育児・介護休業法改正のポイント4つ
一向に進まない男性の育児休業の取得を促す改正育児・介護休業法の今国会での成立が確実となった。
育児休業取得は女性に限らず、男性にも認められた権利だ。育児・介護休業法は「事業主は、労働者からの育児休業の申し出があったときは、育児休業申出を拒むことができない」(6条)と規定している。それでも女性の83.0%が育休を取るのに対し、男性の取得率は7.48%(2019年度「雇用均等基本調査」)にすぎない。
今回の男性の育児休業取得を促す改正のポイントは以下の4つだ。
(2)取得しやすい雇用環境の整備と申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認措置の義務付け
(3)育児休業の分割取得(新制度を除き、2回まで取得可能)
(4)育児休業取得率の公表の義務付け(従業員1001人以上が対象)
夫婦で交互に取得することが可能に
現行の育児休業制度は原則子が1歳になるまで取得できる。それを2つに分けて女性の産後休業中の8週間以内に4週間まで取得可能とするのは明確に男性を意識した制度だ。また、8週間以内に限定して2回の分割取得ができるほか、この期間内については休業中の就業も可能とするなど柔軟な仕組みになっている。
本来、育休中は仕事をしないでしっかりと休むことが基本だが、男性が取得しない理由として「仕事の代替要員がいない」ことを挙げる人が多いことや、自分がいないと仕事が回らないという男性に配慮し、認めることにした。
さらに新制度の出生時育児休業制度を除く育児休業期間については、現行の制度は原則分割することができないが、分割して2回までの取得を可能にした。ということは男性の場合は出生後8週間以内の2回分割に加えて、8週間以降も含めて計4回の分割取得が可能になる。たとえば妻が産後休業の8週間を終えて職場に復帰し、代わって夫が育休を2カ月取得し、その後妻が育休を取得し、さらに妻が職場復帰した後に夫が取得するなど夫婦交代の育児が可能になる。
取得をしぶる夫には発破をかけよう
それでも職場に遠慮して育休を申請しない男性もいるかもしれない。(2)の個別の周知・意向確認措置については、現行制度は努力義務であるが、配偶者が妊娠・出産したことを申し出たときに育休制度を周知し、この制度の取得意向を確認することを義務付ける。周知方法は面談での制度の説明のほか、書面等による制度の情報提供など、複数の選択肢を設け、いずれかを選択することにしている。また、取得意向を確認する際は、育休取得を控えさせるような形での意向確認を認めないことを今後指針に盛り込む。たとえば上司が「君は取らないよね?」などとネガティブな言い方をするのはNGだ。
また、短期はもとより1カ月以上の長期の休業を希望する労働者が希望する期間を取得できるよう事業主が配慮することを指針で示すことにしている。
法律の施行日は、雇用環境の整備と個別の周知・意向確認措置の義務付けが2022年4月1日。出生時育休制度、育休の分割取得は2022年10月ごろを予定している。子どもをつくることを予定にしている人はぜひ活用してほしいし、育休取得をしぶる夫に対して発破をかけてほしい。
制度は世界一なのに韓国より低い取得率
実際のところ、法改正によって男性の育休取得がどれだけ進むのかわからないが、使い勝手がよくなっているのは確かだ。それにしても出生時育児休業制度は男性の産後休業を意識した制度だ。厚生労働省の審議会では、男女共通の権利を定めた育児休業法に男性に限定した特別の制度を設けるのはおかしいという意見もあった。だが、そこまでしないといけないほど日本の男性の育休取得が世界に遅れていることを物語っている。
国連児童基金(ユニセフ)の報告書(2019年6月)によると、OECDまたはEUに加盟する41カ国の中で取得可能な産休・育児休業期間に賃金全額(賃金と比べた給付金額の割合を加味)が支給される日数に換算した結果、日本の男性は30.4週相当で、男性の育児休業制度は第1位にランク。2位の韓国(17.2週)、3位のポルトガル(12.5週)を大きく引き離している。報告書は「父親に6カ月以上の(全額支給換算)有給育児休業期間を設けた制度を整備している唯一の国」と紹介する一方、「2017年に取得した父親は20人に1人」(5.14%)と、取得率の低さを指摘している。同じく低取得率と言及された韓国の17%(2018年)よりさらに低い。
4割の企業で制度が周知されていなかった
制度は充実しているのに男性の育休取得率が低いのは世界から見たら不思議な国だろう。しかも近年は共働き世帯も増加し、育休取得を希望する男性も増えている。
