もっと踏み込みたかった。でも、8年ぶりに議論ができたことは収穫
【白河】今回、みなさんの声、特に若い人たちの声を優先して取り入れようという大臣の姿勢に私は非常に感銘を受けました。とくに選択的夫婦別姓について強く発言されていたと思いますが、今回の決定に関しては率直にどのようにお考えでしょうか。
【橋本】本心で言うともっと踏み込みたかった。ただ今までは自民党というところでは、いわゆる平場と言われる場所で、この問題を議論させてもらえることすらありませんでした。
【白河】議論自体が8年ぶりだそうですね。
【橋本】はい。党内では長く、議論もできていなかったのです。今回、第5次男女共同参画基本計画(5次計画)を策定するにあたり、今まで以上に若い人たちの関心が高いテーマにスポットを当ててつくっていこうと考えました。そうしないと、ますます若い人たちの政治離れが進んでしまいますし、自分たちの思いを政治に反映できるという実感を持ってもらわなければ、女性候補者も増えないからです。そういう思いもあって、この選択的夫婦別姓を盛り込み、議論を進めてきました。
この議論は、内閣第一部会と女性活躍推進委員会の合同部会でも大いに注目を浴びて、いちばん多いときで70人近い人数が集まりました。そもそも選択的夫婦別姓の話が出てきたのが約20年前。現職の国会議員もキャリアが10年ある人のほうが少ないので、初めてこういう議論に参加された方も多かったようですね。そこで推進派、慎重派、ともに議論していく中で「この制度がどういうものかを知った」「自分の考えていたこととイメージが違った」「そういうことであれば賛成」といった先生方の声もありました。これまで議論できなかったことが、久しぶりに大議論する場を自民党内につくってもらえたということは、大きな前進だと思っています。
その前進と同時に、5次計画では、もっと踏み込みたかったところもありました。けれども、それがなかなか難しかったというのが現状です。
菅総理も推進派の立場だったが……
【白河】菅総理も実は推進派と伺ったことがありますが……。
【橋本】今までの政治活動という意味では、賛成の立場にあったと言われていますが、今はやはり多くの議員、一人ひとりの考えをお聞きになる立場なので、慎重になるのは当然だと思います。
【白河】ただパブリックコメントでは400件以上の賛成の声が寄せられ、反対はありませんでした。ユース(U 30による#男女共同参画ってなんですか)の提言があり、私たち有識者も議論して決めたものが、ここにきてひっくり返るというのは残念です。第4次男女共同参画基本計画(4次計画)のときは「選択的夫婦別氏制度の導入」を検討する、と強い書きぶりでしたが、今回はより表現がマイルドになってしまいました。8年ぶりの議論ということですが、5年前の4次計画のときは、議論にならなかったのでしょうか。
【橋本】4次計画のときは直前に最高裁判決がありました。最高裁の判決を踏まえて進めるという書き方でしたが、合憲判決でしたので、党内でも議論がないまま、今に至ったのです。
ちなみに、今回の記述は、夫婦の氏に関する「具体的な制度の在り方」に関し、「更なる検討を進める」という表現になっており、「検討を進める」としていた4次計画から、議論が深まった成果と思っています。
大いに盛り上がった世論
【白河】今回は世論も盛り上がり、若者の声もたくさん届きました。大臣をはじめ内閣府の皆さんの5次計画がパワフルだったので、慎重派・反対派の方にとっては、より脅威だったのかもしれませんね。
【橋本】今回は今までに比べると、私が男女共同参画の担当になって、相当な勢いで走り出そうとしたので、自民党内もびっくりしたのかもしれませんね。
【白河】私も拝見していて、本当にパワフルなリーダーシップでした。調整役である内閣府が、各省庁に乗り込んで進めていくパワフルな内閣府を目指すとおっしゃいました。そこまで踏み込む原動力は何でしょう?
