市販薬の販売を担当してきた薬剤師の久里建人さんは「ダイエット目的で使われる市販薬は薬剤師に相談しながら使ってほしい」と訴えます。何に気を付け、どのように選んだらよいのでしょうか――。

※本稿は、久里建人『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

コロナ禍に薬局でお買い物
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体に合った薬を選ぶ

体重を減らす目的で市販薬を購入する方も多くいらっしゃいます。飲むだけで痩せるような夢の薬はもちろんありませんが、「運動や食事と合わせて、何か少しでもダイエットの足しになるようなものが欲しい」と願うお客さんは多いようです。

ところが、薬剤師たちから睨まれている薬が、まさにこのダイエット目的で使われる市販薬たちです。その理由については後ほど詳しく述べるとして、まずは体重減らしの薬の選び方から説明します(以下、肥満症の改善に効果があるとされる薬を「体重減らしの薬」と呼びます)。

体重減らしの薬を選ぶときには2つのポイントがあります。

1つ目は、「体に合った薬を選ぶこと」です。体重減らしの市販薬はみな漢方薬です。漢方では肥満症をいくつかのタイプに分けて、それぞれ異なる対処法を取るのが正しい使い方とされており、例えば防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)という薬は、食べ過ぎなどによる脂肪太りで、お腹がヘソを中心に盛り上がったハリのある“太鼓腹”の人などに向く薬です。それに対して、水太りと呼ばれるようなぽっちゃりとした体型で、お腹はボテ~ンとしている“カエル腹”の人などに向くのは防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)です。

大ヒット商品「ナイシトール」

体重減らしの漢方薬の中で、おそらく最も売れているのは「ナイシトール」です。「ナイシトール」は、2006年に中高年男性をターゲットとして小林製薬から発売されて以来大ヒット商品となり、今や肥満の市販薬の代名詞と言えるほどの地位を築きました。ただし、「ナイシトール」シリーズの商品は全て防風通聖散なので、ダイエットしたいからといって知名度だけで飛びつくと、体に合わない漢方薬を使ってしまうことになります。

体質ごとに薬を選びやすいのは、クラシエの「コッコアポ」シリーズです。同シリーズでは、肥満のタイプ別に3つの漢方薬を用意しています。漢方薬は専門家に相談しながら選ぶのが基本ではありますが、色々な種類があることを知るには格好のシリーズだといえるでしょう。

同じ成分でも「量」が違う

薬選びの2つ目のポイントは、「成分の量」です。例えば市販の防風通聖散は、「ナイシトール」も含めて複数のメーカーから発売されています。お客さんから「何が違うの?」と聞かれることがありますが、一番の違いはエキスの量です。

例えば「ナイシトール」シリーズには「85a」「Ga」「Za」の3種類の商品がありますが、1日分あたりのエキスの量が「85a」で2500mg、「Ga」で3100mg、「Za」で5000mgと異なります(これらはパッケージをよく見ると記載されています)。エキスの量だけではなく、その原材料となる生薬の量も「85a」<「Ga」<「Za」の順に多いことがわかります。

市販薬で最も防風通聖散のエキス量が多い商品は何かと言うと、私が知る限りでは1日分あたり6000mgの商品(クラシエの「防風通聖散エキスZ錠クラシエ」など)です。ところが、外箱にも「6000mg」と大きく書かれているものの、成分表にある「生薬の量」をよく見ると、エキス量が5000mgと少ないはずの「ナイシトールZa」は総量28gで、クラシエは総量27.1gであることがわかります。

なぜこのようなことが起きるのかというと、防風通聖散の規格は実は6種類あり、さらに生薬からエキスを作る製法はメーカーによって異なるため、ほとんど同じ種類の生薬を使っていても、出来上がったエキスの量に差が出るのです。

これは医療用でも同じことで、その微妙な差からか、同じ漢方薬でも「××メーカーよりも、○○メーカーの方が効く」という評を時々聞きます。エキス量が多い方が効果が高いかどうかについては、非常に難しい問題です。そうであるという研究もあれば、そうではないという研究もあります。

体重計にのる女性の足元
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防風通聖散は「ダイエット薬」なのか

さて、以上が体重減らしの薬の選び方のポイントですが、これを読んでドラッグストアへ走る前に、知っておくべきことがあります。それは、副作用の問題です。防風通聖散を「ダイエット薬」と表現することには、多くの薬剤師が躊躇します。なぜなら薬剤師は、防風通聖散による副作用が数多く報告されていることを知っているからです。

実は、市販の漢方薬の中で副作用の報告件数が一番多いのが、このダイエット目的の漢方薬なのです。2016年の調査報告によると、2005年度から10年間で厚労省が公表した副作用報告367件のうち、最も多かったのは防風通聖散の110件で、同じくダイエット目的で使われることがある大柴胡湯(だいさいことう)も4番目に多い14件でした。防風通聖散の副作用報告のうち、6割が肝機能異常、2割が肺障害でした。

防風通聖散の副作用

防風通聖散による副作用は、どのように起きるのでしょうか。

一例として2015年の症例報告では、49歳の男性がダイエット目的で市販の防風通聖散を飲み始めたところ、1週間後に発熱と呼吸困難を感じるようになり、入院。医師は薬の副作用による肺障害(薬剤性肺障害)と診断しました。決め手となったのは、男性の過去の副作用歴です。男性はこの8カ月前に病院から体重減量の目的で防風通聖散を処方されており、その時も服用後1カ月で発熱・倦怠感が出たため、自己判断で服用をやめていたのです。

久里建人『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)
久里建人『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)

なぜ、彼は体に合わないとわかっている薬を再び飲んだのでしょうか?

論文では、男性が市販で購入した防風通聖散は製品名が「ナイシトール」というカタカナだったことから、それが過去に服用して副作用の出た漢方と同じ薬であることに気づかず、ウッカリ購入してしまった可能性が指摘されています。

市販薬の中でも使用者が多い防風通聖散の副作用報告が多くなるのは自然なことでもあり、他の漢方薬と比較して特別危険であるとは言えませんが、軽々に使用している人が多いことは否定できません。“ダイエット薬”というどこか軽い響きに導かれて、自己流で飲み続けることは健康を害することになりかねないでしょう。

本当に体重が減らせるのか

肝心要の話として、防風通聖散で体重が減るという科学的根拠はあるのでしょうか。

ネズミを使った実験では、便の量が増えたことや、便に脂肪が多く含まれるようになったことなどが報告されています。人への効果はというと、肥満者120名(BMI≧25)を対象に、防風通聖散を約2カ月飲んだ人たちと、飲んでいない人たちを比べたところ、飲んだ人たちの体重は0.8キログラム減り、飲んでいない人たちは0.1キログラム減ったという報告があります。食事や排便の量だけでもそれくらいは減りますので、これはかなり小さな差であるように思います。

もちろん、これは報告されている試験の一つにすぎず、実際に漢方薬のプロフェッショナルの手によって体重減少に成功した人はいます。ただし、それには高い専門知識を駆使しながら、安全かつ適切な薬を選びながら……という条件がつくでしょう。

選び方にはコツが必要、効果には個人差が大きい、そして副作用の報告が多い。そんな“扱いにくい”薬だからこそ、資格者に相談しながら使って欲しいのがダイエットの薬です。