趣旨は理解できるけれど、発表のしかたが……
2月27日木曜日、安倍首相が突然、全国の学校に対し、週明けの3月2日から臨時休校とするよう要請しました。一斉休校は、新型コロナウイルスの封じ込め策としては的確だと思いますが、始め方は最悪。まったく現場をわかっていないとしか言いようがありません。まるで抜き打ちのような措置でした。
政府が突然、こんな要請をしたのには驚きましたが、もっと驚いたのは、全国の公立小学校の98.8%がこの要請に応えて休校したことです。安倍首相が出したのはあくまでも「要請」。本来は各自治体が、それぞれの状況に合わせて判断し、休校にするかどうかを決めるべきです。それなのに、日本の津々浦々、離島の小さな小学校までも一律に右に倣えで休校になった。
インフルエンザなどの流行でも、学級閉鎖や学校閉鎖になることはありますが、その場合は段階的な基準が定められていて、学校も家庭も、休みが始まるまでに心づもりができます。しかし今回は、まったく心の準備のないまま突然休校になってしまった。先生方も大変だったと思いますが、子どもたちもさぞかしショックだったことでしょう。
子どもに不寛容な大人たち
一番心配なのは、子どもたちへの影響です。
十分な準備もなく、長時間留守番をすることになった子どももいるでしょう。感染拡大防止のため、公園や図書館にも行きにくい雰囲気になり、家で軟禁状態になってしまったことはとても残念です。ただでさえ突然の変化で不安になっていることに加え、外で思い切り体を動かして遊んだりできないのは大きなストレスになります。
一部の自治体では、小中高校生の入館を断る図書館までありました。「休校になった子どもたちが集まると、感染リスクが高まる」という理由です。しかし、集まることが感染リスクになるのは子どもに限ったことではないはず。こうした年齢による差別は、日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」の精神に反しています。科学的な根拠もないのに、子どもたちを悪者にしないでほしいと思います。
また、子どもたちがお友達数人と、庭先や公園で遊んでいると、ご近所の高齢者から「何をやっているんだ!」と叱られたりするケースもあったようです。学校や教育委員会に、苦情を寄せた人もいるそうですね。こうした通報を受けた学校が、対応として保護者に一斉メールで「こんな指摘があったので、あまり出かけないように」と呼びかけた例もあったそうですが、子どもにもう少し寄り添った対応ができなかったのか、私は少し残念に思いました。
子どもたちが抱いた大人への不信感
こうしたクレームが全国各地で相次いだのでしょう。3月9日には文部科学省が、「公園などで遊ぶことは問題ない」という見解を出しています。もっと早くこうした見解を出してくれればよかったのにと思います。
大人はカラオケや飲みに行っているのに、子どもたちは公園で遊べない。大人は図書館で新聞を読んでいるのに、子どもだけが図書館を利用できない。こうした状況を見た子どもたちは、何を感じるでしょうか。間違いなく大人に対して不信感を抱いたと思います。
家庭にできることを、今こそ考えて
大人が抱える不安は、子どもたちにも伝わります。小学校低学年くらいの子どもたちには、赤ちゃん返りをしたり、おねしょ、爪噛み、チック症状などが出る可能性があります。中学生くらいであっても、普段は一人で寝ているのに、親と一緒に寝たがる子も出ているようです。
大人も大変な時ではありますが、こうした子どもたちの出すサインを見逃さないでくださいね。怒ったりせず、悩みやイライラを受け止めてあげれば、子どもたちも安心するし、よりどころを見つけることができて、「何とか頑張ろう」と思えるようになります。大人は不安でも、子どもの前ではなるべく大きく構えて、前向きな態度や言動をとりたいものです。
そして家庭の中に、「居場所」を作ってあげてほしい。子どもたちは、突然「学校」や「部活」などの居場所をなくしてしまっています。今こそ「家庭があなたの居場所だよ」と思えるようにしてほしいです。
そのためには、家事をやってもらうのがいいですね。特にご飯作り。子どもたちって、料理をするのは好きなんですよ。掃除より、料理を作って家族に「おいしい!」「すごいね!」とほめてもらう方が、満足感も高いし、自己肯定感も高まります。「家庭に居場所があるんだ」と感じることができるのは、子どもたちにとって大発見になると思うの。
