「今までにないものをつくる」気概に引かれ取引先に転職
思いがけない辞令を受けたのは2021年4月。ビルディング本部の法人営業グループへ異動、しかもグループ長に昇進と知って、気が動転する。
「オフィスビルの営業は当社の中でも歴史ある部署です。経験の長い方たちが多く、初心者である私にグループ長が務まるだろうかと……」
三井不動産で働いて20年。細田さんは契約社員からスタートした。新卒で入った内装デザイン会社で、三井不動産が手がけるららぽーとのリーシングに関わる。そこで同社の商業施設プロジェクトで契約社員を募集すると声をかけられ転職を決意。
「夢があると思いました。新しい商業施設でお店を誘致する仕事に引かれ、今までにないフードコートをつくろうという気概も感じたのです」
ららぽーとの事業はどんどん大きくなった。夢中で働いて8年経つ頃、上司に中途採用があるから受けてみたらと勧められ、総合職に転換した。その後、結婚して第1子を出産。育休から復帰した細田さんに最初の異動があった。日本橋街づくり推進部で、地元と一体になって日本橋再生のプロジェクトに携わることに。
仕事は充実して面白かったが、子育てとの両立が厳しかった。
業務量は増え、保育園へ迎えに行くのは夜8時頃。帰宅すると入浴や家事を片付け、絵本を読み聞かせる暇もなく寝かしつける。夜中も持ち帰った仕事に追われる日々が続いた。
多忙な日々が続いたある日、保育園の先生に言われた言葉
「職場では子どもがいるから仕事が進まないと思われたくなくて、気を張っていました。あるとき保育園の先生に呼び止められ、『お母さん、今すごく忙しいでしょう。子どもは自分を映し出す鏡だから』と。子どもはぐずったり、泣いたりすることが多くなり、私のストレスが伝わっていたのだと気づかされたのです」
ぎりぎりの環境で働き続けることは家族にとって幸せなのだろうか。ひとり悩んでいた細田さんが働き方を変えたのは、2人目の育休後に異動したときだ。シェアオフィス事業の立ち上げに携わり、社員も多拠点にあるワークスペースを利用して空き時間を有効に使えるようになった。
だが、チームリーダーを任され、メンバーをまとめる苦労も経験する。
契約社員や子育て中の人など様々な立場で働く女性たちが多かった。
「私は彼女たちの気持ちもわかります。だからなるべく皆の意見を聞いて、それを反映する。それぞれ得意分野があるので、良いところを伸ばせるように配置して、モチベーションを高めるように心がけました」。そして21年4月、3度目の異動でグループ長になった細田さん。周りのグループ長は全員男性で女性は1人。オフィスビルの営業も初めてなだけに不安は大きかった。
「部下に教えられることがない、頼りにならない自分に落ち込むばかり。チームに迷惑をかけてはいけないと思い、2人の部下に頼みました。『私にはオフィスビル営業の経験がない、どうか助けてほしい』と。正直に伝えて、何でも教えてもらうようにしました」
彼らは年下でも経験が長く、仕事に対する姿勢も厳しかった。「初めは怖い印象でしたが(笑)、優しい気配りをしてくださり、本当に助けていただいています」と細田さん。部のメンバーにも、この2人がとても頑張っていることをアピールし、本人たちにも「ありがとう」とお礼の言葉を欠かさない。
さらに部内で努めたのは「チームの一体感」を育むこと。最初に1人ずつ面談し、何か困っていることや課題を聞いたところ、個々のプレッシャーが大きいことに気づいた。営業職では個人の成績が評価につながるが、それだけを目標にしていると苦しくなる。皆で助け合いながら、チームとして成長していく意識を持ってほしいと考えた。
細田さんも仕事で悩んだときは周りの人に助けられてきた。新規事業の立ち上げの際には、経験豊富な他部署の上司に相談すると、時間をかけて仕事の進め方を指導してくれた。今は自分も他部署から相談を受ければ、全力で尽くす。それは社風にもつながる姿勢だ。
「前向きなチャレンジ精神が根づいていて、新しいことに挑戦する場を与えてくれる。時代の変化に合わせて、会社も変わり続けていくという気概に引かれますね」と細田さん。
グループ長になって半年余り。
「今はまだ転びまくっているので」と苦笑するが、後輩を応援しながら、自身の挑戦もまだ続いている。
三井不動産 ビルディング本部 法人営業二部 法人営業グループ グループ長
2000年に入社。商業施設本部、日本橋街づくり推進部、ビルディング本部ワークスタイル推進部での経験を経て、21年4月より法人営業グループのグループ長に着任。