※本稿は阿部広太郎『それ、勝手な決めつけかもよ? だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
人との別れを「独立記念日」としたら
作家の原田マハさんが、『独立記念日』(PHP文芸文庫)というタイトルの短編集を書かれている。
恋愛や結婚、進路やキャリア、挫折や別れ、病気や大切な人の喪失。
これまで「すべて」だと思っていた世界から、自分の殻を破り、再スタートを切る。
人との別れは、その相手が大切な人であればあるほど、尾を引くし、さみしさは残る。不思議なもので、そのことを「独立記念日」と言い換えたら、少しだけ心の中で響き方は変わる。
下ばかりを見つめていたのが、顔を上げ、次第に空の青さを感じられるような、そんな情景をイメージできる。
かたちの見えない不安や心配事を放置せずに、言葉で居場所を与えてあげる。
それを、日常の中の習慣にできたら、自分で自分の安心をつくれて日々の気持ちが楽になるのではないかと思う。
不安・心配事を言い換える練習
あなたの不安・心配事は何ですか?
それを言い換えてみましょう。
実際にやったワークショップの例を挙げながら……
・現状を前向きに言い換えて解釈する
・未来を、その結果を前向きに想像して解釈する
この2つの解釈方法を書いていく。
「こういう感じか!」とまずは雰囲気をつかんでもらえたら嬉しい。
不安ごとから見つかる“一筋の光”
①現状を前向きに言い換えて解釈する
物事には裏と表がある。
今自分が抱える不安や心配事。
世界のすべてがそれ一色に思えてしまうけれど、そんなことはない。
その逆が必ずある。
カードを裏返すように、違う見方をしたら何があるのか思いを巡らせたい。
一つ目の解釈の仕方は、現状を前向きに言い換えて解釈する方法だ。
たとえば「恋人と別れる」だとこのようになる。
恋人と別れる→それぞれが独り身(ソロ)になる→ソロ活動→独立記念日
「独立記念日」という言葉に惹かれるのは、前向きな解釈がそこにあるからだ。このように、不安や心配事から見つかる一筋の光を、強がりでもいい、探して、見つけて、言葉にしてみよう。
前向きに解釈する言い換え例8つ
それでは、この方法での8つの言い換えを紹介する。
オンライン就活→交通費0円
気持ちがうまく伝えられない→もどかしさの理解者
キャリアの停滞→飛ぶためのしゃがむ時間
STAY HOME→FAR MEETS
下宿かつ自粛のため友達にも会えず独りぼっち→一人じゃない、自分と一緒に暮らしてみよう
他人の目が気になる→セルフプロデュースが上手い
ずっと在宅で肥えてしまった→ぜんぶ包容力になります
「だからこそ」は、現状を前向きにする魔法の言葉
うまいこと言うなと思うのは、その言葉があることで気持ちの方向性が定まる感じがするからだ。
コロナ禍でどこにもなかなか行けずに予定もつくれないもどかしさを「想像の旅路」と言うことで、一冊の本に手が伸びるかもしれないし、映像コンテンツを楽しもうと気持ちを切り替えられるかもしれない。
「STAYHOME」の日々だけど、オンラインにつなげば「FARMEETS」、距離を超えた出会いがつくれるとも言える。
プライベートでも、仕事の現場でも、うまいことを言うのは大切だ。その解釈がやり場のない気持ちに行き先を見つけてくれる。
現状を前向きに解釈する助けになるのは「だからこそ」という接続詞だ。
「今はA、だからこそB」
Aという不安・心配事があった時に、「だからこそ」という接続詞を後につづけてみよう。その言葉が力強く引っ張って、そしてつなげてくれるのは、その真逆にある前向きな現実Bだ。
どうしようかなと思った時こそ、「だからこそ発想」を。
この接続詞を頭の中で泳がせてみてほしい。
チャップリンの名言に重ねると、クローズアップは悲劇だけど違う角度からカメラをのぞけば、もしかしたら良いこともあるかも? という捉え方だ。
次は、チャップリンの言葉通り、ロングショットで見た時にどう言い換えることができるかを紹介していく。
“喜劇王”チャップリンも勧める「俯瞰してみる力」
②未来を、その結果を前向きに想像して解釈する
もう一つの解釈は現状の先にある未来、つまりは結果を想像して解釈するやり方だ。
肩の力を抜いて、先へ先へとポジティブに思いを巡らす。
たとえば「恋人と別れる」だとこのようになる。
恋人と別れる→独り身になる→その先にはきっと新しい出会いの機会が生まれる→「この人だ」と心の底から思える人に出会える→「運命の人と出会うためのステップ」
こんな風に「別れた」からはじまる前向きな未来を想像してみよう。
思考の働かせ方として「その結果、どうなるんだろう?」と、とにかくこの先を考えてみる。不安や心配事が心の中で暴れている時は、その対象にくっついてしまいそうなほど、どんどん近づいてしまうけど、そういう時こそむしろ離れる。
突然ですが、ここでクイズ。
地球上で、もっとも大きな「影」は?
