GUがフェムケア市場に参入というニュースが大きく報じられた。その目玉商品が吸水性にすぐれた「トリプルガードショーツ」だ。2025年には5兆円規模と言われるこの急成長市場で勝つ秘訣とは――。
オフィスで仕事をする女性たち
写真=iStock.com/kokouu
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女性が「声を上げにくい」分野

2021年に入り、「女性蔑視」とも受け取れる発言やCMが、たびたび炎上。とくに、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗元会長による「女性は話が長い」発言では、直後からツイッターで「#わきまえない女」が、トレンド1位にランクインしました。

裏を返せば女性たちも、SNSを使って、権力に「NO」を突きつけられる時代になったのですが……、それでもいまだに「声を上げにくい」とされる分野があります。

その代表例が、生理痛や不妊、更年期など、女性特有の体の悩み。

「生理休暇」を例にとると、ある調査では「活用したことがある」との回答が、わずか5%のみ(20年ベビーカレンダー調べ)。制度はあっても声を上げにくいのは、それだけセンシティブな話題だからでしょう。

でもだからこそ、そこにビジネスチャンスもあるのです。

GUがフェムケア市場に参入

いま、女性特有の悩みをとらえ、世界で巨大市場として成長を始めているのが「FemTech(以下、フェムテック)」と「FemCare(フェムケア)」。

「フェム」はいずれも「Female(フィメール/女性)」の略語です。前者は「フェム+Tech(テック)」、すなわちテクノロジーを使って、女性特有の生きづらさを解決しようとする試みやソリューション。後者は、同じく女性を「Care(ケア)」する製品をタブー視しないデザインやサービス、商品などを指します。

21年3月、あの「GU(以下、ジーユー)」も、フェムケア市場に参入しました。その狙いは、どこにあるのでしょうか?

数年で5兆円規模に成功する有望な市場

ジーユーのプレス担当者によると、フェムケア市場への参入は「より快適に過ごせるインナーや、買いやすいサニタリー商品があったらいいのに」といった女性からの声が多かったことがきっかけだといいます。

GU BODY LABから生まれた商品。(写真提供=GU)
GU BODY LABから生まれた商品。(写真提供=GU)

3月、同社が発売したのは、吸水機能が付いたショーツ(「トリプルガードショーツ」)やナイトブラ、補正下着など全9品目。

これらは、「女性の健康をサポートする」を目的とするプロジェクト(「GU BODY LAB(ジーユー ボディ ラボ)」)の商品として生まれました。

フェムテックやフェムケアの関連市場は、世界的にも成長が見込まれています。アメリカの調査会社の予測によると、2025年までに、なんと5兆円もの規模になると言われるほどです(18年「Frost&Sullivan」調べ)。

「ただ私たちは、ファッションブランドとして常に『女性にもっと貢献できることがないか』と考えており、そのことも参入理由でした」とジーユー、プレス担当者は言います。

従来の商品は不満点が多かった

トリプルガードショーツの魅力は、男性にはピンとこないかもしれません。何といっても、普段使いとしてもサニタリー用(生理期間用)としても使える点、そしてそれが手ごろな価格(1490円)で手に入る点が画期的です。

以前から「両用」をうたうショーツはありました。ですが、得てしてレース部分が肌に食い込んでしまったり、サイドやバック部分から経血が漏れてしまったり、といった商品も少なからずあった。

逆に、食い込みや漏れを防ごうとする商品は、お腹からお尻までがっちりガードしすぎて、デザインが野暮ったかったり、1点4000円以上など高価だったりする傾向に。普段使いで履くと「汗をかいて蒸れやすい」など欠点もありました。

「ならば両用でなく、普段用とサニタリー用と、分けて使えばいい」と思う男性も多いでしょう。確かに多くの女性は、そうしているはずですが……、女性の生理周期は、毎月一定とは限りません。ここに「使い分け」の難しさがあります。

たとえば「まだ(生理が)来ないだろう」と思って、油断して普段使いのショーツを履いているとき、突然来てしまうこともある。あるいは、「もう終わるだろう」とサニタリー用から普段用に切り替えたときに限って、「まだ終わってなかった!」と下着を汚してしまうこともある。

それだけに、普段も生理期間も「両用」で使えて、さらに「漏れない、蒸れない、におわない」が期待できる廉価なショーツは、女性の強い味方と言えるのです。

コロナ禍で女性の健康意識に変化

トリプルガードショーツはその名の通り、クロッチ部分が3層構造。抗菌防臭機能を備えているほか、約15~20mlもの液体を吸収できます。

一時品切れになっていたトリプルガードショーツ。(写真提供=GU)
一時品切れになっていたトリプルガードショーツ。(写真提供=GU)

これも男性には、想像しにくいと思いますが……、15~20mlは、一般的な生理用のナプキン1~2枚の吸水量と、ほぼ同じ。つまり先のショーツの場合、ナプキン1枚と併用すれば、漏れをまず心配せずに済むだろうと予測がつきます。

