※本稿は、白河桃子『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
「出世は無理」と気づいてモチベーションダウン
・中田さん(オフィス機器メーカー勤務)
・根本さん(バイオメーカー勤務)
・伊藤さん(食品会社勤務)
【白河】本日はどうぞよろしくお願いします。
【一同】よろしくお願いします。
【白河】早速ですが、皆さんの会社では、やはりミドルシニア世代がボリュームゾーンなのでしょうか。
【中田】はい。私が勤めているのはまさに昭和レガシー企業で、シニアに近い年齢層が多いですね。ですから、長く活躍してもらうために役職定年を廃止したりと、シニアの活性化には割と早くから取り組んでいます。
【根本】私の会社は55歳が役職定年です。そこでお給料が下がり、60歳で本当の定年を迎えて、再雇用されるとさらにまた下がる、といった形です。
【伊藤】うちも同じです。役職定年と60歳の定年の二段階でお給料が下がります。
【根本】だから、やる気をなくすおじさんが多いです。もちろん、出世していく人もいますが、同じ年代でもやる気のある人とない人にはっきり分かれます。これはシニアだけの話ではなくて、ミドルでも先が見えてきて、「もう出世は無理だ」と思った人はガクッとモチベーションが低下します。
女性が上司になると、余計にやる気が低下するおじさんたち
【白河】でも40代のミドルなら、あと20年以上は会社で働くわけですよね。
【根本】だから大きな問題なんです。最近は女性も出世するじゃないですか。それで女性が自分の上司になったりすると、余計にやる気がなくなるみたいで。あとは、昔の部下が自分の上司になるとか。
【白河】ミドルシニアをモチベートするための研修などはないんですか。
【根本】会社が育成しようとするのはやっぱり若い人たちですから、ミドル以降を対象にした取り組みはほとんどないです。
【伊藤】うちの会社も役職者に対する研修はかなり手厚いのですが、それ以外のミドル社員に対してはハラスメント研修くらい。
【中田】先ほども言ったように私の会社は役職定年を廃止して、できれば60歳以降も長く働いて欲しいという方針を会社として打ち出したので、定年前の50代後半の社員を対象にキャリア研修をやっています。それでも「研修なんて受けるのは20年ぶりくらい」という人が多いので、今後はもっと早い段階から定期的に研修をやっていこうかという検討を始めています。
居場所を失いたくないおじさんたち
【白河】中田さんの会社では、ミドルに投資する価値があると判断しているわけですね。
【中田】やはり働き方改革を進めるには、ミドルのマインドを変えることが不可欠なんです。残業削減にしても女性活用にしても、働き方改革にひもづく課題を解決するには、職場で影響力を持つ管理職やベテランたちの意識を変えることはどうしても必要になる。だからそのためにもミドル向けの研修に力を入れて行こうという流れになっています。
ただ組織全体の年齢層が高いので、最近は年上の部下を持つ課長職が増えているのですが、部下のおじさんからすごく反発されるんですよ。何かを指示しても、「俺はこのやり方でやってきたんだから変えたくない」って。そう主張することで、自分の居場所を確保したいんでしょうね。
【白河】居場所ですか。まさに会社=居場所。他に拠点がないわけですね。リモートワークやフリーアドレスに抵抗がある理由も、「居場所」問題ですね。
【中田】最近も営業部門が新しいシステムを入れたのですが、やっぱりおじさんたちは使おうとしない。そのシステムを使えば仕事を大幅に効率化できるのに、古いやり方にしがみつくんです。会社がせっかく良い仕組みを用意してくれたのに、過去の成功体験が捨てられないんでしょうね。
パワハラ加害者は40代50代が圧倒的
【伊藤】おじさんって、時代の変化に合わせて自分のやり方を変えるのが苦手ですよね。私はパワハラの通報窓口も担当しているのですが、加害者は40代と50代が圧倒的多数です。もしかしたらパワハラは生え抜きの社員に多くて、外から転職してきた人には少ないんじゃないかという仮説も立てていたのですが、実際は中途入社組も加害者になる。だからこの世代はどんなキャリアを辿った人でもパワハラ的なコミュニケーションが当たり前という感覚が身についていて、それを今も変わらず続けているんじゃないかと。