このクイズの答えを知った時、物事を俯瞰して見ることで、いかに新しい見方を獲得できるかを思い知った。
クイズの答えは、「夜」。
太陽が沈んでから、昇るまでの時間。太陽の光が当たらない夜は、地球の影だ。
「どうしよう?」と思う時こそ、ぐぐっと目線を引いてみる。
チャップリンが「ロングショット」と言っているのはきっと「俯瞰して物事を見てみよう」というメッセージでもあると思うのだ。
俯瞰するための8つの言い換え例
この方法における、8つの言い換えを紹介していく。
大学がずっとリモート講義だ→クラスメイトとの待ち合わせが楽しみだ
原稿の〆切を抱えすぎている→たくさんのゴールテープが待っている
もう25歳→25/100
期限付き臨時職員(残り2年)→730日チャレンジ
10年後、私の会社ないかも……→今は会社の新しい未来創成期
色々やりすぎて身になってないかも→今は社会科見学中だ
田舎から上京。都会で生きていけるか不安→シンデレラのプロローグ
こうして未来に引っ張る力がある言葉の連打を受けると、励みになる一方で「強がりでしょ!」と感じる人もいるのではないだろうか。
先に伝えておきたいのは、鬼軍曹のごとく竹刀を振り上げて「前向きに生きよ!」と言いたい訳ではない。
不安や心配事に向き合う時間だって特別だ。そこに浸る時間があることで、味わえる感情だってある。人の痛みを想像できるようになるし、心の機微を捉えられるようになるのだと思う。
未来を向く考え方、選択肢があるのだと知ってもらえたらと僕は思っている。
自分の人生を自由に思い描いてみよう
「だからこそ」に対して、この解釈をする時は「きっと」という一言を頭に思い浮かべよう。決意や確信、強い要望などを表す言葉だ。
「今はA、きっとこの先はB」
今はAという現状だけど、きっとこの先Bが待ち受けていると、自分の心の声を導いてあげる。
紹介した言い換えの例で言うと、「きっと」の先は、金曜日の夜のビールかもしれないし、勤めている会社の勢いのある姿かもしれないし、シンデレラストーリーを駆け上がる自分自身かもしれない。
映画やテレビの主人公は、大変なことや困難が待ち受けていても、なんとかしようとするし、実際なんとかしていく。
自分を物語の主人公だと想像してみる。不安や心配事が生まれたら、むしろそこがドラマのはじまりだ。この先を自由に思い描いてみよう。
なんだかんだ言って、人間はその時々で最良の選択肢を選んで幸せに向かっていく。
そう信じてみるだけでちょっと気分は変わるかもしれない。
言い換えたり、この先を解釈したりすることで、日々の迷いや憂いも、心の引き出しにしまっておけるようになる。そして、この先に見つけた思いは旗となり、そこに向かう目印になる。この考え方が、つらくてもこらえてがんばっているあなたの日々の支えになれたらと思う。