※本稿は、寺澤 伸洋『40歳でGAFAの部長に転職した僕が20代で学んだ思考法』(KADOKAWA)の一部を抜粋したものです。
「作業ロボット化」させてはならない
この話は僕が隣のチームの新入社員の女性と一緒に仕事をしたときの話です。当時の彼女はあまり仕事の内容自体に興味がないというか、言われたことだけを言われたようにやっていた感じでした。
僕「なんで、このサイトの更新作業をやってるの?」
後輩「やれって言われたからです」
僕「ああ、僕の言う『なんで』っていうのは、『何を目的にして』って意味だったよ。わかりにくい表現でごめん。
ちなみに、このサイトのユーザーはどんな意見を言ってるの?」
後輩「さあ。知りません。それ、私、関係ないですし」
僕「関係なくはないでしょ。このサイトの更新作業なんだから」
後輩「でも、更新しろと言われてるだけなんで」
と、こんな会話が日常茶飯事だったのです。
目的もわからずに手だけ動かしてるなんて、作業ロボットみたいだな。そう思いながらも、隣のチームの話にクビを突っ込むのもなんだし、彼女もいつか変わるかな……と見守っていました。
でも、半年間ほどこの状態が続いたところで、さすがにこのままではダメだと感じ、同じ部署、同年代の同僚とふたりで『後輩を伸ばすぞプロジェクト』を発足したのです。
後輩を育てるルール
このプロジェクトで一番大事なことは、次の要件としました。
【先輩側】絶対に作業だけを依頼しない
後輩に「これをやって」と頼むのは簡単。でも、それだと今までの繰り返しになってしまいます。
だから、絶対に作業だけ頼むことはしない。頼む場合は、たとえ時間がかかっても全体像(背景、意義、やりたいこと、ゴールイメージなど)をちゃんと伝えてから、お願いすることにしました。
【先輩側】すぐに答えを言わない
仕事を依頼するとき、また会議をするときなどはできるだけ後輩に問いかけ、後輩の回答を聞いてからこちらの話をするように意識しました。そうすれば、どこが後輩の理解が足りないところなのか、勘違いしているところなのかを先輩側もきちんと把握でき、正してあげられるようになります。
【後輩側】目的や全体像を理解する前に手を動かさない
新入社員の頃は、先輩に言われたことを何も考えず反射的にやってしまう傾向があります。僕たちはそれが「新入社員の作業ロボット化」の一番の原因だと考え、「目的や全体像がわかるまで絶対に作業に取りかかるな!」と、後輩の耳にタコができそうなくらい言っていました。
【後輩側】わからないことがあるなら、わかるまで聞く
1回聞くだけではわからなかったなんていうのは、新入社員だと当たり前のこと。でも、先輩に何回も同じことを聞きにくい雰囲気の中で、わかったふうな感じで進んでいくこともよくあります。
でも、それは先輩後輩どちらにとっても不幸なこと。
だから、先輩は何回聞かれても怒らずに何度でも答えるし、後輩は何回でも聞いていいっていうルールを作り、「むしろ100%理解できるまで、何回でも聞いてほしい」と伝えました。
2年で見違えた部下
このプロジェクト、20代の頃の僕の上司であるNさんが僕にやってくれたようにコツコツと2年間ほど続けたのですが、結果、どうなったと思いますか。
なんと彼女は、いろいろな指示を他の人から受ける際にも、
「全体像を教えてください」
「それは何のためにやるんですか」
「まずはゴールイメージを合わせましょう」
ってことを自分から言い出すようになったのです。
そしてみんなの意見を合わせるために、ホワイトボードも多用するように。
はじめは形から入ったかもしれませんが、新入社員でも目的や全体像から入る仕事の仕方を2年間続けると、それらがわからないまま仕事をすることが気持ち悪くなるんだなということを実感しました。
別の言い方をすれば、人が成長するとはこういうことなんだと実感したのです。
2~3年で訪れる「反抗期」
ところが、2年でこんな急成長を遂げた彼女も、実はプロジェクト開始から1年ほど経った時期に反抗期が訪れていました。
自分が考えたことに対して先輩から意見されたり、否定されたりすることがイヤでたまらなかったらしいのです。
子育てをしていると2~3歳くらいで自我に目覚め、何でも自分でやりたがって親の手出しを嫌がるイヤイヤ期が訪れます。子どもはそうやって、できないながらも自分でやりながら成長していくのです。
まさに働き出してから2~3年目の若手社員にも同じことが起こったのでした。そのとき、われわれはできるだけ彼女のやり方を見守り、手助けが必要だと思われるときだけ手を出すようにしました。
反抗期は人材育成に欠かせないもの
「自分がこれを知りたい、こう仕事を進めるべきだ」と主張できるようになること。
これが自我の目覚めです。今から振り返ると、社会人2〜3年目にそうした仕事での自我が目覚めるのは自然なことで、そこで自分でやってみて成功するなり、うまくいかない体験をしたからこそ、最終的な成長があったのだと思います。
何も自分の頭で考えることなく、言われたとおりのことを言われたままに何年もやっていたら、社会人としての成長はまったくなかったでしょうから。
新入社員の時期から反抗期、そしてすごく成長した姿を見て、後輩は本当によくがんばってくれたなと思います。
一緒にプロジェクトをやっていた先輩ふたりが今はどちらも近くにいなくなってしまい、これからは彼女自身が新しい誰かを伸ばすプロジェクトを立ち上げる番になるかもしれません。そのときはぜひ、目的や全体像から仕事に向き合うように導いてあげてほしいなと思います。
