国や企業が女性管理職登用を後押ししているにもかかわらず、日本では優秀な女性たちが昇進するのを躊躇してしまうことが少なくない。なぜこうなってしまうのか、リクルートキャリアでエージェントアライアンスユニットの部長を務めながら、多くの女性社員のキャリア相談にも乗ってきた森本さやかさんに、管理職予備軍の女性たちが昇進を渋る本当の理由と、昇進後のリアルについて聞いた。
質問を待つ女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/metamorworks)

管理職予備軍の女性たちが抱える3つの不安

日本の労働人口が減っているため、近い将来、定年が70歳まで延長されます。シニア層、外国人など多様な働き手がいる今、特に期待が高まっているのが女性の管理職登用です。会社から打診をされている人もいるのではないでしょうか。リクルートには自己申告制度というものがあり、1年に1度、自分のキャリアや働き方を会社に相談することができます。その取り組みの一環で、私は管理職予備軍の女性社員の話を聞く機会が多いのですが、「会社から管理職にならないか?」と言われて決断しかねている彼女たちの心の内は、大きく3つに分けられます。

1.自分に素質や資格があると思えない

男性の多くは、最初から上のポジションに就くことを目指してキャリアをスタートさせます。一方の女性は、「何となく波に乗っていたら、気がついたらここまで来てしまいました」と言う人がほとんど。私もそうでしたが、言わば川下りのようにしてキャリアを築き上げているため、「そんな自分に管理職になる素質や資格があるのか」と、どうしても自信が持てないのです。

2.ワークライフバランスが取りづらそう

最近は、子育てや親の介護など、さまざまな事情を抱えながら仕事をしている人が多いですよね。そんな状況下で働いているので、「勤務時間が長くなったら困る」「緊急時に対応できない」など、管理職になることに対して漠然した不安を感じるのです。私たちは、すごい熱量で周りをグイグイ引っ張っていくようなマネジャーに育てられてきた世代。自分の中の管理職象がオールドタイプだから、ついつい「管理職になったら、プライベートに負担がかかる」と、思ってしまうのかもしれません。

3.専門性を失うことが怖い

法務や経理などの専門職でずっとキャリアを磨いてきた人たちに多くみられるのですが、管理職になることで現場から離れることに不安を感じるようです。これまではスペシャリストとしてキャリアを積み上げてきたのにそれが活かせない、またこの先どのように目標を持てば良いのかわからないという人もいます。

私が「管理職はいいことしかない」と思う3つの理由

いろいろな不安があると思いますが、私は実際に管理職になった女性たちからは、「後悔している」という話を聞いたことがありません。私自身も小学4年生の子どもがいて、育休から復帰して少したった頃に管理職になりました。当初は確かに不安がありましたが、あのとき決断して本当によかったと思っていますし、むしろ「いいことしかない!」という印象を持っています。

1.仕事の幅が広がり、成長できる

私の場合は、何よりも成長の余白を感じられたことが大きかったです。キャリアを重ねると仕事のだいたいのことはできるようになって、だんだんと新鮮味がなくなってきませんか? 管理職になれば、入ってくる情報のスピード、量、質がそれまでとは明らかに変わる。自分に任される仕事の幅がぐんと広がり、影響力の範囲も大きくなることでやりがいがかなり違ってると思います。きっと、今まで以上に仕事が面白くなりますよ。

2.時間をコントロールしやすい

以前より仕事もやりやすくなりました。それは、自分の裁量の中で決められることが増えるぶん、時間のコントロールもできるからだと思います。先ほども申し上げたように、管理職はいろいろな情報が早く入ってくるので、そのときの状況に合わせてスピーディーな対応ができるようになります。また、できることはメンバーにも権限譲渡して、自分だけしか判断・対応ができないということを減らしています。女性はわりと責任感が強い人ので、何もかも自分一人で何とかしようとするタイプが多いように感じます。以前と比べると今は、会社や周りの人の理解も随分高まってきているはずなので、上司やメンバーに協力をお願いして仕事をシェアしてもいいし、無駄な業務は整理してもいい。全部自分でやろうと思わずに、素直に助けを求めることが大切だと思います。

3.「ポータブル・スキル」が身につく

マネジメントスキルを身につけられることは最大のメリットです。マネジメントスキルは「ポータブル・スキル」とも言われ、業種や職種を超えて通用する汎用性の高いスキルです。今、35歳の場合、70歳まで働くとするとあと35年は仕事を続けることになります。企業を取り巻く環境の変化はどんどん激しくなっているので、さまざまな選択ができる状態にしておいたほうが良いのではないでしょうか。例えば、自分の意思に関係なく転職をせざるを得ない状況になることもあるかもしれませんし、会社の中で別の業務に配置転換される可能性だってある。もしもそうなっても「ポータブル・スキル」を身につけておけば心強いはずです。スキルはかけ算。経理ができて、マネジメントもできるとすると、転職する場合もバリューはさらに高くなります。

今の会社で管理職になるチャンスがない場合は、ぜひプロジェクトマネジメントに挑戦してみてください。転職する際は面接などでも、「何かプロジェクトを引っ張った経験があるか」「プロジェクトマネジメントでどんな課題を見出し、どんな工夫をしたか」を問われることがあるので、まずはそこからチャレンジしてみましょう。

女性こそ管理職に向いている

私は、マネジメントはとても女性に向いている仕事だと考えています。元々女性は目配り、気配りに長けていますし、子育てや介護などをしながら働いている人も多いですよね。ダイバーシティの代表的な存在。今後ますます多様な働き方が増えていく中、今までとはまったく違うタイプの新しい管理職が必要とされています。今は例えばお母さんのような、人のいいところを見つけて伸ばすことができる女性、柔軟な考えや対応のできる人材が求められているのです。

リクルートキャリア 経営統括室 部長 森本 さやか
リクルートキャリア 事業推進室 エージェントアライアンスユニット 部長 森本さやかさん

10年前とは求められる管理職のスタイルも大きく変化し、働く女性たちの意識もだいぶ変わってきました。私たちの世代はまだまだ管理職になることに躊躇ちゅうちょしがちですが、最近の新卒や学生と話をすると、「早く管理職になりたいです」と言う女性が多いです。彼女たちは、現に活躍している女性リーダーを間近に見てきたからだと思いますが、女性がリーダーになることが当たり前の時代が、もうすぐそこまで来ているように感じます。「自分に素質や資格があると思えない」「ワークライフバランスが取りにくそう」「専門性を失うことが怖い」などの不安はあるかもしれません。でも、今後の長いキャリアを生き抜いていくためには、選択肢は一つでも多いほうがいい。挑戦してみて、「やっぱり自分には無理だ」と感じたら専門職の道に進むことだってできるはずです。チャンスがあるのに手放してしまうのは非常にもったいないので、勇気を持って管理職にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。