新しい勤務先で、早く活躍できるようになるためには、どうすればよいのでしょうか。転職エージェントの森本千賀子さんは「入社前の準備、入社初日と入社後1カ月の行動が、今後の会社生活を決めると言っても過言ではない」といいます――。
矢印が指すほうへ歩き出す女性の足元
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新しい職場は最初が肝心

まもなく新年度がスタートします。4月から転職先で働き始める方も大勢いらっしゃるでしょう。新しい職場に早くなじみ、力を発揮できるようになるために、ぜひ入社前の今から行動を始めてほしいと思います。新しい職場に行く場合はやはり「最初が肝心」だからです。

入社1~2週間前、入社初日、入社後1カ月、それぞれで、やるべきこと、気を付けるべきことは違います。転職のほか、異動・転勤・出向などで新しい組織に入っていく皆さんも、ぜひ参考にしてみてください。

入社1~2週間前:「この人はひと味違う」と思わせる準備

「期待値」をすり合わせておく

高い評価と期待を受けて中途入社したものの、思うように力を発揮できない方もいらっしゃいます。その要因の一つに、「企業側の期待値とズレている」ことが挙げられます。自分が「こうしたい」と考えていることと、企業側が「こうしてほしい」と考えていることにギャップがあるのです。

面接で話し合っていたとしても、もう一段具体化して、会社が抱えている課題をつかみ、「私は何を求められているのか」を確認しておくことをおすすめします。それを正しくつかんだ上で、自身のこれまでの経験や持っているノウハウから、活かせそうなものを整理しておきましょう。

そして、「ここが足りていない」と気付いたことがあれば、書籍やオンラインセミナーなどで学んでおいてはいかがでしょうか。

特にスタートアップや急拡大中のベンチャー企業などでは、面接から入社までの数カ月の間に戦略や施策が変わることはよくあります。上長や役員と対話の機会を設けてもらう、会議に参加させてもらうなどして、最新の状況を把握しておくといいでしょう。

社内のコミュニケーションツールに参加

社内SNSやチャットツールを使った組織内のコミュニケーションに参加させてもらうのもおすすめです。

投稿まではしなくても、入社後に一緒に働くチームメンバー同士のやりとりを見ているだけで、チーム内の人間関係、コミュニケーションの「お作法」、プロジェクトの進捗状況などをつかむことができます。入社後のキャッチアップがスムーズになります。

入社初日:あっという間に職場に溶け込める自己紹介

「話しかけやすくなる」ネタを提供

皆さん、新しい職場に入るとき、どのように自己紹介をしようと考えているでしょうか。

「はじめまして、○○と申します。先月まで△△社の××部門で□□業務を担当していました。こちらでも□□を担当させていただきます。どうぞよろしくお願いします」

これだけで終えてしまうと、既存メンバーはあなたがどういう人物なのかがわかりません。業務に関する最低限の会話はしても、それ以上の「雑談」が生まれにくい。「距離を置かれたまま、遠巻きにそれとなく観察される」という、居心地が悪い空気になってしまうこともあります。

そこで、自己紹介の場では、雑談のネタになるような自分のプロフィールを伝えてください。例えば……

・家族構成・ペット・趣味・特技・休日の過ごし方・今、はまっているもの(ドラマ・スポーツ・グルメ・レジャーなど)・知識や情報を持っている趣味のジャンル・出身地・出身校・学生時代の部活――など。

それぞれ一言ずつでも構いませんので、なるべく多くの「私はこんな人」ネタを発信しましょう。そうすれば、メンバーたちは自分との共通点・共感ポイントを見つけて、あなたに話しかけやすくなります。

「私も○○県に住んでいたことがある」「あのドラマ、僕も見てます」「お子さん、うちの子と同じ年齢!」「スイーツのお店にくわしいの? おすすめを教えて」といった会話が生まれます。

こうした「共通点」「共感」から雑談が始まると、一気に打ち解けられます。すると、わからないことがあっても気軽に尋ねやすくなり、仕事や組織のルールを早く覚えられるでしょう。

入社後1カ月間:今後の活躍に向けた助走期間

自分からあいさつを

好印象を持たれるため、心の距離を縮めるため、「あいさつ」は大切。ところが、「自分から」進んで挨拶していない人が多く見られます。特に、リーダーやマネジャーなどは、無意識のうちに部下からのあいさつを待つ傾向があります。ぜひ、一人ひとりと目を合わせ、自分から「おはようございます」「お疲れさまです」と声をかけてみてください。