また、先のプレス担当者によると、「コロナ禍でライフスタイルが一変し、女性がみずからの健康や体調、快適性について考える時間が増えたように思う」とのこと。

ゆえに、低価格やファッション性、そして「機能」にもこだわった商品開発を行っていくことで、「より多くの女性に商品を手に取ってもらえるようにしたい」といいます。

知識の浸透も必要

また、ジーユーは21年2月、約5000人を対象に、女性の意識調査を実施。そこから多くの女性に「共通の課題」がありそうだ、と見えてきたとか。それが、「女性特有の悩みに関して“知識の浸透”が必要」だということ。

フェムケアやフェムテックの分野は、単に「商品を出せばいい」というものではない。商品と知識の両面から、女性をサポートする視点が必要になります。

そこで、長年にわたって人々の体やココロをサポートしてきたオムロン ヘルスケアと、中長期的なパートナーシップを締結。先のプロジェクト「ジーユー ボディ ラボ」を共に立ち上げたほか、情報発信媒体として「Female Lifestyle Fact Book(フィメール ライフスタイル ファクトブック)」を作成していくそうです。

市場が大きくなると声を上げやすくなる

考えてみれば、私もこれまで、男性読者が多いビジネス関連の媒体で、女性のセンシティブな話題に関する記事を書く機会はほとんどありませんでした。

ですが、そこに「市場(マーケット)があるだろう」となれば、企業や男性も、市場特性を理解しようと注目し始める。これまで「言いにくい」としてガマンしてきた女性たちも、「自分の経験が役に立つなら」と、少しずつ声を上げるようになります。

いまから17年前(04年)、私が『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(日本経済新聞出版社)という本を書いた頃も同じでした。一部から「そんな市場が成立するのか?」と懐疑的な声が上がり、大手旅行代理店で講演した際には、「女性がひとりで泊まりに来れば、多くの旅館が『自殺しに来た』と思うに決まっている」と批判されたほどです。

声に出さずとも欲していた「女性のひとり旅プラン」

ですが女性たちは、声に出さずとも欲していました。「疲れたとき、ひとりでふらりと訪れて、自分を癒やしてくれるような温泉旅館があればいいのに」と。

そしてその後、全国の宿泊施設が「女性ひとりプラン」を展開するようになったことで、市場はどんどん拡大していきました。

なぜならそれまで、女性が漠然と「あったらいいのになあ」と封じ込めてきた潜在ニーズが、多くの企業が魅力的な商品プランを生み出したことで、初めて「欲しい」という欲求へと昇華したからです。

これが、マーケティングでいう「Needs(ニーズ)」と「Wants(ウォンツ)」の違い。

フェムケアでいうと、「ニーズ(必要性)」は、「もっと快適なショーツがあったらいいのになあ」との心理。その次の段階の「ウォンツ(欲求)」は、具体的に「あのショーツが欲しい」と切望する欲求で、ここがマーケティングの腕の見せどころです。

ニーズ(必要性)からウォンツ(欲求)へ

店頭でもウェブサイトでもで品切れが続出

先のトリプルガードショーツは、まさに企業が魅力的な商品やサービスを提示したことで、それまで我慢していた女性たちの間で「買いたい」との欲求を喚起した。同ショーツはあまりの人気に、一時期店頭やウェブサイトで「品切れ」が続出するほどだったといいます。

ただしもう一つ、忘れてはいけないのが、ウォンツとその先の「Demands(デマンド/需要)」との間に、販売価格、いわゆる「予算の壁」が存在するということです。

皆さんもそうですよね。どんなに魅力的で欲しいと思う商品でも、価格が高すぎれば、諦めざるを得ない。逆に手に取りやすい価格なら、多くの顧客が「買ってみよう」と手を伸ばします。そのことが、市場拡大にもつながるわけです。

ジーユーはこれまで、まさに「手頃な価格」を売りにしてきたブランド。だからこそ今回、ジーユーがフェムケア市場に参入したことに、大きな意義があります。

なぜなら、これまで体の悩みについて、声を上げにくかった女性たちが、続々と「そうそう、こういうのが欲しかったの」と手に取ってくれるから。それによって、市場や社会で女性たちの「言いにくい」悩みが、一気に顕在化するからです。

今後熱いのは団塊ジュニアの更年期市場

さらに、ジーユーのプレス担当者によると「GUのフェムケア市場への取り組みは、決して若い女性に限定したものではない」とのこと。

日本で二番目に人口が多い「団塊ジュニア(現45~50歳)」も、そろそろ更年期に差し掛かってきました。おそらくここも、見過ごせないターゲットでしょう。

ジーユーやオムロン ヘルスケア以外にも、「ルナルナ」(エムティーアイ/月経)や「たまひよ」(ベネッセコーポレーション/妊娠・産後ケア)、「妊活ボイス」(CURUCURU/妊活)、「わたし漢方」(同/ウェルネス)、「ラブコスメ」(ナチュラルプランツ/セクシャルウェルネス)をはじめ、国内ですでに約100社もの企業が、フェムテックやフェムケアマーケットに参入していると言われます(20年12月現在/「fermata(フェルマータ)」調べ)。同市場は今後、かなりのスピードでヒートアップしそうです。