恋活・婚活マッチングアプリで累計登録者数が日本最大級のペアーズは、2020年のダウンロード数が対前年比170%と急増している。オンラインでのビデオデート機能やAIによるマッチング提案など、最新の技術とサービスに迫る――。
スマホでビデオチャットをしている女性
写真=iStock.com/RyanKing999
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恋愛・結婚意向が高まった人が4割

コロナ禍で、人との接触や交流リスクに不安を感じる人も多い一方で、「恋愛・結婚」に前向きな男女も目立っています。

ある研究所の調査でも、新型コロナ流行前に比べて「恋愛・結婚意向が(やや)低下した」との回答は、20~40代独身男女でわずか14%のみ。

逆に「(やや)高まった」は約4割にのぼり、彼らがそうでない人たちに比べ、「人と過ごすことのありがたみ」を強く感じていることも分かりました(2020年リクルートブライダル総研調べ)。

もともと恋愛・結婚意向を持つ独身者に限った調査とはいえ、「不安な時代だからこそ、異性と寄り添いたい」との思いの高まりが、透けて見える結果でしょう。

この傾向は2011年3月、東日本大震災という未曽有の大災害の直後、若者の結婚願望が高まり、「震災婚」などと言われた当時にも似ています。

アプリダウンロードが前年比170%

新型コロナに揺れた2020年、日本における恋活・婚活マッチングアプリで認知度、利用率ともにナンバーワンとされる「Pairs(以下、ペアーズ)」(エウレカ)は、アプリのダウンロード数を、対前年比で、なんと約170%も伸ばしたそうです(20年アップアニー調べ/iOS & Google Play合計)。

「理由の一つは、マッチングアプリの有用性ではないでしょうか。コロナ禍でお相手探しの活動量を減らさざるを得ないなかで、初めから相手の人となりが分かるペアーズのサービスは『効率的な恋活・婚活の手段だ』と、改めて評価されたのだと思います」と話すのは、同Brand Directorの西山絵夢さん。

そもそもビフォーコロナの時代から、恋活・婚活マッチングアプリの認知度や利用意向は、右肩上がりでした。

「マッチングアプリで出会った」と堂々と言える雰囲気

ある調査でも、マッチングアプリでパートナーを見つけた18~59歳の男女は、16年に「40人に1人」だったのが、20年には「20人に1人」にまで急伸(16、20年 Match Group自主調査/対象=16年:1万1576人 / 20年:1万5729人)。4年間で、成約率が2倍に増えた計算です。

また「社会的な空気も、少しずつ変わってきたように思う」と西山さん。

ノートパソコンでオンラインの出会い系サイトを閲覧する若く美しい独身女性
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例えば、同社の広告に「マッチングアプリ(ペアーズ)で出会った」として出演するカップルを募ったときのこと。

16年には、「顔を出して出演できます」と手を挙げたカップルはわずか2組だったそうですが、17年末ごろには40、50組が応募。

「さらに直近の19年には、200組近いカップルが応募してくれたんです」と西山さん。

コロナ禍で提供を開始した「ビデオデート」機能

ペアーズの日本でのサービス開始は、2012年。アプリ上で気になる異性に「いいね!」を送り、相手からも「いいね!」の返事があるとマッチングが成立、そこからメッセージのやりとりが可能になる(男性は2通目から有料)というサービスを提供してきました。

個人の連絡先を伝えなくても会話ができるペアーズのビデオデート。(画像提供=エウレカ)
個人の連絡先を伝えなくても会話ができるペアーズのビデオデート。(画像提供=エウレカ)

さらに、コロナ禍の20年4月下旬、提供を前倒しして始めたのが「ビデオデート」機能。会員限定の無料サービスです。

マッチングした相手と数往復以上、メッセージ交換をすれば、個人的な連絡先を伝えなくてもビデオデートが可能に。コロナ禍(自粛モード)でも時間や場所を気にせず、いつでもどこでもオンラインの画面越しに異性と会話できる点が、大きな魅力と言えるでしょう。

ちなみに初回のデートは、あえて「制限時間15分」に設定されているのですが……、一体なぜなのでしょうか?

イメージが違うガッカリなケースでも負担少なく

その理由について、西山さんは「時間制限があるほうが、必要以上にプレッシャーを感じず、かえってリラックスして話ができると考えたため」とのこと。

確かに初回のデートとなれば、男女ともに緊張している場合が多い。また、リアルのデートで「あるある」の事象ですが、待ち合わせ場所にいざ行ってみたら「思い描いていた相手のイメージと違う」とガッカリしてしまうケースは、オンライン上のデートでも十分あり得ます。

そんななかで、時間無制限で「好きなだけ喋ってください」と言われても、「お互いに荷が重いと感じる人も多いのでは?」と西山さん。その後、2回目以降のデートは、時間制限が「60分」とかなりゆったり設定されています。

ビデオデートで最短5日以内にカップル成立

4月のローンチ以降、何度かアップデートを重ね、いまでは肌をなめらかに見せること(「ナチュラルスキン」)や通話時の背景変更が自在にできるほか、ビデオデートが始まる前に「どう映るか」を自己チェックできる機能なども加わりました。