素直に質問する

わからないことがあれば、相手が年下や部下であったとしても、素直に尋ねましょう。リーダーやマネジャークラスとなると、プライドがジャマをして簡単な質問ができないこともあるようです。しかし、その会社では自分は「新人」。謙虚に教えを請いましょう。素直にものを尋ねられる人、真摯しんしな姿勢でアドバイスを聞ける人は、人間関係を早く築くことができ、周囲の協力を得やすいものです。

会社を褒める

新しい職場に入ると、前職にはなかった「いいところ」に気付くことがあると思います。それがささいなことであったとしても、あえて言葉に出して既存メンバーに伝えてください。相手にしてみれば、新しく入ってきた人から褒められると、うれしく感じるものです。特にその会社でしか働いたことがない人は、他社と比較したことがない分、自社の良さに気付いていないこともあるものです。外部の視点からそれを伝えてあげれば、メンバーのモチベーションが上がり、職場が活性化するでしょう。

あなたがリーダー、マネジャーであればメンバーのエンゲージメントが高まることでチーム運営がしやすくなりますし、「自分たちを認めてくれる人」と信頼感も高まります。

率先して雑用を引き受ける

新しい職場では、どうしても勝手がわからず、すぐには「即戦力」になれないこともあります。そこで、最初の期間は、率先して雑用を引き受けてはいかがでしょうか。例えば、「会議で話題になった情報に関するリサーチ」「会議の議事録作成」などです。

キャリアや実績があるにもかかわらず、謙虚な姿勢で雑用を買って出る姿勢は、好印象を持たれますし、むしろ尊敬されるものです。

特に「議事録作成」はおすすめ。各メンバーの意見をとりまとめる作業を通じ、個々の考え方や価値観、メンバー同士の関係性がつかめます。

転職先でひんしゅくを買う行動3つ

転職先企業に入社してまだ間もない頃、「これをやってしまい、人間関係の構築がスムーズにいかなかった」という例をご紹介します。くれぐれも気を付けてください。

ディベートする2人のビジネスマン
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前の会社と比較して指摘する

自分では批判したつもりがなくても、批判と受け取られることがあります。何気なく発する一言にも注意してください。例えば、

「このデータの処理、まだ手作業でやっているんですね」
「このソフト、バージョンが古いんですね」
「まだメールが中心なんですね。私が前にいた会社はSlackでやりとりしていました」

既存メンバーにしてみれば、ばかにされたように感じ、ムッとしてしまうこともあります。特に、職場によってデジタル化のレベルはさまざまです。遅れていると感じても、それを口に出すのは控えてください。

職場になじんだ頃に、「こういうツールを導入すると、効率化できますよ」と、提案しましょう。

前の会社の“言語”を持ち込む

IT活用度と同様、「使用言語」も企業によってさまざまです。

注意したいのは、「アジェンダ」「アサイン」「ジョイン」「コミット」「エビデンス」「スケール」「フィジビリ」といったカタカナビジネス用語。前の会社では日常的に、皆がごく当たり前に使っていた言葉も、新しい会社では違和感を抱かれることもあります。「知らない言語を使う人」は、距離を感じられたり身構えられたりしてしまいます。

転職先企業のメンバー同士の会話を観察して、「言語文化」に早くなじむことを意識してください。

アウトプット(成果)を焦る

転職先で、早く成果を挙げて認められたいと考えるのは当然のこと。しかし、成果を焦った結果、自分を苦しい立場に追い込んでしまうケースが多々あります。

例えば、面接で役員から「業務変革を任せたい」「新たな仕組みをつくってほしい」などと言われたとします。しかし、必ずしも現場がそれを望んでいるとは限りません。入社後早々に「改善」「変革」に着手した結果、一緒に働くメンバーからの抵抗に遭い、孤立してしまった……ということはよくあります。

「私の知識・ノウハウを導入すれば、組織に貢献できる」と自信を持っていたとしても、入社して間もない頃は、その職場の既存のやり方をそのまま受け入れましょう。非効率に見えても、その方法をとっているのには、何らかの事情があることも多いものです。背景を理解した上で、そしてメンバーとの信頼関係を築いた上で、徐々に提案をしていくことをおすすめします。

同じ業務でも、会社によって「作法」「型」「スピード」などが異なるものです。いったんはそれを身に付け、その意味や本質を見極めた上で、自身の強みを発揮していきましょう。