YouTubeチャンネル「ホリエモンチャンネル」等でMCを務める寺田有希さんは、人目ばかりを気にする小心者だったといいます。いまや各業界の大物たちと会話する様子を「猛獣使い」とまで表現されるようになった彼女を変えた、誰とでもフラットに接するコミュニケーションのコツとは――。

※本稿は、寺田有希『対峙力 誰にでも堂々と振る舞えるコミュニケーション術』(クロスメディアパブリッシング)の一部を再編集したものです。

人見知りの私が初対面のゲストとうまく話せる理由

初対面の人と会うときって、緊張しますよね。相手がどういう人なのかもまだわからないし、自分がどういう人なのかも伝わっていない。そんな状態からお互いに理解を深め、関係を築いていかないといけないんだから大変です。

しかも仕事の場合は特に初対面の場合って多いし、じっくりと親睦を深める時間もなく、顔を合わせて簡単な挨拶をしたら、すぐ協働で作業にとりかからないといけなかったり、アピールや売り込みを始めないといけなかったりします。

寺田有希さん
寺田有希さん(写真提供=クロスメディアパブリッシング)

それで相手の好意や信頼を勝ち取ることができなければ、次の仕事につながらないんだから大変です。

私も、初対面の人と仕事をすることが多いです。MCの仕事ではほぼ毎回、初対面のゲストと話をして、うまく場を回していくことが求められます。人見知りにはなかなか大変な作業です(笑)。

これにどう対処しているかというと、「相手に合わせて臨機応変に対応を変えていく」ように心がけています。

というのも、当然ですが、この世に「全く同じ人」は存在しないからです。

誰にでも通ずる“万能な対応策”は存在しない

初対面が苦手な人は、「まず天気の話などの雑談をして場をあたためよう!」といった、対人テクニックやコミュニケーション術を学んだこともあるかもしれません。

ただ、そのテクニックが、必ずしも目の前の相手に通用するとはかぎりませんよね。相手は天気の話よりも、さっさと仕事の話を始めたいかもしれません。極度の人見知りで、むやみに話しかけることがプレッシャーになってしまうかもしれない。

定番のパターンや対応策を覚えておくのは武器にはなると思いますが、どんなときでも使える“万能な対応策”というものは存在しない。

名MCが現場に入った瞬間にすること

「相手が話しやすい状態にするには?」「この仕事を円滑に進めるには?」をその都度考えるようにしています。

そのために私は、現場に入った瞬間から「場を読む作業」と「相手を知る作業」をスタートさせます。そうすれば、対応策が自ずと見えてくるんです。

たとえば、次のようなことを考えています。

場を読む作業
これはどういう場なのか
自分はなぜ呼ばれたのか
 自分は何を求められているのか
その上で、現場の反応、空気感はどうなのか

例:この場/自分に対して積極的・肯定的な人が多いか、そうでないか?
緊張している人が多いか、リラックスしている人が多いか?

場を円滑に回すために、誰と何をすべきか

例:上の立場の人=表立ったやりとりや、最終的な判断を委ねるべき? 補佐役(マネージャーや秘書など)=細かい日程や今後のやりとりを確認すべき? 複数人いる場合は、話が早そうなのは誰? 空気を読めている人や、ムードメーカー=困ったときヘルプできる?


相手を知る作業
話すのが好きかどうか
自信があるかどうか
緊張しているかどうか
場慣れしているかどうか
いまからすること(プレゼン、対談、営業など)に、自信があるかどうか

……というのを見極めているんだよ! と知人に話したら、『ドラゴンボール』に登場する「スカウター」みたいだね、と言われたことがあります(笑)。私、ドラゴンボールは全然知らないのですが、見るだけで相手の戦闘力を測定できるスコープ型の装置だそうで、まさにそんな感じです。ぱっと見て相手の「戦闘力」を判定していくイメージです。

会話する女性たち
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです

相手の戦闘力に応じて対応を変化させる

たとえば、各項目10点満点だとして、「緊張せずに話せるスキル:3」とか「専門分野について自信をもって話せるスキル:8」とスキルを数値化するんです。そのうえで、場の空気や相手の戦闘力に合わせて、対応=使用する武器を変えていきます。

相手が「緊張せずに話せるスキル:3」だったら、自分の武器である「笑顔」を多めに出すことで緊張を和らげられるかもしれないし、それこそ他愛のない雑談が有効かもしれません。あるいは「専門分野について自信をもって話せるスキル:8」だったら、その話題を振ったあとは話を遮らないようにすべきだし、もっと話を聞きたい! という姿勢を見せることが必要かもしれません。

こんなふうに戦い方を変えていくことで、相手が話しやすくなるので、より円滑にコミュニケーションをとることができます。結果、仕事もスムーズに回っていきます。

思い上がりが強く、同じ現場に呼んでもらえなかった日々

ただその上で大切なのは、「場を読むだけ」「相手の戦闘力を測るだけ」で終わりではないということ。戦い方を変えることにつなげなければ意味がありません。

寺田有希『対峙力 誰にでも堂々と振る舞えるコミュニケーション術』(クロスメディアパブリッシング)
寺田有希『対峙力 誰にでも堂々と振る舞えるコミュニケーション術』(クロスメディアパブリッシング)

というのも、過去の私は事務所が敷いてくれたレールがあるから仕事がもらえていたことに気づかず、「自分の素質を活かせば活躍できるはず」と思い上がっていて。だから、「この場ではAの役割を求められているな」と気づいても、「自分はBでいたい」とか「Bのほうが正しい」と思ったらBを貫くようにしていました。「私は私であること」が正義だと思っていたし、それを貫かなければいけないと勘違いしていたんです。

それで思うように評価されなくても、「この仕事は私に合わなかっただけ」と考えてしまっていました。ただ相手が求める仕事ができていなかっただけなのに。

その場で求められていることをしていないわけだから、当然、同じ現場に繰り返し呼ばれるようなことはほぼありませんでした。

仕事を失って痛感した、大切なこと

それでも私は、「仕事って、結局は来るでしょ?」と思っていました。仕事をとってきてくれていた事務所から離れたときにはじめて、「仕事ってなくなるんだ」と気づいたんです。「これまでの芸能生活で、私は何をしていたんだろう……」とものすごく反省しました。

「求められている役割を果たさないといけないんだ」と痛感した私は、まずは「その場で求められていることを見極め、注力すること」を心がけるようになりました。そのために、「場を読む作業」と「相手を知る作業」は欠かせないと気づいたんです。

そして、その場その場で求められることに対して、自分だったらどんな力を発揮できるか考えながら対応していったら、クライアントやスタッフさんから「また声をかけるね」と言ってもらえることが増え、継続してお仕事をもらえるようになった。

「その場限りの仕事じゃなくて、次につながる仕事をしなきゃいけない」とはよく言いますが、そのことを身をもって知ったんです。

現場に入ったら場を読み、相手の戦闘力を判定して、戦い方を変えていくこと。すると、その場その場で最適なパフォーマンスが出せるようになります。そして、自然と次の仕事につながっていくんです。

身近なコミュニケーションの場から、ぜひ試してみてください。大丈夫。トライ・アンド・エラーを繰り返していくうちに、だんだん精度が上がっていきますよ。