※本稿は井上智介『職場での「自己肯定感」がグーンと上がる大全』(大和出版)の一部を再編集したものです。
周囲と自分を比べてしまう悩み
医師として受ける相談で、人間関係に関するものは大きな割合を占めます。
なかでも「つい自分と他人を比べて、しんどくなってしまう」という悩みは非常に多く寄せられます。
「人と比べなくても大丈夫」とありきたりな助言をしても、その人の心を軽くできるわけではないため、私も「悩みをちゃんと解消するにはどうすべきか」と頭を悩ますことがあります。
インターネットの発達によって、何かにつけて周囲の人と比較しがちな世の中になりました。
例えば、同業他社で同年代の人の休日・収入の違いや、疎遠だった同級生がSNS上に投稿した幸せそうな生活ぶりなど、簡単に情報が目に入るような時代です。
人間には動物の生存競争という本能的な部分が残っており、そもそも、他者と比較し合うことは、生きていくために必要な、生まれつき備わった能力とも言えます。
これだけ情報化が進んだ競争社会であればなおさら、周囲と自分を比べないほうが無理な話なのです。
ですから、「比べてしまうのはある意味仕方ないことだ」と割り切ったほうがよく、無理に「比べないようにしなきゃ」と悩んで自分を追い詰める必要はありません。
大切なのは「比べてしまった後」、どうするか
代わりに、比べてしまった後にどうするかが肝心です。
誰か(何か)と比較した後は、自分がその人より苦手なところ、劣っている部分などが気になり始めますよね。
そして、少しでも追いつこうと必死に努力をする人もいるでしょう。
もちろん、それ自体は悪いことではありませんが、現実には、みんながみんな、その差や違いを埋められるわけではありません。
そして、その埋められない現実に「やっぱりあいつには追いつけないんだ」「自分は負け組なんだ」と、自らを強く非難してしまう人も多いのです。
これこそ、注意してほしい点です。
そもそも、ロボットでもない限り、自分と全く同じ人間などこの世にいません。
他の誰かと、得意・不得意に違いがあって当たり前です。そして、違いこそが個性であり、個性があるからこそあなたはあなたであり、唯一無二の存在なのです。
100%の正しさなど誰も持っていない
そして、一人ひとりに個性があるからこそ、誰かと意見がぶつかるものです。一般的には、自己肯定感が高い人とは、「他人の意見に同調しすぎることはなく、自分の意見もしっかり述べることができる人」という印象ではないでしょうか。
おおむね正しいのですが、残念ながら、これを間違って解釈している人もいます。
その代表例が、「自己肯定感が高いと、しっかり自分の意見を持っているから、相手の間違いを指摘できる」という勘違いです。
「自分は正しくて、相手が間違っている」というような、0か100かでしか物事をとらえられない状態は、決して自己肯定感が高いとは言えません。
この世の中には、(法律的なことは置いておくとして)「どちらかが100%正しい」という物事は案外少ないものです。
特に、グレーなことを判断する時には、どうしても人それぞれの価値観や個性が影響します。今までその人がどのように生きてきたかが反映され、優先順位も変わり、答えが一致することのほうが稀なのです。
自己肯定感が高い人は意見の違いに柔軟に対応できる
それに、同じ人でも、立場や時期や状況が違うことで、質問や問題への答え・対応が変わってくることも、いくらでもあり得ます。
つまり、人によって考え方が違うのは当たり前で、自分自身の中でも、時とともに考えが変化することも十分にある。
だからこそ、誰かの意見が100%正しいなどということはほとんどなく、そこを求める必要も一切ありません。
自己肯定感が高いと自然とこのことに気づき、意見がぶつかった時は、自分も正しいし、相手も正しいと考えられるようになります。
その場の状況を冷静に分析し、どのような選択をすればいいかを考えた結果、「お先にどうぞ」の精神で、相手の意見を尊重して最優先にすることもあります。
ただし、自分の正しさも心の中で認識できているので、決して自己否定には至らないのが特徴です。
逆に、自分の意見が採用された時も、決して相手の意見を否定したりしません。
それは、時間がたてば、自分も相手のような考えや答えに至ることが十分にあり得ると知っているからです。そこで相手を否定してしまうと、将来的に自分の行動や考えの選択肢を、自ら潰してしまうことになりますからね。
マウンティングしてくる人への対処法
相手が自身の意見が採用された時に、「私の正しさが認められたんだ」と強く意識して、こちらにマウンティングしてくるケースもあります。もうおわかりだと思いますが、そのような相手は、決して自己肯定感が高い人ではありません。
むしろ、「かなり不安の強い人」だと考えていいでしょう。今まで自分の意見が通ったことがなく、つらい思いをしてきたのかもしれません。
そうした不遇な過去に思いを馳せつつ、あえて“上から目線”で「かわいそうな人だなあ」と流すだけでOKです。
忘れてほしくないのが、自分も相手も、どちらかが100%正しくて、もう一方が100%間違っていることなどない、ということ。
精神科医のトーマス・A・ハリス氏が著したように、「I’m OK, You’re OK.(あなたも私も大丈夫)」の心構えを自分のものにするために、意識的に口に出していきましょう。