社長が3時間のラウンドテーブルで話すこと
【白河】花王では、早くから育休や時短などの両立支援制度を整えており、メリーズタイム(時短出勤制度)は政府の育児時短の措置義務化(2010年)より早かったと思います。2018年にはコアタイムなしの月間フレックスタイム制、在宅勤務制度も始まっています。制度整備以外で、例えば社長ご自身が、直接女性をエンパワーすることはありますか?
【澤田】社長に就任した2012年から、人材活性化策の一環として、国内外の拠点を回って現場の社員と対話する「Genbaラウンドテーブル」を行っています。各地で10人くらいに集まってもらってざっくばらんに話をするのですが、女性がいる職場であれば必ず半分は女性にしてもらっています。シニアの社員がいる場合には、シニアの方にも入ってもらいます。
【白河】どんな話題でお話をされるのですか?
【澤田】特に決めていません。経営のこと、事業のこと、女性の働き方について話すこともあれば、シニアの働き方が話題になることもあります。好きな質問をしてもらって、それに私が答えます。一応2時間という設定にしているのですが、いつもそれでは終わらず3時間くらいかかりますね。
現場で話を聞くと、女性が働きやすくなったとは言いますが、まだまだ部署によってばらつきがあるのがわかります。メッセージを発信するばかりでなく、現場を確かめないといけませんね。本社にいるだけだと、いい部分しか見えないところがありますから。
社内の“粘土層”をどうするか
【白河】経営トップが女性の活躍推進を重要視していても、中間管理職層がなかなか変わらないという問題もよく聞きます。
【澤田】部門ごとに事情はいろいろあるのでしょうが、私の考え方を繰り返し伝え、変わろうと言い続けています。以前は「そうは言ってもどうすれば」という戸惑いもあって変われないマネジャーに対して、メンバーが不満を持つという構図もありましたが、最近では世の中の変化もあってわかってくれる人が多くなりましたね。
ものを言いやすい雰囲気をつくる
【白河】みなさん、かなりざっくばらんにお話しされているようですが、こうした「ものを言いやすい雰囲気」というのは、澤田社長が就任される前からあったのでしょうか?
【澤田】私も、ものが言いやすい雰囲気にしないといけないと思っていますが、もともと私の2代前の社長のときに、役職で呼ぶのを辞めているんです。「〇〇部長」「〇〇課長」ではなく「〇〇さん」と、全員さん付けで呼ぶようになったんです。それで随分雰囲気が変わりましたね。私ももちろん社員から「澤田さん」と呼ばれます。「さん付け」は文化や風土を大きく変えます。かなりものを言いやすい雰囲気になると思います。
そんな風ですから、私も他社の社長さんはさん付けで呼んでいます。そうすると相手も私のことを「澤田さん」と呼びますから、すぐに親しくなれる感じがしますね。
トップが連携し、世の中を変えていく
【白河】澤田さんは、女性役員の比率を30%にすることを目指した企業トップによるグローバルなキャンペーン「30%クラブ」に参加していらっしゃいます。
【澤田】非常に良いキャンペーンだと思います。女性活躍だけにとどまらず、もっとさまざまな分野で、自社だけでなく世の中全体を変えていくための取り組みを増やすべきだと思います。
今の環境問題や社会問題を考えると、1社だけ、業界団体だけで解決するのは難しいことばかりです。相当グローバルに連携しなくてはならないでしょう。例えば「ダボス会議ジャパン」のようなイメージでしょうか。意識の高い人、企業や各界のトップたちが集まって議論し、その結果を各社に持ち帰ったり、連携したりするのがいいと思います。
【白河】花王は、1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で発表された、「Global 100 Most Sustainable Corporations in the World」で、評価対象となった7395社の中からトップ100に選ばれました。選定されたのは2年連続です。
【澤田】昨年2019年に、ESG(環境・社会・ガバナンス)視点での“よきモノづくり”を目指したESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(キレイライフスタイルプラン)を発表していますが、そうした姿勢を評価してもらったのだと思います。しかし、まだその成果は見てもらっていませんから、ここからがスタートだと思っています。売上や利益だけが会社の価値ではないという意識でESGに取り組んでいます。
多様性が利益につながることを見せるのが経営者の役割
【白河】とはいえ、ROE(自己資本利益率)は17.6%と非常に高く、高い業績も維持されていて、業績とESG経営を両立されているように見えます。
【澤田】「ESGに舵を切ったから業績を落とした」ということにはしたくありませんから。女性活躍も同じです。こうした活動が企業価値向上につながり、最終的には利益ある活動につながり、得た利益を再びこうした活動にフィードバックすべきでしょう。先日の30%クラブでも、同じ議論になりました。多様性を活かすことが生産性向上や利益につながることを見せるのが、経営者の役割だと思います。
日本のダイバーシティ推進、今やらないと間に合わない
【白河】最後に、女性活躍に向けた澤田さんの「覚悟の一言」をお願いいたします。
【澤田】人材という資産を最大化し、活用を最大化する。ダイバーシティは強い決意を持って推進したいと考えています。日本は、今やらないと間に合いません。周りが進んでいますから、置いていかれてしまいます。
「Genbaラウンドテーブル」でアジアを訪れると、圧倒されますね。例えば、タイでは参加者10人のうち8人が女性でした。「女性活躍推進は日本でも重視している」といった話をしたところ、「何を言ってるんですか。男性がもっと働いてくれるよう、男性活躍推進をやってください」と言われてしまいました(笑)。海外に行くと、いかに日本が世界に置いてきぼりにされているかがわかりますね。
【白河】日本の女性は、男性の協力もなかなか得られず、育児では孤軍奮闘していることが多いので、ぜひ男性の育児参加も推進していただければと思います。
澤田さんの女性活躍に対する考え方、取り組みのお話は、ほかの日本企業の経営者にも大変参考になると思います。ありがとうございました。