原価は非常に低いが宣伝コストがかさむ業界

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実際の決算書を使って、分析してみよう。最初に取り上げるのは化粧品業界。化粧品業界は、インバウンド効果などにより需要が拡大している。そのなかでダントツは資生堂。2位はコーセーだが、売上高は資生堂の約1兆948億円に対して、コーセーは約3330億円。3倍以上の差がある。安全性、収益性、成長性はどうか。決算書で読み解いてみよう。ちなみに花王は売上高1兆5080億円で資生堂をしのぐが、事業内容からトイレタリー最大手と考えられるので、ここでは資生堂とコーセーを取り上げる。

「資生堂」VS.「コーセー」
自己資本比率

「化粧品業界の特徴は、原価が非常に低い一方で、宣伝などにかける営業コストがかさむことです」(柴山政行さん)

基本的には前回記事、財務3表の数字を使って分析するが、実際の数値を確認するには、決算短信や有価証券報告書を利用するほうが手間は省ける。決算短信とは企業の決算発表の内容をまとめた書類で、企業のウェブサイトで入手できる。有価証券報告書が出来上がるまでには時間がかかるため、いち早く決算の内容を伝えるために公表されている資料だ。

自己資本比率は、自分で計算しなくても決算短信の表紙に掲載されている。資生堂は44.4%で理想ラインの40%を超えているので問題なし。コーセーはそれをはるかに上回る69.6%と経営の安全性がさらに高いことがわかる。同様に安全性の指標となるフリーC/Fは資生堂はマイナスだがコーセーはプラスで優秀。(次ページ図版)

収益性を示すROEでは両社互角で、目安の10%を上回っているので効率性が高い。ROAは両社とも目安の8%を上回っているが、コーセーのほうがより効率的にビジネスを展開していることがわかる。それは営業利益率にも表れている。資生堂の9.9%に対してコーセーは15.7%だ。

大規模安定成長の資生堂をコーセーが追い上げ

売上高成長率もコーセーが60.2%、資生堂40.8%と、コーセーのほうが高い。ただ資生堂は2015年に決算期を変更しているので、売上高成長率は15年3月と18年12月の3年9カ月の数値を使用。14年3月期で計算すると、約43.7%となる。それでもコーセーのほうが高い。

さらに成長性を純資産成長率で比較すると、コーセーが圧倒的に高いことがわかる。図で1株当たりの当期純利益を見ると、直近でコーセーが約649円で資生堂が約154円と4倍以上の差があるため、コーセーは当期純利益を積み上げて純資産を増やし、純資産成長率も高くなっているといえる。圧倒的な規模で安定成長を続ける資生堂を、コーセーが猛烈に追い上げているようだ。

「主要な経済指標等の推移」
売上高成長率
柴山政行(しばやま・まさゆき)
公認会計士・税理士
柴山会計ラーニング代表。1965年生まれ。埼玉大学経済学部卒業。92年、公認会計士2次試験に合格。センチュリー監査法人を経て98年に柴山政行公認会計士税理士事務所を開設。小中学生から始められる会計・簿記教育「キッズBOKI」のメソッドを開発。