【根本】自分が上司にパワハラ的な扱いをされてきたから、それを繰り返すってことですか。
【中田】高度成長期のコミュニケーションは上意下達の指示命令がほとんどで、上司も「いいからやれ」と有無を言わさず部下に何でもやらせていたんでしょうね。それが今の時代はパワハラになる。だからうちの会社では、今まさに「時代の変化とともにコミュニケーションのあり方も変わっていますよ」とおじさんたちに教える研修をやっています。現在は周囲の人の話に耳を傾けて、チームの皆でどうするかを話し合っていかないと、イノベーションは生まれないし複雑化したお客様の問題も解決できませんよと。そうしたら40代の管理職が、「自分は入社して20年になるが、今まで上司からは指示が飛んでくるだけで、一度も話を聞いてもらったことがない」と言うのでびっくりしました。
自分の頭で考えられる人材は1割程度
【白河】上意下達ではないコミュニケーションがあることをそもそも知らないわけですね。でもパワハラ系の上司だと、周囲の人が「こんなやり方もありますよ」と意見できないから、それこそイノベーションなんて生まれなくなる。
【中田】その研修をお願いした講師の方から、「上司が一方的な指示ばかりのコミュニケーションをしていると、指示待ち人間を量産することになる」と指摘されて、なるほどなと思いました。日本の組織を構成するのは、言われたことを指示通りにやる真面目な人が大半で、他人から何を言われても自分の頭で考えて自己実現できるのはほんの1割程度しかいないそうです。だからミドル世代の管理職がコミュニケーションを変えないと、部下たちも自分の頭で考えない指示待ち人間ばかりになってしまう。
【根本】それでは下の世代も成長しないですよね。
【伊藤】実はパワハラの被害者になるのは、指示待ちタイプの人間が多いんです。上司に言われたことを真面目に聞くので、上司も強く言いすぎてしまうんでしょうね。
家に居場所がないおじさんに在宅勤務は難しい
【白河】ワークスタイルの変化に対しては、いかがですか。最近は在宅勤務やリモートワークなどの新たな仕組みを導入する企業が増えていますが、おじさんたちは活用できているんでしょうか。
【根本】私の会社は在宅勤務を取り入れていますが、中高年の男性はなかなかやりませんね。おそらく家にいると奥さんに邪魔者扱いされるといった理由だと思いますが、もったいないと思います。うまく活用すれば生産性を上げられるのに。
【白河】リモートは食わず嫌いが多いんです。おじさんに在宅勤務を強制するのは難しいですね。だから自宅以外のコワーキングスペースを会社が用意することも必要です。例えば味の素などはシェアオフィスをいくつも借りて推奨しています。
【伊藤】私が今一緒に仕事をしているのもおじさんですが、最初のうちはやはり「家には奥さんがいるから在宅はちょっと」と敬遠していたんです。でも奥さんが体調を崩したときに、お子さんもまだ小さいから面倒をみる人間が必要だからと、初めて家で仕事をすることになって。それで実際にやってみたら「すごく効率が良かった」と言っていました。だから一度体験してみれば、おじさんもメリットがわかるし、新しい仕組みを使うようになると思うんです。
遠隔コミュニケーションのリテラシーが低い
【中田】うちの会社でもリモートワークを推進中ですが、新たな課題になっているのが遠隔のコミュニケーションに対するリテラシーの低さ。これはおじさんだけでなく若い世代も含めてですが、今まではフェイス・トゥ・フェイスで会話するのが当たり前だったから、メールやチャットで効率的にコミュニケーションする方法がわからないんです。メールも一言で簡潔に済ませればいいのにダラダラと長文を書いたり、部下も上司に気を使ってなかなかチャットで話しかけられなかったり。
【白河】「小職」とかから始まる長いメールを書いちゃいそうですね。フリーアドレスのオフィスも増えていますが、こちらはうまく活用されていますか。
フリーアドレスにしても固定席にこもり続ける人
【中田】ダメですね。フリーアドレスを導入しても、結局は固定の席に座っています。
【根本】うちもフリーアドレスですが、おじさんたちはいつも同じ席に座っていますね。しかも、周囲の人とコミュニケーションしやすいオープンアドレスではなく、区切られた集中スペースに一人で引きこもっちゃう。
