育休・時短の未利用者に広がる「不公平感」
第1部の勉強会では、雑誌『プレジデントWOMANプレミア』で掲載した記事を基に、木下明子編集長が育休や時短にまつわる課題を紹介。組織内に漂いがちな「時短ママはズルい」という空気はどこから来るのか、出産・育休後の働き方で生涯賃金はどう変わるのか、記事内で使用したデータを使って解説していきました。
近年は各企業で育休や時短の制度が整備され、出産や育児などのライフイベントを迎えた女性も働き続けやすい環境ができつつあります。ただ、こうした両立制度の利用者が急増する一方で、使っていない人からは不満の声も出始めています。
「女性の同僚が産・育休に入ったため自分が仕事の穴埋めをしているが手当がない」「ノルマや責任が軽い部署に行きたいが時短の人でいっぱいで異動できない」「上司が時短勤務者には厳しい評価をしない」──。
利用者と未利用者の間のあつれきを解消するには、どうすればいいのでしょうか。この点を探るべく、まず編集部で行った調査結果が紹介されました。
調査は制度未利用者で20〜49歳の非管理職が対象。その結果、時短利用者の働き方や制度利用について「自分と比べて不公平だと思う」と考えている人が女性では約26%、男性では約11%にのぼったそうです。
「調査結果からは、女性のほうが圧倒的に不公平感を覚えていることがわかりました。制度利用者に対しては、女性のほうが厳しい目で見ていると言えるでしょう」(木下編集長)
あつれきを解消する3つのカギとは
ただ、こうした不満は、意欲的に働いているとは思えない時短勤務者にのみ向けられている様子。調査結果からは、「不公平だと思う」と答えた人の多くは「意欲的に働いているとは思わない」と感じていることがわかりました。逆に言えば、制度利用者が意欲的に働いていれば不公平感はかなり解消されそうです。
また、不公平感を覚えている人の中には、「時短勤務者が同僚との意思疎通や情報共有を心がけていると思わない」「時短制度について上司から十分な説明があったと思わない」という人も多くいました。
この点も、「利用者がしっかり引き継ぎをして感謝の気持ちを示す、上司が給与が減るなどの時短勤務のデメリットをきちんと説明する、といった行動で解消していけるのでは」と木下編集長。
未利用者の不公平感を解消する上では、上司の姿勢も大きなカギになるようです。調査結果からは、時短勤務者へのサポートを個人個人の配慮に頼っている、特定の人に業務が偏らないよう見直しをしないといった上司があつれきのもとになっていることも明らかに。
加えて、時短勤務者へのサポートや仕事の負荷が増えた場合、昇給やボーナス、人事考課などに反映されるかどうかも重要とのこと。もうひとつ、テレワーク制度が普及している企業では公平感が大きいという結果も出ており、皆が自由な働き方ができているかどうかも不公平感解消のカギになりそうです。
調査概要
インターネットでのアンケート調査(委託先:インテージ)を実施。対象は、過去3年以内に時短勤務者と働いた経験があり、自身は現在両立支援制度を使っていない20~49歳の非管理職、正社員、男女各150人。期間は2020年6月19~22日。
ここまでのデータから、木下編集長は時短勤務者と未利用者のあつれき解決のカギは、①時短勤務者の姿勢、②上司の姿勢、③組織の姿勢の3つにあると結論づけました。
「人事担当者の方々は、時短勤務者や管理職に向けて、①②を意識した指導や研修を行うとよいのではと思います。③については、テレワークはもはや経営戦略のひとつ。ぜひ検討を進めていただきたいと思います」
この勉強会では、出産・育休後の女性の働き方についても言及がありました。本誌でシミュレーションを行った結果(ファイナンシャルプランナー豊田眞弓氏試算)、38年間フルタイム勤務を続けた人と、退職し専業主婦を経てパート勤務した人とでは、生涯賃金に1億8000万円以上もの差が出たといいます。
金額はあくまでも目安ですが、ライフイベントを迎えた女性には、退職や時短勤務には金銭的なデメリットもあると知っておいてほしいもの。人事担当者は、こうしたデータを見せて復帰を後押しするのもひとつの手と言えそうです。
両立にかかわる女性の負担を軽減するための策として、家事・育児外注コストの目安も紹介されました。本誌の試算によると、キャリア温存のために必要なベビーシッターや家事代行にかかる合計額は約1033万円とのこと。