「安心感」も特徴の一つ。ビデオ通話中、不適切なコンテンツが確認されると、強制的に通話を終了させるほか、必要に応じて警告や強制退会などの措置が取られます。

こうした配慮もあってか、20年5月までに同機能を利用したペアーズ会員(約1500人)のうち、約7割が「ビデオデートでの体験に満足」と回答したとのこと(20年 エウレカ調べ)。

「お相手との相性確認なども、リアルより早く進むため、リリース初日から最速で5日以内にカップルが成立しました」(西山さん)

AIがマッチング確率が高まるアドバイス

ペアーズは現在、ビデオデートや通常のマッチングアプリに、AIを活用しています。

例えば、マッチングアプリ上にプロフィール写真を掲載する際は、「2枚より4枚アップしてはどうでしょう?(マッチング確率が上がる)」などを「チャットボット」、すなわちオンライン上で人間さながらにテキストや音声でチャットする機能が、自動的に教えてくれることもある、とのこと。

また、「AIパトロール」が、利用者による不適切なコンテンツの投稿を検知した場合に、先の通り、運営側が利用規約に沿って適切な処置を取るそうです。。

想定外の出会いを引き出すAIのマッチング力

そしてもう一つ、AIの活躍の場が、ペアーズの強みでもある「価値観」に基づくマッチング。

18年、同社は東京大学と共同で、AIを駆使したマッチングアルゴリズムの研究開発に着手しました。

旧来型のマッチングアプリは、「条件マッチング」が大半でした。すなわち、利用者が相手に求める「スペック(年齢や学歴、身長ほか)」を基に検索したり、共通の趣味を持つ相手を自動的に表示してくれたり(レコメンド)など。

ですがこれでは、「想定内」の出会いしか起こりにくい。極端に言えば、「身長175センチ以上」を希望する女性は、「他の条件はピッタリなのに、身長174.9センチの男性とは出会えない」ことにもなりかねません。

ところが近年は、「なぜなのかはよく分からないが、Aという趣味の男性とBという趣味の女性は、マッチング確率が高いようだ」などを、AIが機械学習やパターン認識技術を通じて導き出してくれるようになった。

そのためペアーズと東大は、これまでに蓄積した累計1000万人にも及ぶ膨大な会員データを基に、利用者のプライバシーに配慮した上で、独自のアルゴリズムの開発を進めているというのです。

実は近年、ほかにもAIを恋活・婚活に取り入れるサービスが増えています。

AI活用の8分類

例えば、「いいね!」をクリックした相手(好み)のタイプをAIが学習し、相性の良さそうな異性を毎日ピックアップする「Match(マッチドットコム)」や、心理学と統計学を掛け合わせてAIが最適マッチングを行う「with(ウィズ)」、「顔がタイプ」な異性だけをAIが識別して表示する「MORY(モリー)」など。

ZOZOグループでAIプロジェクトを手がける、ZOZOテクノロジーズの野口竜司さんは、著書『文系AI人材になる』(東洋経済新報社)の中で、AIの機能とタイプを、以下8種類に分類しました。

AI活用の8分類

先のチャットボットは「人間代行型」で「会話系」のAI、またペアーズが価値観マッチングに活用するのは、「人間拡張型」で「予測系」のAIと言えるでしょう。

“掘り出し物”が見つかる可能性が高まる

近年、恋活・婚活の分野でAI活用が進む背景には、おもに3つの理由がありそうです。

1つ目は、人手不足と低コスト化対策。先のチャットボットによる「プロフィール写真を4枚アップしたら?」などのアドバイスも、すべて人間が行えるなら良いのですが……、そのためには、多くの人手と人件費がかかる。それよりは、「人間代行型」のAIが24時間対応してくれるほうが、はるかにマンパワーやコストを抑えられます。

2つ目は、恋愛段階の「なんとなく」や「ビビッと」を、AIが導き出す可能性があるから。

既述の通り、旧来の条件型マッチングでは、どうしても昔の「三高」のような人気者に、好みが集中してしまう。逆に、条件が芳しくない男女は「会ってみるといい人」でも、初期のマッチングでは見過ごされるケースが多い。

でも「人間拡張型」なら、そうした「なんとなく」や「ビビッと」など、人間が対面で本能的に感じ取る感覚を、AIが過去のデータから導き出してお薦めしてくれる。つまり、掘り出し物を探せる確率が上がるわけです。

政府も「AI婚活」を支援

そして3つ目の理由は、国が打ち出した「AI婚活」に対する支援。

21年度から、内閣府はAIやビッグデータを使った自治体の婚活事業、いわゆる「AI婚活」に取り組む自治体への補助を拡充することを決定。そのため、民間だけでなく行政機関からも、AI婚活が注視されているのです。

具体的には、21年度の概算要求に、少子化対策費用として20億円を計上。自治体がAI婚活のシステム導入時の費用の、約3分の2を支援するというもの。

こうした試みが「少子化対策」の一助になる、とも考えているようです。

ただし婚活は、AIだけでなく、かつての「おせっかいオバサン」のような「顔が見える人からの後押しやアドバイス」が重要とされる分野でもあります。

その意味では、AIだけでなく、生身の「コンシェルジュ(相談員)」が24時間アドバイスしてくれる、ペアーズの結婚コンシェルジュアプリ「Pairsエンゲージ」のようなサービスも今後、人気を博すのではないでしょうか。