30代の3人に2人がかかっているといわれる「歯周病」。進行すると歯を失うことにもなりかねない病気だが、「むし歯」との違いを認識している人は意外と少ないようだ。
良好な歯科衛生は重要な健康
※写真はイメージです(写真=iStock.com/AndreyCherkasov)

歯周病の認知率は高いが、半数以上が「ムシ歯」との違いを理解していない

サンスターが30~40代の男女500人を対象に行ったインターネット調査によると、歯周病という言葉を知っている人は92%。ところが、その人たちに「むし歯との違い」について聞いたところ、56%の人が「違いを理解していない」と回答した。正しいケア法については、86.5%の人が「知らない」と答えた。

歯周病とむし歯の違いについてどの程度理解していますか?

画像提供=サンスター

「歯周病という言葉だけがひとり歩きして頭には残っているものの、日本人は特に歯を美しく保つことへの意識が希薄で、歯周病の恐ろしさが伝わっていないようです」と、日本歯周病学会専門医の大月基弘先生は警鐘を鳴らす。

30代、40代の3人に2人が歯周病。50代から歯が抜け始める人も

歯周病はプラーク(歯垢)の中の歯周病菌が歯と歯の隙間に入り込み、歯周病菌が増殖することで歯茎に炎症を起こし、その炎症が歯の周りの組織を少しずつ破壊していく病気。歯肉炎(歯茎のみが腫れている)と、歯周炎(歯を支える組織が破壊されて最終的に歯が抜ける)に大きく分けられる。つまり、“歯茎が腫れていて血が出れば歯周病にかかっている“と言える。

「“30・40代の3人に2人が歯周病”とよくいわれますが、実は20代のデータもそう大きく変わりません。15~19歳でも50%の人が歯周病です。つまり、磨き方が悪かったり、定期検診を受けていなかったりすれば、誰でも当たり前にかかる病気なのです」

むし歯のように痛みなどの自覚症状がなく進行するのがやっかいなところで、“歯茎が腫れているだけだけ“と放置すると、歯肉炎が長く続くことで少しずつ歯周炎へと移行し、気づいたときには歯を支える骨が溶けて、歯を失うこともなりかねない。大月先生によると、歯周病が原因で歯が抜け始めるケースは50代から急増するという。これは30~40代で歯周病にかかっていることに気づかずに見過ごしてしまうことが影響していると考えられる。

歯を失うばかりでなく、糖尿病やアルツハイマー型認知症、心筋梗塞など全身疾患と関連しているかもしれないことがわかってきた。歯周病は口腔内の疾患にとどまらない病気なのだ。

歯を失うと平均で6歳老けて見られる

ここで衝撃的な画像を紹介しよう。歯を失う一番の原因となる病気は歯周病(出典:平成30年 永久歯の抜歯原因調査報告書)だが、歯が抜けるとどの程度印象が変わるのか、モデルの写真をすべての歯が抜けた状態に加工したものを比較してみよう。

Q 写真の人物が何歳に見えるか答えてください。

平均43.0歳→49.1歳
平均50.7歳→57.2歳
平均52.7歳→59.0歳
平均49.8歳→54.6歳
画像提供=サンスター

すべての歯が抜けたように加工した写真では、加工前に比べて平均で6歳も老けてみられるという結果になった。これは、歯によって固定されて安定されている上顎と下顎が、歯を失うことで近づくため。また、歯は唇や頬の粘膜を支え、口元のハリに重要な役割を果たしているが、歯がなくなることで口元のシワが増え、口元が凹んで貧相な印象になるためだという。

すべての歯が抜けた場合の極端な例ではあるが、数本失った場合にもさまざまな弊害が起こる。

「数本失っただけでも噛み合わせが変化し、肩コリなどの影響がでることもあります。また、前噛みや片噛みになるなど食べにくくなることで食事を楽しむのが難しくなります。しっかり咀嚼をせず飲み込むことにもなり、健康に影響をおよぼします」

歯周病予防はむし歯予防よりもある意味シンプル

歯周病ケアの方法を大月先生に聞いた。歯周病は歯の周りにプラークが堆積することで起きるので、日々のプラーク(歯垢)除去が大切になってくる。歯ブラシを使ったブラッシングだけでなく、デンタルフロスなどの歯間清掃具を使ってプラークを確実に落とすことが重要だ。歯間のプラーク除去率は歯ブラシだけでは61%だが、フロスを併用すると79%、歯間ブラシを追加すると85%にまで高まるという(出典:日歯保存誌.48(2),2005,272‐277)。

「特に奥歯や歯と歯の間の磨き方は難しいです。歯科衛生士か歯科医師に丁寧に時間をかけて教えてもらい、人生の早い段階で正しい歯の磨き方を習得することをおすすめします。歯周病は自覚症状がなく、歯科医師でも自分の歯茎の状態は検査してもらわないとわかりません。定期的に歯科医院で専門的なクリーニングを受けることも極めて重要です」

ちなみに、歯周病ケアはプラークに対して、シンプルに徹底的なアプローチが必要なのに対し、むし歯は歯周病よりも複合的なアプローチが必要になってくるという。

「むし歯は酸によって歯に穴があく状態、つまり“口腔内の酸性環境をコントロールできていない状態”です。酸を発生させる“むし歯菌”がショ糖を好むため、歯ブラシをしっかりしていてもショ糖の摂取頻度や量が多かったり、“ダラダラ食い“をしていたりすれば虫歯リスクが格段に上がります。甘いものだけでなく、炭水化物、つまりごはんやパン、ポテトチップスなども糖類を含んでいるため、虫歯リスクを上昇させます。また、レモンや梅干し、クエン酸など酸が強いものを好むこともリスクを高めます」

アプローチは少し異なるとはいえ、歯周病もむし歯も、毎日の清掃が大切であることは共通だ。

「女性の場合、閉経でエストロゲンの分泌が低下すると、歯を支える歯槽骨ももろくなる可能性が指摘されています。歯周ポケット内では炎症を引き起こす物質がつくられ、歯周炎の進行が加速されると考えられています。閉経が歯周病リスクを高めるかどうかはわかっていませんが、この年代は歯の喪失リスクも上がっているので注意が必要です。喫煙も明らかに歯周病リスクを上昇させます」

「世界でもっとも一般的な病気」としてギネスブックにも掲載されたことがある歯周病。人生100年時代を幸せに生き抜くためにも、歯周病ケアの重要性を改めて考えたいものだ。