・教える相手に目的や全体像を把握してもらうように努めること
・教える相手の理解度をきちんと把握し、わかっていないようなら何度でも教えてあげること
・何度でも聞ける環境を作ってあげること
・教える相手に自我が目覚めたら、成長している証拠であること
・教える相手に自我が目覚めたら、できるだけ相手のやり方を尊重し、成功や失敗を自分の手で感じてもらうこと
僕が新入社員に求めること
先日、大学4年生や社外の社会人1年目の人たち数人と一緒に、1つのテーマについて話をする場に呼ばれたのですが、そのときのテーマが「社会人の先輩が新入社員に求めること」でした。
僕「最初に質問! 先輩って、みんなに何をしてもらいたいと思ってると思う?」
彼ら「今までにない新しい視点から会社を変えていってほしい、とかよく言われます」
僕「うーん、よくそういうきれいな言葉を新入社員に言う人がいるけど、何も知らない新入社員がいきなり会社を変えるなんてハッキリ言って難しいよね。もっと具体的に表現してあげないといけないと思う」
彼ら「はい、僕たちもそう言われても、何をどう変えることを期待されているのか、実はあんまりよくわからなくて」
「仕事のゴール」を考えよう
僕「だよね。後輩に求めるものは、もちろん人によって違うと思うけど、今日は僕自身が新入社員のみなさんに求めることを話すね。
僕が求めることは『自分の頭でよく考えて動いてもらいたい』っていうこと。たとえばよく、新入社員が先輩に『次は何をしたらいいですか』って質問してるところを見るけど、僕は正直、それが考えてないように見えて結構イヤなのよ」
彼ら「ええ! そうなんですか。じゃあ、どうすればいいんですか」
僕「うーん、まずは自分のゴールを認識してほしいかな。で、そこから逆算して動いてほしいなって思う。
たとえば、君たちの配属先が営業だとするでしょ? そしたら、何が君たちのゴールになる?」
彼ら「商品を売ることですよね」
僕「そう、君たちのゴールは売ることになるよね。そうしたら、今度は『売る』ことについて、もう少し考えてみよう。ちょっとホワイトボードに書いてみようか。」
僕「一口に『営業』と言っても、業種によってさまざまな営業形態があるよね。じゃあ、君たちがやらなければいけない営業って、一体どういうことなんだろう?」
自分のゴールを深掘りする
誰に売るのか
まず基本的な話として、企業に売るB2Bなのか、個人に売るB2Cなのか。また、どんな業界にアプローチするのか。
そして自分の扱っている商品の既存顧客はどこに、どれくらいいるのか。また、新規ターゲットの獲得のために、どうやってそうした顧客層にリーチしているのか。そして、それは何を見たらわかるのか。
こうしたことをまず知るところから始めないといけない。
何を売るのか
次に、自分の扱っている商品の知識をつけなければいけない。機能は? 特徴は? 値段は? どのようなシーンで使われる? など、知らなければいけないことは山ほどあるはず。じゃあ、その商品知識をつけるにはどうすればいいのか、どんな資料を見ればいいのか。そして、その資料はどこにあるのか。こうしたことを知って初めて商品知識をつけるためのスタートに立つことができるよね。
どのように売るのか
先輩たちは、君たちが入社するずっと前から君たちが扱う商品を売ってきているよね。であれば、君たちがいきなり自分のやり方で売るよりも、百戦錬磨の先輩たちの通ってきた道、今やっていることを知るほうがよっぽど効率的で、効果的だと思わない?
先輩たちはどんな提案書を使って、顧客に提案しているのか。それは、新規顧客と既存顧客では違うのか。その際に、どのようなトークをしているのか。トーク集などはないのか。そして、そうした資料はどこにあるのか。これらを知り、学び、実践していくことで、先輩たちのノウハウを習得することができるようになる。
彼ら「なるほど……」
僕「ね、『売る』という自分のゴールを認識して、『売る』ということをより深く分解してみると、やらなきゃいけないことっていっぱい出てくるでしょ?」
彼ら「はい、ものすごく具体的に見えてきました!」
自分の頭で考えて動けるように
僕「で、細かく分解すると、こんなにいっぱいやることがあるのに、『次は何をしたらいいですか』ってざっくり聞かれたら、すっごく答えにくいんだよね。
先輩たちからすると、『早く業界も知って、顧客分析もして、商品知識もつけて、提案書も作れるようになってほしい!』っていうのが本音で、『できればいちいち言わなくても、自分で考えて動いてくれるようになってほしい!』って思ってるはずだよ。結局、それが一人前になるってことなんだよ。
もし先輩に質問をするなら、『次は何をしたらいいか』ではなく、もっと具体的に『商品Xの知識をもっとつけたいんですけど、どこに資料がありますか』というように聞くといいかな。『ここにあるよ。でも、売れ筋の商品Yを優先的に勉強したほうがいいよ』とか、具体的に教えてもらえるからね。具体的な質問には、具体的な回答が返ってくるから。
こうして自分の仕事を要素分解して細かくしていくと、自分のやるべきことが具体的に見えてきて、自分の頭で考えて動けるようになるでしょ? これが、僕が新入社員のみなさんに求めることかな」
彼ら「なるほど、すごくよくわかりました! ありがとうございます!」
・自分の仕事のゴールを認識すること
・仕事をゴールに向かって要素分解し、自分がやるべきことを明確にすること
・まわりの人に何かを聞くときは、具体的な質問をすること
・具体的な質問をすれば、具体的な回答が返ってくること
・自分の頭で考えて動くこと