チームを率いながら、自身の仕事もこなすプレイングリーダー。膨大な仕事量のなかで、確実に個人目標を達成するにはどうしたらいいのでしょうか。リーディングカンパニーを中心に年間200回を超える研修やコーチングを行う伊庭正康さんは、「リーダーはどんなに忙しくても残業をする姿を見せてはいけない」と断言します。その理由とは――。

※本稿は、伊庭正康『目標達成するリーダーが絶対やらないチームの動かし方』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

ワークライフバランスと書かれたナプキンとマグカップに入ったコーヒー
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リーダーが「残業」する姿を見せてはいけないワケ

部下には「残業を削減しよう」と言いながら、自分の数字が厳しくなると、とたんに残業し始めるリーダーがいますが、一貫性のない言動は必ず信頼を失います。

リーダーの残業には、さらに危険な副作用があります。

リーダーの行動はすべてがメッセージとなるからです。リーダーが残業する姿は、「数字が難しいなら、残ってでもやれ」という、部下へのメッセージになってしまうのです。

でも、目標達成をあきらめるわけにはいかないですよね。そんなときこそ、思い切って、翌朝に回してみてください。あえて、その日はサクッと帰り、翌朝、誰よりも早く始動するのです。実際、生産性も高くなるので、こちらのほうが健全です。

今だから言えますが、私も業績が厳しいとき、残業をせずにサクッと帰りつつ、朝の6時半に出勤していた時期がありました。自宅は京都で勤務地は大阪の難波でしたので、だいたい1時間強の通勤時間。朝の5時過ぎの電車に乗るわけです。

それでも、朝の仕事はいいものです。夜とは比較にならないほど、集中できます。つくづく残業なんてするものではないと思いました。

しかしここで、次のように思われた人もいるでしょう。「それって、時間外勤務でしょ」と。そうです。タイムカードも正直に打刻します。

したがって、あくまで緊急事態の対応。

ここで言いたいのは、メンバーに「夜に残業をしてはダメ」と言ったからには、自分自身も絶対に夜に残業しない姿勢を貫くことが大事だということです。

ラテを飲んでいたのがバレた

メンバーは、リーダーの行動をよく見ているものです。

実は、私には「リーダーは見られている」ということをおろそかにした、失敗談があります。

ある時期、集中力を保つために、外で仕事をしていたことがありました。私の場合、外のほうが集中できたからです。

あるとき、スキマ時間で3本の企画書を作成しなければならず、カフェの野外テラスで仕事をしていました。もちろんサボっているわけじゃなく、むしろ一心不乱に仕事をしていたのです。

そして、1時間で3本の企画書を仕上げ、事務所に戻ると、部下から「伊庭さん、ひどいじゃないですか。会社を抜け出してカフェでラテを飲んでいたそうじゃないですか」と言われたのです。

たしかにラテを飲んでいました……。「見え方」もリーダーとしての大事な所作であることを実感した出来事です。

NG 「業績のために仕方がない」と残業をしてしまう
リーダー自身が残業をしている姿は、チームのほかのメンバーにも負の影響を及ぼします。
OK「部下への見本」となるように率先して早く帰る
リーダーの行動は常に部下から見られています。部下を早く帰らせたいなら、自分も早く帰りましょう。

仕事を楽にするには、個人業務を「10倍速」に

私もそうでしたが、部下を持つと、自分の時間がなくなります。

レポートを書こうと思えば、部下から報告が入り、企画書を作成しようと思えば、上司から呼ばれる――そんなことを繰り返していると、どの仕事も不完全になってしまうと感じ、ストレスをためていたものです。

そうならないための防衛策は、業務処理のスピードを今までの基準では“ありえないくらい”に高めておくことです。私もその方法で切り抜けられました。

私が研修でも紹介している方法を、いくつか紹介しましょう。

スマホの音声入力を駆使してメールは1本30秒で

忙しい立場であれば、メール処理に時間をかけてはいけません。

スマホの音声入力を使えば、あなたもすぐに今の10倍速でメールが処理できるようになります。

リモートワークのイメージ
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1通のメールを書く時間は、平均6分(360秒)だといわれます。しかし私は、音声入力の方法を使うことで1通30秒程度で済ませています。

