新型コロナワクチンはこれまでのワクチンとどう違うのか、接種が始まれば感染は終息してこれまでの生活に戻れるのか……。ワクチンへの疑問や不安に、日本とアメリカで診療にあたる医師らのチーム「コロワくんサポーターズ」が答えた――。

※本稿は、コロワくんサポーターズ『日米で診療にあたる医師ら10人が総力回答! 新型コロナワクチンQ&A100』(日経メディカル開発)の一部を再編集したものです。

Q. 従来のワクチンと新型コロナワクチンの違いはなんですか?

A. 従来のワクチンは、不活化ワクチンや生ワクチンと呼ばれるものが中心でした。これらのワクチンは、鶏卵などに病原ウイルスそのものを感染させて増やした後に感染力を持たないように不活化したものや、弱毒化して病原性を持たなくしたウイルスを培養して増やしたものから作っていました。このような方法でワクチンを作る場合、ウイルスの大量培養や安全な弱毒化・不活化の条件探索に膨大な時間がかかります。それが、「新型コロナワクチンの開発には早くても5年以上かかるのではないか」と流行当初に指摘されていた理由です。

一方、新型コロナワクチンとして実用化されたmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンの製造では、病原ウイルスそのものは使いません。病原ウイルスの遺伝子情報の一部(RNAやDNA)を用いて、ヒトの体内で病原ウイルスのたんぱく質を作らせて、免疫を誘導する仕組みです。したがって病原ウイルスの大量培養や弱毒化・不活化は不要です。このような特徴の恩恵を受けて、有効性と安全性の確保において大切な臨床試験は省略することなく、開発スタートから1年足らずで新型コロナワクチンを実用化することができたのです。

なお、mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンは、急に出現してくる感染症に対応して素早くワクチンを開発することができ、病原ウイルスの変異への対応力も高い次世代型ワクチンとして期待され、新型コロナウイルス感染症が広がる前から開発が進められていたものです。

Q. 新型コロナワクチンを接種すると、感染していなくてもPCR検査や抗原検査で陽性になることはありますか?

A. いいえ、新型コロナワクチンを接種しても、感染しているかどうかを調べる検査(PCR検査や抗原検査)で間違って陽性になることはありません。検査では、新型コロナウイルスの遺伝子やたんぱく質を見つけようとしますが、それらはワクチンに含まれている遺伝子や、ワクチンの作用で体内で作られるたんぱく質とは異なるからです。一方で、過去に新型コロナウイルスに感染したことがあるかどうかを調べる検査(抗体検査)では、ワクチン接種で体についた免疫が抗体を作るため、陽性になる可能性があります。いずれにせよ、新型コロナワクチン接種を受けたために、新型コロナウイルスに感染していると間違って診断されることはありません。

Q. 新型コロナワクチンで新型コロナの後遺症も治りますか?

A. 新型コロナウイルス感染症から回復後、倦怠感や息切れ、脱毛、気分の落ち込みなど多岐にわたる症状が出て、持続する人がいることが報告されています。現時点では治療法などは確立されておらず、新型コロナワクチンの接種によって長引く症状が改善したり、症状が出にくくなったりするかどうかもまだわかっていません。しかしワクチン接種の広がりによって、後遺症が出る人を減らすことができるのではないかと期待されています。

Q. 新型コロナワクチンの接種が始まったら新型コロナは終息し、以前の生活に戻れますか?

A. ワクチンにより集団免疫を獲得できれば、新型コロナが終息し以前の生活に戻れると考えられますが、それがいつになるのか、現時点では正確には予測できません。

どのくらいの割合の国民がワクチン接種を行えば集団免疫を獲得できるかは、感染症の種類によって異なります。例えば、麻疹では95%、ポリオでは80%の国民がワクチン接種を受ける必要があります。新型コロナウイルスに関しては、理論的には全人口の60~90%がワクチン接種を行えば集団免疫を獲得できると推測されています。しかし集団免疫が獲得できるか否かは、ワクチンの接種率以外にも、既存のワクチンに対して抵抗性のある変異ウイルスが流行するかどうかや、ワクチンの効果がどれくらいの期間持続するかにも影響を受けるため、理論通りにいかない可能性も十分にあるのです。

