2019年の「ジェンダー・ギャップ指数」で日本は121位という残念な結果に。日本に女性リーダーが増えない理由を、外交官から政治家へと転身し、少子化対策や女性活用に力を注ぐ松川るい議員に、プレジデント ウーマン編集長・木下明子がインタビューしました。
自由民主党 参議院議員 松川るいさん
自由民主党 参議院議員 松川るいさん

日本で女性政治家が誕生しにくい理由とは

――今回のジェンダー・ギャップ指数(GGI)の結果を見ると、日本は特に政治分野での女性進出が遅れているようす。

まず、政治分野でのGGIの評価対象は衆議院議員に占める女性割合のみで、参議院や地方議会は含まれていません。日本は衆議院の女性議員率が9%と著しく低いのです。参議院だけを見れば2019年の選挙では28%が女性なのですが、とはいえ、これでも世界基準の男女均等には程遠いですね。

なぜこうなってしまうかというと、そもそも日本では政治家という職業自体が家庭との両立を前提にしていないのです。勤務時間は朝早くて夜遅い。かつ不規則で、ワーク・ライフ・バランスなんて、ないも同然。これでは女性、特に子育て中の人がやる仕事としては非常に厳しいと思います。私自身、小学生の娘が2人いて夫は単身赴任中。男性議員とまったく同じようには動けません。活動量の差をどう補うべきか、日々頭を悩ませています。

なぜかというと、日本では、地域イベントや会食など有権者と対面する選挙活動が、票に直結する傾向が非常に強いからです。けれど、子育て中の女性議員は、夜や休日の催しに参加できる機会がどうしても限られます。家事も育児も介護もすべて奥さんに丸投げしている男性議員と同じ仕事の仕方じゃないとだめだとなってしまうと、女性が増えないんです。女性は合理的な生き物ですから。有権者の方にもそれを許容していただける社会になれば、もっと多様な議員が活躍しやすくなると思います。

もう1つ、日本は小選挙区制なので党の代表として出てくるのは1人だけですが、そこに新たに女性が入り込める枠はなかなか空きません。18年に女性の政治進出を促す目的で「政治分野における男女共同参画推進法」が成立し、男女の候補者数をできる限り均等にすることが決まりましたが、これはあくまで努力目標です。小選挙区制の中で確実に女性を出すということをしないとそもそも当選しないわけですから、男女同数なんて無理なんですよね。

自由民主党 参議院議員 松川るいさん

――具体的に比率を決めて強制力を持たせないと不可能なのでは?

GGIで日本とアジア最下位を争っていた韓国は、選挙で候補者の一定比率を女性に割り当てる「クオータ制」を導入することで女性議員数を増やし、今回のランキングでは108位まで上昇しています。日本もそうすればよいのでしょうが、今の段階では女性地方議員の増加を目指すほうが現実的。今、自由民主党の女性局の中でも地方議員を増やす取り組みをはじめたところです。地方議員を経て国会議員になる人は多いですし、東京と違い職住が近接している方が多いので、女性がワーク・ライフ・バランスを整えやすいでしょう。

男性中心のカルチャーを変えていくために

――政治家も有権者も意識を変えていかないとダメですね。

自由民主党 参議院議員 松川るいさん

多少無理やりにでも女性を増やしていくと確実にカルチャーが変わると思います。国会議員は国民の代表であり国会は日本の縮図ですから、人口の半数が女性なら議員もそうあるべきです。でも国会に出ると周りは依然として、男性ばかり(笑)。

先日、フィンランドの国会に行って本当にびっくりしたんですよ。会議場の半分くらいが赤とかピンクとか黄色、いろんな服の色の女性で占められている。それで、議長席、閣僚席、閣僚が質問する席についている議員も、3人すべて女性だったんですね。これだけ女性がいたら、議員の活動スタイルも変わるでしょう。日本はやっぱり国会の、あのダークスーツだらけの景色を変えない限り、変わっていかないだろうと思いました。

企業の役員会などでもいわれていることですが、マイノリティーが3割になるとカルチャーが変わる。国会でも、女性議員が1人だけでは既存のカルチャーに合わせざるをえません。でも、これが3割になると全体のカルチャーが変わってくるはずです。会社なら会議が早く終わるとか合理的になるとかいわれていますが、議員なら多様な活動スタイルが認められるといったことですね。もっと女性が活動しやすくなっていくはずです。

