男尊女卑、差別やセクハラパワハラまみれの“ヘルジャパン”への怒りを書くJJ(熟女)作家のアルテイシアさんが、長年憧れていた女性学研究者の田嶋陽子さんと対談。日本の結婚について、政治について語り合いました――。

※本稿は、アルテイシア『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』(幻冬舎文庫)の一部を再編集したものです。

乾杯する若い男女
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「あんな奴隷制度に入っちゃいけない」

【アルテイシア(以下、アル)】私より下の世代には「自分はもう一生結婚しないだろうから、女同士で暮らしたい」という子が結構います。「女の幸せは結婚出産」という呪いから自由になってる若い子は増えてると思います。

【田嶋】ほおー素晴らしい。あんな奴隷制度に入っちゃいけないよ。入ったってろくなことないから。

【アル】昔の専業主婦なんて、やることが多すぎるじゃないですか。家政婦と保育士と看護師と介護士と娼婦みたいな、そんなマルチタスクを一人でやって。

【田嶋】しかもタダ。

【アル】それらを外注しようと思ったら、月100万ぐらい払わないといけないと思うんですよ。

【田嶋】そうよ。結局、結婚は男のためのものだし、戦後以来、高度経済成長を成功させるために、男1人に女1人をくっつけたわけよ。それで男性中心のマスコミが「女の幸せは結婚」って宣伝し続けて、みんなそれに洗脳されて専業主婦になっていって。私、ときどき思うんだけど、あの頃に専業主婦やってた人たちみんなに、「金配れ」って。老後が貧乏な女の人たちは、今、たくさんいる。

【アル】2億円ぐらい配ってほしいですね、ちゃんと個人の口座に振り込んで。私の母もテレビで桂ざこば師匠が「専業主婦は家で気楽に料理して洗濯して、いいご身分やないか」と言った時に「ふざけるな!」ってブチ切れてたんですよ。

【田嶋】そうだったの! いいねぇ!

【アル】母もほんとは自分が奴隷だって気づいてたんですよね。自我はあるのに自立できない地獄を生きてたんだと思います。

女性の政治家が少なすぎる

【田嶋】それこそ子どもを抱えるシングルマザーなんてどれだけ大変か。国はそういう人たちにお金出さなきゃね。こんなコロナ禍でオリンピックなんてやってる場合じゃないよ。

【アル】ほんとそうですよ、政治があまりにクソすぎる。

【田嶋】自民党の年輩の女性議員が20年以上性教育に反対したり、いまだに夫婦別姓に反対したり、LGBTの法案に反対したり、びっくりだよね。

【アル】びっくりです。ああいう女版トランプみたいな人って、どうして生まれるんでしょう。

【田嶋】一つは小選挙区制になって、議員が入れ替わりにくくなったこと。それと、男社会では、女は二級市民だから(ボーヴォワールも言っているように)、一級市民の期待を生きないといけない。そこで男社会の価値観を内面化した女たちは、女らしさを演じながら、男の期待する役割を果たす。それが私の母であり、あなたのお母さまであり、国会議員になった女性たちなんだと思う。

【アル】そもそも女性の政治家が少なすぎるのが問題ですよね。

【田嶋】そのとおり! 女性議員が少ないから、嫌でも男社会に迎合せざるをえない。少なくとも女性議員の数が30%くらいに増えたら、そういう女性たちもコロッと変わって、堂々と自分なりの意見を言える元気が出るはず。女性議員の数を増やすことで世の中は変わっていくんだから、みんなで選挙には行かないとダメ!

来世はスウェーデンに生まれたくなる

【アル】海外ではクオータ制を導入して女性議員がどんどん増えてるのに、日本は置いてきぼりですよね。政治家が堂々とLGBT差別発言をして処分もされないとか。

【田嶋】最悪だよね。

【アル】最悪ですよね。スウェーデン在住の女友達から聞いたんですが、スウェーデンでは学校でも職場でも、人種差別やジェンダー差別的な発言をしたら処罰されるそうです。個人のモラルだけに頼るんじゃなく、ちゃんと罰則を作ってる。日本とのあまりの違いに、来世はスウェーデンに生まれたくなりました。

【田嶋】でもね、最初は違ったわけよ。スウェーデンやノルウェーやアイスランドも、昔は男の政治家や大臣ばっかりだったけど、全部自分たちで変えたんですよ。きちんと骨の髄まで民主主義を学んで、ジェンダー学んで。学校で教えてるでしょ。

【アル】スウェーデンでは保育園から人権教育やジェンダー教育をして、民主主義の根本を教えるそうです。

【田嶋】その努力を日本はしてないでしょ。日本の民主主義は戦後に与えられたもので、自分たちで努力して勝ち取ったものじゃない、というのが言い訳だけど、それにしても、もう戦後75年以上たっているんだから、自分たちでなんとかしないと。ジェンダー問題だってそう。

