職場の男女機会均等の取り組みを評価するグローバル認証「EDGE Assess(エッジアセス)」取得するなど、さまざまな女性のキャリア開発支援に取り組むチューリッヒ保険会社。女性管理職比率は22%と高い数字を誇るが、これをさらに推進するために、今まさに取り組んでいることとは――。

女性の昇進を阻むのはアンコンシャスバイアス

【白河】女性活躍には力を入れていらっしゃいますが、女性の意識が変わるきっかけや仕掛けというのは、どのようにつくっていらっしゃるのでしょうか。

【西浦】女性活躍のネックとなるのがアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)です。優秀な女性社員にぜひ管理職としてやってほしいといっても、「自信がありません」「残念ながらお受けできません」と辞退されることがあります。ですから、そういったマインドセットを変えるために、アンコンシャスバイアスの研修を積極的に行っていますね。

チューリッヒ保険 CEO 西浦正親さん(写真=本人提供)
チューリッヒ保険会社 CEO 西浦正親さん(写真=チューリッヒ保険会社提供)

また2015年からは、社員同士がキャリアや働き方について意見を交わしたり、ママパパ会など情報を共有する場を作ったりする「WIN(Women's Innovation Network)」という取り組みを行っています。今後、大事なのは、もっと女性のロールモデルが増えることです。女性の経営陣や管理職が多いほど、女性は自分のキャリアを考えやすいですし、その人をお手本に頑張ろうという気持ちになります。そのために2016年から「Female Talent Program」というリーダー育成プログラムを導入しています。

【白河】それは、女性の活躍を推進するための研修プログラムですか。

【西浦】はい。毎年、ポテンシャルが高く、成長意欲のある10~15名の女性を選抜し、リーダーにとって必要なマインドセットや人前で話すためのスキルなどを学ぶ2年間の研修プログラムです。参加している女性には、メンターとしてシニアリーダーがつき、そのメンターと話し合いながら、マインドセットを変えていきます。

男性から不平不満は出てこない理由

【白河】両立支援はたっぷりあっても、活躍支援はないところも多いので画期的な取り組みですね。ただ“Female Talent”と銘打ってしまうと、男性のほうから「女性ばっかり」という意見が出ませんか。

【西浦】そういう懸念もありましたが、特に男性からの不平不満はありません。今の日本の社会で男女を比較すると、明らかにキャリアの機会は男性のほうがより多く与えられています。このプログラムは、それを平等にするためのプログラムであって、女性に特別に多く機会を与えるものではありません。ダイバーシティは男女にかかわらず、さまざまにありますが、そのダイバーシティを受け入れるインクルージョンという文化の醸成なくしては、ダイバーシティの実現は難しい。そこは力を入れて、ふだんから社員とコミュニケーションをしていますので、男性の不満が耳に入らないのは、こうしたコミュニケーションが効いているからかもしれません。

【白河】文化といえば、女性が活躍することは推奨されていても、男性が育児をすることは推奨されていない文化もあります。育児休業など男性のワークライフバランスについて、何か対処されていることはありますか。

【西浦】男性で育休をとる人はまだまだ少ないですが、男性も気兼ねなくとれる環境をととのえる必要性は感じています。やはり性別にかかわらず、利用しやすい環境をつくっていかなければいけないでしょうね。それもアンコンシャスバイアスの部分が大きい。

【白河】そうですね。男性は放っておくと、とらなかったり、周りもすすめなかったりしますよね。男性管理職の意識改革のために声掛けなどはしていらっしゃいますか?

【西浦】はい、しています。たとえば男性が育休をとるのはおかしいと思い込んでいるのは偏見だよという話を具体的な例を挙げて話していますね。

働き方や働く場所はライフスタイルに合わせればいい

【白河】育休明けは時短勤務をする人も多いですが、その時短勤務の評価が企業の課題のひとつとなっています。御社ではどう評価されていますか。また時短勤務をとる人が増えると、どうしてもチームのマンパワーが落ちますが、そこはどのように工夫されていますか。

【西浦】評価は、あくまでも育休期間を除いて、実際に勤務していた期間を対象にできるだけ公平に行っています。また時短勤務をとる人が増えても、業務をシステム化やペーパーレス化してチーム内でうまく分担するしくみができていますので、大きな偏りはないように思います。

