花粉は水分を含むと膨張して破裂する
今年の花粉飛散量は九州から関東甲信にかけて例年や前年よりも少ないという予想だ。天候でも飛散量が変動するため、天気予報でその日の花粉情報をチェックしている人は多いだろう。しかし、それはあまり意味がないかもしれない。
大気汚染を研究する埼玉大学大学院理工学研究科の王 青躍(おう・せいよう)教授によると、花粉症は花粉の粒子そのものではなく、花粉の粒子の表面や内側に存在しているアレルゲン物質が引き起こすという。
通常、スギ花粉の大きさは直径30μm(=0.03mm)とPM2.5の約10倍の大きさだが、花粉が大気中の水分を含むとさらに大きく膨張するそうだ。そこにPM2.5や黄砂といった大気汚染物質が触れると破裂を起こし、花粉の内部や表面についているアレルゲン物質が放出される。花粉アレルゲンは微細で通常の花粉対策用マスクでは防ぐことができず、PM2.5対応マスクでないと防御が難しい。そのため、人間の気管支や肺、肺の奥深くの肺胞まで入り込んでしまうこともあるという。
「たとえ少量でも、微粒子になればなるほどアレルギー反応は起こりやすくなります。今年の花粉の飛散量が例年より少なくても決して油断はできません」(王先生)
天気予報でわかるのはあくまで花粉の飛散量であり、花粉の破裂によって放出されるアレルゲン物質の量は知ることができない。花粉の飛散量に加えて、PM2.5や黄砂などで起こる大気汚染の状況を加味してとらえる必要がありそうだ。また、雨の日の翌日に花粉症の症状が悪化するのは、水分を含んだ花粉が破裂してアレルゲンが放出されるため。雨の日の翌日は特に気をつけたい。
アレルゲンに触れないことと体の中からの対策が有効
花粉対策は、花粉の粒子そのものよりもアレルゲン対策が必要になる。王教授が実践する花粉症対策を教えてもらった。
・PM2.5などによる大気汚染が激しい日は不要不急の外出を避け、汚染物質の曝露をできるだけ減らす
・大気汚染の激しい幹線道路や花粉の多いエリアでの行動を避ける
・激しい運動は避け、ジョギングやウォーキングなどの軽い運動にする
・スギ花粉と共通の抗原性を持つ秋の草(ブタクサ、ヨモギなど)が多い河川敷での散歩も要注意
・外出時はPM2.5対応マスクやメガネで防御する
・ドアや窓はなるべく閉め、風の通る隙間もふさぐ
・帰宅したら玄関の外で上着を脱いで払い、シャワーを浴びて花粉を室内に持ち込まない
・掃除は二度拭きをして花粉アレルゲンを再飛散させない
・空気清浄機を設置する
・加湿器を上手に取り入れる(空気が乾燥するとアレルゲンが舞うため)
王教授によると、ストレスをやわらげ、十分な睡眠と栄養を取って体の調子を整えることも花粉症対策には有効だという。
最新研究による花粉症対策アイテムはコレ
メーカーもさまざまな花粉対策のアイテムを開発している。帝人フロンティアは、花粉が付着してもすぐに落ちる衣服生地「ポランバリア®」を販売中。帝人が開発した直径700nm(=0.0007mm)の超極細ポリエステルナノファイバー「ナノフロント®」を緻密に織り上げ、繊維の表面を特殊な加工で平滑にすることで花粉の衣服内への侵入を防ぎ、表面についた花粉を落ちやすくするという。ほかにも、花粉をつかまえるカーテンや、緻密なフィルターで花粉の吸い込みを防止するマスクも開発した。
敏感肌専門スキンケアブランド「ディセンシア」では、同ブランドの下地、クリームなどにすでに使用されている天然の粘土鉱物に由来する板状の粉体に、花粉の肌への付着を抑える機能があることを発見した。これは板状粉体が静電気の帯電を抑制することによるもので、花粉だけでなく空中に浮遊するさまざまな微粒子の付着を抑えることができると考えられる。
ディセンシアによると、花粉症の症状としてくしゃみや鼻水のほかに、肌あれを訴える人が多くいるという。「花粉皮膚炎」とも呼ばれ、花粉が肌に付着することによって起こる症状とされる。特にバリア機能が低下して肌が敏感になっていると花粉の影響を受けやすいと考えられ、スキンケアやベースメイクで花粉の付着を防ぐ対策が重要になってくる。
「肌が露出している部分に『花粉皮膚炎』の症状が出る傾向があります。特に気をつけたいのは、耳の周り・首の後ろ、さらにまぶた、鼻の下など皮膚が薄い部分も花粉の刺激を受けやすくなるため、クリームの『バリア塗り』(塗り方はこちら)で花粉を侵入させない対策を意識することをおすすめしています」(ディセンシア ブランド戦略部 商品企画・PRグループ 角田日向子さん)
マスクや花粉が付着しにくい特殊な衣類生地といった物理的対策に加え、スキンケアでも花粉の付着をブロックして、何かと揺らぎやすい季節を快適に乗り切りたいものだ。