頸がん検診の際に経膣超音波検査を一緒に受けておくことをおすすめします。

DNA
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また、早期発見につなげるには、家族歴も重要な情報です。大腸がんと子宮体がんを引き起こす共通遺伝子変異のリンチ症候群や、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)などの遺伝性のがんがあります。近親者にこれらのがん患者が多い場合は、人間ドックを受ける前に医師に相談を。父母だけでなく、伯叔父母、祖父母まで確認しておくといいでしょう」

話題の線虫がん検査の気になる精度は

がん検診以外にも、佐々木医師が勧める女性が受けておくべき検査は以下のとおり。

●脳ドック
頻繁に頭痛がある人、血圧の高い人、近親者に脳出血を患った人がいれば一度受けておくと安心。

●骨密度検診
閉経を迎えたら必ず検査を受けること。大腿だいたい骨と背骨の骨密度を測定するDXA(デキサ)法で正確な数値を計測することが大切。

また、最近では病気のリスクを自宅で簡単に調べられるさまざまなキットも多数発表されている。特に尿1滴で全身15種のがんのスクリーニングができ、がんの早期発見を導くと注目される線虫がん検査の精度はどうなのだろうか。

「線虫がん検診で“リスクが高い”と判定された人の中で、実際にがんが見つかる人は10人に1人程度であることを知っておく必要があります。過度に心配しすぎず、人間ドックや検診を受けるきっかけになればいい。逆に、“リスクが低い”と判定されれば、15種類のがんについてはひとまず安心だと考えることができます。ただし、低リスクだからと、検診を受けなくてもいいわけではありませんので、結果を過信しすぎないことも重要です。

現状ではがんの部位を特定することはできませんが、膵臓すいぞうがんを嗅ぎ分ける遺伝子操作をした線虫による治験がオーストラリアで開始されています。今後期待できる検査であることは間違いないでしょう」

何より大切なのは、「大丈夫」と後回しにせずに定期的にがん検診を受けること。また、受診する機関において必要十分な検査内容が網羅されているかをしっかり確認することも必要だろう。異常が発見されたら必ず専門機関で2次検診を受けて、早期治療につなげる意識と努力が重要だ。