女性学研究者の田嶋陽子さんは1990年代、テレビ番組『ビートたけしのTVタックル』で男性出演者たちと激しい議論を繰り広げて注目を集めました。「フェミニズムに出会って自分を取り戻せた」という作家のアルテイシアさんと田嶋さんが、フェミニズムについて、男性中心のマスコミについて、語り合いました――。

※本稿は、アルテイシア『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』(幻冬舎文庫)の一部を再編集したものです。

現代のビジネスウーマン
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ハイヒール履きたかったら履けばいい

【アルテイシア(以下、アル)】田嶋先生の魅力を語ってもいいですか(笑)。永遠に語れますけど、ひとつは自分の経験や苦しみをさらけ出して書いてくれてること。フェミニズムというとアカデミックな本が多い印象だったんですが、自分の魂の声で書かれてるところが刺さりました。

もうひとつは、ものすごく自由なところ。『エトセトラVOL.2 We LOVE 田嶋陽子!』で柚木麻子さんも書かれてましたけど、『ビートたけしのTVタックル』でジュリアナ東京を取り上げた時に、男性陣がパンツが見えてるとか、恥ずかしくないのかとか言ってる横で、田嶋先生が「いいよね、私はカッコいいと思う。私がもし若くて、こんなに綺麗だったら、こういう格好をして同じように踊りたい。踊っちゃうよー」と明るくキッパリおっしゃった。「女が好きな格好をして好きに楽しんで何が悪い」とあの時代から発信してくれていた。田嶋先生の言葉には自由、主体性、多様性を感じて、そこがほんとに大好きでした。

【田嶋】フェミニストは自分の責任でハイヒール履きたかったら履けばいい。で、苦しかったらよせばいい。その自由があることが大事。

【アル】田嶋先生は「フェミニストはこうあるべき」みたいな押しつけがないですよね。そのおかげで、フェミニズムは女性を自由にするものなんだ、女性が自由に選択できる社会を目指すものなんだ、と素直に思えたんです。

【田嶋】その気持ち、すごく大切だね。

「田嶋さんに謝っといてくれ」

【アル】ちなみに「TVタックル」で共演されていた男性陣は本当に男尊女卑なのか、演出としてやっていたのか、どっちなんでしょう?

【田嶋】あのね、野坂昭如さんていたじゃない。あの人はそんなにもののわからない人じゃないのね。彼の奥さんのシャンソン仲間を通して聞いた話なんだけど、「田嶋さんに悪かった」と言っていたって。それから石原慎太郎さんなんか、私の話も聞かないでめちゃくちゃなことを言ってたんだけど、あとで人を通じて阿川さんに「田嶋さんに謝っといてくれ」だって。

【アル】自分で謝れよ、ですよね。

【田嶋】ほんとそうよ。ただ男たちはみんな、自分たちに都合のいい既得権を守ろうとするからね。舛添要一さんだって、私に議論で負けそうになるとブスって言ったんだよ。だから私はハゲって言ってやったのね(笑)。そのハゲ発言がいつまでもみんなの印象に残ってるみたい。

【アル】向こうが先にブスって言ったのに。

いいおじさんの多くは女性差別主義者

【田嶋】でもこの前『そこまで言って委員会NP』で会った時なんか、平身低頭よ。すごくいい人になっていて……。

【アル】いい人になってるんですか。

【田嶋】もともといい人なんだろうけどね。男性のいい人は、うっかりそのまま生きてると女性差別主義者なのよ。だって男は1番で育てられてきて、女は2番手だと決めた文化の優等生なんだから。普通にいいおじさんの多くは女性差別主義者よ。本人たちはなかなか自覚してないと思うけど。結局は、差別は構造だから。構造だということは、社会の、文化の、隅々にまで行き渡っているということ。例外はないの。

【アル】いまだにテレビ局は女性の役員がゼロとか1人とかですもんね。先生は今よりもっと古臭い男社会だったテレビで闘ってきたんですよね。ひどいバッシングをされて、胃が痛くておかゆしか食べられなかったって。

【田嶋】当時、女の人は人前で怒っちゃいけなかったからね。だから私なんてものすごく嫌われて悪口ばかり書かれたんだけど、それでも頑張ろうと思ったのは、尊敬するフェミニストの駒尺喜美こましゃくきみさんが「テレビは拡声器だから」って言ってくれたから。当時は視聴率1%は100万人と言われていて、「あなたが学者として本を書いても2000部。でもテレビはもっとたくさんの人に届くから」と言われてね。当時、「テレビタックル」は視聴率20%台を取っていたしね。

【アル】先生はたくさんの女性を救ってきたと思います。

ニュースをテレビで観戦
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人前で「田嶋さんのファン」とは言えなかった