――19年末の税制調査会では、寡婦(夫)控除における未婚のひとり親への適用などが実現しました。松川さんをはじめ女性議員が中心になって奮闘されたそうですね。

従来の制度には、男女で控除内容に差があったり、未婚でひとり親の人を寡婦(夫)に含めなかったりと現代にそぐわない部分がありました。議決日前日の税調の場で、稲田朋美幹事長代行はじめ女性議員のパワーで署名を集め、男性議員を含めて130人くらいの賛同をもらい、変えましょうと働きかけたんです。伝統的家族観が崩れる、未婚で子を産む女性が増えるといった反対意見もあったのですが、結果的にわかったのは、「未婚・既婚や男女で子育てを区別するなんてありえない」という意見の人が男性を含めて意外に多いということです。

プレジデント ウーマン プレミア 編集長・木下明子

一方で、新聞を中心としたメディアでは最初、このニュースについての女性議員の動きがまったく報道されませんでした。「女が日本の制度を変えられるはずがない」みたいな意識が働いたのかと怒りを感じました。総理に頼んだから実現したなんていう根拠のない話も出て、女性が何かすると「男性の後ろ盾があったはず」という意識が透けて見えて不愉快でしたね。1週間くらいして、ようやく内幕も含めて報道されるようになり、女性が中心になったことが認識されました。2020年はどうも目玉がない税調だといわれていたのですが、最終的にこれが一番の話題になり、かつてない税調だったと思っています。

次は3割しか支払われていないという養育費未払いの問題にも、国が取り立てするように変えるなどして取り組んでいきたいです。

小泉環境相の育休はなぜ必要だったか

――少子化対策にしても、古い価値観を引きずった政治家は、女性が何に困っているのか本質的な点がわかっていないように思います。

同感です。私は20年を少子化対策元年にしたい。今、頑張らなかったら、母体となる女性の数自体どんどん少なくなって厳しい状況に陥ります。対策の1つとして、私は男性の育休取得の義務化による家事・育児の分担の推進に取り組んでいます。統計的にも男性の家事・育児関連の時間が長い世帯ほど、第2子以降が多く生まれることがわかっています。夫婦の幸せ度も確実にアップします。

※寡婦(夫)控除:もともとは戦争で夫を亡くした妻を支援するための制度で、1951年に創設。配偶者との死別や離婚によって独身になった人が、一定の条件のもと所得税や住民税の控除を受けられる。2019年まで男女で控除条件に差があり、未婚のひとり親には適用されなかった。

19年に小泉進次郎環境相が現役大臣として初めて育休を取得しました。リーダーが率先して取得すれば、その下にいる男性も取りやすくなる。勘違いしている男性が多いですが、育休は「休み」ではありません。育児は、親として男女一緒に行うのが当然の「仕事」です。それがどれだけ大変かわからない人が多いから、電車にベビーカーを乗せると舌打ちされたりするわけです。そんな社会で子どもが増えるはずはありませんし、カルチャーを変えないと。

日本は成熟した先進国としてもっと幸せ度の高い社会を目指すべきです。だから男性の育休をあたり前のものにしたいのです。男性が育児を体験すれば、それを機に家庭における夫婦の家事・育児分担がより公平に変わっていくことが期待できます。フランスでは、約2週間の男性の育休が事実上義務化されており、実際に出生率がだいぶ回復しています。

女性議員が増えれば、現実に沿った政策が実現していく

――幼児教育・保育の無償化についても、ずれているという意見が多いです。

「まず待機児童を減らすべきだ」「無償化による保育の質の低下が心配」といった声も多く、女性のリアルな声に応えているとは言い難いかもしれません。だからこそ、女性リーダーを増やすことが大切なのです。女性議員が増えれば、現実に沿った政策が実現していくはず。私自身もその1人として、今を生きる女性たちの声を政策に反映していきたいです。

▼インタビューを終えて
政治の世界もビジネスの世界も女性リーダーが増えない原因は同じなのだと実感。政治の世界こそ働き方改革が必要です。ただし、ビジネスリーダーの評価軸が「業績」であるのに対し、政治は「票」という形で有権者が評価することになります。まずは、国をよくするためにはどういった評価軸で投票すべきかを有権者である私たちがきちんと理解してこそ、政治の世界に多様な女性が進出できるのです。小泉環境相の育休について、育児体制が整っている家庭で父親が休む必要があるのかといった反対意見もありましたが、産後の女性を支える手が足りないから男性が「手伝う」という考えそのものがおかしい。男女問わず親としての仕事をまっとうするのは当然のこと。それをリーダーが率先して体験することが、少子化や女性活躍についてリアルな対策につながる第一歩なのだとあらためて実感しました。(プレジデント ウーマン プレミア 編集長・木下明子)