【アル】たしかに……。医大の不正入試があった時に「韓国だったら何十倍の規模でデモになってるよ」と韓国人の知人に言われました。

怒りは政治にぶつけなきゃ

【田嶋】私に言わせれば、フェミニズムは、人間であることを忘れた人間が元の人間に戻るだけ。そのうえで女も男も住みやすい新しい社会を作る、それだけのことなんですよ。生まれた時に私たちは人間だったのに、女は女らしくと育てられて、男に便利な女というものに作られていっちゃったわけ。だからフェミニズムというのは、人間本来の存在に戻るための手段みたいなもの。

【アル】私は中高と女子校だったんですが、男のいない世界では「ただの人間」でいられました。そこから共学の大学に進んで、男尊女卑に殴られました。女子校では「堂々と意見を言おう」と学んだけど、大学で堂々と意見を言うと「女のくせに生意気だ」と叩かれて。

【田嶋】ひどいなあ。なんだおまえら、穴と袋のくせに生意気言いやがってって、そういうことでしょ? いっちょまえの口きいて、みたいな。

【アル】穴と袋に言葉はいらないってことですよね。そういうこと言う男子って、わりと男子校出身が多かったんですよ。だから今思うと、女子校はホモソーシャルからの避難所で、男子校はホモソーシャルの養成所なのかなと。男性が集まるとホモソーシャルの圧がすごく強くなりますよね。

【田嶋】うーん。ただ、中高生になる前に、その人たちは家庭や学校で作られちゃっているんだよね。だから女子校、男子校に入った段階では、ある意味、男社会のミニチュアを生きることになる。もう遅い。先にジェンダー教育とかがないと。

【アル】先生はずっとテレビで発言されてましたけど、いまだに芸能人が政治批判すると「芸能人が政治を語るな」とバッシングされるんですよ。特に女性の歌手やタレントさんが発言すると「ろくにわかってないくせに」とか。

【田嶋】職業差別、女性差別ですね。

女性の投票者のイメージ
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「政治は年寄りのもの」を変えないと

【アル】そもそも芸能人が政治を語るなって言ったら、会社員も学生も主婦も誰も語れないじゃないですか? 国民が意見を言ってそれを反映するのが民主主義なのに、わかってないのはそっちだろって。

アルテイシア『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』(幻冬舎文庫)
アルテイシア『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』(幻冬舎文庫)

【田嶋】だから民主主義はまだ日本に浸透してないってことですよ。50年近く前、イギリスに留学した時に驚いたのは、お父さんが家事や育児をしてよく働くこと。それから、朝ごはんの席で子どもと親が政治のことで侃々諤々かんかんがくがく話してるの。「サッチャーはこう言ってたけど、あれおかしいよね」「でも、ここはこうじゃない」って小学生、中学生の子たちも政治を語ってるんだよ。日本はそれないでしょ。

【アル】日本の食卓ではあんまりないですよね。

【田嶋】日本では政治は年寄りのおじさんのものでしょ。とにかくそこを変えないと。今回のコロナでハッキリわかったじゃない、政治家がしっかりしないと自分たちが死ぬかもしれないって。家族がそろって政治について語るのが、本当の民主主義ですよ。

とにかく法律を変えること

【アル】先ほどのスウェーデンの友人は娘さんが中学生なんですけど、すごく政治に詳しくて親に教えてくれるそうです。学校でも友達同士で政治の話をよくしてるって。「スウェーデンでは政治を批判することは国民の義務だし、良いことだとされてるよ」と言ってました。

【田嶋】それだよ、そこだよ。やっぱり小学校の時からの教育が大事。それができる先生とカリキュラムが必要だよね。まずは、ジェンダーフリー教育をもっとしっかりやらないと。このまんまだと、日本の女性も男性も人間として、自立しにくいんじゃないかな。

【アル】もうすぐ沈没しますよね。タイタニックなヘルジャパン。

【田嶋】選択的夫婦別姓だって民法を変えなきゃダメ。若い女の人、生き生きした女の人たちがみんな一斉に反対してごらん、きっと変わるよ。怒りはね、政府にぶつけなきゃ!

【アル】今はSNSを使った新しいフェミニズム、第4波フェミニズムと呼ばれてますけど、森喜朗氏の女性蔑視発言にもSNSなどで署名が大量に集まって辞任に至りましたよね。

【田嶋】そうそう。今の若い女の人たち、みんな、怒りは喉元まできている。権利意識も自分たちの誇りも満ち満ちている。あとは行動だよね、SNSを駆使して世論を盛り上げれば、法律を変えることは可能。そうやって政治に参加することで、自分たちの生きやすい社会は作れるはず。「自分の1票なんか」と卑下しない。自己評価を高く持って、自分の1票が世の中を変えるという信念を持つことが大事だと思う。とにかく法律を変えるっていうことは非常に大事。