メルカリではエンジニアの約半数が海外から来たメンバーだ。英語が得意な人と、そうではない人が共に働く環境では、コミュニケーションを効率化する必要がある。メルカリの言語教育専門チームLanguage Education Team(LET)の日本語トレーナーで同チームマネージャーのウィルソン雅代さん、英語トレーナーのジョン・ヴァンソムレンさんに、日本人が言ってしまいがちな「伝わらない英語」について聞いた――。
ビジネスウーマンと黒板
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「ハイテンション」は「大丈夫?」と心配される危険ワード

——前回は日本語を母語としてない人には「伝わりにくい日本語」についてうかがいました。英語を学ぶ日本語話者が使いがちな「伝わらない英語」もあると思います。たとえばどんな例がありますか?

【ジョン・ヴァンソムレンさん(以下、ジョン)】たとえば「チャレンジ」という言葉は、日本語で使われている意味と、英語本来の意味が違います。日本語では「挑戦してみます」という「トライ」の意味で使いますよね。

【ウィルソン雅代さん(以下、ウィルソン)】本来の「チャレンジ」は「解決しなければいけない課題」「大きな挑戦」という意味ですが、日本語では「やってみよう」のように軽い意味合いで使われています。

【ジョン】あと「スマート」も英語では「賢い」という意味なのに、日本語の中では「かっこいい」「スタイリッシュ」という意味で使う人が多い。「チャレンジ」はまだ本来の意味と被る部分があるけれど、「スマート」は全然違います。

たくさん例があって挙げきれませんが、「ハイテンション」もそうですね。「テンション」は英語では「ストレス」の意味。「ハイテンション」と聞くと、ストレスが多いというネガティブな意味になりますが、日本人は「エキサイティング」というポジティブな意味で使うので、コミュニケーション上の問題が起こり得ます。

奇妙に聞こえる「温泉ソムリエ」

——本来の意味を知らず、ぼんやりした理解のまま使っている英語がいかに多いかということですよね。日本語の中に入り込んでいる英単語が、本来の意味から変わってしまっているケースはたくさんありそうです。

【ウィルソン】日本語は、借りてきた外国語を取り込むことが得意な言語。「ズボンにシャツをインする」のように、「する」をつけると動詞化できてしまう。また、「ソムリエ」のように、言葉だけが一人歩きして本来の「ワイン専門の給仕人」という意味から離れ、「温泉ソムリエ」のように不思議な使い方をされている言葉もあります。外国語話者と話して初めて、意味が違うと気づくのです。

メルカリの「やさしい日本語」トレーニングでは、「和製英語は本来の意味と違う可能性があり、コミュニケーションに問題が生じることがあります」と伝えています。英語混じりで説明するより、日本語の単語レベルを低くして説明したほうが分かりやすいです。

「すし詰め」=「缶詰のイワシ」

——英語が得意な人に、英語を分かりやすく伝えるトレーニングもされているのですか?

【ウィルソン】はい。難しい英語表現をお題として、やさしい英語に言い換えるということをやってもらっています。そうすると、英語学習者は「これなら分かる」という体験をします。その反応を英語が得意な人に見てもらうと、一番納得感が得られるようです。

——たとえば「すし詰め」のように、日本人は誰でも知っている比喩を直訳してしまって伝わらなかったという話も聞いたことがあります。

【ジョン】英語だと「packed in like sardines」(缶詰のイワシのよう)という表現になりますね。

日本語学習コンセプト
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——イディオムを使いこなすのはハードルが高そう……。

【ウィルソン】知らないと手に負えないので、あまりイディオムは使わないようにと伝えています。だけど、これを「電車に人が多くて、動けない」と簡単な表現に言い換えると絶対に伝わります。

プラクティス「やさしくない英語」「やさしい英語」

——日本語では習慣的に使うものの、英語にすると英語話者がきょとんとしてしまいそうなフレーズも多そうです。

【ウィルソン】謝る必要のない場面で「アイムソーリー」で始めてしまうケースはよくあります。「すみませんが確認させてください」と言いたいところを、英語で「I'm sorry, but~」と始めてしまう。

大事なことはもう一度言う

——英語でプレゼンを行ったり、メールを書いたりする時など、ビジネスの現場で分かりやすく伝えるためのアドバイスをお願いします。

【ウィルソン】「やさしいコミュニケーション」トレーニングでは、「何がしたいのか先に言ってください」と伝えています。たとえば締め切りを変更したい時は、「締め切りを変更したいです」という一番大事なポイントを最初に伝え、次に「新しい納品日は○日」と具体的な話をする。そして最後に大事なことをもう一度言う。この基本を押さえれば、ちゃんと伝わります。

【ジョン】日本語母語話者はソフトに伝えようとしがちですが、はっきり言ってもらえるほうが伝わりやすいですね。

【ウィルソン】私はメルカリの日本語トレーナーになる前、外資系の企業で営業をしていました。そのとき、日本語思考で英語のメールを書くと、相手に何をしてもらいたいのか分からない文章になりがちでした。コミュニケーションを複雑にせず、自分にとっても分かりやすい答えを手に入れるため、相手にイエスかノーかで簡単に答えてもらえる文章になるよう、書く工夫をしていました。

——どのように伝えれば相手が答えやすいか考えることも、やさしいコミュニケーションかもしれません。

【ウィルソン】自分が使っている言葉を、一度俯瞰してみるといいですね。