今後、本格的な“赤字リストラ”が始まる
2019年に早期・希望退職者を募集した上場企業は36社、対象人数は1万1351人。2012年以降では最も多い数になった(東京商工リサーチ調査)。ただし、リストラに踏み切った企業の中には、業績好調のときに人員のスリム化を図ろうとする黒字企業も含まれ“黒字リストラ”とも呼ばれた。
今年2020年1~3月に希望退職を募集した企業は23社で、表向き新型コロナによる業績を理由に募集したのは2社にとどまる。しかし業績悪化の企業が相当数に上るため、今後、本格的な“赤字リストラ”が始まるとみられている。
解雇ルールが厳しい日本では、通常の退職金額に上乗せした「退職割増金」を目玉に退職したい人を募る希望退職という手法が一般的だ。しかし「希望」といっても実際は退職してほしい人に「あなたに任せる仕事は当社にはありません。社外で活躍できる道を探しては」という退職勧奨を行っている。
一方で辞めてほしくない社員には「一緒に会社の再生に向けてがんばろう」と言って慰留する。この手法はバブル崩壊後の不況時のリストラで定着し、2000年のIT不況、リーマンショックや東日本大震災時のリストラでも多用されてきた。
退職勧奨の根拠は2つの評価
退職勧奨自体は法的には問題ないが、「辞めろ!」と言えば「退職強要」になり「不当解雇」に発展しやすい。また、退職勧奨するには、それなりに説得力を持たせるために人事評価結果を提示し、本人が成績不良者であることを示す必要がある。
一般的な人事評価は、目標達成度や営業数字など定量化された「成果評価」と、チームワークやコミュニケーションなどの「行動評価」(コンピテンシー)の2つに分かれる。2つの評価のウエイト付けは企業によって異なるが、最終的にS、A、B、C、Dの評価ランクが決まる。
テレワークで「行動評価」をするのは難しい
ところが、新型コロナウイルの感染拡大や政府や自治体の出社制限の要請でテレワークが急速に広がり、すでに在宅勤務が2カ月を超える企業も出てきている。その中で「行動評価」が難しいという声も出始めている。
建設関連業の人事部長はこう語る。
「営業職はもともと直行直帰も少なくないし、モバイルワーク主体でやってきた。数字(成果)が評価の大部分を占めていたのでそれで支障がなかった。しかし、それ以外の人事・経理・総務などの管理部門やマーケティング、制作部門は、目標達成度以外の行動評価も重視していた。例えば『コミュニケーションを取りながら周りと連携しながら仕事を進めていた』とか『後輩の育成・指導を熱心にやっていた』といった項目は、在宅勤務に入ってからまったく見えなくなってしまった。これまでのように会社にいれば、管理職は部下の仕事ぶりをみれば大体わかったが、在宅勤務では難しくなっている」
今回の自粛ではこれまで在宅勤務を経験しなかった“にわか在宅勤務者”も多く、社員をマネージする管理職がとまどうのも無理はない。とくに評価は半期ごとに実施する企業が多く、部下が見えない管理職は、部下の仕事の進捗状況をどのようにして把握すればいいか悩んでいる人も多いだろう。管理職の中には毎日、朝礼・終礼のテレビ会議を開くという珍現象も発生している。
「仕事の見える化」で人事・総務系でも評価が可能に
一方、毎日朝礼なんてナンセンスだと指摘するのはサービス業の人事部長だ。人事部では去年の後半から東京オリンピック時のテレワークを想定し、独自の業務マネジメント改革を進めてきた。在宅など働く時間と場所の自由度を高めるために個々の部員の仕事のスケジュールと情報をネット上で共有化し、週1回のミーティングで進捗管理を行う仕組みを推進してきた。人事部長はこう語る。
「まず人事部として取り組むタスクの一覧をつくり、タスクの目的とゴールを共有する。そのタスクの目標が部員一人ひとりの目標に紐付いている。いつまでに何をやるかというタスクの進捗状況を事前に記録し、週1回の会議で部員同士や上司が確認し、進める上で困っていることがあれば皆で議論することにしている。つまり1週間という時間をどのように使うかは本人の自由だが、一方で自律的に仕事を進めることが求められる。もちろん途中で誰かに相談したい場合は躊躇なくチャットで連絡すること、相談された相手は、忙しいときは『1時間後に連絡をくれ』と、必ず代案を出すこと、など細かいルールをつくって徹底した」
こうしたことを進めてきた結果、3月末から在宅勤務下でも何とか機能しているという。個々の部員の仕事の“見える化”によって人事評価にも困らないと言う。
「タスクの進捗状況や個々の成果が見えるので評価も困らない。評価面談の際の本人の自己評価とほぼずれることもない。人によって報・連・相がうまいか下手か、業務遂行力などの能力発揮のレベルも見える。また、それに対する課長の指導力もわかる」(人事部長)
テレワークの推進で、成果を軸にした評価が強まる
ただし、他の部門ではこうした仕組みづくりをしてこなかったために部下の進捗管理ができず混乱している管理職もいるという。人事部長は「管理職が今までちゃんと指導してこなかったツケが露呈している。今後、在宅勤務などテレワークが進めば、より目標の達成度や成果を軸にした評価が強まるだろう」と指摘する。
ポストコロナ後の働き方のニューノーマル(新状態)はテレワークを基調にデジタルスキルを駆使し、時間と場所の自由度の高い働き方に変わる一方で、行動評価もデジタルで「行動プロセス」を把握し、より「成果」の比重が高まることになるかもしれない。
そうなると、このシステムを駆使できない社員や管理職の評価は厳しいものになる。前出の建設関連会社の人事部長は在宅勤務で働いている社員の現状についてこう明かす。
「優秀な部下は放っておいても自分のやるべきことを理解し、率先して仕事を進めている。日頃からコミュニケーションのある社員は、在宅でも連絡を密にしながら仕事を進めている。しかし、逐一指示しないと働かないオジサンや不良社員は、仕事をしないで家で寝ている人もいるらしい。また、性格的にコミュニケーションが下手な社員は誰からもアクセスが来ないので、やりたい放題の状態になっている。在宅勤務の長期化で社員の本当の能力が炙り出されている」
人事部長は従来の人事評価のあり方を見直す必要があると指摘する。そして今後起こりうるリストラの対象者は「成果」を軸に選別することになるだろうと言う。
これからリストラの対象になる人の特徴
では、具体的にどういう人たちが対象になるのか。人事関係者の意見を総合すると以下のようになる。
②週次、月次の目標の達成に向けて自律的な働き方ができない人(成果が低い)
③テレビ会議などで存在感が薄く、コミュニケーション力が低い人
④テレワーク下の報・連・相が下手な人
⑤部下の進捗状況が把握できない。指導・助言が不十分で組織成果が低い管理職
これまでは朝から夜まで長時間働くことでアピールしてきた人、あるいは職場の先輩・後輩関係など、つきあいの良さで人間関係を維持し、成果は低くても生き延びることができた人もいるかもしれない。しかしニューノーマル下では、間違いなくリストラのターゲットになる人たちだろう。