「今はこうした外注に対して補助費が出る企業もあると思います。人事担当者の方々は活用を勧めて、育休後のフルタイム復帰を後押ししてあげてください。両立支援の制度は、丁寧な家事育児ではなくキャリアを応援するためのものだと考えて、上手に運用していってほしいと思います」
少人数でのグループディスカッションも実施
続く第2部では、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使って意見交換会および交流会を開催。参加者は5名ずつのグループに分かれ、第1部の勉強会の内容をもとに課題や解決策を話し合いました。
約30分間の話し合いの後、メンバーから出た意見を各グループの代表者が次々と発表。ルーム1では、時短で復職したばかりのメンバーの経験談をきっかけに話が盛り上がったそうです。
「その方は周囲とのあつれきもなく、とてもいい状態で働けているそうです。社員全員が在宅勤務であることと、フォローしてくれる先輩の存在が大きいと。やはり、あつれき解消には職場環境や先輩、ロールモデルの存在が大事だと皆で確認し合いました」
一方で、育児と仕事の両立を目指す女性がロールモデル症候群に陥らないよう配慮することも大事。人事・ダイバーシティ担当者としては、同じ状況にある人同士のネットワークづくりや、意欲ある人がそれぞれの力を発揮できる風土づくりに取り組んでいこうということで意見が一致したそうです。
ルーム2では、時短勤務制度の課題として「本人やその上司に任せすぎになっている会社が多い」という意見が出たそうです。話し合いの結果、制度利用者と未利用者の間に生まれるギスギス感を解消するには、上司のさらに上の上司や人事を含めた周囲のフォローが必要だという結論に。
そのための管理職向け研修などを進めようということで意見が一致し、代表者は「すでにそうした研修を行っている企業の事例も聞けたので、自社に持ち帰って実現を目指したい」と語りました。
ルーム3では、メンバーに大手企業とベンチャー企業の人事担当者がいたことから、それぞれにおけるママ社員の働き方について情報を交換。「女性社員の復帰には男性育休の推進も重要だが、各社とも悩みを抱えていることがわかった」と代表者。自身はベンチャー企業勤務で、自社の取締役が自ら男性育休を取った事例を共有したそうです。
各社の取り組み事例が解決のヒントに
ルーム4では、育児と仕事の両立に関して、各社の現状や課題が話し合われました。本人、上司、総務、D&Iスタッフが一丸となって男性育休100%を目指している会社もあれば、復帰への不安解消のため復帰済みの女性社員と妊娠中の女性社員によるカジュアルなランチ会を開いている会社も。代表者は、こうした事例とともに自社の課題も紹介してくれました。
「復帰した女性社員に管理職を目指すマインドを持ってもらおうと取り組んでいるが、なかなか難しい。結果、昇進スピードに男女差ができてしまっているので、今後も解決を目指していきたいと思います」
ルーム5では、まず女性管理職育成に向けた各社の施策を共有。女性管理職による講演会や若手社員との座談会、横のネットワークづくり、アンコンシャスバイアス研修、管理職の残業削減といった取り組み事例が紹介され、互いに大きな刺激になったといいます。
他に人事担当者ができる取り組みとして、家事代行サービスとの提携や活用推進、フルタイム勤務を続けた場合の金銭的効果を周知するといったアイデアも出たそうです。代表者は「今日の話を参考にしながら、しっかり制度設計をしていきたい」と意気込みを語りました。
周囲のフォロー、ロールモデルの存在、上司の意識改革とそのフォロー、男性の家庭進出、ネットワークづくりや働きやすい風土づくり、テレワークや家事代行サービスの活用──。
ライフイベント後の女性にまつわる課題について、たくさんの解決策が出た意見交換会。少人数のグループに分かれて話し合ったことで、担当者同士の交流も前回よりさらに深まったようです。最後に、木下編集長が参加者の皆さんに向けてこう語りかけました。
「女性活躍を推進するためには、フルタイム勤務に復帰する際の課題解消も重要です。今回話し合っていただいた解決策の実現に向けて、私たちもしっかりお手伝いしていきます」