にもかかわらず男性の育休取得を阻んでいるものは何か。連合が未就学の子どもがいる全国の20~59歳の有職者の調査をしている(「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」2020年11月16日発表)。それによると、実際に「取得したかったが、取得できなかった」男性が31.6%もいた。また、育児休業を取得しなかった男性の理由として最も多かったのは「仕事の代替要員がいない」(53.3%)。次いで「収入が減る(所得保障が少ない)」(26.1%)、「取得できる雰囲気が職場にない」(25.6%)、「取得するものではないと思う」(10.4%)、「取得すると昇進・昇給に悪影響が出る」(7.2%)、「仕事のキャリアにブランクができる」(6.7%)と答えている(複数回答)。
収入に関してはユニセフの評価もあるように雇用保険から賃金の67%が育児休業給付金で支給され(180日、以降50%)、非課税で社会保険料も免除されるため手取額ベースで8~9割カバーされる。それ以外では取得したくても育休取得に無理解な企業・職場が多いことを示している。驚くのは「自身の勤め先で育児休業等の制度が周知されていない」との回答が39.4%もあったことだ。
今回の法改正の周知の義務化で改善されることを期待したいが、いずれにしても「男性育休後進国」日本の実態を物語っている。
人事部は改正法を高評価
ところで今回の法改正の内容を企業側はどう見ているのだろうか。大手建設関連会社の人事部長は「従来の法律はあまり柔軟性がなかったが、今回の新制度は産後休暇中の就労を認めており、結構柔軟な仕組みになっている気がする。また、子どもにある程度手がかからなくなれば仕事もできるし、今のコロナ禍であれば自宅でWeb会議も可能になる。改正法によって取得率は今まで以上に上がるのではないか」と語る。
ただし、改正法では個別の周知や意向確認措置が義務付けられたが、それによって育休が進むにはまだまだ運用上の課題もあるという。
「上司が単に本人に育休取得を投げかけるだけでは、その効果は今までと変わらないかもしれない。上司によっては男性育休に対して快く思わない人がいるのも確かだ。
育休を推進するには、人事と上司、本人が三位一体となって取り組むような仕組みを考える必要がある。たとえば職場ごとに育休取得に取り組んでいるかどうか、具体的な取り組み方法についてのアンケート調査を随時実施し、人事がチェックするような仕組みが必要だ。
また、育休を取得したことによる昇給・昇格などで不利益にならないようにするなど、制度に合わせた企業の取り組みのためのルールづくりが必ず必要だ。何よりも男性育休を推進するには経営者が積極的に関わることが不可欠だろう」
幹部社員の意識を抜本的に変える必要
言うまでもなく男性育休が進まないのは性別役割分業意識など日本社会の風土や企業の文化・体質が深く関わっている。それを変えていくには、若い世代の社員以上に幹部社員や経営層の意識を抜本的に変えていく必要がある。とりわけ重要なのが、経営トップが前面に出て、陣頭指揮を執ることだ。
男性の育休取得率が低く、取得日数が短いと、妻が長期間育休を取らざるをえず、結果としてキャリアのハンディになり、その後の男女の格差にもつながる。女性活躍推進の観点からも男性の育休取得は緊急性が高い課題といえる。
世界経済フォーラム(WEF)が3月31日に発表した報告書の2021年版「ジェンダー・ギャップ指数」で日本は156カ国中120位だった。前年の121位から一つ順位が上がったとはいえ、主要7カ国(G7)で最下位、アジアでも韓国、中国よりもさらに下に位置することが世界にさらされたことは決して喜べる話ではない。
経営者の65%「男性の家事育児参加が女性管理職を増やす」
管理職に占める女性比率を示す管理職ジェンダーでは139位と前年の131位より悪化。評価点は最も低い17.3点で経済カテゴリー全体の足を引っ張っている。全体の女性管理職比率は14.8%(総務省「令和元年労働力調査」)だが、民間企業にしぼるともっと低い。日本経済新聞が調査した大手企業の「社長100人アンケート」によると8.8%にすぎない(『日本経済新聞』4月2日付朝刊)。
女性管理職が増えない背景にはさまざまな事情があるが、同アンケートでは「性別による無意識の偏見」(50.7%)と並んで「女性に家事・育児が集中」していることを挙げた社長が44.3%もいた。ではどうやって女性管理職を増やすのか。アンケートの対策で最も多かったのは「性別偏見解消」(67.1%)、続いて「男性の家事・育児を奨励」(65%)だった。
男性の育児休業取得を推進することが、結果的に女性管理職の増加につながることを経営者の半数以上が認識していることに驚く。しかし、実態はそうなっていない。自覚するだけではなく、男性育休を促進するための具体的な行動計画を策定し、ぜひ自社で実践してほしい。