日本の育休制度は世界一充実しているのに、なぜ少子化問題は解消されず、女性の活躍推進も進まないのでしょうか。男性の育休取得の促進に取り組む天野妙さん聞きました。

※本稿は、小室淑恵、天野妙『男性の育休』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

自宅でラップトップとメモ帳を使用している妊婦
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Makidotvn)

男性育休「2025年までに30%」が目標

2020年7月に発表された日本の男性育休取得率は7.48%でした。

政府は男性の育児休業が、働き方改革や女性の継続就労のきっかけになると考え、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略(2007年12月)に「2020年までに男性育休取得率を10%にする」との数値目標を掲げました。その後、13%に目標数値を変更し、この10年間は「イクメンプロジェクト」を筆頭に、男性本人に対し、「男性育休は素晴らしい」「こんな制度がある」「こんなにお得」と意欲喚起を行なってきました。その結果、男性の育休取得率は当初の1.23%から7.48%となり、約6%上昇しました。しかし残念ながら、まだ目標数値の半分にとどまっています。そこで、政府は新たに「2025年までに男性育休の取得率30%」を目標に掲げようとしています(令和2年「少子化社会対策大綱(内閣府)」)。つまり、これから約5年間で、現状の約4倍強の取得率まで上昇させなければならないのです。これまで通りの「育児する本人に対する意欲喚起」=「啓発活動」だけでは達成困難な、かなり厳しい目標数値と言えます。

大幅に取得率を上昇させるためには、「啓発活動」の次の施策として強制力のある制度が必要だと私は考えます。

諸外国の男性育休制度と取得状況

では、諸外国の制度や取得状況はどうなっているのでしょうか。日本の育休取得可能期間は、原則として子どもが満1歳になるまでとなっており、保育園に入園できないなどやむをえない事情に限り、半年ごと、最長2歳まで延長が可能です。フランス、ノルウェーは満3歳まで、スウェーデンでは12歳までとなっています。また、日本のように夫婦同時に育休が取れるのは珍しく、諸外国では基本的に別々に取得する制度となっています。

なお、基本的な考え方として、休む権利と給付金がもらえる権利は別となっており、アメリカは国の制度として12週間休む権利はあるものの、国からの給付金は一切ありません。一方、州や会社によっては給付金制度が整っていることから、市民団体が国としての制度拡充を請願する運動を行なっています。

出生率アップに成功したフランスでは、「父親になるための14日間の休暇」(=通称「男の産休」と呼ばれる)を実施。育休給付金は給与の100%給付であり、取得率もほぼ100%と言われています。しかし、14日間の産休を取得した後の男性育休に関しては取得率2%と、高くはありません。

このように、各国において制度の中身が大きく異なるため、育休取得率のみの比較は最適な比較ではありませんが、独立行政法人労働政策研究・研修機構が2014年に作成した調査などをもとに比較してみます。

育休取得率の高い二カ国との差は歴然

ノルウェーではかつて育休取得率が4%と低かったものの、1993年にパパクオータ制(父親割当制度)を導入し、現在の取得率は90%です。給付金に関しては、期間に応じて給付率が変わる制度を導入しています。

スウェーデンでは夫婦で合計480日(約1年4カ月)の育休取得が可能ですが、それぞれが90日以上取得しなければなりません。給付金は、産休10日間が100%給付、390日までは80%給付となっています。現在は約88.3%の男性が取得しています。

この二カ国では、男性の育休取得率が日本の女性の取得率を上回っていることに愕然とします。北欧では、たとえ大臣であっても男性が育休を取得するのが一般的で、小泉進次郎議員が環境大臣就任中に育休取得を示唆しただけで、賛否が巻き起こった日本との違いは非常に大きいと言えるでしょう。

日本の男性育休は短すぎる

なお、「残業しない国」として知られるドイツの男性育休取得率は34.2%。取得率では北欧諸国に及びませんが、ドイツの制度にはユニークな点が多くあります。給付金を半額にする代わりに育休期間を倍にすることが選択できたり、復職後に両親ともに短時間勤務をすると別途手当が支給されたりと、単に育休取得の促進だけでなく、その後も持続可能な働き方が根づくような仕掛けがうかがえます。

