女性の場合、ライフイベントが働き方に大きな影響をもたらす。出産・育休などで数年のブランクがあったり、管理職経験がなかったりすると、35歳を過ぎてからの転職は無理だと鼻から諦めている人もいるのではないだろうか。しかし、日本政府も女性の活躍推進を最重要施策の一つに掲げているように、女性が活躍できる場は以前よりもずっとずっと広がっているのだ。リクルートキャリアのエージェント事業本部でハイキャリア向けの求人を専門に扱う岩山笑子さんに、現在の転職市場について聞いた。
面接途中の様子
※写真はイメージです(写真=iStock.com/kokouu)

コンサルティング業界を中心に“管理職予備軍”が求められている

【図表】女性転職決定者数  推移

弊社が算出しているデータからもお分かりいただけるように、女性の転職決定者数は年々伸びています。特に30代後半以上では、2009年から13年の決定者数を1とした場合、18年は5.56倍。19年は7.96倍。それ以降も右肩あたりに求人数、決定者数共に増えていますので、市場感としてはかなり活況と言えると思います。私はもう7年程、ITおよびコンサルティング領域の採用のお手伝いをさせていただいているのですが、7年前と比べても女性の候補者からのエントリーが増えたという実感があります。

でも、応募者よりも企業側のニーズの方が強いですね。特に30代後半以上の女性、中でも“管理職予備軍”を求めている企業が多いです。男女共に「転職は35歳が限界だ」と言われた頃もありましたが、それはもう過去のこと。特に女性に対するニーズは社会全体的に伸びているのですが、中でもITとコンサルティング領域は女性活用に積極的です。

IT・コンサルティング業界が女性採用を強化しているワケ

IT・コンサルティング業界は、多くの企業様がグローバル化やシステム化に対応されていくにあたり、今まで通りのやり方は通用しなくなってきているという危機感を持っています。新たな視点を入れたいと考えたとき、候補の一つとして挙げられるのが女性。他にも外国人の方などの採用も進んでいますが、最も力を入れて取り組んでいるのが女性の採用なんです。

その理由は、コンサルティング業界はグローバル企業が多いから。他の国は女性活用が進んでいる中で、日本の水準はまだまだ相当低い。この状況は世界的にも問題視されているため、トップダウンで採用を進めていく体制も作られているようなんです。そのため、女性社員比率は50%、女性管理職比率は30%など、具体的な数字を打ち出している企業が増えてきましたね。

IT業界については、企画の部分をコンサルティングファームが担っているケースが多いんです。そのため、女性活用を重視しているコンサルティング業界の雰囲気や動きがIT業界にも広がっていくと考えています。また、銀行と通信メディアが新しい会社を立ち上げるなど、デジタルトランスフオーメーションを背景に、業界再編の流れが活発になってきています。そんな中で、新たな市場の創出や枠に囚われない思考、サービス面や消費者の志向を汲み取った提案ができる人材が求められているんです。そういった点からも女性の観点が非常に必要とされています。

仕事一色では、プレゼンテーション、コンファレンスルーム
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Yagi-Studio)

IT業界やコンサルティング業界ほどではないかもしれませんが、国内の大手企業や外資系メーカーなども明確に数字を掲げ、真剣に女性活用に取り組み始めています。

同じく女性活用を進めている企業にも温度差がある

世界的に見ると日本の女性社員比率や女性管理職比率はまだまだ低いし、女性活用が進んでいる企業は少ないとは思いますが、日本の社会全体として変わりつつあるのは間違いないです。求人情報には基本的には性別や年齢の条件を設けられないのですが、確実にニーズが高まっていると思います。

ただ、「女性を採用したい」とは言っても、業界や企業によって温度差もあります。例えば、「ダイバーシティ推進に取り組んでいきたい。そして会社のイメージも変えていきたい」という会社と、「女性の知見や観点が事業に活きるから採用したい」という会社の2パターンが主です。特にコンサルティング業界は、女性がいた方が細やかな視点で「チームがうまくまとまる」とか「お客様との関係構築がスムーズにいく」など、後者の理由で採用を考える企業が増えてきており、女性の存在価値が高まってきています。

