男ばかりの会議室で「女性初」の意味を自覚

子育てが一段落した30代後半で総合職にシフトした陶山さなえさん。スタートでは男性の同期に遅れたが、その後はスピード昇進で現在はグループ会社のトップとして活躍する。キャリア人生には昇進のたびに「初の女性○○」がついて回った。

SOMPOコミュニケーションズ 代表取締役社長 陶山さなえさん
SOMPOコミュニケーションズ 代表取締役社長 陶山さなえさん

「初めて部長になったとき、部店長会議の会議室で300人ほぼ全員男性という光景を見て、自分が初の女性部長だということに身が引き締まる思いがしました」

部長就任後、自分にだけメールが来ない、会議に呼ばれないなど、困ったことが続いた。そんな状況にもめげず、陶山さんは対策に動いた。

「わざとじゃないと思ったので、喫煙室に出向き雑談に参加したり、飲み会に出たりして存在感を強めました。男性社会は、非公式な社交場で合意形成や情報交換が行われる傾向がありますが、外せない仲間になってしまえば問題は解決します」

特に困難にぶつかったとき、感情を抜きにして冷静な視点で考えると、突破口が見えてくるもの。そういった鈍感力は有事に頼りになるリーダーの資質でもあるという。

その後、役員に就任したが、経験不足や知識の偏りに危機感があった。その時、同期や部長時代に培った社内人脈からの応援があった。

「経験談を聞いたり、有益な人や場につないでもらうなど、ずいぶん助けてもらいました。ほかに個人的に経営学の家庭教師をつけて勉強するなど、逃げない覚悟があったので、周囲も手を差し伸べてくれたのだと思います。人脈のあるなしは、トラブルや新しいことを始める際に大きく影響します。一方で、人とほどよい距離をとる強さも大事。前に出るには、自分の考えを持ち、自立していないと信念が通せなくなります」

陶山さなえさんの昇進年表

違いは引け目ではなく強み。多様性は女性に味方する

課長時代から続けている「いいことノート」は陶山さん流マネジメントの基本だ。社長に就任後も1年をかけ、1人15分で全社員と面談し、印象に残ったそれぞれの「よい面」を記録した。

「部下の人柄を知れば評価もフェアになりますし、現場のリスク確認もできます。管理職が部下の人間性に注目することは、組織の多様性を把握するという意味で大事ではないでしょうか。それは柔軟で強い組織の育成につながると思います」

しかしそんな陶山さんもかつては女性であることに引け目を感じ、自分が組織の多様性に寄与するとは思えなかった。認められたくて男性に同化し、パンツスーツに身を固めて懸命に働くひとりの女性だったのだ。

「これから役員をめざす女性に伝えたいのは、違いを生かすこと。多様性に富む組織運営が、持続的な成長につながることはさまざまな企業で検証されています。違いは引け目ではなく強み。若い人にはもっと自分を出して働いてほしいと思います」

同時に本格的な女性活躍にはCSRや広報だけではなく、営業など経営に影響力がある主要部門の部長や役員への登用を進めることが、組織変革に必須だと指摘する。女性にも課長以前から経験の機会を与え、男性と同様に幹部候補として育成するということだ。

「チャンスが来たら躊躇ちゅうちょせずに手を挙げてほしい。組織の階段を上がると、見えてくるものがまったく違ってきます。うまくいったら実力、失敗したら人事のミス、くらいの気持ちでいいんですよ(笑)。まずはバッターボックスに立たないと勝負は始まりません」

陶山さんは数年後に会社人生のゴールを控え、心に決めたことがある。

「記憶と記録に残しても影響力は残さず去りたいですね。次のステージでもイキイキと楽しく働く姿を、後輩たちに見てほしいのです」

役員のモットー
▼雑学はとても役立つ!
お酒の銘柄&価格
接待では供する酒類の質でもてなしのレベルが決まる。ワインの価格で商談の本気度がわかるということだ。逆も同様。ワインや日本酒の価値を知り、逸品には感謝を示すのが礼儀。もてなしが通じる相手とは心も通じる。陶山さんも宴の主人が務まるように自費で高級店に通い、ワインや料理の知識、場慣れのための練習をしたそう。
歴史小説
接待で会話がはずめば心象がよくなるもの。耳学問でもいいので話のネタを揃えておきたい。スポーツや食が常套だが、歴史も◎。経営者は「三国志」ファンが多く、経営学では事例を引くこともあり、背景や思考パターンなど、大筋を知っておくとよい。文庫本でいいが、時間がなければ漫画もあるので、一応頭に入れておくと役立つ。