【伊藤】フリーアドレスをうまくチームの活性化につなげているところもありますよ。ある部門ではトップの提案で、「今日は血液型で分かれて座ってみようか」といったお遊び的な要素を入れているそうです。それで、「えっ、あなたB型だったの?」といった会話で盛り上がったりして。そのチームは上手に席をシャッフルしていますね。ただ一方で、「フリーアドレスなんてとんでもない」という頭の固いおじさんがトップの部門もあって、そのフロアだけ治外法権みたいに皆が固定のデスクに座っています。
【白河】治外法権……おじさんにとって、「フリーアドレス=自分の居場所を奪われる」という感覚なので、恐怖心や喪失感が大きい。そこは丁寧に導入の目的を説明してあげるなどのケアが必要かもしれません。
役職定年で「ただのおじさん」になった後が大変
【白河】そもそも皆さんにとって、「おじさん」とはどんなイメージですか。
【中田】やはり固定概念が強くて変化を拒む、という感じでしょうか。
【根本】「過去の栄光に囚われている人」は多いですよね。しかもある程度の年齢で偉くなってしまったおじさんは、実務を部下やアシスタントに任せて自分は手を動かさなくなるので、役職定年を迎えて「ただのおじさん」になったときに大変だなと。今さら自分で手を動かすこともできないので、「口ばかりで仕事をしていない人」と見られてしまいそう。
【伊藤】私は「アップデートできない人」というイメージかな。先ほどの話にもあったように、自分が上司に受けてきたパワハラ的なコミュニケーションから抜け出せないおじさんは多いのですが、「それはパワハラになるからダメですよ」と言われても、「じゃあ、どうすりゃいいの?」と言う反応しか返ってこない。自分で考えて新しいやり方にアップデートすることができないんです。だから最近はハラスメント研修で、具体的なコミュニケーションの方法まで詳しく教えています。「説明するときはきちんと理由を話す」とか「他人と比較しない」とか。
部長の研修効果は低いので、課長から変えていく
【中田】でも、研修を受けても「いやいや、俺はちゃんとできてるから」と言って変わろうとしないおじさんっていませんか? こちらは「できていないから教えるんですよ」と言いたいけれど、本人には悪気がないから難しくて。
【伊藤】わかります。パワハラの加害者になるのがまさにそのタイプですから。自分を客観視できないんですよね。だからパワハラを指摘しても、「俺は怒鳴ってない!」って怒鳴るという(笑)
【中田】だから最近は経営トップと相談して、「部長職はこれまでの成功体験にしがみつくマインドが強すぎて研修をやっても効果がないから、その下の課長職から変えていこう」という方針になりました。そして部長職で明らかに問題がある人は、ポジションを変えたり落としたりするしかないだろうと。
組織をダメにする「仕事ができる有害人材」
【白河】問題のある人物をそのままにすると、職場全体に悪影響が及びますからね。ハーバードビジネススクールの論文で、「有害人材で業績の良い人を雇った場合と雇わない場合のコスト比較」について書かれた論文があるんです(※1)。それによれば、有害人材はチームの生産性を下げるし、周囲も有害人材にしてしまう。だから飛び抜けて優秀なスーパースター人材を雇うよりも、有害人材を雇わないことに注力した方が組織のパフォーマンスは上がるそうです。ある鉄工所がパフォーマンスの高い有害人材を解雇したところ、「1カ月もすると作業者の時間あたりの出荷単価が4割も向上し、以前よりも経営状態が上向いた」と述べられています。
【根本】わかります。パワハラをするような有害人材がいると、周囲はビクビクしちゃって何も言えない。でも本人は周囲を強制的に動かして会社から与えられたゴールを達成するから、上からは仕事ができる人間として評価されたりしますよね。
【白河】仕事ができる有害人材……。これが日本の組織のパフォーマンスを下げている潜在的な原因かもしれないですね。
[1]Housman, Michael, and Dylan Minor. "Toxic Workers. " Harvard Business School Working Paper, No.16-057, October 2015.