【橋本】慎重派の方のご意見を受け止めるのは当然ですが、この少子化という問題を抱えている日本で、私はどうしても、若い人たちの未来は、自らの手で作らせてあげたいと思っています。今、全国的に一人っ子の家庭が多く、氏を絶やしたくない、継承したいと、どちらの一人っ子も家族を大切に思っています。だからこそ結婚できないという現状に悩むわけですよね。そこを解消するには、別氏を選択できるようにすることでまず家族にしてあげないと。慎重派の方の中には、氏がいっしょでなければ、家族の絆が形成されないという意見もありますが、別氏を選択できなければ、その家族にすらなれない人たちがいるのです。
当然、旧姓使用拡大を推進するのも大事ですが、旧姓使用を拡大することで問題が必ずしも全て解決するわけではないと考えます。その理由の一つとして、国外では旧姓の通称使用が理解されないことがあります。たとえば、旅券の旧姓併記は、旅券の所持人が渡航先国の出入国管理当局から説明を求められたりする等、渡航や外国での生活等において支障を来すことがあります。また、改姓により論文などの研究実績のキャリアが引き継がれないなど、結果的に仕事を続けていくうえでも困難な状況に陥るのではないでしょうか。
若手議員に賛成者多数
【白河】今回、女性の経営層からも声が上がっています。経営者になると登記のこともあるので問題意識が高いのです。やはり女性活躍という意味でも、それから自分の家族、自分の育った家の姓を大切にしたいという方にとっても有益なものであるということですよね。私も農村などで行政と縁結びボランティアをやっている人から「縁結びの限界」を聞いています。長男長女ばかりで縁組もできないと。今回若手議員の方はけっこう賛成が多かったのでしょうか?
【橋本】多かったです。そこは手ごたえを感じたところでもありました。ただ、最終的には党としてどう捉えていくかということになりますので。
地方議会も交えて取り組む必要性
【白河】今後はどのように議論が進んでいくのでしょうか。また私たちにできることがあるとすると、どんなことでしょうか。
【橋本】今後はこの5次計画で起こった議論の場を、どこで続けていくかということになります。これで終わりとするのではなく、党内でも議論を続けていくべきだと言っていただいているので、これからさらに踏み込んでいきたいなと思います。
また、みなさんが応援してくださるのなら、ぜひお住いの地域で声を上げてください。まだまだ地方議会では議論されていませんので、今後は全国各地で選択的夫婦別姓の必要性を訴えている方々に、地方の議会の先生方が理解できる活動をしていただけるとありがたいなと思います。やはりこれは中央の国会だけでなく、地方議会も交えて取り組まなければ全国的な問題になりませんから。
【白河】今回の議論ではユースの方々も自分の声が届く手ごたえがあったようです。FAXのほうが、効果があると聞いて生まれて初めてFAXを使って自民党に意見を送ったという大学生もいます。今後も広く意見を取り入れながら、議論を進めていただけたらと思います。
待ちに待っている事実婚の人たちがいる
【橋本】この選択的夫婦別姓を、待ちに待っている事実婚の方も多いんです。年齢的に鬼気迫っている方もいらっしゃるんです。旧姓使用でなんとかやれるんじゃないかという問題はもう通り越していますから、そういった困難な問題に直面している方々を救わなければ、多様性をしっかりと受け入れる日本にはなりません。
日本は世界のトップランナーになれるポテンシャルが高いのにもったいないことです。世界経済フォーラムが公表している「ジェンダー・ギャップ指数(GGI)」が153カ国中121位もそうですが、医療も教育も行き届いているのに、これほど女性が活躍できない国も珍しいですよね。経済分野、そして特にこの政治分野。こういった問題を一つひとつ解決していくと、政治分野に参画したいという女性も増えてくると思うのです。
政治というのは遠いものではなく、すごく身近なものです。有権者の51.7%が女性であることを考えると、当たり前に女性の政治家は半分いていいわけですよね。クオータ制をつくることも重要ですが、そうしなくても当たり前に女性が政治参画できる環境をつくらなければ、若い人にとっては、いつまでも政治は遠いもので、誰かがやってくれるもの、自分たちは興味がないというふうになってしまいます。そうではなく、若い人たちは声をどんどんあげて、自分たちが起こしたそのムーブメントに政治が動かされていくという手ごたえをぜひ感じてほしいですね。
【白河】本当にその通りですね。政治に興味を持ってくれる若い人たちの声を、これからもぜひ取り入れてください。