部長代理、担当部長、部長補佐、副部長……どれもよく見かけるポジションです。人事コンサルタントの西尾太さんは、「私は、このように何をしているのかよくわからない役職を『隙間役職』と呼んでいます。簡単に言うと、『部長じゃないんだけど、部長ぐらいのお金を出してあげる』制度です」と解説。そして、この制度を維持できない企業が増えていると指摘します――。

※本稿は西尾 太『アフターコロナの年収基準』(アルファポリス)の一部を再編集したものです。

オフィスの窓の外を見ているビジネスマン
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サラリーマンの年収が減っている

コロナ禍の影響、リモートワークの導入などによって日本の労働環境は激変しています。それはあなたも肌で感じていることでしょう。

でも実は、コロナ以前から社会の変化は起こっていました。なぜ「年収基準」を知り、自分の「市場価値」を確かめる必要があるのか。それを理解するためにも、まずは私たちビジネスパーソンが立っている「現在位置」を確認しておきましょう。

変化のひとつは、日本企業のサラリーマンの年収水準が落ちていることです。2014年から2018年の4年間の統計を見ると、大学卒総合職40歳の年収は711万円から685万円に、45歳の年収は848万円から841万円に、50歳は963万円から914万円に、55歳になると1011万円から948万円に下がっています。60万円以上の差ですから、かなりの落差です。

4年間でこれだけ下がったサラリーマンの年収
※労務行政研究所編 「モデル賃金・年収と昇給・賞与」(全産業規模計)2015年版および2019年版を基に筆者作成。

20代、30代はそれほど変わりませんが、40代を超えると下がり、50代になると大幅に下がっています。中高年になればなるほど年収が落ちているのです。

この4年間は景気が悪かったわけではありません。どの業界でも慢性的な人手不足が叫ばれているのに、なぜ年収水準が下がっているのでしょうか?

黒字リストラが増えている

一方では、黒字リストラが増えています。これもコロナ禍以前から、業績がよくても人員削減を打ち出す企業が急増しているからです。

日本経済新聞2020年1月13日の記事によると、2019年に早期・希望退職者の募集を実施した上場企業35社のうち、最終損益が黒字だった企業は約6割を占めていました。これらの企業の削減人員数は、中高年を中心に約9000人と前年の約3倍に増えています。

2020年には、新型コロナ感染拡大を背景に、早期・希望退職者の募集を実施した上場企業は上半期で41社にのぼり、2019年の1年間の35社を上回りました。

年収水準の低下、そして黒字リストラの増加は、いったい何を意味しているのでしょうか。答えは、とても単純です。

パフォーマンスに対して年収が高い社員を、企業が許容できなくなってきたのです。

年収の高い人に、20年も30年もいられると困る

日本には年功序列の企業が多く、定期的に給与が上がり、社歴や年齢を重ねるごとに年収が高くなるのが一般的です。日本はすでに超高齢化社会に突入しているため、現在は、多くの企業で高年収の中高年者が溢れている状態です。

2013年には法改正が施行され、「高年齢者雇用安定法」という法律ができました。希望すれば、企業は2025年には65歳まで雇用することが義務になったのです。

さらに政府は、希望すれば70歳まで働き続けられる制度を推進しており、2021年4月から企業の努力義務とすることを決めました。

高齢者がいつまでも働き続けられる社会。それはそれでよい面もあると思います。年金の支給開始年齢が引き上げられ、そうでなくても年金だけで暮らしていくのが難しい老後を考えると、希望の光に感じる人も少なくないでしょう。

しかし、どんな企業も人件費には限りがあります。企業としては、高いお給料の人に65歳や70歳になってもそのまま会社にいられても困るのです。40代以降の年収が高い人にあと20年も30年もいられたら困るので、早期・希望退職者を募っているのです。

考えるビジネスパーソン
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パフォーマンスの高い若手ほど会社を辞めてしまう

これは人件費に限った話ではありません。若手のモチベーションにも大きく影響します。年功序列の会社では、年齢や社歴が給与を決定する重要な要素です。若手がどんなにパフォーマンスを上げても、年収が大きく上がることはありません。

