「30代以下のみが住む都市を全国に数カ所つくるべきだ」。社会の老化を危惧し続けている人口減少対策総合研究所理事長の河合雅司さんは、そう提案する。河合さんのユースシティ構想の詳細に迫る――。

※本稿は、河合雅司『未来のドリル コロナが見せた日本の弱点』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

人通りのまばらな銀座の街を両手を広げて自由に歩く女性
写真=iStock.com/monzenmachi
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私が考える「ユースシティ構想」

私は『未来の地図帳』(講談社現代新書)において、各地に人口を集積させた「王国」を建設するよう提言したが、30代以下の若者たちの「王国」づくりもまた、日本を救う切り札となるかもしれない。「30代以下のみが住む都市」の建設だ。

人口規模は、5万~10万人程度を想定している。こうした「ユースシティ(Youth city)」を全国に数カ所建設するのである。

総人口に占める若い世代の割合が年々少なくなっていくからこそ、若い世代は塊をつくることで存在感をアップする必要がある。若者を散り散りにしてはならない。

ユースシティ構想の最大の目的は、若い世代が「社会の老化」の波に呑み込まれないようにすることにある。

いわば、超高齢社会における「出島」である。といっても、住民をここに缶詰めにしようということではない。ユースシティの外との往来は自由である。対象外の年齢の人が訪問するのも支障はない。住民の年齢に上限を設けるだけである。

ユースシティは、30代以下限定の都市なので、40歳の誕生日を迎えたら引っ越して出ていかなければならない。そこで、どこかの地方自治体をユースシティとして作り変えるのではなく、多くの民間企業の共同出資による運営会社を設立して建設し、運営管理もその運営会社が担う形とする。

民有地に建つ“民間物件”となるので、入居者に条件をつけても問題は生じない。

40歳になったら退居を要請するので原則として賃貸とし、個別契約で年齢制限を設けることとする。企業が社宅のような形で補助することを想定している。

既存のものを活かして新たな街づくり

建設地は人里離れた広大な原野に一から建設することは想定していない。また、新たな自治体を作ろうということでもないので、既存の地方自治体の上に、民間の運営によるユースシティが覆いかぶさるように広がる様子を想像してもらいたい。場合によっては、複数の自治体にまたがることもあるだろう。

多摩ニュータウンなどをイメージすれば分かりやすいかもしれない。さまざまな行政サービスは、所在する地方自治体に任せる。既存のニュータウンと異なるのは、住民の年齢に制限があり、将来にわたって「オールドタウン」にはならないことだ。

立地としては、大阪市や名古屋市、福岡市といった政令指定都市の一角でもよい。そうした大都市の近郊で中心市街地にアクセスがよいところも選択肢になりうる。候補地を勝手に想定するならば、東京圏は相模原市や町田市、つくば市あたりだろうか。大阪圏は京田辺市や三田市あたり、名古屋圏ならば一宮市や長久手市といったところが思い浮かぶ。もちろんこれら以外にも魅力的なエリアはいくつもある。

感染症蔓延による行動制限も最小限に

ユースシティで生み出されるさまざまなアイデアやイノベーションの芽、文化、ブームといったものが停滞する日本の起爆剤や起死回生策となるだろう。

中高年の入居を認めないので、新型コロナウイルスのような感染症が再び蔓延することになったとしても、ユースシティ内にいる限りは、行動の制限をそれほど受けることにはならないだろう。

感染症に対する“シェルター”の役割を果たすことにもなる。

感染症は今後も幾度となく日本を襲うことが予想される。そのたびに若い世代の行動に制限がかかったのでは、日本社会の衰退は早まるばかりだ。

マスクを着用して出勤する若い女性
写真=iStock.com/monzenmachi
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ポイントは、単に集まり住むだけでなく、住民同士のコミュニケーションが進むよう交流の場を仕掛け、機会を設けることである。

すでに個々の企業レベルでは、異業種が集まって多くの大企業の若手・中堅有志社員が業種の垣根を越えて草の根の活動として交流する「ONE JAPAN」のような組織も登場している。

いくつかの企業が共同で社宅を運営して人脈の拡大を図る事例も見られるが、これを「都市」として大規模に行おうということだ。

時おり集まるのでなく、アクティブな年齢層が生活をともにすることになれば、日本社会に与えるインパクトは桁違いに大きくなる。若い世代が寄り集まるので、独身者にとっては生涯の伴侶が見つかることになるかもしれない。

イノベーションの源泉

出資する企業のメリットも大きい。若手社員が異分野の若手と交流する場として活用できるだけでなく、若い世代の消費動向やニーズに関するデータを収集することが可能となる。

トヨタ自動車が、静岡県裾野市にあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」(Woven City)の建設を進めているが、各社の新商品や新製品を使ったハイテクな実験都市としての要素が加味されたならば、イノベーションは進みやすくなり、新たなカルチャーの発信基地となる。新たな成長産業も生まれよう。

若い世代が集まっているので、ユースシティに進出する店舗は多いだろう。子供の数も他エリアと比べれば多くなるので、子供向けのサービスや商品を扱う企業も多くなるだろう。医療機関も産科や小児科が進出しよう。アンテナショップの出店も想定される。

中高年の「しがらみ」に縛られないために

ユースシティに暮らす人は、原則、ユースシティ内で仕事をする。

テレワークで本社などとつながって仕事をするのでもよい。出資する企業が30代以下だけのサテライトオフィスを設ける形でもよい。

河合雅司『未来のドリル コロナが見せた日本の弱点』(講談社現代新書)
河合雅司『未来のドリル コロナが見せた日本の弱点』(講談社現代新書)