小室淑恵、天野妙『男性の育休』(PHP新書)
小室淑恵、天野妙『男性の育休』(PHP新書)

また、日本とともに世界での出生率下位を争うポルトガルは、2009年に産後10日間の父親限定休業を義務化しました。義務化期間を除いた取得率は23.8%ですが、義務化の対象となる産後10日間の取得率は68%。義務化されているにもかかわらず、100%にほど遠い数字には疑問を持たれる方も多いと思いますが、これらの数値は、出生数に対しての比率であり、公務員や銀行員などが含まれておらず、実際の取得率よりも低く見積もられているようです。2000年における男性育休取得率は11%だった同国ですので、義務化によって取得率が高まった国として、日本が見習える部分は多くあると思います。

取得率もさることながら、私が注目しているのは、日本で育休を取得した人たちの取得期間です。

厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」によると、育休を取得して職場復帰した男性の実際の取得期間は、5日未満が約36%、2週間未満と合わせても約71%と、ごく短期間が大多数を占めていることが分かっています。2012年や2015年と比べると、5日未満の取得者数が減り、5日~2週間未満が増えたことは読み取れますが、2週間未満で括ると、2012年が約61%、2015年が約75%。つまり、男性育休の取得期間は、2週間以内が標準と言えるでしょう。女性の取得期間と比べると、その短さは歴然としています。

実は日本の制度は世界一

ここまで日本が世界的に見ても出生率が低いこと、そして同じように出生率が低い国と比べても、男性の育休取得率がいまだに一桁台と致命的に低いことを示してきました。

ただ、制度の中身に目を向けると、日本は世界的に見ても非常に手厚い男性育休制度を有しています。2019年に発表されたユニセフの「子育て支援に関する報告書」によれば、「有償の産休・育休取得可能週数」において、日本は30週と、取得可能週数で見れば世界第1位。2位の韓国(17週)、3位のポルトガル(12週)を大きく引き離しています。

とはいえ、報告書では、日本の低い取得率に対して厳しい目が向けられています。35%の男性が「取得したくても取得できない」という日本の実態が指摘され、人手不足、男性育休が歓迎されない空気、作業負荷、育休がキャリア形成に支障をきたすなどの理由で取得が難しいことも併せて紹介されています。

日本の育休文化は、女性のキャリアの邪魔をしている

世界ダボス会議が毎年発表する「GGGI(男女格差指数)」のランキングで、日本とともに毎年下位を争っている韓国。実は韓国では、2000年初頭に女性の育休取得率が20%を切る状況でしたが、法改正や給付金の給付率を上げるなど施策を重ね、女性の取得率はほぼ100%近くなり、男性も13%と上昇し、日本の倍の取得率となっています。

韓国の制度で面白いのは、最初に育休取得した親(主に母親)は3カ月間80%の給付で、次に取得した親(主に父親)は3カ月間100%給付となり、パートナーに育休のバトンを渡すと給付率が上がる仕組みになっていることです。

私は、待機児童対策のための法改正にあたり、2017年3月に衆議院の厚生労働委員会に参考人として招致された際、男性育休の普及につながる施策として「パートナーにバトンを渡すと給付率が上がる」韓国式を提案しました。ただ、残念ながら、その年の3月末に育児休業が2年まで延長可能となり、実質女性側が育休を延長する仕組みとなったため、男性育休取得推進にはつながりませんでした。

女性だけに休業させる育休制度は、女性の長期的なキャリア形成の妨げになります。育休から復帰した女性を補助的な業務に異動させ、昇進や昇格には縁遠いキャリアコースに乗せることを「マミートラック」と言いますが、女性のみが休業することを前提とした育児支援は、マミートラックを助長させることになるのではないでしょうか。

世界有数の手厚い制度が整備されているにもかかわらず、男性育休の取得率が圧倒的に低い現状は、マミートラックを生み出し、日本の女性活躍を妨げる一因になっているとも言えます。