管理職経験がなくても、意欲があればチャンスはある

女性管理職のニーズが増えていると説明しましたが、具体的には、一般的なメーカー、事業会社の場合だと、現場の課長クラス、職種では管理部門の求人が多いです。

コンサルティング業界やIT業界はプロジェクトごとのチームを結成して動くので、チームマネジャーが求められていますね。女性メンバーはもちろん、外国人の方などいろいろな類の方をフラットに見て、まとめられる人材が重宝されます。業界問わず女性管理職の求人は増えていますが、すでに海外進出をしている、もしくは今後グローバル展開をしようとしている企業や、変革を目指しているフェーズの企業からのニーズが強くなっています。

では具体的にどういった経験のある人が管理職として求められているかと言いますと、何名以上のプロジェクトマネジメントをしたことがあるか、何億規模のプロジェクトを仕切ったことがあるか、部下の評価をするメンバーマネジメントをしたことがあるかなどを問われることが多いです。

とはいえ、管理職経験のある女性はまだまだ少ないので、経験以上に意欲があれば、企業が好意的に感じることも増えています。求人情報の求められるスキル欄に「コミュニケーション能力が高い人」と書かれているのを目にされたことがあると思うのですが、女性のコミュニケーションスキルに期待をしている企業は多いので、安定したコミュニケーションが取れる人であれば管理職経験は問われないことも。「年収を上げたい」、「管理職になってマネジメント経験を積みたい」、「経験の幅を広げたい」という気持ちがある方は、チャレンジすることをオススメします。

自分のキャリアを長い目で見て、積極的なチャレンジを

ただ、現場で相談を受けながら思うのは、管理職というキャリアが選択肢に入っている女性はそれほど多くないということです。実は去年、30~40代の女性150人くらいの方に電話や面談でお話を伺ったのですが、「転職で管理職へのチャレンジなど考えますか?」という質問に対し、前向きな回答をされたのは5分の1。「このままでいい」「自分が管理職になるイメージが沸かない」という声が多く聞かれました。今いる会社で昇進するのであればまだいいけれど、全く新しい環境で管理職としてやっていくというのは、なかなかハードルが高いようですね。

真面目な表情で働く女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/chachamal)

女性は、プライベートによって働き方が大きく変わることが多いからこそ①自分のキャリアに見通しを立てていきたいと思ったタイミング、②周囲の理解と協力を得られる環境、この2つがそろわないと動き出しにくいのかもしれません。ただ、この2つは、待っているだけでは得られないので、自ら周囲に働きかけていくことも大切です。多くの企業が「ぜひ率直に自分の状況ややりたいことを相談してほしい」「一緒に働く環境を作っていこう」と話されています。いつかは管理職に挑戦してみたい、違った景色を見てみたいという思いがちょっとでもある人は、長い目で自分のキャリアを考えて、今は厳しそうに思えても管理職もキャリアのひとつとして考えてみてほしいです。

管理職が求められていると言っても、すぐに結果を出すことを求められることは多くありません。まずは入社して仕事や会社の雰囲気に慣れてもらってから、半年や1年後に登用するというケースもあります。この流れ含め、不安やわからないことがあれば、遠慮なく企業へ相談してみましょう。例えば企業によっては、管理職に限らず、女性を求めているセクションが多数あるので、入社後に「やっぱり自分には管理職は荷が重いな」と感じたら、専門職への転換などを申し出ても問題ないと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で今後の転職市場の動向を心配されている方も多いと思いますが、女性を積極的に活用していく動きは今後も変わらないはずなので、ぜひ積極的にチェレンジしていただきたいですね。

リクルートキャリア エージェント事業本部 岩山笑子さん
リクルートキャリア エージェント事業本部 ハイキャリア統括部  岩山笑子さん(撮影=プレジデントウーマン編集部)