若手は頑張っても年収が低いのに、どの企業にもパフォーマンスは低いのに年収だけは高いシニア社員がたくさんいたりします。

そういう人は、若手からすれば、仕事へのやる気もなく、ただ定年を待っているだけの状態に見えます。なのに、自分の何倍もの年収をもらっているのです。

「なんであのオッサンのほうが年収高いんだよ!」

ストレスや不満がたまり、パフォーマンスが高い若手ほど会社を辞めていきます。少子化が深刻な日本では、一部の人気企業や有名企業以外は、どこも新卒の採用に苦戦しています。せっかく採用できた優秀な若手を手放すのは大きな痛手です。

(一方、そう思わず、辞めない若手も考えものかもしれません。それでイノベーションが起こせるのか、疑問です。いずれにせよ「よい状態ではない」ということです)。

若手の給料を上げ、中高年の給料を下げる

こうした状態を防ぐには、若手の給料を上げ、中高年の給料を下げるしかありません。でなければ、人件費が爆発して経営破綻します。これが日本のサラリーマンの、特に中高年の年収水準が落ち、黒字リストラが急増している理由です。

ここ数年、私の会社にも「年功序列をやめたい」「給与制度を変えたい」「40代後半~50代のお給料を適正にしたい」「若手の給料を引き上げたい」というコンサルティングのご依頼が非常に増えています。

実際に下げるかどうかはともかく、現状の給与制度を変えないと会社を維持できないというのが、今、多くの企業が直面している極めて深刻な問題なのです。

これからの時代に想定される「6つの変化」

ここまで読んだ20代・30代の方は「なんだ、年収が下がるのは中高年のオッサンだけか」と安心しているかもしれません。

ところが、そうではないのです。年功序列の崩壊、少子高齢化の問題は以前から起こっていましたが、2020年の新型コロナウイルス感染症によって社会が大きく変容し、今後も次のような「6つの変化」が想定されます。

① 年功(後払い)給与→時価払い給与(今のパフォーマンスが今の給与に)
② 成果主義が顕著に
③ ジョブ型(職務主義)の導入=役割で給与が決まる
④ 給与ダウンが当たり前に
⑤ 能力主義はなくなる(発揮されない能力に価値はない)
⑥ 隙間役職(部長代理、担当部長など)がなくなる

この「6つの変化」は年齢を問わず、すべてのビジネスパーソンの年収に大きく影響してきます。それぞれ簡単に説明しましょう。

① 年功給与→時価払い給与

年功序列とは、「若いうちは給料が少ないけど、50代ぐらいになったときにいっぱいあげますからね」という「後払い」の給与制度です。だからあまり仕事をしないシニア社員でも高い年収をもらえるわけです。

西尾 太『アフターコロナの年収基準』(アルファポリス)
西尾 太『アフターコロナの年収基準』(アルファポリス)

この仕組みは、昭和の高度成長期に広く普及しました。そのため今でも日本では「給与は上がっていくもの」という感覚が当たり前のように定着しています。

しかし、時代は変わりました。

年功序列は経済が右肩上がりの昭和の時代には成立していましたが、すでに平成も終わり、令和の時代です。給料が高い多くのシニア社員を持て余し、黒字リストラが急増する時代にマッチした制度とは到底いえません。

日本経済が再び右肩上がりになる日は来るのか。これも大いに疑問があります。となると、若いうちは給料を絞られ、我慢して20年、30年働いても、今のシニア社員のようにたくさんもらえることはなく、年をとっても低収入のままかもしれません。

かつての日本では地道にコツコツ頑張り続けていれば、老後に報われることが保証されていました。

しかし、今の日本ではそんな保証はどこにもありません。低賃金のまま、70歳になっても80歳になっても働き続けることになるかもしれないのです。

そのことに気づいている若い世代は、もう古い体質の会社で働こうとはしません。

「何ができるか」が徹底的に問われる

企業側もこうした変化に必死に対応しようとしています。今後は定期的に給与を上げる仕組みをやめ、今のパフォーマンスが今の給与に反映される「時価払い」の給与制度に舵を切る企業が増えていくでしょう。

そうなったときに何が問われるのかというと、パフォーマンスの質です。年齢を問わず「何ができるのか」「何をしたのか」が徹底的に重視されるようになります。何もしないシニア社員は当然給与が下がりますが、それは若手であっても同じです。

あなたは今、何ができるのか。それこそが年収を大きく左右する目安となります。

② 成果主義が顕著に

2020年の新型コロナウイルス感染症対策として、リモートワークを導入する企業が一気に増え、広く定着しつつあります。リモートワークとは、PCやタブレット、スマホなどのWebツールを活用し、会社以外の場所で働くことです。テレワークも同じ働き方を指し、自宅で働く場合には在宅勤務とも呼ばれます。