休校で格差がさらに広がってしまう問題
今回の一斉休校は、子どもたちの学習面にもマイナスの影響を与えています。
学校側は、ほとんど準備する時間もなく休校に入ってしまったので、多くの学校が3学期にやるはずだったプリントをどかっと渡すくらいしかできていません。不登校の子ども、障害のある子ども、困難を抱えた子どものケアはまったく足りていない。「各家庭で何とかしてください」とばかりに、サポートがないままで放り出されているという状態です。
生活リズムの崩れはさらに厄介
さらに、生活のリズムを守れるよう、保護者が子どもたちに対してリーダーシップを発揮できている家庭と、子どもたちがゲーム三昧になって、半ばゲーム依存のようになっている家庭との格差も深刻です。
いつもなら、例えば「ゲームは1日1時間まで」と制限をしている家庭でも、外に遊びに行けない、親も働いていて不在ということになれば、簡単にそうしたルールがなし崩しになってしまいます。休校で学習が止まってしまうだけでなく、生活リズムが崩れてしまうんです。こうした生活リズムの崩れは、学校が再開してからも回復が難しいのです。
その一方で、比較的余裕のある家庭、親がリーダーシップを発揮できている家庭では、親が丁寧に勉強をみて生活リズムを保ったり、家庭教師をつけたり塾に行かせたりしています。ますます格差が広がってしまう。先生方も、学校が再開した際に授業を進めるのが非常に難しいと思いますよ。学校側は、こうした状況をどう立て直すか、丁寧に考えて進めなくてはなりません。
このままでは、先生がつぶれてしまう!
文部科学省は3月24日に、4月の学校再開に向けた10項目のチェックリストを発表しましたが、ご覧になりましたか? どれも、実行するのはものすごく大変。学校だけ、教師だけですべてやるのは、とてもではありませんが無理でしょう。でも文部科学省は、「やりなさい」と言うばかりで、具体的なサポートは何もないんですよ。
例えば、給食では感染防止の配慮をすることとされています。早い段階で感染が広がった北海道では、学校が再開した際の給食は、体育館で子どもたちの席と席の間隔を広く空けて配置し、配膳はすべて先生が行いました。
こういったことをすべての学校で、給食だけではなくすべての授業や休憩時間にわたって徹底できるでしょうか。例えば「PTAや地域のボランティアを1クラス2、3人確保する」など、サポートするための具体的な指針などがないと学校現場は回らないと思います。先生方だけですべて対応させようとしたら、過労で倒れる先生もでてくる危険があるでしょう。
進学する子どもたちのフォローは?
学年が変わる4月は、もともと子どもたちにはストレスのかかる時期です。
通常、例えば小学3年生が4年生になるときには、3年生のときの授業で遅れた分は、4年生でフォローしますが、小学6年生や中学3年生で遅れた分については、進学先の学校に報告することになっています。
しかし、中学3年生で、もし5、6クラスの生徒がいるとなると、進学先は70から80校、多いところでは100校を超えることもあります。こういう状況下で、とてもきめ細かい情報の引継ぎが可能だとは思えません。少しシミュレーションをしてみればすぐにわかるはずなのに、現場をまったく想定していないのです。
突然の臨時休校要請は避けて!
そもそも、今も全国的にまだ感染者数は増加していて、首都圏では外出自粛要請が出ています。「緊急事態宣言が出るのではないか」「東京がロックダウンされるのではないか」と言われているほどの危機的な状況なのに、3月末の段階で政府は4月に予定通り学校を再開する方針を崩していませんでした。学校には、「密閉」「密集」「密接」の「三密」すべてがそろっているのに大丈夫なのか。本当に理解できません。
感染者が急増している都市部では、また臨時休校要請を出す可能性もあるということですが、もし休校をするならば、すぐにでも要請をすべきだと思います。再開するのも休校にするのも、現場は本当に大変なのです。突然の、直前の要請は避けてほしいですし、現場への具体的なサポートも必ずあわせて提示すべきです。そうでなければまた、1カ月前の二の舞になります。
新型コロナウイルスよりも、日本政府のリーダーシップの弱さの方が怖い。これこそが、国家の危機なのではないかと危惧しています。