【白河】負担を感じる社員が出ないように工夫されているわけですね。御社は今回の新型コロナウイルス災禍で、ほとんどの社員が在宅勤務に移行されましたが、こういった柔軟な働き方ができると、反対に時短勤務を長くとらない人が増えるという話も聞きます。

【西浦】それもあるかもしれません。一方で、そもそも育児に限らず、個人的な事情で時短勤務をしたい人もいるでしょう。そう考えると、今後は育児に限らず、誰でも時短勤務ができる人事制度を用意していく必要があります。

一番のハードルは、人事評価制度

【白河】もともと柔軟な働き方ができているところに、今回の在宅勤務の経験値が重なって、これからもっと柔軟な働き方になっていくということですね。

【西浦】そうですね。おそらく今後の働き方においては、時間と場所の管理という概念がなくなっていくだろうと思います。働き方や働く場所は、その人のライフスタイルに合っていればいいと思うんです。一足飛びにはできませんが、そこに向かってどうやってソフトランディングしていくか、そこが今の私のいちばんの課題です。

その大きなハードルになるのが評価制度です。人事評価については、何よりも公平性を保てることが重要でしょうね。今後の人事評価の在り方については、タスクフォースを立ち上げて検討しています。また、社員には一人ひとりが自分のキャリアについてオーナーシップを持ってほしいとの考えから、そういったキャリア開発をサポートする制度も導入しています。

【白河】いくら働き方が変わっても評価そのものが変わらなければ、新しい働き方は実現できないということですね。個人がキャリアのオーナーシップをとるために、具体的にはどのような機会があるのでしょうか。

【西浦】日常的な1on1に加え、四半期に一度は育成に焦点をあてた面談を行っています。キャリアについても、全社員が毎年上司と1on1をすることになっています。

【白河】そのときに上司と話し合って軌道修正し、たとえば社外に勉強しに行くといったこともあるのでしょうか。

【西浦】そういった社員もいますよ。「Re-Creation休暇」と呼んでいるのですが、実際に自分に投資するための休暇制度を設けています。たとえば勉強のためにセミナーを受けに行く、資格をとるために集中して勉強するなどといった用途で活用されています。

変わらない企業は淘汰されていく

【白河】お話を聞いていて、本当に柔軟にアフターコロナ、ウィズコロナの働き方を設計されていて素晴らしいと思いました。

【西浦】やはりニューノーマル(新常態)といわれるように、今後はこれまでの常識が非常識に、非常識が常識になることは、たくさん出てくると思うのです。お客様のニーズも変わってきますから、企業もそれに合わせて変革していかなければならない。お客様のニーズとしては、よりデジタルにシフトしていくように感じています。

【白河】相談や契約など、すべてデジタルベースで決めたいという方が増えているということでしょうか。

【西浦】そう思います。今回のコロナ問題でネットショップに今までにないほどの注文があったようですが、保険も商品の契約内容の継続や変更など、対面で手続きするよりも、電話やネットなどを活用されたい方がこれまで以上に増えるでしょうね。また今まで保険に関心がなかった方も、こういう状況下では必要性を感じられるでしょうから、そういう方々にも適切な保障を提供できる商品ラインナップをそろえていかないといけないと考えています。

【白河】そう考えると、やはり日本にはすごいパラダイムシフトがきたんですね。ここで変われるか変われないかで、今後の企業が生き残れるかどうかが決まっていくのでしょうね。

【西浦】本当にそうだと思います。ここできちんと状況認識、状況把握ができて、変わらなければいけないという意識を持てない企業は淘汰されていく、そう感じています。

【白河】最後に、そういった淘汰されない企業になるためにも、今後の女性活躍に対して覚悟の一言をお願いします。

【西浦】女性が元気に活躍できる企業は、大きく成長する企業だと私は考えています。ですから今後も、女性に男性と同じだけのキャリア機会を与えられるように取り組んでいきたい。そして男女にかかわらず、サスティナブルな働き方をすすめていきたいと思っています。同じ会社に長く働いてもらえるのは、経営にとって非常に大事です。そのためには働きがいのある職場をつくっていかなければならない。そこに私はフォーカスしていきたいと考えています。

【白河】ありがとうございました。