コロナ禍以前は、リモートワークができるのはITやWeb、広告・マスコミ業界など、一部の業界・職種に限られている印象がありましたが、現在では幅広い業種に普及し、対面でのリアルコミュニケーションが不可欠な飲食、医療、介護、実際にモノを取り扱う運送・建築など一部の職種以外は、リモートワークが可能という認識に変わってきています。

このリモートワークの浸透によって起きた大きな変化のひとつが、社員に対する評価の仕方です。

コロナ禍以前の社会では、ただデスクでPCに向かっていたり、外回りに出かけているだけでも「あいつは頑張っている」という印象を与えることができ、その印象によって社員を評価している上司も少なくありませんでした。

しかし、リモートワークでは社員の働く姿を直接見ることができません。となると、上司は「成果」で評価するしかありません。「どう働いたのか」ではなく、「何をしたのか」が最も重要な評価の指標となります。

部下の育成力が問われる時代になる

一方、部下にとっても上司の働く姿が見えなくなります。「背中を見て育て」という育成方法は成り立たなくなり、管理職のマネジメントスキルがより厳しく問われるようになります。そして、それが「成果」として評価に直結します。

コロナ禍による経済の悪化、少子化による採用難などの社会変化によって、管理職にとって若手の育成はこれまで以上に重要なミッションとなります。

経済が右肩上がりで年功序列が成立していた時代では、部下の育成にそれほど熱心に取り組まなくても会社が回っていました。ダメなものもダメといわず、みんな仲良く、「和をもって尊しとなす」という風土でも、それなりに人が育ち、給料も上がっていきました。しかし、もはやそういう時代ではありません。

コロナ禍以降、多くの企業が、成果をより重視して年収を決める「成果主義」に大きく舵を切ろうとしています。

③ ジョブ型(職務主義)の導入=役割で給与が決まる

コロナ禍以降、成果主義とともに脚光を浴びているのが「ジョブ型」と呼ばれる、主に外資系で浸透している雇用制度です。これは「職務主義」とも呼ばれています。

ジョブ型とは「人」ではなく「仕事」に値段をつける制度です。日本では「会社に何年勤めている○○さん」「○○ができる○○さん」と勤続年数や能力などによって給与が決まるのが一般的です。要は「人」に値段をつけているわけです。

一方、ジョブ型では「営業部長」「経理部長」といった役職や役割に値段がつきます。

ジョブ型は、富士通や日立製作所、KDDI、資生堂など、大手企業がすでに導入を開始しており、新たな雇用形態として注目を集めています。

この働き方で必要となるのが、「ジョブディスクリプション(job description)=職務記述書」と呼ばれるワークシートです。

これは、業務内容、重要度、目標、責任範囲、必要なスキルなど、自身の職務内容=ジョブについて詳しく定義し記述するものです。欧米ではこの書類によって選考や採用が行われています。

ジョブ型の導入にかかわらず、自身の「仕事」について詳しく定義することは、今後の社会において非常に重要になってきます。

リモートワークでは、上司によるマネジメントが徹底できません。そのため、今後、多くの企業で求められるのは、セルフマネジメントができる人材です。

「私はこんな仕事をして、このような成果を出します」と、自分自身で仕事を定義し、成果を出せる人ほど、高い評価・高い年収を得るようになっていきます。

④ 給与ダウンが当たり前に

これまでの日本では、「給料は下げない」という考え方が一般的でした。成果によってボーナスに差があったり、昇給はしなくても、基本給は維持されていました。

だから給料を下げない代わりに、早期・希望退職者を募って中高年をリストラしていたのですが、それだけでは企業が持たない時期が来てしまっています。

なぜなら中高年にしてみれば、早期退職しても再就職できる保証はありません。給与が多少下がっても会社にしがみつきたい思いがあります。そのため早期・希望退職者を募っても応募する人が少なく、困っている企業がたくさんあります。

でも成果主義やジョブ型を導入すれば、給与が下がる人は確実に増えます。言い方は悪いですが、実際には社員の給与を下げるための方便という側面があるのです。

2020年4月1日からは、「同一労働同一賃金」が全国の大企業でスタートしました。中小企業に対しても、2021年4月から適用されます。

同一労働同一賃金の目的は「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を解消すること」といわれています。