【田嶋】ときどき電車の中で女の人がそっと寄って来て「よく言ってくれました」って泣き出したりしてね。でも男の人のいる前では「私、田嶋さんのファンです」とか「よく言ってくれました」とか絶対言わないの。芸能界の女の人でも、隠れてこっそり来て「先生、実はファンなんです」とかね(笑)。

【アル】そんな隠れキリシタンみたいな。

【田嶋】そりゃ男の人の前で私のファンですって名乗りを上げるのは男社会に背くことだから、言えないよね。私はそういうこと全部わかってたから、孤独を感じることは一切なくて、「ああ、みんな頑張ってるんだ」と思っていた。

【アル】優しい……。今はSNSで田嶋先生のファンだって公言できるし、この本おすすめ! とかシェアできますよね。そうやって声を上げても直接殴られない場所、匿名でもフェミニストとして発信できる場所ができたことは大きいですよね。

【田嶋】ああ、なるほどね。私自身はめちゃくちゃに誹謗中傷されたけど、なかにはそうやってちゃんと受け取ってくれた人もいた。一粒の麦じゃないけど、それだけでいいと思うの。ちょっとぐらい苦労しても、ありがたかったなぁと思うよ。

男だって変わっていく

【田嶋】当時テレビを見た男の人はみんな私のことが大嫌いだった。でもね、今はあなたのように40代ぐらいの男の人が嬉しいことを言ってくれるの。この前も銀座のカレー屋さんで男の人が来て「子どもの頃、先生のテレビを親と一緒に見てました。すごく勉強させてもらいました」って。あと「大人になって先生の言ってた意味がわかりました」とかね。

アルテイシア『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』(幻冬舎文庫)
アルテイシア『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』(幻冬舎文庫)

【アル】嬉しい……! そういう明るい変化もありますよね。たとえば子育てにちゃんと関わる男性が増えたりとか。友人の兄は、もともとあだ名が男尊女卑丸というぐらい男尊女卑だったんですよ。でも今は娘2人を育てていて、医大の不正入試の件でめちゃめちゃ怒ってたって。「このままじゃダメだ、日本を変えないと」みたいな。超手のひら返しだけど(笑)、そういう手のひらはどんどん返してほしいです。

【田嶋】ああ、いいねえ。やっぱりそういう人を見ると人間を信じられるよね。それが一貫してくれるといいね、自分の娘のことだけじゃなくて。

【アル】すべての問題はつながってるってことですよね。

【田嶋】そういうこと。ところが、そのお父さんが不正入試に怒る一方で、娘さんには女らしくしろと言って、青信号と赤信号を一緒に出していたら、娘さんは私のように苦しむことになると思うよ。そんな苦しみは誰にもしてほしくない。

【アル】進みながら止まれって、無理なトンチですよね。これからの子どもたちのために、私たちの世代が頑張らなきゃと思います。たとえば大学生にはジェンダーの授業が大人気で、今の若者はジェンダー意識が高いんですよ。

【田嶋】素晴らしい。

若者が社会で潰されないように

【アル】私たちの役割は、そういう子たちが社会に出た時、潰されないように、ちゃんと盾になること。上には石原慎太郎みたいな人がいるわけじゃないですか。慎太郎みたいなおじいさんは変わらないから、その間にいる中年が盾になって守らなきゃいけない。そのために男社会に迎合するんじゃなく、抵抗していくぞ! と思います。

【田嶋】あなたのような人が先輩にいれば、若い人たちはどんなに心強いか。

【アル】私にとっては田嶋先生が心強い先輩でありお手本でした。先生の言葉で大好きなのが「フェミニズムなんて言葉を知らない人でも、フェミニズムの生き方をしている人もいる。勉強した長さじゃないの。その人がどうありたいかなの。だからフェミニズムで人を差別しちゃいけないし、されてもいけない」。

【田嶋】そのとおりよ。社会の片隅にひっそり暮らすおばあちゃんがね、まったきフェミニストだったりすることがあるわけよ。それは教えられなくても人間が生まれながらに持っている人権意識を生きた結果だよね。

【アル】私は大学で女性学とか学んだわけじゃないし……と思ってたけど、フェミニズムって生き方なんだと思いました。

【田嶋】勉強も大事だけれど、自分を見つめる力だよね。だって人から与えられた思想を生きるってことは、そうすべきだとか、自分をそこに合わせることでしょ? それは違うんだよね。私は失った自分を取り戻したくて一生懸命生きてきた、書いてきた、考えてきたと思う。

【アル】うおお……励まされます(涙)。めっちゃ元気が出ました。

【田嶋】ありがとう。

【アル】憧れの先輩に会えてお礼も言えたし、私も一生懸命生きて書いて考えて、長生きしたいです!