スマホなどのキーボードのマイクマークを押して、どんな言葉でもいいので、話しかけてみてください。ほぼ、変換ミスがないことに驚くと思います。

iPhoneなら、「かいぎょう」とつぶやけば、改行もしてくれます。アプリはなんでもOK。私はメールの音声入力にはGメールを使うことが多いです。

これができると、会議の待ち時間、エレベーターの待ち時間、交差点の待ち時間など、ほんの数十秒のスキマ時間で、メールを送信できるようになります。

1日10通のメールを送っていたなら、それだけで1時間(6分×10回)も使っていることになりますが、それがなんと5分(30秒×10回)で済む計算です。

文章をイチからキーボードで入力しない

レポートや企画書などをパソコンで入力する際、「単語登録」「文章登録」の機能を徹底的に活用するだけで、驚愕のスピードで文字入力ができるようになります。

伊庭正康『目標達成するリーダーが絶対やらないチームの動かし方』(日本実業出版社)
伊庭正康『目標達成するリーダーが絶対やらないチームの動かし方』(日本実業出版社)

私は、タイピングが得意ではないのですが、約80文字を10秒で入力できます。タイピングが得意とされる、日本語ワープロ検定2級の人の10倍のスピードです。

もちろん、白状しますと、ズルい方法を使っています。練習は不要。あなたもちょっとした設定で、すぐにできます。

ウィンドウズの「単語登録」の機能を使うのです。ここに「おせ」と入力すれば、「お世話になっております。らしさラボの伊庭でございます。」と2文字を入力するだけで、長文に変換されるように、単語ではなく、いくつもの文章を登録しておくのです。

また、メールの場合も同様です。Gメールの場合は「返信定形文」を、アウトルックの場合は「クイックパーツ」と呼ばれる機能を使って、よく使う文章を登録しておくことができます。そうすれば、どんな長文のメールであっても、メール入力をなんと1秒以内で済ませられるようになります。

こうした機能を駆使すれば、業務処理のスピードは飛躍的にアップします。

NG メールなどの処理に時間をとられてしまう
メールを1日10件送るだけでも、約1時間の時間を浪費しています。リーダーであればそのことを自覚しましょう。
OK 素早く文字入力をするための「早ワザ」を取り入れる
文字入力の手間を省くため、音声入力や単語登録などの機能をフルに活用して、事務処理のスピードをアップさせましょう。

「結論から」話すチームで効率的に

部下からの報告がわかりにくく、イライラすることはありませんか。その場合、イライラしているのはあなただけではないと考えてください。特にオンラインミーティングでの要領を得ない発言はストレスの元凶です。聞けば聞くほど、かえってわからなくなる、そんな話し方をする人は少なくありません。「で、何が言いたいの?」と言い返したくなる瞬間です。

そんなときこそ、おすすめの方法があります。

報告・連絡・相談をしてもらうときは、「PREP法」でしてもらうようにすることです。PREP法はビジネスのシーンでよく使われる文章構成で、簡潔にわかりやすく伝える話法です。Point(結論)、Reason(理由)、Example(事例、具体例)、Point(結論を繰り返す)、の順に話をすることですが、いわゆる「できるビジネスパーソン」はPREP法で話をしている場合が多いです。

PREP法の具体的な構成

PREP法による会話は、実際には次のような感じになります。

上司「目標達成は大丈夫?」

部下「いえ、雲行きが変わってきました。このままでは、達成、未達成の確率は、半々くらいだと感じています。(P=結論)

というのも。急激な不景気のため、お客様の約8割が、買い控えをされているからです。(R=理由)

例えば、ABC商事様では、在庫を整理することが先とのことで、購買を一斉にストップされました。(E=事例、具体例)

なので達成の可能性が半々くらいになったと感じています(P=理由)」

上司「そうか……。じゃ、今後は、どうしようと思っているの?」

すぐにはうまくいかないかもしれませんが、この順序を意識して話してもらうようにすることで、わかりやすい会話になります。もちろん、リーダーであるあなた自身も、PREP法で話すことを意識しましょう。

2カ月で全社員が話し方上手になった方法

では、どうすればいいのでしょうか。私の研修先の会社での事例を紹介します。その会社では、2か月後には全員がPREP法で話せることを目標に、「PREP」と記載した紙のCARDを、各社員が常にぶら下げている「社員証」とともに、持ち歩いてもらうことにしたのです。

2カ月間は、自分が何かを説明するときには、そのカードを見ながら話してもよいというルールにしました。その結果、2カ月後には、全員がカードを見なくても、自然とPREP法で話せるようになったのです。

PREP法は、話すときだけでなく、レポートなどの文章を書くときにも使えます。部下に意識してもらえれば、提出書類のチェックも手短かに済ませられることでしょう。

ぜひ、あなたのチームでも、PREP法をルール化してみてください。