一方、リアル店舗や子供が通う学校の教員などは、できる限り30代以下が望ましいが、難しい業種もあるので年齢制限は設けないこととする。

人口減少社会においてユースシティが求められるのは、一般的に大勢で競い合ったほうが才能は磨かれやすいからだ。少子化の影響で年々若い世代が減っていくと、それがままならなくなるからだ。どの業種や企業も優秀な若者を確保しようと囲い込みに走るため、さらに若い世代は分散することになる。これではあらゆる分野で層が薄くなってしまう。

ただでさえ他国に比べて若い世代の比率が低いのに、中高年の「理屈」を押し付けられ、「しがらみ」に縛り付けられたのでは、せっかくの“若さ”が台無しとなる。

若い世代らしいアイデアは、若者同士で自由闊達に意見交換をしたり、率直な考えをぶつけ合ったりすることの中でこそ生まれる。さまざまな分野の若い世代が仕事だけでなく、趣味やプライベートで人間関係を築くこととなれば、彼らが中高年になって以降の大きな人脈、財産ともなるだろう。

「社会の老化」をせき止めるパワースポットづくり

20年後の大学生は今より3割少なくなる。

ユースシティ構想とは違う切り札になり得るのは、ユースシティのコンパクト版ともいうべきアイデアだ。大学の共同キャンパス化である。

大学が密集する東京・御茶ノ水のような「学生街」を、全国各地に創出しようというのである。

若さ溢れる学生たちが社会に与える影響には大きなものがある。しかしながら、総務省の人口推計(2019年10月1日現在)によれば、0歳人口は89万4000人で、20歳(125万5000人)の71.2%だ。

大雑把に見積もって、20年後の大学生は現在より3割少ない水準にまで落ち込むということである。

ハイスピードで少なくなっていく学生たちがバラバラに分かれて学んでいたのでは、“学生らしい若さ”が世の中を動かす力は、人数の減少以上に弱くなっていく。

こうした状況を阻止するには、地域ごとに大学が共同キャンパスを作り、学生たちが恒常的に集まれる機会を提供することだ。それは枯れゆく日本におけるパワースポットとなり、「社会の老化」が進む中での、瑞々しいオアシスという場所となろう。

共同キャンパスがもたらす横のつながり

共同キャンパスは、同じエリア内の大学によって構成する。学生は、入学した大学にかかわらず共同キャンパスに通学するのだ。共同キャンパスの敷地面積にもよるが、例えば1~2年生が共同キャンパス、3~4年生はそれぞれの大学の既存キャンパスに通学するといった形もあり得るだろう。

共同キャンパスでの授業はそれぞれの大学ごとに行うものもあれば、共通授業として行うものがあってもよい。各大学のクラブやサークルの拠点を共同キャンパス内に置けば、1~2年生と3~4年生の交流も図れる。他大学との交流戦や文化コンクールなどの連携も実現しやすくなる。

コロナ禍でオンライン授業が急速に普及したが、遠方の大学に進学した人もこのキャンパスを拠点として授業が受けられるようにすればよい。名古屋市出身で東北の大学に合格した人が、自宅から名古屋市内の共同キャンパスに通って自分の属する東北の大学の授業を受け、サークル活動は名古屋の共同キャンパスにある他大学に所属して行うという使い方だ(遠距離の大学同士のインカレである)。仮に共同キャンパスの利用料を負担したとしても、下宿費用を負担しなくて済むことを考えれば割安であろう。

大学の垣根を超えて連携可能に

このように、共同キャンパスを自由な発想で活用したならば、学生たちは入学した大学にとらわれることなく友人ができる。大学を超えた教員の共同研究拠点ともなる。大学経営を考えても、受験生の人気が高まり募集がしやすくなるだろう。学食や書店なども各大学が共同で施設運営や事務システムの一元化を図ればコスト削減ともなるし、大学間の連携や提携もしやすくなる。

大都市では超高層キャンパスにする手も

共同キャンパスの立地については、政令指定都市や県庁所在地に建設することを想定している。中心市街地の賑わいづくりにも大きく貢献し得るので、各自治体の再開発事業と連携して、なるべく交通の要衝である繁華街周辺に建設することだ。

キャンパスといっても、必ずしも広大な土地を必要とするわけではない。超高層ビルに入居する方式でも十分である。具体的に説明するなら、東京の新宿駅から徒歩5分の距離に、地上28階、地下6階建てという超高層キャンパスを持つ、工学院大学のようなスタイルである。

学生は“日本の未来”である

中心市街地に共同キャンパスができれば、地域の企業や店舗にとってはアルバイトを確保しやすくなるし、学生にとってもアルバイトと授業の両立がしやすくなるメリットがある。美術館など文化施設にもアクセスしやすくなる。オフィス街とも近いので、企業との交流が図れれば、スタートアップ企業をつくる学生が出てくるかもしれない。

学生は新しい消費スタイルの火付け役なので、20歳前後の人が絶えず集まる一大拠点の誕生は企業にとってもビッグチャンスとなるだろう。学生たちの消費を当て込んで、学生向けの商品を扱う店舗が周辺に続々と誕生すれば、地域経済の活性化策ともなろう。

学生は“日本の未来”である。彼らと一体となって街づくりを考えていくことが、老いゆく人口減少日本には極めて重要である。