ワクチン接種に伴い新型コロナの感染拡大の勢いが収まってくれば、外出やイベント開催などの制限緩和が少しずつ進むと予想されます。しかし大多数の国民がワクチン接種を終えるには長い期間を要すると予想され、少なくとも当面は、感染予防策をまったくしなくてよくなるのは難しいと考えられます。

Q. どの会社の新型コロナワクチンが一番効果がありますか?

A. ワクチンの薬事承認にあたっては、有効性や安全性を慎重に審査します。すでに承認を得ているワクチンや、今後承認を得るワクチンは、いずれも一定以上の効果があると認められたということになります。それぞれのワクチンで有効性の数字に違いが見られますが、試験の対象者や時期など条件も異なるので、ワクチンの有効性という点で数字の単純比較はできません。

Q. 新型コロナワクチンは製品によって、高齢者に効きやすい、効きにくいといった違いがあるのですか?

A. 日本で接種されているワクチン、今後承認され接種される予定のワクチンのうち、米ファイザー、米モデルナのワクチンの臨床試験では高齢者に対しても新型コロナウイルス感染症の予防効果があると確認されています。しかし英アストラゼネカのワクチンに関しては、臨床試験の際に高齢者の参加人数が少なく、十分な効果があるかどうかを実証することができませんでした。そのためアストラゼネカのワクチンの高齢者への接種については、各国で判断が分かれています(2021年3月現在)。

世界保健機関(WHO)は3社のワクチンに関して、いずれも高齢者にも十分な効果があるとしていますが、一部の国ではアストラゼネカのワクチンは高齢者を接種対象にしないことを発表しています。日本では、アストラゼネカのワクチンが国内で承認されれば他社のワクチンと同様に高齢者に対しても接種を行う予定ですが、念のため、65歳以上の人にはファイザーのワクチンを優先して使用するという考えも出てきています(2021年3月現在)。

Q. 子どもへの効果が確認されている新型コロナワクチンはありますか?

A. 日本で承認された米ファイザーの新型コロナワクチンは16歳以上が対象となっています。英アストラゼネカ、米モデルナ(※)の新型コロナワクチンは日本では未承認ですが、18歳以上に対して臨床試験が行われています。世界的にも、16歳未満の子どもに対して使用が認められた新型コロナワクチンはまだありません(2021年3月現在)。

※編集部注:米モデルナの新型コロナワクチンは、2021年5月に日本でも承認されています。

コロワくんサポーターズ『日米で診療にあたる医師ら10人が総力回答! 新型コロナワクチンQ&A100』(日経メディカル開発)
コロワくんサポーターズ『日米で診療にあたる医師ら10人が総力回答! 新型コロナワクチンQ&A100』(日経メディカル開発)

ただし接種対象の年齢がこのようになっているのは、まだ臨床試験の結果が出ていないためであり、子どもに対して新型コロナワクチンのリスクが特別に高いからではありません。多くの医薬品やワクチンと同様、新型コロナワクチンでも、まず成人を対象に効果や安全性を確認し、その後に対象の年齢層を下げて、有効量は成人と同じでよいのか、予期せぬ副反応がないかどうかなどに注意しながら試験が行われるのです。

現在、ファイザーは12~15歳を対象とする臨床試験を終了したところで、近く米国で承認申請するとみられます。モデルナは12~17歳、アストラゼネカは6~17歳を対象とする試験を実施中です。さらにファイザーとモデルナは6カ月~11歳を対象とする試験も開始しました。これらの試験結果で安全性や有効性が確認されれば、子どもにも接種対象が広がっていくでしょう。