この触れ込みのとおり、非正規雇用の人たちの待遇が改善されればよいのですが、私はそうはならない可能性が高いと考えています。

非正規雇用の人たちの給与を上げるのでなく、年収に見合った仕事をしない正社員の給与を下げることで待遇差を改善することになるのではないでしょうか。

上げるべき人の給与を上げ、下げるべき人の給与を下げたい。これが企業の本音です。コロナ禍を機に、その本音が顕在化してきたのです。

給与ダウンは当たり前。そんな時代がすぐそこまで来ています。

⑤ 能力主義はなくなる(発揮されない能力に価値はない)

近年のもうひとつの大きな変化は、企業が「何」を大事にして人を評価するのか、給与を払うのか、という根本的な考え方です。

これまでの日本では「能力」に対して給与が支払われていました。

これは能力主義と呼ばれ、戦後日本の給与制度の根幹となってきましたが、これこそが現在の黒字リストラやサラリーマンの減収の根本原因となっています。

能力で人を評価し、給与を払う。一見すると理にかなった制度のように思えますが、たとえ能力を持っていても、実際に使わなければ意味がありません。

たとえば、電車に乗る「能力」を持っていても、実際に電車に乗る「行動」を起こさなければ、目的地に着くという「成果」を果たすことはできませんよね。

ところが、多くの企業では「能力」だけにフォーカスして、「年齢や勤続年数が上がれば能力も高まる」という考え方に基づいて、年を取れば取るほど給与が高くなる「年功序列」と、ほぼイコールの給与制度になっていました。

その反動からバブル崩壊後に成果主義が大ブームになりましたが、今度は「成果」だけをクローズアップしたため、「結果さえ出せば、お客さんを騙して売ってもいいじゃないか」といった短絡的な考えが横行し、焼き畑農業みたいな営業が増えました。

また、個人の数字を重視しすぎたため「チームで頑張ろう」ではなく「手柄は俺のもの」といった個人主義に陥り、スキルや経験が継承されない問題も起こりました。

成果と行動に対して給与を支払う

こうした反省を踏まえ、現在は多くの企業で「成果」と「行動」に対して給与を支払う考え方が中心になっています。

「能力」は目に見えませんが、「行動」は実際に目にすることができます。「成果」は運や環境によって左右されますが、「行動」は再現性が予見できます。

発揮されない能力に価値はありません。今でも「能力」に対して給与を支払っている会社はありますが、次第になくなっていくでしょう。

自身の能力を生かし、どんな行動を起こし、どんな成果を出すのか。今後は、これまで以上にアウトプットが重視される時代になっていきます。

⑥ 隙間役職(部長代理、担当部長など)がなくなる

今後、多くの企業では「隙間役職」もなくなっていくでしょう。

部長代理、担当部長、部長補佐、副部長……、このように何をしているのかよくわからない役職がありますよね。私はこれらを「隙間役職」と呼んでいます。

隙間役職とは、簡単にいうと「部長じゃないんだけど、部長ぐらいのお金を出してあげる」という制度です。

もちろん、重要な職責を担っている方も多くいらっしゃるので一概には言えませんが、大きな会社では社員の高齢化にともない隙間役職がどんどん増えています。しかし、その年収に見合ったパフォーマンスを発揮しているとは限りません。

こうした役職を増やし、年収を上げ続けてしまったことが、企業経営を逼迫ひっぱくさせている大きな原因となっています。

隙間役職をなくし、ポストがなければ給与が上がらない仕組みにすれば、企業としては給与を上げる必要がなくなります。責任はないんだけど、なんとなく偉いかんじで、給料をたくさんもらっている。こういう隙間役職も今後なくなっていくはずです。

中高年やシニア社員にとっては歓迎できない変化かもしれません。すでに隙間役職についている人にとっては死活問題となります。

若い世代も気が抜けない

一方、若い世代にとっては、健全な発想に思えるのではないでしょうか。

ただ、これは役職者に限った話ではありません。部長職に限らず、メンバー、チーフ、課長クラスなど、ポジションごとに給与に見合った能力を発揮することが求められるので、成果を出さない限り、誰もが年収が上がらなくなることを意味しています。

つまり本当の意味で実力が問われる社会になるということです。これは独立や転職がしやすくなる時代になることも意味しています。